☆陸
** 陸 **
──────────
神「光さん、神です。」
『神様?』
神「はい。」
『神様も幕末に来たんだ。』
神「いいえ、私は幕末には行けないのです。
幕末にいる光さんの夢の中には行けますが。」
『そうなんだ。じゃあこれは夢なんだ。』
神「はい。どうです、幕末は?」
『皆、優しいしいいとこだと思う。まだ壁を感じる人も居るけど。』
神「沖田総司ですか?」
『沖田さんもだけど、土方さんもだ。』
神「壁…なくなればいいですね。」
『ああ、オレもそう思ってる。』
神「…そろそろ日の出の時間です。それではまた夢で。」
『ん、又な。』
───────────
『ん〜眩しい…』
オレは起き上がる。
ふと、部屋を見渡すが丞は帰ってきていない。
『そろそろ帰ってくるか?』
オレは胴着に着替える。
この時代、時計がなく、何時なのかはわからないが、毎日身に付いた習慣だ。
4時位だろう。
オレは道場に向かう。
その後をつけている人物がいる。山崎だ。
───早朝
山崎は任務を終え、土方の部屋に来ていた。
歳「山崎、ご苦労。
帰ってきたばかりで悪いんだが、光…奴の行動を見張れ。まだ寝ている時間だ。少しは休めるだろう。」
丞「御意。」
シュタ
山崎は一言残して天井に上がった。天井から自分の部屋を目指す。
そして、天井から光の様子を見る。
丞(もう起きとるんか…隈は寝れへんやないか。)
そう思っているうちに、光は胴着に着替え、部屋を出ていこうとしていた。
丞(あかん、追わへんと!)
丞は天井から素早く追いかける。
ピタ
急に光の足が止まる。
『はぁ…丞?』
ため息混じりに、光は山崎の名を呼ぶ。
シュタ
丞「なんや、気づいとったか。それにしても、早起きやないか。」
『ごめんな…オレのせいで。』
丞「何で謝っとる?」
『どうせ、仕事終わったばかりで、土方さんにオレの監視を命じられたんだろ?』
丞「……。」
『昨日土方さんに聞いたんだが、戻ってくるのは朝一。で、今ここにいると言うことは、丞寝てないでしょう?』
丞「そや、その通りや。」
『オレは別に間者ってわけじゃないけどなぁ…新選組のほうが好きだし。
あ、オレ今から道場で稽古するから、道場で寝れば?』
丞「任務中に寝るやつが何処におるねん!」
『…そうだった。でもオレの稽古つまらないよ。』
丞「それやったら隈もやるで。」
『どうせ丞が居るなら、クナイの投げ方教えてくれない?一応、監察方みたいだし。』
丞「あのなぁ…その監察方は隈が土方はんに頼んだんや。」
『へ?何で?』
「監察方の手が足りひんのよ。人使いの荒い鬼さんのせいやな。」
『土方さんのことか。確かに人使い荒いなぁ。
島田さんは家事もやらされてるし。女中でも雇れば、楽になるのに!!』
丞「そやなあ。道場に着いたで。」
『稽古しないと!丞教えてくれるの?』
丞「いいで。場所は道場じゃあかん。庭に行くで。」
『はーい。』
庭に向かう。
丞「よし!この辺りでいいやろ。」
『オレは嫌だ!』
オレが反対する理由…
ここが土方さんの部屋の真ん前の庭だからだ。
『丞、わざとここにしたな!』
丞「なんのことや?」
『土方さんが寝てるの知ってて…クナイそっちに飛んだらどうすんだよ!!』
丞「そんなこと隈の知ったことやない。光さえ気ぃ付けば問題あらへん。」
『無責任な!』
丞「ほんならやめるか?」
『…やる。』
丞「よし!まずはあの木に向かって投げて見ぃ。」
丞は懐からクナイを取り出す。
丞「持ち方はこうや。」
実際に持ってみせ、一瞬で木に投げた。
クナイは、木の幹に半分ほど埋まっている。
『すご!!』
丞「これでも軽く投げたんやで。本間はあれを全身埋めてこそ成功なんやで。」
『マジで…オレ出来んのか!?』
丞「できるかやない、やるんや。」
『うっ…やりますよ。』
丞「それでいいんや。最初の10回は失敗してええ。それ以降はお仕置きやで♪」
『丞のS!!!!』
丞「エス?なんやそれ?」
『気にしないで、始めていい?』
〔説明面倒…〕
丞「…?いいで、ちゃんと狙うんやで。」
『はい!!』
