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必弓-フェイルノート

 王都巨城・魔術王ウォーロック攻めの前。

 弓撃士アーチャーと銀鎧の剣士はこんな言葉を交わしていた。


「これはあくまでも、一時的なもので、私の信条に反することがあれば、この同盟はいつでも破棄するから」

「好きにしてくれてかまわない」

「君、これからどうするつもり?闇雲に戦っても消耗するだけよ。賞賛はあるわけ?」

「さぁ。どうだろう」

「ちょっと、ふざけないでよ」

「仲間を集うか」

 弓撃士アーチャーは溜息をつくと呆れた様子で言った。

「君さ。さっきの私の話聞いてた?」

「もちろん」

「だったらわかるでしょ。みんな賞金につられて敵についちゃったのよ。半端なプレイヤーが何人集まったって、通用しないわ」

「賞金に興味がなくて、ある程度実力のある戦士プレイヤーか、難しいな……。あんたはこの仮想世界セカイで今のところ最強は戦士プレイヤーは誰だと思う」

「最強の定義が難しいけど、魔術王ウォーロックじゃないの」

「そうか。そいつは賞金に興味はあると思うか」

「あるわけないじゃない。この大会の主催者なのよ」

「だろうな。なら、きまりだな」

「……まさか、君、とんでもないこと考えてる?」

 彼は不敵な笑みを浮かべた。

「どうかな」

「無理よ。魔術王と会って生きて帰ってきたプレイヤーなんていないもの」

「なら教えてくれ。他に賞金に興味がなくて、強いやつをな」

 彼女は手で頭を抑えたまま沈黙した後、言った。

「さっそく同盟を破棄したくなってきたわ」

「どうぞ、ご自由に」

 目標が定まると、銀鎧の戦士は進み始めた。

 その後を、仕方なく弓撃士アーチャーが追っていく。


 転送陣トランスレーターを通り、王都グレセアにやってくる。

 見上げると巨城は相変わらず、荘厳で、傲慢に聳えていた。

 銀鎧の戦士は剣を抜くと、おもむろに門兵を撃破した。

 弓撃士アーチャーは突然のことに言葉を失うが、慌てて、すぐさま彼に問う。

「ちょっと!どういうつもり?」

「なにが」

「君、交渉にきたんじゃないの」

「交渉にもいろいろあるからな」

「戦闘になるなら、先に言いなさい」

「そうだな。それは悪かった。戦闘になる」

「先に言うのよ」

 正門をくぐると城内には大勢の衛兵が待ち構えていた。

 彼は言った。

「それじゃあ後は手はず通りに頼む」

 それだけ言い残して彼は、自然に戦闘に移行した。

 弓撃士アーチャー格納ストレージから強襲用装備を展開する。

 接近戦用に特化した刃弓ブレイズ・ボウ、さらに左右の腰と背中に弓筒を装備する。

 展開したての装備はまだ半透明な情報片データダストで構成されクリスタルのように透き通っている。

 衛兵は束になって彼女に襲いかかる。

 同時に瞬時に弓は放たれ、衛兵は、骸となっていく。

 正確無比な射撃が無慈悲に、繰り返され強力なアウラの伴う矢の連撃で次々に撃破していく。

 しかし、途切れることなく湧いて出る警備兵を相手にしながら、彼女は少しばかりの後悔をし始めていた。

 一時的とは言え、共に行動することとなった、あの銀鎧の剣士。

(少しは頭がキレるかと思ったけど、ただの馬鹿。上手くいくわけないわ)

