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追剥‐バンデット

 起動。

 生体認証認識。

「ようこそナイツオブワンダーランドの世界へ。このゲームはあなたの健康を害する可能性があります。長時間のプレイは避け、休憩を挟みましょう。今日のトピックスです。王都周辺の治安が悪化しています。ドラゴンの出現確立は10%。十分な備えをして、無理な戦闘は避けましょう」

 長い長いロードを終えると、視界いっぱいに胸が躍るような、冒険の世界が広がっていく。

 どこまでも続く、大草原。

 地平線まで続く、大海原。

 その先に聳える巨城。

 今日もここからはじまる。寂れた神殿。

 めいっぱい呼吸をする。肺の中をこの世界の空気が満たす。

 行くあてはなかった。それでも自然と足が動く。自然と走り出す。

 田舎町はけっして裕福ではないけど日々の活気であふれている。

 多くのプレイヤーが行きかう。

 俺は、この世界の頂点を目指す。

 たとえ、そこにどんな困難があろうと、登り詰めたところで、そこには現実世界ではこれっぽちも役にたたない、不名誉な名誉しかないだろう。それでも俺はそれが欲しい。俺はこの世界が好きだから。

 

 だけど悲しいことに、プレイヤーが人間である以上、この世界もまた悪意で満ちている。

 コズミックフロント社が、報酬賞金一千万を呈示してから、このゲームの治安は目に見えて悪化した。市場では詐欺が横行し、街から一歩でればモンスターの脅威に加え、プレイヤーからの脅威にも怯えなければならない。追剥バンデットが出るようになってしまった。

 俺はそんな卑劣な行為が許せない。俺は悪と戦う。そのためにも一日も早く強くならなければならない。

 そんなことを考えていると俺の目の前を一人の超初心者が通りかかった。装備はスタート時のままで、どこに行けばいいかわからない様子のかわいらしい少女の姿のプレイヤーだった。まぁきっと中身はおっさんに違いないけど。

「君、大丈夫かい?」

 女の子は突然話しかけられたため戸惑うような表情をする。ちょっとかわいいなと思ってしまった。

「え、ナンパですか。うわー。ゲームにきてまでそういうのは、ちょっと」

 前言撤回。こいつは嫌な奴だ。

「ちげーよ、失礼だな。なんか困ってるようだったからさ」

「学校の先生から知らないおじさんには着いていかないようにって言われてるんで」


「誰がおっさんだ!むしろ、お前だっておっさんだろ。そうじゃなくて、この辺は追剥バンデットが出るから、あんまりそういう、あからさまに初心者ですっていう雰囲気出すのはお勧めしないよ」

「おじさん優しいんだね」

「おじさんじゃないけどな」

「おじさん名前は?」

「あんまりしつこいと、終いには怒るぞ。シュライバって言うんだ。よろしくな。君は?」

「リリィだよ。私は大丈夫だからシュライバこそ気をつけるんだよ」

「ありがとよ」

 俺はそう言って街を出た。いつものように街の近くでレベル上げをしようと思ったからだ。あまり離れなければ、何かあっても、すぐに街に戻れる。

「止まれ」

「え?」

 街から出て三歩でからまれた。

 どこからともなく現れた屈強な戦士3人組みに囲まれてしまった。

 するとその中の一人が、どこか不敵に笑顔を作りながら言った。

「おまえ初心者か?」

 まぁいい。俺を初心者と間違えるなんてバカな奴らだ。俺が返り討ちにしてやろう、ってこいつらめっちゃ良い装備しているじゃないですか。

「いやそういうわけじゃない、でもない」

「そうかそうか。じゃぁ俺たちが冒険のイロハについておしえてやるよ。ついてきな」

 ここならまだダッシュで逃げられるかもしれない。どうしよう。

「そうなの?おじさん達いい人たちなんだね」

 あれ、さっきの女の子着いて来ちゃってるじゃないか。

「私も一緒にいい?」

 知らないおっさんについてくんじゃねぇ!学校の先生の教訓思い出して!

 俺は必至に帰るように表情で訴えたが、この女の子にはまるで伝わらない。

「うわぁ。おじさんすごい顔してるよ大丈夫?」

 大丈夫じゃねェ!むしろ心配なのはおまえの頭の方だよ!

 あれよあれよという間に人気のない森の中に連れてこられてしまった。

 俺は何度も考えた。もしダッシュで逃げれば、この女の子がスケープゴートになって俺は助かるかもしれないと。だがしかし俺の中の最後の良心がそれを許さなかった。そんなんだから俺は現実世界でいじめられてしまうんだ。せめて、ここでは、自分の好きな世界ゲームの中では格好つけたっていいじゃないか。俺はリリィに向けて言った。

「なんかこの人たちおかしくないかな。ついて行かないほうがよくないかな」

 リリィは小声で言った。

「今気がついたの?シュライバはお人好しだな。いいんだよ。だからついてきたんじゃないか」

「まぁこのへんでいいだろう」

そう言って戦士たちは剣を抜いた。

 リリィは周囲を見渡していった。

「まぁこのへんならいいか」

 それを聞いた戦士は一瞬怪訝そうな顔をしてからすぐに気味の悪い笑顔で言った。

「おまえらに恨みはないが有り金、装備、持ち物全部おいてけ。そうすれば命まではとらねぇ」

 リリィはほらねとシュライバにだけわかるように小さくほほ笑んだ。

 俺は思った。

 何がほらねだ笑ってる場合じゃねエ!