オレは意識を集中させる。
そして、
シュッ
勢いよくクナイを投げる。
カッ
クナイは木をかすめただけだった。
『ちっ、うまくいかねぇ…』
丞「最初であそこまで出来れば十分やと思うで?すぐ投げられるようになるさかい。慌てるんやない。」
『…次、いきます!』
シュッ
ドスッ
『刺さった!』
パチパチ
丞「ほう、やればできるんやないの。誉めてやるわ。」
丞が隣で拍手している。
『何で棒読みなわけ?』
丞「そやぁできたおかけで、隈がお仕置き出来へんからに、決まっとんやろ♪」
『お仕置きいらないから!!このあと何か稽古する?』
丞「特に決めてへんけど?」
『んじゃ、走り込みする!!時間勿体ないし♪』
丞「それ、隈もついていかへんと駄目やないか!」
『…そうなるな!』
オレは丞に背を向け、走り出す。
丞「ちょい待ちいや。」
丞がついてくる。
確認して、スピードをあげる。
───────────
『はぁ…はぁ…』
暫く走りオレは息を軽く整える。
丞「光の体力は底無しかいな。」
『そんなわけないじゃん、んなことより井戸何処?』
丞「こっちや。」
丞についていく。
井戸に来ると、水を近くにあった桶に汲み、汗を流す。
〔2人か…〕
永「おはようさん、光。今から稽古やんだけどよ、お前もどうだ?」
原「はよ、光。」
永倉さんは元気よく、原田さんは欠伸をしながら挨拶をしてくる。
『おはよう2人共。
稽古の誘いは嬉しいけど朝餉作りがあるから。ごめんな、又誘ってくれ。』
永「おう、又今度な。そんときは俺の相手してくれ。」
『ああ。』
永倉さんと原田さんは道場に行ってしまった。
オレは朝餉を作るため、台所に行く。
台所には今日使う材料が並べられていた。
源「早いね光さん。」
後ろから源さんが話しかけてくる。
『おはようございます、源さん。朝は何を作りますか?』
源「お浸しと味噌汁、卵焼きにしよう。」
『はい!!』
オレは源さんから卵を受け取り卵焼きを作っていく。
オレは甘い卵焼きが好きだが、この時代は砂糖は高価な物らしい。仕方なく、だし巻きにする。
『できた♪』
1つだけつまみ、味見をする。
『ん、美味しい!』
源「光さん、お浸しもお願いしてもいいかい?」
『あ、はい。』
源「悪いねぇ、ほんれんそうは切ってあるから。」
『わかりました。』
オレはほんれんそうを茹で、塩で味を整える。
『しょっぱくもないし、味が薄いわけでもない。ん、大丈夫だ。』
総「光さん、こんなとこに居たんですか。」
沖田さんは言うなり、台所に入ってくる。
総「どうしてここに居るんですか?」
『仕事だからです。』
総「そうですか…源さん、光さん連れてっても構いませんか?」
源「ああ、大丈夫だよ。ここまでやってくれたしね。あとは、私と島田君でやるから。」
総「ありがとうございます。行きますよ、光さん。」
『えっ、ちょ…』
沖田さんに腕を引っ張られる。
『すみません、源さん!!』
源「いっておいで。」
オレは源さんに頭を下げ、台所を後にする。
『沖田さん、何処に行くんですか?』
総「昨日言ったでしょ。僕と面白いことするって。」
『今からですか?』
総「そうだよ、ほらついた♪」
沖田さんが止まったのは土方さんの部屋の前。
そして手には1冊の本の様なもの。
『もしかしてそれは…豊玉発句集…』
総「そうです♪さすが光さん。」
『それじゃぁ、この句にしません?1番言いやすいですし。』
総「はい。」
『せーの!!』
総「『梅の花ぁ一輪咲い「だあぁぁぁぁ!!!!」…』」
スパーン
歳「てめぇら、それを返せえぇぇ!!」
土方さんが鬼の形相でいい放つ。
それを沖田さんが煽る。
総「嫌です♪鬼さんこちら♪」
歳「そーーじーー!!」
総「逃げますよ、光さん!!」
沖田さんのあとを追うようにオレも逃げる。
歳「待てえぇぇ!!」
刀を抜き、追いかける土方さん。
近くにいた隊士達は巻き込まれないよう離れていく。
───────────
グゥー
『…お腹すいた…』
暫く逃げ回り、ご飯を食べたくなり土方さんに素直に謝った。
