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復讐者-リベンジャー

 情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。

 持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士プレイヤーたちが、集う。

  

 あるところに運命に見捨てられた女がいた。

 女は生まれてまもなく捨てられた。

 女の生まれた某国は貧しかった。

 隣国日本の目覚ましい発展の最中、激しい経済格差により某国は崩壊し、激しい内紛状態が続いている。

 女はこの過酷な状況下を生きなければならなかった。

 生まれて間もなく捨てられた女は、心優しい少女に拾われ、物心つくまで育てられた。

 その少女は娼婦だった。

 捨てられた子供たちを集めて狭い部屋で皆で暮らしていた。

 少ない稼ぎだったが、少女は子供たちに食事を与え、着る者を用意した。

 女の人生の中で唯一の幸せな時間だったかもしれない。

 だが幸せはそう長くは続かなかった。

 ある日、少女は死んだ。

 頭のイカれた客に、殺された。

 みんな悲しんだ。

 女だけは涙が流れなかった。

 哀れな少女と自分を重ねていた。

 女は思った。

 強くならなければならない。

 それからは女が家に残された子供たちを育てた。

 まだ子供だった女に、ろくな働き口はなかった。

 盗みでも、なんでもして必死で食べ物を集めた。

 女がある日、食糧の調達から帰ってくると、あの狭い、幸せな家にはたった一人を残して、誰もいなくなっていた。

 残された一人は深い傷を負っていた。

 残された一人は言葉を振り絞って言った。

「ごめん。全員つれていかれた。右手の甲に竜の刺青タトゥーのある男だ」

 残された一人もまた、間もなくして逝った。

 女は荒らされた部屋から一本のロザリオを拾い上げる。

 これは、あの少女が付けていた物で、それを形見に他の子供たちが付けていたものだ。

 女はそれを自分の首につけた。

 決して神など信じていない。これは誓いの印だ。決して忘れぬための。

 女は涙が流れなかった。

 女は思った。

 強くならなければならない、と。

 女はその日誓った。必ず、復讐を遂げる、と。


 それから女は手段を選ばずに生きてきた。


 そして今、女はAPCOMアプコン社に来ていた。

 

 APCOMアプコン社の人間は言った。

「このプログラムは繰り返すたびにあなたの記憶が一日ずつ失われます。

我々が満足をするまで、プログラムは続きます」

 女は言った。

「ある一日。その日だけは残して欲しい」

「わかりました。ではサインを」


 ナイツオブワンダーランドには特殊なアカウント認証が設けられている。

 思考認証メモリー・ロックと呼ばれる特殊な認証方法だ。

 認証の際にプレイヤーの記憶を記録する。

 されにそれを機械的に数値化し、その合計を乱数表にあてはめプレイヤーアカウントが認証される。

 つまり、ナイツオブワンダーランドは一つしかアカウントを認証できない。

 さらにナイツオブワンダーランドにはゲームスタート時のステータス差が異常なまでに激しい。

 さらに一定確率で特殊スペシャルスキルが付随することも確認されている。

 ゲームが始まったその瞬間から、プレイヤー間に大きな格差が生じる。

 その格差は課金による、付加ブーストで補うことはできるが、発生スタート段階が異なる以上、その後も埋められない差として残り続ける。

  

 この思考認証メモリー・ロックの採用により、第三者のアカウントハックは事実上不可能となった。

 さらに、このシステムは俗に言う、リセットマラソンを防ぐことにも貢献している。リセットマラソンとは略称リセマラと呼ばれる、プレイヤーがアカウントに与えられた能力が気に入らなかった場合に、自分が気に入る能力を持つアカウントがでるまで、リセットを繰り返す行為を言う。


 しかし、完璧かと思われた思考鍵メモリー・ロックにも死角は存在する。 記憶の改竄。

 高度な医療技術を持つノバメディカル製のソフトを使えば、思考認証メモリー・ロックを騙すことができる。

 喪公祷リテイヤと呼ばれる本来、精神的なトラウマを持つ患者に対し使われる電子医療器具を使い、記憶を24時間単位で削っていく。24時間づつ記憶を消すのは思考認証メモリー・ロックが24時間単位で記憶を認識しているためだ。

 女は奥の部屋に通された。

 真っ白な無機質な部屋に横たわる。

 頭にヘッドセットを装着する。

 女は記憶を一日1万円で消すことを承諾した。

 さらにAPCOMアプコン社の望む、戦闘能力を獲得するまで、この施術を受け続ける。一日の記憶を消すのに約7分かかる。そのたびに、アカウントを認証する。9日後。施術を繰り返すこと、おおおよそ1825回。

 ついにAPCOMアプコン社は求めていたアカウントを手に入れた。

 女はAPCOMアプコン社と専属契約を結ぶこととなる。

 その報酬として、APCOMアプコン社の持つ豊富な情報網を使い、ある男の捜索を依頼している。

 女は鏡で自分の顔を見ながら、ロザリオを握りしめていた。

 その瞳には黒い憎しみの炎が宿っていた。

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