戦闘中毒‐バトルホリック
彼女は飢えていた。心の渇きを満たすような、戦いに、戦場に、すなわちゲームに。
現実世界は退屈だ。彼女の心を満足させるものは、そうない。
日課である真剣による素振りをこなし肌に汗を浮かべ、満足そうにポニーテール振るいながら学生服を着替える。スカートやスカーフを丁寧に畳む。
浴槽に水を貯める。薬局で手に入れた入浴剤とかいうやつを入れる。
以前は戦場に身を置いていた。必要とあれば泥水をすすり、奇襲に怯えて眠り、生きるために殺戮を繰り返した。
戦場にいる間は熱い風呂と、美味い飯が恋しくて仕方がなかった。役目を終え帰ってきてみると、世間は様変わりしていた。あらゆる物が新鮮で始めは面白かった。
だがすぐに飽きてしまった。飯が美味いくらいで、どんな物も戦場で味わえるスリルに比べればどれも退屈だった。
今では戦場に残してきた仲間たちのことが気掛かりだ。
だが、あの男の言うことが正しければ、何れ大きな戦いが始まる。楽しみで仕方がない。
今は待つとしよう。
あの男に頼めば大概のものは手に入る。
私が愛してやまない時価総額一千万はするという名刀、夜櫻をてにいれてきたし、隠れ家に道場のある家も手配した。
胡散臭い男ではあるが今は利用させてもらう。
浴槽には真っ白な泡が溢れていた。昨日深夜にやっていた古い映画に出てくる、女スパイがやっているのを見て、真似をしたくてたまらなくなり、あの男にやり方を聞いた。男はジャグジーバスとかいうのを設置するとか言っていたが、私は一刻も早くこれをやりたかったので、それは断った。
お湯がたまったことを確認する。
(ふわふわじゃないか)
火照った体を冷たいシャワーで濡らす。張りのある艶やかな肌を水が伝う。
片足づつ浴槽につかる。
タブレットであの男に調べさせた骨のありそうなプレイヤーのリストを眺めながらターゲットを定める。ポニーテールを揺らしながら嬉しそうに笑う自分の顔が鏡に映っていた。
豪快に浴槽から出るとろくに体もふかずに、バスタオルを体に巻くと、まだ拭ききれていない濡れた足でリビングに行く。冷蔵庫から苺のショートケーキを取り出す。パクリと一口食べると、頬がとろけそうになった。頬にクリームがついたので舐めようとしたが届かなかった。
そろそろお楽しみの狩りの時間だ。




