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脱走します!

作者: 金平糖
掲載日:2014/05/11

短編書きたくて。

「はぁっ、はぁっ」



現在、最長記録更新中。

快挙だ快挙。

そして私の夢はもうすぐ叶う。


だからって、ここで油断はしてはいけない。

最後まで全力を出し切るのだ、私よ。


額を滴る汗をヒラッヒラの袖で躊躇うことなく拭い、私は目の前を見つめる。




二ヶ月前。

散歩と称した偵察から、見つけたこの抜け穴。

背の低い木の茂みで気付かれていないだろうが、ここは子供が這って出られるくらいの穴が開いているのだ。

ここを見つけた時は歓喜に震えた。


遂に、やった。と。



そしてなぜ二ヶ月もの間、すぐ行動に移さず大人しくしていたのか。


それは今日という絶好の機会を待っていたからだ。虎視眈々と!



ルイも、アスランも、今日は他国からの重鎮の警護に回されているからだ。

つまり!

いつも四六時中鬱陶しいくらい私に張り付いている存在がない。

この機会を逃さずにはいられようか!



「ハナ、今度どうしても我ら二人、傍を離れざるを得ない事情ができた。寂しがらないでおくれ」


と美形二人に頭を下げられた時、歓喜で踊りださなかった自分を褒めてやりたい。




あぁ、これまでの道のりは激しく、厳しく、長かった。


幾度となく知恵を振り絞り脱走を図ってきたが、ことごとく彼らに阻まれてきた。



あれは、この世界に来て1ヶ月程の頃か。

カーテンを細長く引き裂き、1階に届くくらいの長さに繋ぎ、端を机に固く結び、手をプルプルさせながら(運動不足のせい)そろりそろりと下りていったら・・・

中ほどまで来たころだろうか。ふと視線を感じて下を見たら、ルイが満面の笑みを浮かべ、両腕を大きく広げ、「さぁこの胸に飛び込んでおいで」とばかりに待ち受けていたり。

2階の自室に引き返す腕力はなく、あえなく撃沈。

その後、2階から4階に部屋を移されたことは言うまでもない。


それから、国を挙げての祭りの日。

この時ばかりは城の皆も浮かれていたため侍女の姿になりすまし、城下へのお遣いを装って門番の前を通ったら、その門番がアスランで(なんで王宮騎士副団長の立場にいる人が門番だなんて真似を!!)

「侍女の格好もなかなか、そういうプレイも・・・」とニヤニヤした目で見られた挙句、そのまま子供のように(小さくて悪かったわね!貴方たちが大きすぎるのよ!)腕に乗せられ逆戻り。


それ以外にも数々の脱走を図ってきたことが、走馬灯のように駆け巡る。




でも、それも今日で最後。



これで、ようやくこの城と、彼らとはおさらば。



あとはこの小さい抜け道を通るだけ。

ここに来てからというもの、彼らに「もっと食べなさい」「そんな小さい上に細っこくてどうする。肉をつけろ」と無理矢理食べさせようとする。

だから・・・ちょびっとだけ、太った気がしないでもない。


でも引き返せない。


私は地べたに這いつくばり、匍匐前進の体制をとる。


さぁ、いざ参らん!夢の世界へ!



