☆伍
** 伍 **
丞「此処や。」
山崎さんは1番入り口の近い部屋で止まった。
『ここが山崎さんの部屋ですか。』
丞「なぁ、丞って呼んでくれへんか?」
『丞?』
丞「そや、それでいいんや♪」
『丞入っていいか?荷物置きたい。』
丞「ああ、わいはあんま部屋使うておらへんから好きに使ぃ。」
『マジでいいのか?サンキューな丞♪』
丞「『サンキュー』ってなんや?」
『ありがとって意味。』
丞「そか、わいは今からトッシーの何処にいかへんと。」
『トッシー?』
丞「土方はんのことや。」
〔トッシー…フフッ…〕
『…フッ…アハハハ…お腹いたい…笑いすぎて死にそう…アハハ…』
丞「…笑いすぎとちゃうか?」
『だって土方がトッシーって…可愛すぎでしょ!?丞も可愛く呼ばれたい?』
丞「……わい、土方はんの何処に行ってくるわ。」
『待ってオレも行く。』
オレは荷物を部屋に置くと、丞の忍服を掴んだ。
丞「何でや?」
『いいから行く。』
丞の背中を押そうとする。
フッ
丞は一瞬で消えた。
丞「わいは隊士に知られてへんねん。天井裏から行くわ。」
丞は天井から顔だけ見せて消えた。
『嘘だろ。土方の部屋までわかんないからついてこうとしたのに!』
独り言を言っていると
一「どうかしたのか…」
一さんが話し掛けてきた。
『斎藤さん?土方の部屋まで連れてってくれない?丞が置いていきやがった。』
一「構わないが…『よっしゃー!丞後で覚えてろ…』…すまぬが…」
『何、斎藤さん?』
一「一と呼んでくれぬか…」
『ん、0K─。一な!』
一「『0K』とは…?」
『わかったってこと。』
〔…出来るだけ未来の言葉使わないようにしよ。説明するの面倒だ。〕
一「…いかないのか?」
『行く!!』
既に歩き始めていた一の後を追う。
土方の部屋に着くと、一は何処かへ行ってしまった。
『光です、入ります。』
スパーン
綺麗な音をたて
障子を開ける。
丞「なんや、遅かったやないか。」
『丞のせいっ!!』
丞「何でわいのせいなんや?」
ジロッ
丞をみて無視することにした。
『…そんなことより土方、オレは何をすればいいんだ?』
丞「そんなことって…わいの存在はなんやねん!?」
『煩いなぁ…少し黙ってよ丞。』
フッ
丞はいじけ、天井に入ってしまう。
『で、土方?』
歳「はぁ…まず呼び捨てをやめろ。てめぇは隊士だが、監察方に入ってもらう。」
『監察方?』
歳「ああ。それから、飯作りも手伝え。一応、女なんだから出来るだろ?」
『オレの仕事多くないですか?』
歳「まぁ頑張れ。後は山崎に聞け。俺は仕事する、出ていけ。」
オレは部屋から出た。
〔土方さんめ、絶対他人事だと思ってやがる!あ、良いこと思い付いた♪〕
『丞居るでしょ?さっきはごめん。』
シュタ
丞「早速やけど、仕事や。ついてきぃ。」
丞に案内されたのは台所だった。
丞「夕餉作りや。」
?「おや、山崎さんではないですか?そちらが新しく入った…光さん?」
丞「そや、源さん悪いんやけど光を頼みます。」
源「これから仕事かい?」
丞「そんなとこやな。そんじゃ頼みます。」
丞は軽々と屋根に飛びうつると、何処かに消えた。
源「さぁ、始めましょうか光さん。」
『はい!!ところであそこにいるのは、島田魁さんですか?』
源「そうだよ、よくわかったねぇ。」
『偶々です。ところで今日は何を作りますか?』
腕捲りをしながら聞く。
源「そうだなぁ…」
『あの!そちらの野菜を味噌汁に、残りは炒めては?それと焼き魚と沢庵。』
源「凄いなぁ…」
