聖砦の森‐ルクファース
情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。
持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士たちが、集い、覇を競い合う。
あるところに野心に溢れる戦士たちがいた。
KOGの開催は静かにそして唐突に執り行われた。
事前の開催宣言通り、魔導鏡の数字が満たされると同時に全プレイヤーの操作画面にSTARTと表示された。
あまりの唐突さに多くのプレイヤーたちは困惑した。
「なんだ?はじまったのか?」
「急げ。乗り遅れるな」
勇敢なプレイヤーたちは挙ってフィールドに向かっていく。
KOG予選のルールは単純だった。この予選のために用意された特設フィールドを攻略し、制限時間内に目的地に到達することだった。
王都西側。解放された特設ステージ入口となるステージ「聖砦の森」
森は、広範囲にわたって、どこまでも樹木が密集しているようであった。
木々は青々と力強く生い茂り、昼間でも、周囲は微かな木漏れ日が差す程度で、常に薄暗かった。
戦士たちは不安と、好奇心の混じり合う、独特の高揚感につつまれながら、森の中を突き進んだ。
周囲の警戒をしながら、さらに他の誰かに負けないように前進する。
「随分静かじゃないか」
「どれくらい走った?」
「かれこれ10分くらいか」
「まだ一匹も出てこないな」
「随分ともったいぶるねぇ」
「たいしたことないのかもな、案外。このままぶっちぎってやるよ」
「どうかな。あの王が考えるようなことは、まともじゃないと思うがね」
薄暗がりの森に一瞬、大きな影が覆った。
勘の優れた者は、咄嗟に戦士の群れから離れた。
数人の身につけていた竜鈴が震えていた。
「来るぞ」
一端遠ざかった、空を覆う黒い大きな影は、旋回して戻ってくる。
ある戦士の目前に最後に映ったものは、視界全てを埋め尽くす灼熱の業火だった。
空を覆う木々は一瞬にして100m程焼き払われる。1m感覚で密集していた戦士はあっという間に100名程度が焼き払われ、致命傷を負い、その半分が一撃でロストしていく。
黒い影は、一体ではなかった。無数の黒い影が上空からの急降下による火炎放射を続けた。
戦士たちは散り散りになり、近くの木々や、身を隠せる場所を探した。
誰かが言った。その声は絶望に満ちていた。
「飛竜の群れだ」
体を包む炎は、現実さながらの熱を持ち、焼かれる者に現実同様の恐怖と苦痛を与える。
周囲にいくつもの悲鳴がこだまする。
混乱。
不安。
恐怖。
物陰に隠れながら弓撃士たちは弓を構える。
そして狙いを定め、矢を放つ。
しかし急降下する飛竜は風圧で守られ、まともに矢は届かない。
被害はとどまることをしらず、広がり続ける。
ある弓撃士は大きく幹の太い木の上に位置取り、葉の隙間から弓を構えていた。
計測。風向きは北側からおおよそ、13km/h。
推測。対象を包む風圧はおおよそ20m/h。
操作画面を開く。対象、状況から判断し装備を変える。
長弓白樺に換装。
弓を構え、矢を引き続ける。やがて攻撃色のオーラが彼女の体を包み、赤い稲妻が矢に帯電する。
矢を引き続けることで発動する行動、溜め撃ち。一定時間経過により発動する能力、強撃。使い手の腕にもよるが、一流の戦士が使ったとすれば、戦士の鎧ですら、いともたやすく貫通する。
放たれた矢の速度は時速200km/hを越え、その一閃は急降下する飛竜めがけて吸い込まれていくかのように飛んでいった。
直撃。
紅蓮に帯電した矢は獲物をとらえた。
飛竜は戦士の群れの中に墜落し、余力で大地を滑る。
戦士たちは一斉に好機を得たかのように襲いかかる。
弓撃士はすぐに弓を構える。焼き払われ、空が見えるようになった戦場で空を流れる飛竜の影を弓で追っていく。
紅蓮の力が矢に帯電する。ばちばちと紅い稲妻が弾ける。
飛竜は口から炎を溢れさせながら、弓撃士へ向かって急降下を始める。
弓撃士は片目を瞑り、息を止める。
矢を掴んだ手を離す。
風を切り裂く高音と共に弦が紅蓮に帯電した矢を放つ。
矢は飛竜の口から首へ貫通する。飛竜は急降下をしたまま地面に墜落する。
向かってくる敵を射るのは彼女からすれば朝飯前だった。
何せ、彼女は止まった的を射ることにかけては、世界で一番、優れているのだから。
それからも続けて彼女は矢を射続けた。
次々に飛竜が大地に引きずり降ろされていく。
まさに鬼神の如き働きだった。
大地に引きずり降ろされた飛竜は戦士達の総攻撃に合う。
様々な技が一挙に飛び交う。
密集しているために、戦士間の同士討ちも珍しくはなかった。
またそれが故意であるかどうかも確かめるすべはなかった。
KOG予選大会開始から30分300人の戦士が消滅した。
聖砦の森を先行する戦士たちは他にもいた。
予選開始直後。聖砦の森・東部、シュライバーは溢れる戦士達の波にまぎれて森の中を進行していた。
「なんだこれ。全然敵出てこないな」
フェアリスは言った。
「油断するなよ。もう予選は始まってるんだからな」
「ついに始まったわけか。わくわくするな」
フェアリスは言った。
「せいぜい修行の成果をみせてくれよ。頼むから開始5分で消滅なんてつまらない展開だけは勘弁してくれよな」
森の中を進行する勇敢なる戦士達の姿を暗い森の奥から覗く無数の目があった。




