☆拾漆
* 拾漆 *
あれから数日。
18日まであと5日。
オレはまだ甘味処と芸子の仕事をやっている。
平助と総司は暇を見つけては、よく甘味を食べにきていた。
総「光さん。今日もきましたよ♪」
平「光、2日ぶり!」
『いらっしゃいませ。きてくれるのは嬉しいけど、甘味ばかりにお金使ったら駄目だからね?』
総「大丈夫です。僕は給金の半分をいつも甘味に使うって決めてますから。」
『半分って……多くない?』
総「そうでしょうか?」
『まあいいや。そうや、うちは今日でここやめるから。』
平「屯所に戻ってくる?」
『まだ戻らない。』
平「そっかぁ。」
しょんぼりする平助。
〔うん、やっぱり……〕
『可愛いっ。』
オレはまたしても平助を抱き締める。
総「光さん、仕事中でしょう?みたらし団子20本お願いします。」
平助を睨みながら注文してくる総司。
『ちょっと待ってて。平助は?』
平「餡蜜!」
平助の注文も聞き、奥へと入る。
『お美世さんみたらし団子20本と餡蜜できる?』
美「できるよ。ちょっと待っとってな。」
お美世さんはなれた手つきでみたらし団子を作っていく。
美「お美都、餡蜜お願いね。」
都「はーい。」
どうやら餡蜜はお美都さんが作ってくれるようだ。
美「ほら、みたらし団子20本。」
ボーっとしているうちにみたらし団子が出来上がっていた。
みたらし団子を運ぼうとすると、横から手が伸びてきて、1つお盆をとられた。
都「手伝うよ。」
お美都さんはニコッと笑い、運んでくれる。
『ありがとうございます。』
都「いいって。それに、あのお2人はここの常連さんだしね。」
『ここの甘味はどれも美味しいですからね。ここを辞めても、お客として来ますよ。』
都「本当に?うち嬉しいわぁ。光ちゃんのこと、妹ができたみたいで嬉しかったからなぁ。」
『うちみたいのがお美都さんの妹なんて、贅沢ですって。』
お美都さんと話ながら、総司達のところまで甘味を運ぶ。
『お待たせしました。』
総司の前にみたらし団子がのったお皿を置く。
総「ありがとうございます♪」
いただきますと言って凄い勢いで、みたらし団子を食べていく。
『そんなに勢いよく食べたら喉につまるよ。』
はい、とお茶を総司に渡す。
総「ありがとうございます。」
『平助にもあるよ。』
平「ありがとう。」
『それじゃあまた。』
オレは席を離れ、別の席で注文をとり、運ぶを繰り返す。
気付けば、総司達は帰っていた。
都「忙しそうなので帰りますだって。」
『教えてくれてありがとうございます。』
お美都さんがわざわざ教えてくれる。
都「いいのよ。で、あの人とはどうなったの?今日で最後なんだからおしえてよ。」
『あの人?』
都「なぁにとぼけちゃって。ほらこの前告白してきた人よ。」
『ああ、総司のことですか。友達?仲間ですよ。』
都「断ったんだ。他に好きな人でもいるの?」
『……まぁ。』
都「何?出会いを聞かせ「いつまで話してるんだい。きびきび働く!」はーい。」
お美世さんに怒られ、仕事を再開する。
今思えば、恋愛について誰かと話したことなかった。
〔土方さんには相談しただけだしな。〕
カチャカチャとお皿を片付ける。
美「光さん。それが終わったらそこの部屋に来てな。」
『わかりました。』
考え事を止め、お皿を片付けていく。
『失礼します。』
お皿を片付け終え、言われた通り部屋に行く。
そこには算盤を弾いている、お美世さんがいた。
美「はい、これ。今日の分。」
そう言って渡されたお金を受け取る。
美「今日までありがとね。あんたのお陰でかなり繁盛したわ。」
『うち、普通に働いてただけですよ?』
美「光さんは容姿がいいからねえ。男共が一目見ようと押し掛けてたんだよ。」
『本人がそれを知らなかったんですが……』
美「そりゃあ、あんたさんは鈍感やし、それに番犬みたいな人が毎日きてればねえ。」
『番犬?』
首を傾げてお美世さんに聞き返す。
美「そうそう。ほら、いつも来てる美丈夫。光さんに話しかけようとした人を睨んでたんだよ。無言の圧力?って言うのかねえ。」
『総司が……何かすみません。』