『凄くありません。早く作りましょう。』
オレは手際よく野菜を切りながら、魚を焼く。
───────
暫くして隊士全員分の食事を作り終える。
『できた…源さん、味噌汁はどうですか?』
源「こっちも出来たよ…って凄いですね。」
『何がです?』
源「料理の腕ですよ。島田君も思いますよね?」
島「はい。いつもより豪華に見えますね。」
『ありがとうございます//』
照れながらもしっかりお礼を述べる。
源「そろそろ、隊士達を広間に集めないと。光さん、お願い出来ますか?」
『はい!!早速行ってきます。』
オレは走り出しながら源さんに向かって言う。
源「元気だねぇ。」
島「そうですね。私は広間にお膳を運びますね。」
島田はお膳を持ち上げる。
源「頼みます、島田君。」
島「はい。」
──その頃、オレはまず道場に向かった。
〔道場に行く道と、丞の部屋までの道しかわかんねぇけど、なんとかなるよな♪〕
考えながら、道場の戸を開ける。
む〜ん
熱気が頬にあたる。
『皆さん、夕餉の時間ですよー!!』
入り口から叫ぶ。
隊1「飯だって、早くいこうぜ!」
隊2「そうだな!」
話ながら隊士達は道場から出ていく。
永「よう、光じゃねぇか。」
『永倉さん!』
原「なんだ、今日入ったばっかなのに手伝いか。偉いな!」
『いえ、仕事です。』
原・永「「仕事?」」
『はい。オレは監察方でご飯作りも命じられました。』
永「そっか。と言うことは、今日の夕餉も作ったのか?」
『作りました。』
原「そりゃぁ、急がねぇと。平助いつまでやってんだ!!今日の夕餉は光も作ったんだと。」
藤「それ本当?」
稽古を続けていた平助がオレ達に近づいた。
原「本人に聞いたんだ。間違えねぇ。」
藤「急ご、ぱっつあん左之さん!!」
『あのすみません!!』
永「どうかしたか、光?」
『他の幹部の部屋まで案内して貰えませんか?わからないので。』
永「そりゃそうか。よし、俺が案内してやる!!」
『ありがとうございます。』
藤「ぱっつあん、世話好きだもんな。どうせならオレも行く。」
原「皆で行こうぜ。」
永「そうだな。光いいか?」
『……。』
原「光?」
『あ、はい。案内さえしてくれでば。』
藤「どうかしたの?」
『いえ、ちょっと未来にいた3馬鹿を思い出しただけですよ。心配しないで下さい、藤堂さん。』
藤「あー、その『藤堂さん』ってやめない?歳も近そうだしさ。それと敬語もだ。」
『ん、平助でいいか?』
藤「そうそうそれでいいんだよ。」
原「ちょい待て、平助。」
藤「何だよ左之さん。」
原「光はさっき、俺達のこと馬鹿だと言ったんだぞ。」
『失礼ですね、オレは馬鹿だと一言も言ってませんよ。ただ、思っただけで。』
原「やっぱり馬鹿だと言いたいんじゃねぇか。」
藤「左之さん気にしすぎだって。それより行かなくていいのか?」
『あ、早く行きますよ!』
永・藤・原「「「おう!!」」」
──最初に案内をされたのは、近藤さんの部屋だ。
『近藤さん、夕餉ができました。』
近「ああ、今行くよ。」
近藤さんの返事を聞き、隣の部屋に向かう。
山「…フフ…光さん、隣の部屋まで声が聞こえましたよ。」
スッ
と障子が開き、山南さんが顔をだす。
『えっ//』
〔うわぁー、恥ずかしい//そんな大きな声で話してたんだ。〕
紅くなった顔を見られないよう手で隠す。
永「光、次行かねぇと。」
『はい。それじゃぁ、山南さん又後で。』
山「はい。」
にっこりと笑った山南さんに見送られ、次は一の部屋に来ていた。
『一、夕餉の時間。』
