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〜幕末へ〜  作者: エヌ
17/18

☆拾陸

目線がコロコロ変わります

   * 拾陸 *




─土方目線




歳「さてと…おい光。」


仕事が一段落したところで、俺は後ろを振り向く。


光は座ったまま寝ていた。


歳「ったく…布団も敷かねえで寝んじゃねえよ。」


俺は光が持ってきた布団を敷くと、そこに光を寝かし、その横に自分の布団を敷いて潜り込む。


歳「……そうとう疲れてんだな。」


光の顔に手を伸ばし、つねってみるが全く起きやしない。


歳「………あんま無理すんじゃねえよ。」


俺はポンポンと光の頭を撫でて、眠りについた…



─光目線




『ん~よく寝たな。』


横を見ると、気持ち良さそうに寝ている土方さん。


『あれ?オレ布団敷いたっけ?』


歳「…朝から煩せえ。俺が敷いたんだよ。」


『すみません、ありがとうございます。』


歳「疲れが溜まってたんだろうよ。」


土方さんはふわぁと欠伸をして起き上がる。


歳「朝餉食ってくのか?」


『そのつもりです。』


オレは布団をたたみ、よいしょと持ち上げる。


歳「まだ朝餉まで時間あるが何すんだ?」


『稽古に決まってるじゃん。』


歳「そうか。頑張れよ。」


オレは布団を自室に置きに行く。


丞は既に起きたのか、姿はなかった。



『久しぶり?』


自室から道場に足を運び、中を覗くと一がいた。


一「久しぶりではない、昨日あった。」


『そうだった。』


笑いながら道場に足を踏み入れる。


『3日ぶりの道場…』


一「稽古してなかったのか?」


『してたよ。走り込みとかで。』


一「…俺と手合わせしてくれないか?」


『最初に謝っとく。久しぶりで手加減できなかったらすみません。』


一「……竹刀でいいか?これなら殺傷能力が低い。」


『そうだな。審判は…あ、ちょうど来たな。』


オレが審判をしてくれそうな奴を捜してキョロキョロしていると、ちょうど道場に平助が入ってきた。


平「ん?光?」


オレを見てそう呟き、目をごしごしと擦りまたオレを見る。


平「光お帰りっ。」


どうやらオレが本物だとわかり、目をキラキラさせてこちらに寄ってきた。


そんな平助に犬の耳と尻尾が見えるのは気のせいだろうか?


『ん、久しぶり平助。』


平「ねえねえ、今まで何してたの?」


『あれ?土方さんに聞いてない?』


平「うん、暫く違う仕事で動いてるとしか。」


『甘味処で働いてるんだ。今度来てよ。』


平「行くっ。」


何処の甘味処?と首を傾げる仕草が可愛い。


『オレが小さくなった時にいた甘味処だよ。』


平「絶対暇見つけて行くから!」


『うん。』


一「…光、早くしないと朝餉になってしまうぞ?」


『そうだった。平助にお願いがあるんだ。試合の審判頼んでもいいか?』


平「それくらいいいよ。」


平助は快く引き受けてくれた。


平「両者構え…始めっ。」


平助の合図とともに、オレは床を蹴った。


バシィィッ


が、やはり普通に受け止められる。


『…………』


ふぅとオレは息をつき、一と一旦距離をとる。


一「次はこちらから行くぞ。」


そう言ってこちらに向かってくる。

竹刀を振り下ろされるギリギリまでひきつけ、ひょいと避ける。


『もう少し速かったら当たってたかもね♪』


一「……」


『一、本気出してね?』


一「言われなくともっ。」


バシッ

バシッ


打ち合いが続く。


『ハァハァ…』


一「光?」


『大丈夫。』


〔ヤバい…ちょっと動くだけでも駄目だった…〕


一「…体調がすぐれないのか?」


『ちょっとな。でも大丈夫だからさ、続けよう。』


オレは息を整えて、再び竹刀を構える。


一「…本調子でなければ、あまり無理するな。」


『大丈夫大丈夫。それに一には有利だろ?気にするな。』


一「本当に無理をしてないな?」


『ああ。』


一「ならいい。再開するぞ。」


一も再び竹刀を構える。


平「そんじゃあ、再度始めっ。」


様子を見守っていた平助が合図する。


〔……キツいな。〕


オレの体力は自分が思っていたよりも低下しているようだ。


『…一、とっとと終わりにするね?』


殺気を出し始めると同時に言う。


一「くっ…」


一(いつも以上の殺気…)


