天空のプロムナード
実家訪問から、1ヶ月が過ぎた。
今日は久々に2人でデートだった。
『本当にいいのかい?』
「いいって。思い出の場所なんだもん」
『でもさ、道じゃん。通りというかさ』
「あそこがいいの!」
『言い出したら聞かないからなあ・・・』
「ごめんなさい。怒った?」
『そんなことくらいで怒るかよ』
「良二さんはどんな時に怒る?」
『オレを嫌いになったら怒るかな?』
「よかった~、一生怒られる事ないわ」
歩きながら思う。いつもの人通り、この雰囲気。
天空のプロムナードは変わらないがオレ達は変わった。
彼女は本当にキレイになった。
スレンダーになったのと、肩までの美しい黒髪。
結婚が決まってから、ドキっとするほど美しくなった。
オレはじいさんになったかな?
取締役になってから、白髪が増えたような気がする。
松野たちは、貫禄がでてよけいに怖い。なんて言いやがった。
「俳優みたいでかっこいいよ」
『そう言ってくれるのは君だけだ』
「呼び捨てしてくれるのは式が終わってから?」
『命令みたいだし、呼び捨てはイヤだな』
「じゃあ早く子ども生むよ!そうしたらママか?母さんじゃん」
『ワハハ』
そんな会話をするうちに、あのベンチに着いた。
ここに座るのは何回目かな?
泣きながら座ったあの日から、もうすぐ30年。
オレは人生の再スタートを切ろうとしている。
鞄からジュエリーケースを出す。
この箱の色がいいな。このブルーが好きだ。
『はい。着けてくれるかい』
コクっと頷いて左手を出す。
あいかわらずキレイな指だなと思う。
吸い込まれるように薬指にリングが収まる。
「ありがと。泣きそう」
『ホテルに戻ってから渡したかったよ』
「ほんとのホントはねー」
『なんだ?』
「3部のオフィスで、あの机に座ってほしかったの」
『なに言ってんだ?あんなとこで指輪渡せるかよ~』
「初めて出会った場所だよ。私にとっては一生忘れられない場面」
『あれからもう3年か?早いなあ』
オレはふとキラキラ輝く天井を見上げて呟いてしまった。
『あと何年、生きられるんだろう?』
彼女の顔が一瞬、歪んだ。少し泣きそうになりながら言った。
「何年かわかんないけど。死ぬまで一緒なのは確実でしょ」
『そうだな。がんばって長生きするよ!』
「私、がんばろ!お料理とか、良二さんの健康管理」
『頼むぜ、不老長寿の薬を作ってくれ』
加瀬恭子はそれには答えず。
笑顔でオレを見つめ、こう言った。
「ねえ、良二さん」
「前にここで言ったけど」
『うん?』
「来世で私を見つけてね」
「そしてまた、結婚しようよ!何度も出会って、ね?」
加瀬恭子は目に涙を溜め、力強く言った。
『何度も生まれ変わって、何回も恋愛するか?』
オレは笑いながら言った。
「うん」
オレは煌めくアーケードを見上げて言った。
『29年前のお前。がんばって来て、よかったな。
こんなにイイ嫁さんもらうんだぜ』
「も~やめてよ~」
肩を叩く、いつものクセだ。
オレは動かなかった。
いつまでもいつまでも
空を見上げていた。
彼女を見つめたら
涙がこぼれ落ちるから。
終
長々と続けてしまいました。最後までお付き合いいただきありがとうございました。