祝祷者-ベネディクター
情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。
持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士たちが、集う。
あるところにまだ幼い少女がいた。
ナイツオブワンダーランドはどんなプレイヤーにもチャンスがあると言われている。
その一つめの理由は、手に入るアカウントの能力が異常なまでに格差があることにある。
これはどんなに初心者であっても、手に入るアカウントが優れてさえいれば、能力差でその実力をカバーすることができる点である。
この異常なまでの能力差について、コズミックフロント社はこう答えている。
「昨日まで一度もゲームをしたことがなかったプレイヤーが、訓練を積んだプロのゲーマーを倒す。こんなことがあるのだとしたら、それは面白いゲームだとは思いませんか。確かにゲームバランスがとれていないかもしれません。それはこのゲームが現実世界と同様に全てのプレイヤーが平等ではないことの証明なんです。そもそも、現実世界での能力や財力が平等ではないのだから、せめてゲームの世界においては特別であってもいんじゃないでしょうか」
これはあくまでも噂でしかないが、思考認証は記憶を数値化する際に、ゲームに関する記憶の量を基にプレイヤーの能力を決めているのではないかという推察だ。
もしこの噂が真実であれば、ゲームの知識、腕が乏しい者ほど優れたアカウントに出会う確率が上がる、ということになる。
ただ、この話はあくまでも噂の域をでない。また、これを確かめるすべは今のところない。
65536分の1。この確率はナイツオブワンダーランドにおける全能力が最大値《MAX》でプレイヤーが生じる可能性を表しているという。
もしそんな現象に巡り合えたとしたらそれは、奇跡と同等の確率なのだろう。
彼女は窓から外を眺めていた。その表情はどこか嬉しそうでありながら、またどこか悲しそうでもあった。
外には楽しそうに走り回る子供たちがいる。
彼女はその様子を焦がれるばかりで、決してそれに加わろうとはしない。
厳密にいえば、加わることができない。
もし、彼女が今あの広場に出れば、途端に恐怖のどん底に陥るだろう。
どこから、誰が来るのかもわからない。唯一の手掛かりである声すら、全方位から反響して彼女の不安を加速させるだろう。
彼女の美しい水色の瞳は景色を脳に認識させる力がない。
彼女は全盲。全く目が見えなかった。
彼女が窓の外を眺めるのは、その様子を見るためではない。そこから聞こえる声を聞いて、ただ焦がれることしかできない。
ナイツオブワンダーランドはどんなプレイヤーにもチャンスがあると言われている、もう一つの理由はここにある。
あの情報の海に生じた幻想の楽園は、現実世界でハンデを持つ者に対し、健常者と同等に戦う「力」を与える。
目が見えない者にも情報の海に生じた「世界」は映像を映し出す。
彼女は笑みを浮かべ続ける。
その表情にはどこか、深い意味が込められているようだった。