一「ああ。」
『次は沖田さんかな。』
一「総司なら…さっき広間に行ったぞ…」
『一、教えてくれてありがとな。』
一「…ああ。」
『最後は土方さんか。』
原「行くか。」
暫く歩いて、土方さんの部屋に着く。
今まで気がつかなかったが池のある庭の目の前だった。
『土方さん、夕餉の時間です。』
歳「光か。呼び捨て止めたんだな。俺は後から行く。先に行ってろ。」
『はーい。行きますか、3人共。』
藤「そうだな♪」
永・原「「ああ。」」
広間に着くと、3人は並んで座る。
永「光そんなとこに立ってないで、こっちこいよ。」
何処に座ればいいかわからず、立っていたオレに声をかけてきた。
『ありがとうございます。それと、すみませんが土方さんの席を教えて貰えませんか?』
永「あそこだよ。」
永倉は近藤の隣を指す。
永「何でそんなこと聞くんだ?」
『ちょっと、ね。』
オレは笑顔を浮かべて、永倉さんに返事をし、
土方さんの席に向かう。
そして、土方さんのお膳から沢庵だけをとり、平助の横に座る。
藤「なぁ光。」
『何、平助。』
藤「それって土方さんの沢庵だよな。お前が食ってるやつ。」
『これ?そうだよ、土方さんの。』
藤「それって危ないって!土方さんが来る前に戻し「てめぇら揃ってるな。」…」
土方は自分の席に座る。
歳「誰だあぁぁぁ!!俺の沢庵食ったやつは!?出てこい!!叩き斬ってやる!!」
総「土方さん、僕犯人知ってますよ。」
総司は、光の横で挙手する。
歳「誰だ?」
総「光さんです。ですよね、平助♪」
平「オレを巻き込むなあぁぁ!!」
歳「ひーかーるー!!」
『ちっ…何でチクるんですか、沖田さん?』
総「面白くなりそうだからです♪」
言いながら沖田さんはオレから離れる。
そしていつの間にか平助もオレの横に居なかった。
歳「光、そこにいろ!!斬ってやる!!」
土方さんが刀を抜きながら近づいてくる。
『斬られるのをわかっていて逃げない馬鹿はいないです♪』
オレは、ニッと土方さんを見る。
歳「光待てえぇぇ!!」
『待ちませんよ♪』
2人のリアル鬼ごっこが始まった。
総「やっぱり、こうなりましたね♪」
総司は見学しながらご飯を食べる。
歳「何で俺の沢庵を食いやがった?」
『オレからの細やかな復讐です。』
歳「意味のわかんねぇこと、言ってんじゃねぇ!!」
『来たばかりのオレに対して、仕事が多いことを他人事に扱いました。』
歳「そんなことで俺の沢庵を食うなあぁぁ!!」
『何だよ、沢庵位で。』
歳「俺の好物だ。てめぇ知ってたろ!!」
『知りませんよ、そんなこと♪』
歳「わざとだな、やっぱり斬ってやる!!」
近「歳、落ち着きなさい!」
歳「だがよぅ近藤さん。」
近「私の沢庵をやるから。」
総「えぇぇ、駄目ですよ。近藤さんがあげるなら僕のをあげます。」
『…オレのを土方さんに渡します。』
歳「最初からそうしてりゃーいいんだよ。」
土方さんはオレから沢庵を受けとると、自分の席に座り、夕餉を食べ始める。
〔土方さん、覚えてろ復讐果たしてやる!!〕
総「光さん光さん、僕と明日面白いことしませんか?」
『面白いこと?何するんです?』
総「明日のお楽しみです♪あ、土方さんがらみです♪」
『やります!』
総「では明日。僕はもう寝るので。」
『早くありません?それに味噌汁とおかずが残ってます。』
総「それ、あげるよ。僕いらないから。早く寝るのは昔近藤さんに[いい子は早く寝る]って言われたんです。」
『だからって、残すのはいけません!!食べてから寝てください!
