表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/72

祝祷者-ベネディクター

 情報の海に生じた世界。幻想の世界において、人々は際限なく力を、その「極端」を求める。

 持てる全ての能力、戦略、戦術、あらゆる「力」を駆使し、最強のゲーマーの座をかけて戦士プレイヤーたちが、集う。


 あるところにまだ幼い少女がいた。

 ナイツオブワンダーランドはどんなプレイヤーにもチャンスがあると言われている。

 その一つめの理由は、手に入るアカウントの能力が異常なまでに格差があることにある。

 これはどんなに初心者であっても、手に入るアカウントが優れてさえいれば、能力差でその実力をカバーすることができる点である。

 この異常なまでの能力差について、コズミックフロント社はこう答えている。

「昨日まで一度もゲームをしたことがなかったプレイヤーが、訓練を積んだプロのゲーマーを倒す。こんなことがあるのだとしたら、それは面白いゲームだとは思いませんか。確かにゲームバランスがとれていないかもしれません。それはこのゲームが現実世界と同様に全てのプレイヤーが平等ではないことの証明なんです。そもそも、現実世界での能力や財力が平等ではないのだから、せめてゲームの世界においては特別であってもいんじゃないでしょうか」

 これはあくまでも噂でしかないが、思考認証メモリー・ロックは記憶を数値化する際に、ゲームに関する記憶の量を基にプレイヤーの能力を決めているのではないかという推察だ。

 もしこの噂が真実であれば、ゲームの知識、腕が乏しい者ほど優れたアカウントに出会う確率が上がる、ということになる。

 ただ、この話はあくまでも噂の域をでない。また、これを確かめるすべは今のところない。

 65536分の1。この確率はナイツオブワンダーランドにおける全能力ステータスが最大値《MAX》でプレイヤーが生じる可能性を表しているという。

 もしそんな現象に巡り合えたとしたらそれは、奇跡と同等の確率なのだろう。

 

 彼女は窓から外を眺めていた。その表情はどこか嬉しそうでありながら、またどこか悲しそうでもあった。

 外には楽しそうに走り回る子供たちがいる。

 彼女はその様子を焦がれるばかりで、決してそれに加わろうとはしない。

 厳密にいえば、加わることができない。

 もし、彼女が今あの広場に出れば、途端に恐怖のどん底に陥るだろう。

 どこから、誰が来るのかもわからない。唯一の手掛かりである声すら、全方位から反響して彼女の不安を加速させるだろう。

 彼女の美しい水色スカイブルーの瞳は景色を脳に認識させる力がない。

 彼女は全盲。全く目が見えなかった。

 彼女が窓の外を眺めるのは、その様子を見るためではない。そこから聞こえる声を聞いて、ただ焦がれることしかできない。


 ナイツオブワンダーランドはどんなプレイヤーにもチャンスがあると言われている、もう一つの理由はここにある。

 あの情報の海に生じた幻想の楽園は、現実世界でハンデを持つ者に対し、健常者と同等に戦う「力」を与える。

 目が見えない者にも情報の海に生じた「世界」は映像を映し出す。

 

 彼女は笑みを浮かべ続ける。

 その表情にはどこか、深い意味が込められているようだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