かわいそうな2人
美味しいお肉にビール。
会話も弾み、本当に楽しい。
彼女も少し酔いがまわったのか?
しゃべりがより、フランクになったようだ。
「結局、私に相手ができないのはね
ブスなのと、デカいからなんですよぉ」
『デカいって、そんなに高いかい?』
「私ね、身長聞かれたら、169センチって言ってますけど
本当はたぶん172くらいなんですよ」
『有名女優なんて170オーバーは普通だよ。冬ソナのチェジウとかさ。
しらない?たしか175だよ。モデルとかでも、みんな高いじゃん』
「え~!!! そんなに大きいんですか?」
『時代はグローバル。170がデカいなんて視野が狭い。
私はモデル並みですって胸張らなきゃ、自慢だよ!』
「なんか、部長と居たら元気でます!」
『ちなみにさ、加瀬くんの理想の男性は?』
「ん~ そうですね。贅沢言わせてもらうなら・・・」
背が自分より高い。顔は良いに越したことはない。
でも、要は心。思いやりがあって、心が若い人。甘えん坊。
『へえ~甘えん坊っての、おもしろいなあ』
「私、寂しがり屋なんですよね。こんな図体ですけど。
だから甘えてほしいし、私から離れたくない人がいいんです」
なるほど。寂しがり屋なのかあ。かわいいなあ。
彼女が、今度はオレに聞いてきた。
オレの理想の女。
甘えん坊で、性格がかわいい人。繊細な心を持つ人。
でも、芯がしっかりしてる人。
「顔はブスでもOKですか?私、希望持ちます」
笑いながら話す彼女を見て思う。
君は甘えん坊で、繊細で、芯がしっかりしてる女だ。
オレが挙げた条件は君そのものなんだ。
食事が終わった。
すべて下げられてテーブルがきれいになる。
「あ~ お腹いっぱいです。美味しかった! 」
『よかったよ、喜んでもらえて。じゃあ行くか?』
会計を終え、店を出る。
「ごちそうさまでした。こんな豪華な食事は初めてでした。
本当にありがとうございました!」
彼女は丁寧に頭を下げた。
なんかこれでお別れみたいだな。
時間はまだ9時すぎなのに。
店を出てプロムナードを歩く。
もう少しいっしょに居たい、なんとか誘いたい。
もし、誘って、狙ってる~ なんて思われたら嫌だな。
でも10時ごろまでいいか? 子どもじゃないんだし10時は早いな。
いろいろ考えているうちにドンドン無口になってしまう。
このまま歩けば、プロムナードも終わる。駅に着く。
そうなればお別れだ。オレは勇気を出して立ち止まった。
『えーっと。今何時だ?9時か。どうしよ?』
「奥さん、待っておいでじゃないんですか?」
『ええ???』
わざと大げさに声を出す。
『うちの奴が待っているのは給料日だけさ。
オレはただの ATM。かわいそうなもんさ』
「またまた~」
『ほんとさ。加瀬くんこそ、帰らなくていいのか?』
「私こそ、一人ですからね。帰ってもやる事ないし。
ん~スタバでも行くかなって感じです」
『かわいそうに』
「も~ 私はかわいそうだって、さっきから言ってるでしょ~」
『じゃあ、かわいそうな者同士。もう少しウロウロするか?』
「ええ!かわいそうですから、そうしましょ」
オレたちは、駅に向かう人の流れに逆らった。