交渉-relation
魔術王は観念したように、床に胡座をかいて顎に肘をついていた。
満身創痍ではあったがそれでも、気丈で、気高く、未だ王であることを彷彿とさせる。
その表情は決して穏やかではなかった。
怒り。
不満。
後悔。
その中にどういうわけか、満ち足りた表情が見え隠れする。
それはこの勝負への感情そのものなのだろう。
格下の敵。
油断。
仕組まれた巧妙な戦術。
どれをとっても納得はいかなかった。しかし結果は受け止めなければならない。
銀鎧の戦士は言った。
「交渉をしよう」
「なんなりと命ずればいい。提案しだいで、この深淵に届きそうな屈辱を忘れさせてくれるようなものでなかった暁には、後に卑怯者と笑われるのを覚悟で、君を今にでも殺してしまいそうだ。つまり、それだけ期待しているという意味さ」
「光栄だな。」
魔術王は周囲を見廻す。激しい戦闘で損傷した城内を見て、溜息をつく。
「部屋を変えようか。君らも一応客人だったね。もてなそう」
指を打ち鳴らすと一瞬で三人の転移が完了していた。
そこは絢爛で過美な装飾の施された応接間だった。
「さあ。聞かせてくれ」
「あんたは現状をどう思っている?」
「いいわけないだろう」
「プレイヤーの大半がセオドルフの賭けた賞金に目がくらみKOGをを放棄し、エルフ狩りにしか興味がない。それはあんたにとって都合が悪いだろ?」
「それで」
「金を用意して欲しい」
王は呆れと疑心の眼差しで見る。
「君はわざわざ僕に金を借りに来たのかい?」
「あんたならできるだろう?」
王は溜息をつく。
「残念ながら、それは難しいね。君は知らないだろうが、僕にその権限はない。先日のKOG開催は僕の完全な独断でね。組織委員会に嫌われてしまってね。現在僕は会社になんの権限も持たないんだよ」
「それでもあんたは社長だろ?」
「それが大きな間違いだ。君だけではない、皆上手く騙されてくれている。僕は雇われているだけの売れない役者さ。王を演じているに過ぎない。本物の社長の居場所を知るものはいない」
銀鎧の戦士はしばらく沈黙し、こう言った。
「別に金なんて会社を頼らなくても稼げるだろ」
「それは脅迫かい?言っただろう。僕はただの雇われ。君の望むような額は提供できない」
「その必要はない」
「どういうことだい?」
「あんたも知っているはずだ。地下闘技場」
「もちろん」
銀鎧の戦士は身を乗り出すと言った。
「アンタには賞金を稼いできてもらおう」
魔術王喉の奥で笑った。
「おもしろそうじゃないか」




