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混沌の戦場-バトルロイヤル

駆け出した数百の戦士プレイヤーとグールの群れが激しくぶつかりあう。

戦士プレイヤーたちの磨き抜かれた技がぶつかりあう。

そこかしこで命の本流である、極彩色のアウラほとばしる。

銀鎧はベネディクターに言った。


「ちっこいの、その早いやつ、何人まで一緒にできる?」

「ちっこくないよ!他の人が大きいの!――やったことないけど二人くらいかな?でもここだと、ごちゃごちゃしてるから、そんなに遠くは行けないよ」

それを聞いて銀鎧は満足げにうなずく。

「いいか、ちっこいの。合図をしたら俺たちを魔術塔まで連れてってくれ」

「なんで?」

「おもしろいからだ」

「おもしろくなるの?」

「ああ」

「じゃあやる」

ベネディクターのあまりに簡単な答えにアーチャーは驚いた。

「できるの?だったら今までの苦労は一体……」


「そうこないとな。アーチャー。同じだ。合図をしたら、その方向にペネトレイトを撃ってくれ」

「はい、はい。やりますよ」

銀鎧が塔を示す。

密度の濃いアウラが大気を切り裂き、稲妻の如き矢が放たれる。

ベネディクターに手を繋がれたアーチャーと銀鎧が加速する。

景色が吹き飛んでいく。

グールで満たされた漆黒の森を疾走する。


せっかく集まった数百のプレイヤーを置き去りにして銀鎧たちは加速した。


「ついたよ」

銀鎧とアーチャーは塔のふもとまできてその状況に言葉を失った。

魔術塔の入り口は巨大な植物のツタで覆われ、入ることはおろか、どこが入り口なのかすらわからない。

ベネディクターはその状況が当たり前かのように退屈そうな顔している。

「知っていたのか?」

「まぁね」

アーチャーは呆れ混じりに言う。

「それで次はどうするつもり?」

銀鎧は周囲の戦場を見渡す。

桁違いの力を持った三人の「絶対者」が戦場にいた。

パズルがそろった。

「そうだな。考えがある」

アーチャーは言う。

「ものすごい不安なんですけど?」


破格の賞金をかけたにもかかわらず、全くなびかない者がいた。

それこそが現在のこの戦場に存在する二人の十三の極端。

スペンダー。

アルケミスト。

さらに暴走戦車の如き働きで戦場を荒らす者、アオイ・タイプサタン。


この作戦を提案した際に銀鎧が求めた人物像「賞金に興味がなく、力を持て余した者」そのものだった。

魔術塔への入り口を開くためにはこの三人の強力が不可欠だった。

銀鎧とアーチャー、ベネディクターは交渉・・を行うためにそれぞれの「絶対者」のもとに来ていた。




銀鎧がたどり着いた先に居たのは黄金の鎧を纏った騎士スペンダー。

銀鎧は言う。

「あんたに頼みがある」

「嫌だ」

「まだ、何も言ってないんだが?」

「君の鎧、派手すぎないか」

「悪いがお前にだけは言われる筋合いはない」

「こっちも悪いが私は誰の命令も聞くつもりはない。ここに来たのも君の命令に従ったわけじゃない。話を聞いて面白そうだからきただけ」

……無駄にプライドの高いやつめ。

「それなら、それでかまわない。これは提案だ」

「へぇ。聞いてみようか」

「魔術塔を木の根が覆っている。多分あれを吹き飛ばせるのはあんたぐらいだろう」

「力比べか。面白そうだな。そういうことなら、丁重・・にお断りさせてもらおう」

「なぜだ?」

「気が向かないから」

銀鎧は当然・・のように斬りかかった。

スペンダーは唐突の出来事に反応ができなかった、と同時に避ける必要がないと判断をした。何故なら、その身に纏う防具は最強の防御力を誇る王ノウイガール

思惑通り王ノウイガールには傷一つつかない。

スペンダーは言う。

「何の真似かな?」

銀鎧は何一つ悪びれる素振りもなく答えた。

「奇襲だ」


はるか彼方かなたから魔眼で様子を見ていたアーチャーは呆れ果てる。

アイツは一度、交渉・・という言葉の意味を辞書で引いて調べたほうがいい、と。

アーチャーはアルケミストのもとへ来ていた。

しかしアルケミストはアーチャーの事など一ミリも気に留めず異様な勢いで淡々とグールを殲滅し続けていた。

一種のゾーンに入っているようだった。

ゾーンとはアスリートなどが競技中に集中力が全開になり、パフォーマンスを最大限引き出している状態を言う。認識は目前の敵に全て注がれ、外部の状況の認識が疎かになる。