美「光さんが謝ることじゃないよ。ほら、今日はこれから行くとこがあるんだろう?またいつでもおいで。」
お美世さんはニコッと笑う。
『はい。今日までありがとうございました。お美都さんにお世話になりましたと伝えてください。」
お美世さんに伝言を残し、店を後にする。
『さて、まずは支払いに行かないと。』
オレは小屋?家を建ててくれた人のところへ行くことにした。
『すみません、光です。支払いに来ました。』
トントンと戸を叩き、用件を言う。
?「お、ちゃんと来たな。」
中から出てきたのはここの家主のお爺さん。
爺「ひぃふぅ……しかと受け取った。」
お金を渡し、勘定が終わるまで待っていたオレはそれを聞き、ペコリと頭を下げてまた違う場所に向かう。
『すみません。』
紗「夜桜姉さんっ。」
店の前で声をかけると、お紗千が飛び出してきた。
紗「夜桜姉さんっ。昨日で辞めちゃうなんて聞いてへんっ。」
『ごめんなぁ。うち、たまにお紗千の様子見に来るさかい。』
涙目になっているお紗千の頭を撫でる。
『そや、女将はん呼んでもらえへん?』
紗「待っといてな。」
お紗千はパタパタと中へかけていく。
女「挨拶は昨日してもろうたで?」
お紗千が呼びに言ってすぐに女将さんが出てきた。
『今日は別件でお話があるんや。』
女「んーまぁええわ。ついてきぃ。」
『へぇ。お紗千は仕事に戻りぃ。』
オレはお紗千に声をかけて、女将さんについていく。
女「ここでええやろ。話ってなんやろか?」
『……これ預かってくれまへんか?』
オレは薬の小瓶と、前に書いた手紙を女将さんに渡す。
女「これは?」
『……これからうちのことを聞きに来た人に渡してほしいんです。』
女「……あんたさんの素、初めて見たなぁ。これをよっぽどうちに預けたいんやなぁ。」
『頼めますか?』
女「ええで。渡すだけやしなぁ。」
『ありがとうございます。』
オレは頭を下げる。
女「そんな頭下げへんでも……」
女将さんに頭を上げるように言われ、頭を上げる。
『それじゃあ、まだやることがあるので失礼します。』
女「……なんや知らへんけど、頑張りぃ。」
女将さんの声を聞き、店を後にする。
『次は水だな。』
オレは新築の小屋?に行き、桶に水を汲んでは盥に運ぶを繰り返す。
『……よし、今日はこんなもんだろ。』
小屋?の3分の1まで水の入った盥が置いてある状態だ。
『…………』
オレはその場から慎重に動き出す。
知り合いに会わないように……
『…………』
ドサッと何もない小屋に腰をおろす。
今いるのは、森の中の小さな小屋だ。
水を置いてある小屋?と別で建ててもらった。
『…………ハァ』
オレはとりあえず、寝ることにした。
特にすることも考えていた訳でもなかったから。
─────その頃の屯所
総「土方さん土方さんっ。」
スパァァンッッ
歳「静かに開けろっていつも言ってるだろうが!」
沖田が土方の部屋に訪れていた。
総「そんなことよりっ。」
歳「そんなことって……」
総「光さん、もうすぐ帰ってくるんですよね?!」
歳「ああ。」
総「やっと光さんと稽古ができるっ。」
歳「良かったじゃねえか。だがその前に、やることがあるからな。」
総「何かあるんですか?」
歳「8月18日から3日間に渡ってな。」
総「光さんはそのために働いてるんですね。」
歳「そうだ。それが終われば、またいつもの隊務に戻る。」
総「待ち遠しいです……」
沖田は少し遠くを見つめた───────
───────次の日
『ふわぁ。』
オレは欠伸をして起き上がった。
床で寝ていたため、あちこちが痛い。
『……よし!』
髪を結い直し、軽く体をほぐしてから立ち上がる。
『あと4日……』
オレは久しぶりに屯所へ行くことにした。
『何日ぶりだろ?皆元気かな?』
?「光っ。」
ドンッ
『痛い……』
屯所近くに来ると勢いよく飛びついてきた、永倉さん。
永「本当久しぶりだなぁ。少し背が伸びたんじゃねえか?」
『久しぶりですね。オレが働き始めてからは1度も会ってませんしね。ちなみに背は伸びてません。』
永「そうか、そりゃぁ悪かった。今から屯所に帰んだろ?一緒に帰ろうぜ。」
