表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/100

27年前のお前


11時前か・・・そろそろ帰らないと。

そんなことを思いつつ、プロムナードを歩く。


歩いていくと、ベンチと植え込みがある。

このプロムナードの休憩エリアのようなスペース。

ふと、記憶がよみがえった。


・・・あ。 そうだった。 


思わず歩みのテンポが狂った。


「どうしたんですか?」


ベンチを見た表情がおかしかったのか。

オレの顔をのぞき込んで彼女は尋ねた。


『あ、いや、いいんだ、行こう』


「感慨深げですよ、部長! なんかあるんでしょ?」


『いや、いいよ』


「え~? それは無いですよ~ 話してくださいよ~」


ここはオレの人生を変えた場所だった。

うっかり忘れていた。

久しぶりに歩いて思い出したのだ・・・・


オレは渋々、ベンチに座った。

加瀬恭子は約1名分の間隔を開けて座った。

この距離が縮まることは無いんだろうな・・・・


見上げれば天井にビルの灯り。

目の前には家路を急ぐサラリーマン。

幸せそうなカップル。あの日と同じだな・・・・




『オレはダメ社員だったんだ』


「えっ!」


加瀬恭子は飛び上がるほど驚いた。


オレは1980年代の大卒入社だ。時代はバブル景気真っ只中。

どんどん家が売れ、土地の値段はうなぎ登り。

投資だ、株だ、日本中が金、金、金。

建設業界、住宅メーカーは飛ぶ鳥落とす勢いだった。。


研修期間を終え、営業に回された。いくらでも売れるだろう。

いや、世の中、そんなに甘くなかった。全く売れない日々が続く。

同期の奴らはドンドン売れて行く、オレは焦った。


30年ほど昔だ。社員の人権は無い。売れないオレにイジメが始まる。

給料泥棒と書いた紙を首から下げてのデスクワーク。

罵声を浴びながらも、オレは毎日懸命に働いた。

今でいうブラック状態は当時、普通だった。


ある日、オレのタイムカードが消えていた。

係長に尋ねると、こう言われた。


《給料泥棒の記録なんか要らねえんだよ》




『さすがにオレも堪えてねえ・・・まだ23くらいだったから。

    もうクビだなと思いながら、ここ通って、帰るんだけどさ。』

   

『道行く人、みんな、幸せに見えてね。

     どうしてオレだけこんな思いをするんだろう?ってね』


『カップルがベンチで寄り添ってる。それ見てると羨ましくてさ。

           オレはこんなに苦しいのに、と思うと、涙が出てさ』


『もうダメだなぁと。もういいや、死のうと思ってね。

           電車に飛び込むか?ビルから飛び降りるか?』


『じゃあ、電車にしようと思って、駅まで行ったけど

        オレ泣いてるからさ、みんな見るんだよね。

             結局、飛び込む勇気もなくて止めて』


『で、今度は、あそこのさ、○○ビルあるだろ?

                 うん、そう、1Fコンビニのね』


『あそこから飛び降りようと、上がったんだけどさ。

                屋上に行くドアに鍵がかかっててさ』


『結局、死に場所探して、12時か?1時ごろになったんだよ』


『しかたなく、ここに戻ってね、明け方まで。泣きながら座ってたんだ。

     いろいろ考えて、こうなったら、辞めないで居座ってやる~って

               結局、破れかぶれで逆キレしたんだ、アハハ』


『それがよかったのかな?配置変えしてもらって

          なんとか売れて、生き残って、今に至るってわけだ』



『このプロムナードに来るたびに、23のオレが見えるんだ。

                 泣きながら座ってたオレがね』


『で、ここに座って、オレに、声をかけてるんだ。

           27年前のお前。よくがんばったな。って』


『自分で褒めて喜んで、バカな自慢話さ。

    誰にも話をしたことのない秘密だったんだけどな。

        酔った勢いでごめんね。アハハ、サイテーだな』



オレは照れ隠しから、笑いながら横を見た。



加瀬恭子はアーケードを見上げ泣いていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