 俺は勇気と声を振り絞り言った。

「やめろ!」

「あ?なんだこいつ震えてやがるぜ」

 そう言って戦士たちは笑った。そして俺を剣で突き飛ばすと言った。

「もう一回、言ってみろよ」

 俺は完全に腰が抜けて尻もちをついてしまった。我ながら情けない。そして俺はとんでもないことに気がつく。

 尻もちをついたせいで枝葉で隠れたさきに顔が出た。その先にはHPが0になったプレイヤー達の骸の山があった。思い出したくもない酷い光景だった。全身の血の気が退いていくのがわかった。ここはゲームだ。でも、だからってこんなことできるのか。同じ人間が。俺は吐き気をもよおしていた。だが、すぐに気を取り直さなければと思った。このままじゃ俺もリリィもこいつらに殺される。俺は怯えながらも言った。

 俺はともかく、初心者のリリィにこんな残酷な記憶を残させはしない。ゲームが詰まらないと思わせたくない。せめて彼女だけでも、救いたい。

 少しでも隙をつくる。

「置いてけって言われて置いてくわけないだろ」

「あ?生意気だなお前」

「はぁ。有り金っていわれてもなぁ。これしかないよ」

 ええ!置いてくの!?いさぎよすぎないっ!?

 リリィはアイテムの入った袋を取り出して、それを戦士にわたす。

 戦士が期待しない表情で袋を開けると度肝を抜かれたように驚く。

「うお!おい!これみろ。レアアイテムだらけだ」

「なに?そんなわけねぇだろ。どう見たってこいつド初心者だぞ。ッておいなんじゃこりゃぁ!?」

 それを聞いた勘のいい戦士がリリィに剣を向けながら言った。

「馬鹿野郎、だったらこいつ!?」

 でも少し遅かった。

 それはリリィがもう引き金を引いた後だった。

 45口径のレイジングブルを改造したレイジングフィールドが火を噴いた。

 炸裂弾が戦士のどてっぱらに風穴を開けていた。爆煙とともに崩れ落ちる。

 あんぐりと口をあけて驚いている戦士を傍目に、もう一人の胸倉をつかむと、そのまま拘束状態で戦士にありったけの弾丸を見舞ってやる。

 あごが外れたように驚いた表情の戦士は、我に返ったように血相を変えて、その辺に打ち捨てられていたリリイィの宝袋を手に取ると、猛ダッシュで離脱を計った。

 戦士はこう思っただろう。

 完全に誤算だった。初心者狩りをしようと思っていた矢先にまさか、こんな化け物がいるとは思わなかった。まさか自分が狩られるとは。しかし、俺も伊達に追剥バンデットをやっているわけではない。こいつは今ミスをした。仲間をやるときに全弾撃ち尽くしたはずだ。この隙にせめてこいつのアイテムをいただいてずらかろう、と、そんなところだろう。

 リリィは銃のシリンダーから空薬莢を排出させると新たに特殊弾を装填すると、地面に腹ばいに寝そべると狙いを逃げていく戦士に定めた。後から聞いた話だが、あらかじめアイテムの入った袋の中にはできるだけ比重の重いアイテムで一杯にしてあったそうだ。おそらく重量オーバーによるペナルティで走行性能はおそらく20%低下といったろころか。

 そしてスタミナがが減少し、さらに走行性能が50パーセント低下するタイミングを見計らって、引き金を引く。銃声が悲しく森にとどろく。

 弾丸は戦士の右足を貫く。

 戦士は道端に転げる。

「かっはぁ。足が、足が動かねぇ」

 リリィはゆっくりと彼に歩み寄る。急ぐ必要はない。彼女が撃ったのは麻痺弾だった。そして戦士と宝を引きずり戻す。

 ダメージを負って動けなくなっている二人に合流させる。

「全弾撃ち尽くしたのは、彼を移動不能状態に陥らせるのにそれだけの弾丸が必要だったのと、君を油断させようと思ったからだよ。逃げたら狙い撃てばいい。もしも、反撃してくるようなら面白いからそれもいい。それでだけど、君たちの中でまだやる気がある人いる?――いないか。じゃぁさ別に恨みはないんだけど」

 銃を突きつけてはいたが、任意でパーティを組ませると周囲のモンスターを狩ってくるように告げた。

 俺とリリィはその辺をぶらぶらしているだけで、レベルが上がり、所持金が増えた。リリィは言った。

 「今日は楽しかったね。また遊んでよ。もし悪い噂を聞いたら君たちに止めを刺しに来るからね。もちろん噂が君たちのものじゃなくても同じだからね」

 この辺で追剥が出たら、それが自分達でなくてもこの悪魔のような少女が舞い戻り自分たちを殺りにくる。つまりそれは、この周辺の治安をこの追剥たちが守らなければならないという意味だった。

 こうしてこの地区に自警団が出来上がった。

 リリィは言った。

「シュライバ。このへんは物騒だし次の街まで送ってこうか?」

「はい」

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