 後方にせまる衛兵の気配をアウラの揺らぎで察知しすかさず、矢のやじりの先端と刃弓ブレイド・ボウで切り裂くき、すかさずその矢を別の敵に放つ。

 放たれた矢は貫通射撃ペネトレイター。一度に複数の敵を同時につら抜ぬくだけの突破力を持つ。

 しかし衛兵は次々に現れ続ける。

 「目障りね。少し数を減らすわ」

 ヤケになったように彼女は一度に出鱈目デタラメな数の矢を番えると、すぐさまそれを放った。

 周囲の敵が一斉に情報片データダストと化し、消滅する。

 まるで出鱈目デタラメに見えた射撃は全てが正確に放たれ敵の急所を射抜いていた。

 たった一人の弓撃士アーチャーの女に、数多の戦士が接近戦で傷一つ、つけることが出来なかった。

 衛兵は彼女に畏怖すら抱いていた。

 簡易魔術による行為プロセスの省略によって成立するアーツ銃撃士ガンナーが得意とする高速射撃クイック・ドロウの応用、鎮圧射撃ライオット・ショット

 一度の射撃で、単一の対象に複数の矢をいることもできるし、複数の敵を一度に撃破することできる。

 しかし、問題なのは矢の消耗が激しくなってしまうことだった。

 だがそれも織り込み済み。矢の補充は充分にある。

 この程度の敵など、彼女程の腕があれば、然程、苦労はしない。

 問題はこの先で待ち構えているであろうの存在だった。

 鎮圧射撃ライオット・ショットを三連撃し終えると、あたりに残っているのは飛散した情報片データダストだけだった。

 彼女は澄ましたまま、衣装に乗った、情報片データダストを軽く払うと、手はず通りのポイントへ向かった。

 彼女はこのとき、いくばくかの気持ちの高揚を覚えていた。自分の技に酔っていた。

 しかしその高揚はすぐに消え去ることとなる。

 彼女が通る道には、自分が倒した敵を遙かに凌ぐ数の骸が転がっていたからだ。

 ご丁寧に彼女の通り道は銀鎧の戦士により予め下見ソウジされていた。

 これから、恐ろしい敵と戦うというのに、あの男は人の世話を焼く余裕があるらしい。

 彼女は若干の憤りすら覚えた。舐められたものだ、と。

 そして彼女は装備を必弓フェイルノートに換装し、予定どおり狙撃場所につくと戦慄した。

 その場所から、標的ターゲットまでの距離はゆうに200メートルは超えているにもかかわらず、両者の放つ必要以上に攻撃的なアウラが微温い夜風のように彼女を撫でた。

 既に戦いは佳境を迎えていた。両者共に満身創痍。それでも尚、放たれる圧迫プレッシャーは彼女を萎縮させた。

 此処から先は絶対に失敗できない。

 もし少しでも気配を敵に読まれるか、狙いがはずれるようなことがあれば、問答無用でこの場所に二人分の骸が増えることになる。

 彼女は一切の気配を絶つ。

 呼吸を整え、訪れるその一瞬を待つ。

 やがて神経が研ぎ澄まされ、彼女から周囲の音は消える。

 聞こえるのは、自らの心音だけになる。

 両者のアウラがぶつかり合い、閃光が迸る。

 その刹那、彼女は必弓フェイルノートに全身全霊のアウラを籠め、矢を放つ。

 激しい閃光を伴い矢は放たれた。

 溢れ出るアウラで着弾が確認できない。

 緊張感があたりを包む。

 すかさず次の矢を番える。

 手応えはあった。自分の腕を信じられないわけでもない。ただ自分のその目で着弾を確認するまでは気を抜くわけにはいかない。何せ、相手は化物よりも恐ろしい存在。

 崩れ落ちる魔術王ウォーロックの姿を見届けてやっと、彼女は弓の構えを解くことができた。

 彼女はゆっくりと対峙する二人に近づいた。

 致命傷を追っても尚、魔術王ウォーロックからは刺すようなアウラが放たれている。

 しかし、確かに魔術王ウォーロックがそこに跪いていた。

 かろうじて立っている銀鎧の戦士に回復瓶キュアポッドを使ってやる。

 彼は言った。

「さあ。交渉をしようか」


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