とばかりに意気揚々と進む。



下は地面で木の根やらなんやらで、思ったより腕がこすれて痛い。

でもそんなことには構ってられない。



ようやく、腰まで抜け出した。


あぁ、眩しい光が見える。

もう少し。もう少し。




と、再び腕を動かしたところで・・・




「んぎゃ!!!」




なななな何かに、右足首を掴まれた!と思わず声をあげてしまう。


その正体を知ろうにも、今の私には不可能だ。


パニックになっている私の目の前に、誰かのブーツが見える。

まさに、今私が到達したいと思っている場所だ。


なにやら、見覚えがあるこの国の騎士団のズボンをインした編み上げブーツ。

先ほどの汗とは違う、冷や汗が顔にも背中にもダラダラとたれる。



「あぁ、かわいそうに。白くて柔らかい腕に傷を作って。さぁ、こちらに出ておいで。すぐに消毒しなくては」


聞き覚えがありすぎるその美声。

だが、今は聞きたくなかった声。ルイだ。



「けけ、ケッコウです」


目の前に差し出された手に固まりつつそう応える。


「おや、そうしたら戻りますか?」


「よし、こっちに来い。このまま両足持って引きずり出したいところだが、そんなことしたらお前が傷ついてしまう」


後ろからはアスランの声。引きずるだなんて、物騒なことを言いのける。


そして絶望に落ちる。

前からと後ろからの挟み撃ち。



私はぐったりと脱力した。こんな間抜けな姿のまま、身動きができなくなってしまった。

どうして、なぜ見つかった。

それにルイは先回りしているではないか。

私の綿密な計画が・・・。



そのままぐったりと動かなくなった私を見かねてか、前方でスラリ、と刀が抜かれる音がした、かと思うと圧迫感がなくなった。


なんてことはない。私の左右の茂みを切り落とし空間を広げてくれたのだ。


「さぁ、これで出てこられるでしょう?」


差し出されるルイの手。戦う人の無骨な手。顔はキレイなのに、手は刀を扱う手だ。


その手をとるべきか迷っていると、腰に手が回され、引き戻される。アスランだ。


そのままいつものようにアスランのたくましい太い腕の上に乗せられる。


そうしたら痛ましげに眉を寄せられた。


「あぁ、本当だ。腕に擦り傷ができているじゃないか。すぐに軍医に見てもらおう」


軍医じゃなくて、普通のお医者さんでいいんですけど・・・。



「まったく、ハナには困りましたね。鬼ごっこに全力を出すのもいいですが、こちら側は城に隣接している地とはいえ、魔物が出るのですよ?誰も近付かないというのに。か弱い貴女はひとたまりもありませんよ」


いつの間にか傍に立ってたルイが物騒なことを口にする。

ひ、ひぇぇぇぇぇ!そんなこと知らなかった!だって反対側は城下に続いているから、てっきりこっちもそうかと思ってた・・・


ってルイさん。あなた今その場所にいましたよね。

しかも、穴を広げてますよね。



そして声を大にして言いたい。




「鬼ごっこ」じゃないーーーー!!!!











*********************************




やけに意気消沈しているハナを軍医のところに連れて行き、治療した後「大げさ!」とわめくハナを必死になだめ、その痛々しい傷を負ってしまった腕に包帯を巻かせ、部屋に戻し・・・もとい、閉じ込めた。


もちろん、その扉の前には監視着き。


あの消沈具合からいって、あと一週間は大人しくしているだろう。



「やれやれ。ハナも懲りませんね」


ルイはアスランと机に向かいあい、肩をすくめた。


「まったくだ。俺らが他国からの重鎮の警護で傍にいられない、と告げた時のあの嬉しそうな顔といったら」




「本人は必死で隠していたようですがね。あぁ、あの喜びを必死で抑えたせいでプルプルと震えた様子、なんと愛らしかったことか」


「まぁ、『うっかり』、その日にちを伝え間違えてしまったがな」


「えぇ、他国の客人が来るのはあさってですもんね」


「これであさっては大人しくしているだろうな」


「よほど私たちに捕まえられるのが好きなのでしょうね。あの小さき頭にはバリエーションに富んだ鬼ごっこの知識が詰まっているのでしょう」


「あそこに抜け穴があるなんて、俺たちが知らないわけねぇのにな」


「そうそう、彼女の護衛につけている者に聞いた所、そこを見つけた時は喜色満面の笑みを浮かべていたそうですよ」


「ハナの笑みを見たっていうのか。俺らでさえあまり見れないというのに。アイツら、後で扱いてやろう」


「あぁ、ハナ。何と楽しませてくれる愛しい子なんでしょう」


「俺らが逃がすことなんて、絶対にないのに。諦めない芯の強さも備えているぞ」


「さぁ、今度は何をしてくれるのでしょうね」


「いっそのこと、閉じ込めておくのも悪くはねぇが」





*********************************



ひぃっ!


今、なんか背中がゾゾっとした。


ハナは恐る恐る後ろを振り返るが、もちろん誰もいない。


勿体無いほどの豪華なもので溢れた、ハナに与えられた自室は広すぎる。



「うぅ・・・今日も脱走失敗か、いや、でも最長距離を更新した!」


ぐっと手を握り締める。

その目には諦めの色は一切見せない。








ハナは、知らない。


ハナは一切気付いていないが、ハナに常時つけられた護衛が5人いることに。


侍女を連れて散歩、と称した偵察の時にも見えないところで護衛に囲まれていることを。


ハナの喋った内容、見つけたもの、動作にいたるまで仔細にルイとアスランに伝わっていたこと。


もちろん、たった今の諦めていない発言も然り。



ハナは知らない。


その無謀ともいえる挑戦が、今後達成することはないであろうと確信していることに、憐れみの目を向ける護衛がいることに。

お読みいただきありがとうございました。

もしかしたらシリーズ化するかもしれません。

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