『まあそれは構わないけど巡察は終わったんですか?』
オレはちらりと永倉さんの後ろにいる隊士を見る。
永「終わったぜ。今帰ってる最中なんだ。」
『なら、一緒に帰りましょうか。』
オレは永倉さんと二番隊の隊士達と屯所に行く。
永「今、帰ったぜっ。」
永倉さんが、門で大声で中に声をかけるが誰も出てこない。
『ただいまっ。』
総「光さんっ。」
丞.平「光っ。」
3人が門のとこまで来た。
永「何で光だけ……」
しょんぼりと肩を落とした永倉さんの肩を、隊士達が1人1人ぽんっと手を置いて、屯所内に入って行く。
『あははっドンマイ永倉さん!』
オレは永倉さんの背中をおもいっきり叩く。
永「っっ!!力加減しろよ!」
『ごめんごめん♪』
永「謝るきねえな。んじゃあ俺は巡察の報告あるから行くわ。」
ヒラヒラと手を振り、永倉さんは屯所内に消えた。
丞「もう仕事は辞めたんやろ?」
『まあ。でもまだやることあるから。』
総「今日はやらないんですか?」
『やるよ。夕方ぐらいに。』
2人に挟まれながら屯所内に入る。
平助は、烝と総司に耳元で何かを囁かれた瞬間、屯所内に駆けていった。
丞「隈に出来ることなら言うてな?」
総「僕にもです。手伝えることはやりますから。」
『2人共ありがとね。でも今のとこは大丈夫。それよりも、離れてくれないか?』
屯所内に入った後、何故か隣との距離が短くなっていた。
総司にいたっては、腕と腕があたる距離にいる。
丞「嫌や。」
総「嫌です。」
『…………』
ダッ
オレは走り出す。
パタパタと後ろで追いかけてくる足音がする。
総「何で逃げるんですかぁ。」
後ろを振り返ると、総司だけ。
丞は天井から追いかけているのだろう。
『……ハァハァ』
体力が落ちたことを痛感する。
オレはとりあえず、近くの山南さんの部屋に逃げ込むことにした。
『山南さんっ、匿ってください。』
山「おや?そんなに慌ててどうしたんだい?」
『総司と丞に追われてまして。』
山「うーん……あ、そこの本の影に隠れるかい?」
『ありがとうございます!』
オレは山南さんの部屋に入り、奥の本の影に息を潜めて隠れる。
スパーン ガタッ
総「今、光さん来ませんでした?」
丞「今、光がこの部屋に入ったと思うんやけど……」
山「来てませんよ。それよりも、人の部屋に勝手に入るのはどうなんです?」
総「すみません。以後気をつけます。失礼しました。」
丞「山南さん、すんまへんでした。隈も以後気をつけるさかい。失礼しました。」
2人は山南さんの黒い笑顔に負けて、部屋を出ていった。
『山南さん、ありがとうございました。それと、オレも人の部屋に無断で入ってすみませんでした。』
山「追われていたのなら仕方ありませんよ。」
山南さんは微笑みながら言う。
『山南さんお世話になりました。オレ、土方さんに現状報告に来たので失礼します。』
山「またいつでも逃げに来ていいですよ。あの2人から逃げるのは大変でしょうから。」
『…それじゃあ、お言葉に甘えますね。』
オレは山南さんの部屋を後にし、土方さんのとこへと行く。
総「あ!光さんっ。」
『…………はぁ。』
総司が飛びついてくる。
総「人の顔を見てため息つかないでくださいよ。」
『総司、後で甘味奢るから後にしてくれ。』
総「約束ですよ!」
総司を何とか離すことに成功し、今度こそ土方さんのとこへと行く。
丞「光見つけたで。」
『今度は丞か……』
丞「今度はって……もう沖田はんに見つかったん?」
『ああ。甘味奢るので手を打ったけど』
丞「隈には何してくれるん?」
『……何がいい?』
丞「せやなぁ……」
丞は天井で悩んでいる。
こんなとこを他の平隊士に見られたら、オレはただの変人だ。
『早くしろ。』
丞「せや!隈の頬に接吻してや。」
『……却下。』
丞「何でや?減るもんやないし、口じゃないだけまだましやろ?」
『そう言う問題じゃない。オレが嫌だ。精神的に死ぬ。』
〔まぁ……うん、精神的に死ぬのは間違えじゃないし。ただ、羞恥で死ぬから。〕
心の中で思いながら、丞に言う。
丞「ほんなら、明日買い物につきやってや。そんならいいやろ?」