だが、土方さんは長い長い説教のあと、朝餉抜きという罰を与えた。
丞「なんや?腹減っとるんか?」
『うん。』
丞「いきなり現れたんやから少しは驚けや。
光、これ食うか?」
『食べる!!』
?「なーに2人だけで食べてるんですか?」
『むごっ!!ほひたしゃん』
総「光さん、食べながらしゃべらないでください。
『ほひたしゃん』って誰ですか。」
ごっくん
『ごめん、沖田さん。丞、これ沖田さんにもあげていいか?』
ピクッ
総「『丞』?おかしいなぁ、山崎君。皆には名前で呼ばせないのに。」
丞「……。」
『そーなの?』
丞「そんなん隈の勝手やろ。」
『そうだな。それより、あげていいのか丞?』
総「山崎君からは要りません。今度一緒に甘味処行きませんか?」
『行きたい!あ、でも疑われてるし…やめとく。』
総「えー、土方さんに許可とればいいですか?」
『う〜ん、許可とれたらね。』
総「僕、許可とってきます。」
沖田さんが行ってしまうと、気まずくなったのか丞も何処かへ行ってしまった。
『この饅頭、全部食べていいのか?』
オレが饅頭とにらめっこしていると、平助が前からやってくる。
藤「どうしたんだよ、こんなとこで。」
『いやな、丞が饅頭くれたんだけど、全部食べていいのかなぁって。』
藤「『丞』?」
『あれ知らない?山崎の名前だよ。』
藤「知らないよ。姓しか教えてくれないし。」
『そーなんだ。で、これ食べていいと思うか?』
藤「いいんじゃない?貰ったんでしょ。
光、オレに3つほどくれないかな?後でぱっつあんと左之さん、3人で食べたいからさ。」
『いいよ、はい。』
饅頭を平助の手にのせる。
藤「ありがと光。」
平助は饅頭を受け取ると嬉しそうにあいてる手を振りながら去っていった。
『なんか平助って子犬みたい。』
そこに沖田さんが戻ってきた。
総「土方さんが許可出してくれたので、明日早速行きませんか?」
『明日ですか?今からではなく?』
総「今から、昼餉です♪」
『嘘、そんな時間!?仕事忘れてたあぁぁ!!
沖田さん、これあげます。それじゃぁあとで!!』
オレは走って台所に向かう。
『すみません!!忘れてました!!』
源さんをみるなり、オレは謝る。
源「気にしなくていいよ。光さんは素直だねぇ。それに今日は何故か、山崎君が手伝ってくれたんだよ。」
『丞が?』
島「はい。先程光さんが来たのがわかると、何処かに行ってしまわれましたが。」
『後でお礼言わないとな。
オレ、お膳運びだけでも手伝います。』
源「助かるよ。」
オレはお膳を運ぶため、台所と広間を往復する。
原「光、大変だな!」
『そう思うなら手伝ってください、原田さん。』
原「やだ。」
『無理なら仕方ありませんね。』
オレはしょんぼりしてる振りをする。
原「わかった手伝う。なんなら毎日手伝ってやるからよぅ。
そんなしょんぼりするなって!な!!」
『マジですか…?』
原「おう!!男に二言はない!」
『では早速いきますよ。急いでください!』
ニィと笑い、原田さんの腕を引っ張る。
原「おい光。まさか演技か?」
『そうですよ。でも男に二言はないんですよね♪毎日手伝って貰いますから。』
原「ちくしょー!!騙されたあぁぁ!!」
近くにいたのか、永倉さんと平助が原田さんに手を合わせ、なにか呟きその場から逃げる様に走ってる姿が見えた。
〔あの2人わかってるなぁ。原田さん見捨ててまで逃げるとは。〕
喚いてる原田さんを連れ、台所に行くと
『源さん、島田さん。今日から原田さんもお膳運び、手伝ってくれるそうですよ♪』
源「原田君悪いねぇ。早速お願いね。」
たくさんあるお膳を見ながら源さんは言った。
原「げっ…こんなにあんのかよ。源さん、島田さん毎日大変だったんだな。よし任せろ!!」
源「ああ、頼んだよ。」
───────────
『やっと運び終わったぁ!!原田さん、ありがとうございます。』
ニッコリ笑顔でお礼を言う。
原「っ//」
『原田さん?』
原「ああ、いつでも言ってくれ。手伝うからよ。」
原(この笑顔は反則だろ…)
?「なに赤くなってる…」
原「うおっ!!