いや、厳密にはアーチャーの存在に戦闘のプロであるアルケミストは気がついていた。ただ、に脅威に値しないと認識・・したに過ぎなかった。

かつて現実世界においてアーチェリーで世界最強となった経験のあるアーチャーにはこのときのアルケミストの精神状況をよく理解できた。


何事をも制御できているという全能感。


支配者の優越。


絶対者として君臨する感覚。


そしてそれを一瞬にして、ぶち壊しにする方法も充分に心得ていた。

アーチャーは弓を構えると、アルケミストが次に狙いを定めていた、グールに狙いを向ける。そしてアルケミストが攻撃するよりも早く、グールの頭部を吹き飛ばす。

 当然・・、アルケミストは苛立った表情でアーチャーを睨みつける。

 さすがプロといったところだろうか。一瞬でアルケミストは平静を装うと言った。

「こまるなぁ。今いいところなんだよ。全部終わったら握手でもサインでもするからさ」

「そんなつもりはないの。話があるんだんけど聞いてもらえる?」

「なら、どっかに消えてくれよ。今いいところなんだ」

 そう言ってアルケミストはまたグール狩りを再開しようとしたので、アーチャーはすかさずアルケミストが狙っていたであろうグールの頭を吹き飛ばす。

アルケミストは渋々言った。

「いいよ。その話とかいうのが何なのか聞いてみようか?」

アーチャーはアルケミストの表情が変わるのを見逃さなかった。

かすかだがアウラの揺らぎが生じた。これは、殺気だ。

言葉では、話を聞く素振りを見せているが、そんな気は微塵もないようだ。

今まで使っていたロングソードをタイムラグなしで刀身が鎖状の剣チェーンソードに可変させるとリーチが大幅に広がった。体をひねり、瞬時に周囲一体を一閃しグール共を屠った。

アウラの揺らぎに咄嗟に反応してすかさず跳躍し、宙で身を翻しアーチャーは斬撃をかわすと同時に着地する前にアルケミストへ素敵な贈物プレゼントを送った。

アルケミストは送られたプレゼントの前で、異常・・なまでのプロアスリートとして持って生まれた反射神経を駆使し素手で受け止めてみせた。

それはまるで、見えているぞとでも言いたげだった。


 しかし奇襲を受けながらそれを瞬間で判断し、回避しながらカウンターを放つアーチャーも

また只者ではないということを知らしめた。

 溜息をつくとアーチャーは言った。

「これじゃぁ、どっかの誰かと大差ないわね。それでも私はこれの道ではそれなりなの」


アルケミストは得意げに言った。

「俺はまだ試合たたかいで本気を出したことがないんだ。アンタなら大丈夫かな。試してみていい?」







 アオイ・タイプ-サタンは一箇所に立ち止まったまま、自己の周囲を3つの魔術砲門を高速回転させながら全方位射撃を続けていた。グールはそれに引き込まれるようにただ、ただ破壊される。その光景はいささか、奇妙なシュールさがあった。

 アオイはしばらくしてやっと、自己の高速回転をする魔術砲門の上に何者かの気配のような錯覚を認識した。

「敵影確認。点検開始」

 何かのバグかもしれないため検査をしようと、回転する砲門を止めてみると、やはりそこには小さな少女が砲門の上に座っていた。ベネディクターだった。

ベネディクターは言った。

「銀鎧が」

 アオイはベネディクターの発言をさえぎり、手持ちの魔術砲門から魔術波を射出した。

「敵影ヲ発見。攻撃開始」

 しかしベネディクターにはどんな弾丸も止まって見えているため、当たることはなく、別の魔術砲門に腰を掛けるとさらに言った。

「君と交渉を」

 だがアオイはやはりベネディクターの発言をさえぎり、手持ちの魔術砲門から魔術波を射出した。が、魔術波は射出されることはなく、魔術砲門は暴発し爆発し、アオイは腕に若干のダメージを負った。

「問題発生。損壊微量。行動ヲ続行スル。点検開始」

 アオイは魔術砲門を確認すると砲口にナイフが刺さっている。これが原因で暴発を引き起こしたようだ。

ベネディクターは怒ったよう頬を膨らせ言った。

「ちゃんと話を聞きなさい」

「敵影ヲ分析。結果、十三ノ極端ト判明。目標ヲ破壊スル」

 アオイはベネディクターへ向け両手の魔術砲門で連射を開始する。

 無論、ベネディクターに攻撃が当たることはない。

 しかしベネディクターは全く聞く耳を持たないアオイにどうやって話をすればいいのか頭を悩ませ始めた。


 戦場の混沌は極まりつつあった。


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