☆壱
** 壱 **
オレは自宅で日本史の勉強をしていた。
『幕末かぁ、行ってみたいなぁ…はぁ…』
オレは無理なことを考え、ため息をついた。
父「光、そろそろ稽古の時間だぞ。」
『はーい。』
下から聞こえてきた、
父の声に返事をした。
オレの家は剣術道場だ。
オレは、胸にサラシを巻き、胴着に着替えた。
あ、言い忘れていたが、オレは女だ。
幼い頃から剣術をやっているため、男だらけの空間で育ち、言葉遣いまで男になってしまった。
父「光、はやくしなさい!」
父の声が聞こえ、オレは急いで下に行った。
父「遅いぞ光。もう皆集まってる。」
『ごめん。』
そんな会話をしながら、道場に向かった。
「「「師匠、今日もお願いします!」」」
道場の戸を開けると、皆が一斉に挨拶をしてきた。
皆と言っても、たった3人だが。
オレはまとめて[3馬鹿]と、呼んでいる。
それからすぐに稽古が始まる。
しばらく竹刀で打ち合い、今日の稽古は終了した。
『はぁ…つまらない。』
父「何がつまらないんだ、光?」
『何がって…稽古?』
父がオレの隣に腰を下ろした。
父「なんだ?前までは楽しそうだったじゃないか。」
『まぁ、そうだけど…日本史で幕末やってて、今の時代より剣術が優れてるなぁって…』
父「確かにそうかもしれないが、今は平成なんだ。仕方がないだろう?まぁ、お前ほどの腕では稽古はつまらないだろうが…」
父は曖昧な笑みを浮かべた。
『別に、お父さんを攻めてる訳じゃない。』
父「そうか、光あの時の約束は守れよ。」
『うん!!じゃぁオレは、お風呂入ってくる。』
オレは父に手を振りながら道場を後にした。
オレは湯船に浸かりながら、約束した時のことを思い出していた。
─あれはオレが6歳の時─
母「やめて!!この子だけは…こ「うるせえ。」…」
グサッ
母「…ッッこ、この…」
バタッ
その時、オレを守っていた母が倒れた。
オレは母を殺した男を睨んだ。
『…許さない…』
男「なんだぁーガキ。オレと殺るっ…ッッ…テッメェ…」
男は言い終わる前に、膝をついていた。
オレは男の返り血を浴びていた。
『まだだよ、まだまだこれから(笑)』
オレは男に包丁を突き刺した。何度も何度も、抜いては刺して…もう男は死んでいたのに、だ。
ガラッ
父が帰ってきた。
オレは玄関を見ながら、笑った。
『お帰りなさい♪』
父「光!…?お前…本当に光か?」
『うん、そうだよ。見て、ちゃんとお母さんの仇とったよ。』
足元にあった、男の死体を蹴りながら答えた。
その時のオレは、目が赤くなっていたらしい。
父「いいか、よく聞きなさい光。その力は自分を犠牲にしてでも、本当に守りたいものができたときに使いなさい。約束だよ…」
『…うん、わかった!!』
父「いい子だ。」
父は寂しそうな笑みを浮かべ、オレの頭を撫でていた…
─これが約束だ─
あの時の父の顔は今でもはっきりと覚えてる。
いつか自分を犠牲にしてでも、本当に守りたいものができるのだろうか…─