一か…驚かすなよ。」
『一いつからいたんだ?』
一「先程からだが…」
『一、一緒に広間行こうぜ。沖田さんも。』
スッ
総「やっぱりばれましたね。」
一「総司…いたのか…」
総「はい。左之さんが赤面してるときから。」
ニヤリと笑い、沖田さんは
総「左之さん、後で僕と試合しませんか?拒否権はありませんが。」
原「えっ!!何で!?」
総「行きましょう、光さん一君。」
原田さんの質問を無視し、歩き始める沖田さん。
オレは1度原田さんを振り返り、沖田さんのあとを追う。
原「おいていくな!」
ドタドタ
原田さんは走ってくる。
その音を聞き、沖田さんと一は歩くスピードを上げてく。
総「光さんも急いでください!危ないですよ。」
『何がです?』
一「…いいから急げ…」
〔取り敢えず、急げばいいんだな。〕
オレは急いだ。
沖田さんと一は広間に着くと、戸を開け
総・一「「急げ!!」」
オレは広間に駆け込む。
すると、沖田さんは戸を閉めてしまう。
『まだ原田さんが入ってませんよ?』
ズッドーン
そんなとき。
物凄い音が廊下から聞こえてきた。
一「間に合ったか…」
総「良かったです♪」
『へ?』
総「廊下を見ればわかりますよ。危うく、昼餉が台無しになるとこでした。」
そっと戸を開き廊下を見る。
原「またやっちまった…」
原田さんが壁にぶつかり、穴を開けていた。
総「左之さん、走り出すとすぐには止まれないんですよ。前に夕餉台無しにされましたからね♪」
『ふーん。あっ!!原田さん、土方さんが来ましたよ。』
原「やっべえ!!また給料減らされる!!」
歳「これはどういうことだあぁぁ!そこに座れ!!」
原田さんは廊下の隅に座る。
歳「原田、何回やれば済むんだ?お前は3ヶ月減給だ。」
原「……。」
歳「わかったか!!」
原「はい…」
藤「あーあ…左之さん島原行けねぇーじゃん。」
『島原?オレ、行ってみたい!』
永「餓鬼が行くとこじゃねぇーよ。それに光は行けないだろ。」
総「光さんは僕と一緒に甘味処に行くんでしょう?」
『えー甘味処も島原も行きたい!』
駄目だの行きたいだので暫く騒いでいると、
近「そろそろ食べないと冷めてしまう。」
歳「はぁ…てめぇらとっとと食いやがれ!!源さんと島田に悪いじゃねーか!!」
『「「「はい。』」」」
───────────
この日、皆が稽古や巡察のお陰で土方さんの長い長い説教は無しになった。
ただ1人を除いて…
歳「そーーじーー!!待ちやがれ、それは俺のだあぁぁぁ!!」
総「えー決まってませんよ。」
歳「それは、源さんに頼んでおいた俺の沢庵だあぁぁぁ」
そう沖田さんだ。
このあと、結局鬼さんに捕まり説教をくらって暫くふて腐れていた。
そして何故か原田さんの整った顔はボコボコになっており、
原「ちくしょー総司のやろー」
と1日中呟きながら歩いていた…