酔ったのか?
『さあ。もう少し飲みに行くか?
でも、オレ、あまり酒強くないんだよな』
「え~ そうなんですか?部長強そうですけど。
意外ですね。私も強くないからよかったです」
『じゃあ、どうしよ。少しだけ飲むか?』
「ええ、部長にお任せしますよ」
選んだのは、ファッションビルの5Fにあるショットバー。
バーテンだけの静かな店だ。
窓際の席、駅が下に見え電車が行き交う。
あまり酒が強くない2人は軽めのカクテルを頼んだ。
『加瀬くん、家は〇〇駅だったよな』
「ええ」
『電車の時間も見て、あまり遅くならないようにしてよ。
オレ、時間わかんないから。10時半ごろまでとかさ』
「ありがとうございます。お気遣いくださって。
終電、11:45 なので、それまでに帰ります」
『おー じゃあ、あと2時間くらい?デートしてくれるんだな?』
「フフ。朝まででもいいですよ」
こういう冗談をサラっと言える所がイイ女だなと思う。
冗談ではなく、ほんとだったらいいのになぁと思う。
カクテルと軽いスナックをつまみながら、話は結婚の話になった。
「部長、1つお聞きしていいですか?」
『ん?なんだ?』
「奥様との馴れ初めは?
結婚できない哀れな女に恋バナくださいよ~」
『ワハハ。恋バナにもならないレベルだよ』
オレは彼女に不満を聞いてほしかった。
でも、そんな話を聞かせてどうなる?
オレは軽く、ダイジェストで妻との出会いを話した。
友人の紹介で付き合いを始めた。妻は地方の出身で
結婚を早くしたかった。たまたま出会ったオレに決めた。
オレもそれを承諾した。ただそれだけ。
今。思い起こせば、両家の親たちに後押しされて
なんとなく、結婚したかった男女が結婚したんだ。
そして言った。
『26年も経てば、ただ、暮らしているだけさ』
「私、もし結婚できたら、ずっとラブラブで居たいなあ
と思うんですけど。そんなのドラマですか?」
『どうだろうねえ?それはお互いの歩みより次第だろう』
「歩み寄り?」
『うん、世間でも仮面夫婦とか熟年離婚とか、レスとか言うだろう?
お互い歩み寄れば、そんなのないとおもうんだけどね』
歩み寄ることが無い家庭。
妻の愛など微塵も感じない暮らし。
彼女に偉そうなことを言いながら辛くなる。
オレがこの話をしたくない。という空気を醸し出したのか。
彼女は話題を変えて、また自身の容姿の愚痴を言った。
『何言ってんだ~ キレイだって~』
オレは懸命に加瀬恭子を褒めた。
それは今夜なんとかしよう。という魂胆などではなく
オレが彼女を見て本当にそう思ったからだ。
目立たない地味な顔立ちだが美人だ。
でもその(照れ隠しから自分が作った)お笑いキャラと
170超えの容姿で(デブではないが)デカく見えるから
彼女の魅力をわかりにくくしているだけ。
オレの力説で無理やり彼女は納得した。
時間は10時半すぎ。そろそろだな。
オレたちは店を出た。
加瀬恭子はストールを巻かずに
バッグに無理やり押し込んでいる。
几帳面な彼女にしては、無造作だな。
酔ったのかな?