『ああ。それじゃあ。』
丞と別れ、土方さんの部屋に着く。
『土方さん居ますか?』
歳「入れ。」
『失礼します。とりあえず、今のところの現状報告に来ました。』
歳「そこ座れ。」
土方さんに指さされた場所に座る。
歳「どこまで進んだんだ?お前の計画は。」
『小屋は完成して、代金も支払い終わりました。後は怪しまれないように、小屋に水を溜めるだけです。』
歳「そうか。手伝いに何人か連れてくか?」
『大丈夫です。今日入れて、後4日もありますから。』
歳「1人であんま無理すんじゃねえぞ。此処の奴等はお前を心配してる奴ばかりだからな。」
土方さんはそう言ってオレの頭を撫でた。
『……大丈夫ですよ。ここはオレが居なくても。』
歳「……まるで居なくなるみたいな言い方すんじゃねえよ。」
『冗談ですって。オレの居場所はここだけですから。』
ニコッと笑い、土方さんに言う。
『今日はこの後、総司と甘味食べた後、計画に戻ります。で、明日は烝の買い物に付き合うのでまた暫くいませんので、お願いします。』
オレは土方さんの部屋を出て総司を捜す。
『総司ぃ早く来ないと、おいてくよ。』
トタトタトタ
大声で呼びかけると、こちらに凄い勢いで走ってくる足音が聞こえてきた。
それほど総司は甘味処に行きたいのだろう。
……きっと、総司と甘味処に行くのは今日で最後だろう。
総「光さん!」
『っ!?総司、行きなり背後から飛びつくなよ。』
総「だって光さん、暗い顔していたんですもん。何か隠してませんか?前にも聞きましたけど……」
『何もないよ。ほら、早くいかないと。』
オレは歩き出す。
総「待ってくださいよ!」
総司が慌ててついてくるのを見て笑みをこぼす。
こんな日常もそろそろ終わりが来る……。
総司と仲良く甘味を食べ、オレは計画に戻った。
甘味処で別れる際、総司が
「僕も手伝います!」
と騒いでいたが、説得して屯所まで帰した。
『ゴホゴホッ。』
小屋につくなり、咳き込む。
壁に寄りかかり、ずるずると座り込む。
『ゴホゴホッゴホゴホッ。』
咳はなかなか止まらない。
しまいには血を吐く始末。
暫くすると咳も止まったが、もう外は日が落ちていた。
『今日は止めとくか。』
そのままごろっと床に転がる。
次第に意識は遠退いた……。
────次の日
オレは再び屯所に訪れ、丞と一緒に町に出た。
『で?丞はどこに行きたいわけ?』
丞「そやなあ……小物みてもええか?」
『女装の時にでも使うのか?』
丞「そんなとこやな。」
オレ達は近くの小物屋に入る。
『…………あ。』
オレが見つけたのは、ミサンガ。
この時代にあるとは思わなかった。
色違いで2つ。
白と水色のものと、浅葱色と濃い青色のもの。
オレはそれを手に取る。
『…………』
オレはその2つを購入した。
丞「これくらいやな。光は何を買ったん?」
『さてね。他に行くとこは?』
丞「……ついてきてくれへん?」
そう言って丞は歩き出す。
丞についてきてついた場所。
そこは町が見渡せる丘だった。
丘には立派な桜の木。
今は時期じゃないけど、満開になったらきれいだと思う。
丞「光を最初に連れてきたかったんや。」
『ありがと。でも、桜が咲いてるときがよかった。』
丞「また桜の咲く時期に来たらええやろ♪」
『これたらいいけどな。』
丞「あ、そや!」
丞はゴソゴソとさっき買った荷物をあさる。
丞「これ光に似合う思うてな。」
丞に渡されたのは簪。
赤を主張していて、先端についている花の飾りは珍しい、水色の花。
すごくきれいだ。
『それじゃあオレも。』
オレは先程買った浅葱色と濃い青色のミサンガを丞に渡す。
丞「なんやこれ?」
『ミサンガ。手首か足首につけて。つけるときに願いを込めてね。』
丞「んー……よし」
丞は左手首にミサンガをつけた。
『ちなみに、オレとお揃い。』
さっき丞がつけているときに、オレもつけた。左手首に。
丞「お揃いなんやな♪光は何を願ったんや?」
『ん?内緒に決まってるじゃん。言ったら叶わないし。あ、これ切れたら願いが叶ったってことだから。』
丞「へえー。」
オレがミサンガに願ったこと、
来世で丞に会えますように──