おしどり夫婦
「じゃ、私寝るわ、おやすみ」
ドラマが終わったみたいだな・・・
声の主に無言でうなずく。
年齢の割にはかわいい柄のパジャマ姿が部屋を出ていく。
いつもの時間だな、12時半に寝室に行くのは。
もっと早く眠ってくれよ。
うちのリビングダイニングは15畳の広さ。
けっこう高かった応接セットが自慢だ。
ソファとテーブルと座椅子が2つの4点セット。
椅子は長方形のテーブルをはさんで12時と6時の位置。
9時の方向にソファ。3時の方向にはTV。
12時は妻、6時の席がオレの指定席。
デカいテーブルのおかげで2人の距離はけっこうなものだ。
お互いがテーブルの上にPCを置いている。
ラップトップの画面を開ければ、防波堤の完成。
椅子に深く座れば、相手の顔は画面で隠れて見えない。
2台のPCはメーカーも色も違う。
夫婦の心が反映されているようだ。
妻はPC眺めながら韓ドラを見る。
オレは音楽を聴きながらマンガを読むか、タブレットでソシャゲ。
お互いほとんど言葉を交わすこともない。
何を見ているの?と尋ねることもなく過ごす。
眠くなれば寝室に向かう。
だいたい妻が先に寝室に、オレはまだ寝ない。
寝室もベッドも別なんだ、何時に寝ても関係ない。
こんな生活が何年も続いている。
結婚して26年。
仕事も順調。生活に不満はない。
近所でおしどり夫婦と言われている。
実際のおしどりもこんな生活なのかな。
なにげにおしどり夫婦の意味を検索。
その昔、おしどりのつがいの1羽を捕らえてしまうと、
残った1羽がいなくなった相手を思い続け、挙句の果てに死んでしまう
この、「思い死ぬ鳥」という言葉から、おしどりという名前が付けられた。
だが、実際のおしどりの生態は違う。
たしかにオス・メス一緒に暮らしているが
それは交尾後、メスが産卵しヒナがかえるまでの間。
オスは卵を他のおしどりや外敵から守るためにそばにいる。
ところがヒナがかえるとオスは旅立つ。
毎年新たなメスを見つける。
そして毎年交尾する相手を変える。
うちのヒナも社会人となり家を出た。
おしどり夫婦だけになった。
もう温める卵もない。
『ヒナがかえるとオスは旅立つ。
毎年新たなメスを見つける。
そして毎年交尾する相手を変える』
そうか・・・
新しい相手をねえ・・・
でも、オレもう50じゃん。
まあ、どうでもいいさ。
暮らしていけてるんだし。
さ、寝るかな。
旅立つことが無いオスは自分の巣に帰る。
おしどり夫婦の1日が終わる。




