ストライク
料理が運ばれてきた。
前菜、刺身、天ぷら、なかなかお肉が来ない。
コースだから、お凌ぎが付いてくるんだな。
ビールで乾杯して、ゆっくり話ながら食事が始まる。
オレは加瀬の動作を何気なく見ていた。
一連の動きがきれいだ。おしとやかで女性らしい。
『しかし、加瀬くんはお笑いキャラで通してるけど
こうして見てると素敵だね。女らしくてかわいい』
「え~ そういうセリフも、お祝いに入ってるんですか?」
彼女は、照れ隠しで笑う。
『この年になれば、少し一緒に過ごせばわかる。君は素敵だよ』
彼女はビールも飲んでいないのに赤くなった。
「え~ そんな事言ってくださるの部長だけです、部長だけ~」
『そうか?世の男ども、見る目ないなあ』
「彼氏無し、アラサーまっしぐら、結婚できない女。確定です」
『おいおい、寂しいこと言うなよ~ まだ33だろ?』
「じゃあ、部長はおいくつで結婚なさったんですか?」
『ん?オレ・・・25だった・・・』
「ほら~ 8年前ですよ~ ダメだこりゃ」
加瀬恭子の笑い声がメインの登場で途切れた。
鍋に火が入り、野菜とお肉が運ばれてきたのだ。
霜降りの美しい肉がさざ波のように盛り付けられ並ぶ。
加瀬恭子は、すごいすごい、と子どものように、はしゃいでいる。
「こんなお肉初めてですよ!
こんなの食べて、罰が当たらないかしら」
『どんな罰が当たるんだい?』
「え~ 結婚できないとか・・・ あ~もう当たってます!」
『また言う~ 未来を決めるなよ』
「だって・・・」
『じゃあ聞くけどさ。去年のクリスマス。何してた?』
「なにって。 ん~ 失業保険もらってハロワに行ってました」
『今日、ここでしゃぶしゃぶ食べてるって想像できたか?』
「そんな~わかんないですよ」
『ね。未来は白紙さ。わからない。結婚できないなんて決めるなよ』
「部長はポジティブですね、かっこいいです!」
『今日より明日が素晴らしい。そう思わないと、お先真っ暗だろ』
「あ~なんか名言出ました!明日が素晴らしい。か・・・
部長かっこいいなぁ。素敵ですよね」
『なんだよ。しみじみ言うなよ。照れるよ』
「やっぱり私、年上の人がいいな・・・」
『何歳までストライクだ?』
「部長、おいくつでしたっけ?」
『51だ・・・・』
「じゃあ51歳まで」
『部長の恋愛対象は何歳から何歳までですか?』
「33から33までだよ」
『え~ 私以外ダメじゃないですか~』
「ワハハ、そうさ。お!もう鍋いけるね。食べよう」
『はい!』
冗談ぽく笑って誤魔化したけど。
君はストライクなんだよ。