あ、それとも野菜が嫌いなんですか?』
総「き、嫌いじゃないよ、ただ食べないだけで。」
沖田さんの顔に汗が浮かんでいた。
〔嫌いなんだな。〕
そう思いながら
『ですよね。でも組長がご飯を残すのは、隊士達に示しがつかないんじゃないですか?ねぇ、近藤さん。』
近「そうだな。いい機会だ。総司、好き嫌いしないで食べるんだぞ。」
総「うっ…」
沖田さんは近藤さんに言われ、渋々席に戻ってきた。
総「光さんのせいですよ。」
『何がです?食べられるなら、問題はないはずでしょう?』
総「…わかりました。食べます。」
箸を手に持ち、野菜を摘まむ。
パクッ
食べた。
沖田さんは一生懸命食べている。
ズズッ
野菜を全て食べ、最後にお茶で流し込む。
それほど食べたくなかったのだろう。
近「偉いぞ、総司。」
一部始終見ていた近藤は総司に声をかけた。
総「これくらい当たり前です。」
近藤に子供扱いされたことにむくれながら言う。
近「そうか、すまんな総司。」
総「いえ、僕寝ますね。」
近「おやすみ総司。」
『おやすみなさい沖田さん。』
歳「総司、朝稽古サボるなよ。」
総「おやすみなさい近藤さん、光さん。」
沖田さんはオレ達に手を振りながら行ってしまった。
歳「総司、俺には返事なしかあぁぁぁ!!」
近「歳、いいじゃないか。光さん、片付けも頼めるか?」
『はい。』
近「そうか、頼んだぞ。」
『じゃあ、早速片付けます。』
オレはお膳を2つ重ねて持つ。
近藤さんと土方さんは、広間から出ていった。
島「光さん、片付けも手伝ってくれるんですか。」
『はい。』
島「悪いね、隊士なのに。」
『あれ聞いてませんか?オレは監察方兼食事作りですよ。更に増えるような気がしますが。』
島「監察方?」
『はい。島田さんの部下みたいな感じです。』
島「私の部下ですか。多分山崎さんの部下ですね。」
『へ?』
島「私は、ほとんど家事をしてますからね(笑)」
『それじゃぁ、家事の先輩ってことですね♪』
島「そうなりますね。…気になってたんですが、光さんいつまで胴着で過ごすんですか?」
『そういえば…すみません島田さん。用事思い出したので後お願いしてもいいですか?』
島「ああ、いいよ。行ってきなさい。」
『すみません!』
オレは土方さんの部屋に向かう。
『土方さん、光です。』
歳「入れ。」
スー
『失礼します。』
歳「お前、片付けは?」
『途中までやり、今は島田さんにやってもらってます。』
歳「で…何の用だ。」
『オレの着替えなんか貸していただけません?なにも持ってません。』
歳「俺のだと大きいから、総司か平助にでも借りろ。」
『はい。後、丞はいつ戻りますか?』
歳「朝一には戻ってくる。」
『そうですか。ありがとうございます。』
スー
『失礼しました。』
頭を下げ、土方さんの部屋を出て平助の部屋に行く。
『平助、起きてる?』
藤「光?入っていいよ。」
スー
『失礼します。』
藤「どうかしたの?」
『平助に頼みがある。着替え貸してくんねぇ?』
藤「オレのでいいならいつでも貸すよ。ちょっと待ってて。」
平助は言うと、押し入れをあさりだした。
藤「あった。これでいいか?取り敢えず、寝巻きと着流しに袴。1着ずつで。」
『ああ、サンキューな平助。』
藤「『サンキュー』?」
『ありがとってこと。』
藤「そうなんだ。どういたしまして。」
『じゃあ、おやすみ…平助。』
藤「おう、おやすみ♪」
スー
オレは丞の部屋に戻る前に、台所に行く。
既に片付けは終わっていて、島田さんと源さんの姿は見えなかった。
〔明日お礼言わないと!〕
スパーン
丞の部屋に着くと、部屋の隅に布団を引く。
『よし!着替えて寝るか。お風呂に入りたいけど、場所わかんねぇし。隊士が入ってるかもだし。』
オレは素早く着替え、布団に潜り込んだ。
〔今日はいろんなことがあったな。しかも少し時間がずれてて、夕方2回過ごしたし…〕
布団から天井を眺める。
『いつもと違う天井…夢じゃないんだな…』
呟き、瞼が下がる。
オレは眠りについた…