『いくよ。』


一も殺気を出し始めたのを感じ、オレは突っ込んでいく。





─斎藤目線



パシッ

パシッ


〔……〕


一「光?」


さっきよりも光の様子がおかしい。

声をかけてみるが、返事がないうえ、肩で息をしている状態だ。


いつもならこの程度のことを何なりとこなしてしまうのに、だ。


一「…やめるか?」


俺の言葉に振り返った光の目は───


















全てをのみこむような、赤い瞳になっていた。


一「平助、光の様子がおかしい。試合は中止だ。」


『……やめるの?逃げるの?』


その時、光が言葉をはっした。

いつも以上に低い声色で、目は俺を通して誰かをみているような、そんな感じがする。


一「…光?俺は斎藤だ。お前は誰をみてるんだ?」


竹刀を片手で持ち、光に近づく。


『……お…ん……した……に…』


何やらブツブツと呟いている。


更に近くに寄ろうとするが、


『くるな、くるなくるなくるなあぁ!』


光は竹刀の切っ先をこちらに向けた。


一「…平助、俺達だけでは光を止められぬ。皆を呼んできてくれ。」


その場から平助に言うと、平助は頷き、道場から出ていく。


一「………」


俺は光と向き合うように立った。


今の光は何故か、我を忘れている。


一「光。」


ゆっくりと呼び掛けるかのように、名を呼んでみる。


『…………』


俺を睨んだまま返事がない。


はぁとため息をつき、俺はあまり光を刺激しないように、少しずつ距離を縮めていく。


ドタドタドタ

バタバタバタ


その時、複数の足音がこちらに向かってきた。


総「光さんっ。」


総司が寝巻きのまま道場に入ってくる。


それに続き、局長と両副長と次々に入ってくる。


気がつくと、源さん以外の試衛館の皆が集まっていた。


歳「平助の奴が急いでこいって言っていたが、何があったんだ?」


一「光の様子がおかしいんです。」


俺は皆が入ってくるなり、道場の奥に後退りした光を見る。


歳「どうゆうことだ?」


一「最初はただ試合していたんです…」


俺は試合から今までの経緯を伝える。


総「光さん?僕のことわかりますよね?」


話を聞いた総司は光に話しかけながら一歩、また一歩と近づいていく。


『……だぁれ?』


総「……僕も忘れたんですか?」


総司は足を止めた。


歳「……ふざけてんだったら怒るぞ?」


『ふざける?何言ってるの?ふざけてるのはそっちでしょ。オレのお母さん殺したくせに……』


皆「「「は?」」」


俺達は多分皆してアホ面をしているだろう。


前に光に話を聞いた時に既に母親は殺されているはず。


……俺の推測が正しければ


一「副長、多分光は体調が悪い中、本気で試合しようとして、過去の記憶が鮮明に戻ってきてしまったのではないでしょうか?」


歳「……お前が長々と話すのは珍しいな。」


一「副長、そんなことを言っている場合では……」


歳「わかってる。多分光を止められるのは山崎ぐらいだろう。ここにくる前に一応、島田に山崎を呼びに行くよう、伝えた。そろそろ戻ってくるだろうよ。」


近「……今は光さんを刺激しないように、おとなしく山崎君を待とう。」


近藤さんの言葉に俺達は光を見つめたまま、頷く。


丞「トッシー戻ったで。」


暫くすると、山崎が道場にきた。


歳「トッシー言うな……そんなこと言っている場合じゃあねえんだ。とりあえず、光を気絶させてくれ。」


丞「光、どうかしたんか?」


歳「斎藤が言うには、過去の記憶を鮮明に思い出し、今の記憶がおぼろになっている状態だ。このまま放置しとくと何を仕出かすかわかったもんじゃねえ……山崎頼む。」


丞「光の為や。」


山崎は気配を消し、光の背後に素早く回ると、首に手刀を落とし気絶させた。


それから山崎は部屋で様子を見ると言って、すぐに出ていった。


歳「……とりあえず、平隊士等がくる。いつも通りに隊務をこなせ……心配ならお前もついていてやれ。」


副長は総司の肩に手をおき、そのまま道場を後にした。


近「私達も部屋に戻ろう。揃いも揃っていたら騒ぎになるからね。」


山「そうですね。平助達もその動揺を隠し通して隊務を行ってください。一瞬の油断が命取りになりますからね?」


局長達は一言残し、道場からいなくなった。


一「……いつも通りに稽古をやるぞ。光のことは山崎が見ているんだ。俺達は俺達の責任を果たさないと、な……」


口ではそう言っているが、内心は複雑だ。


あの時、俺が止めていればこうならなかったのでは?


体調が悪いのに気づかず、試合を申し込んでしまった……



ふと、山崎が抱いて出ていった光を思い出し、道場の外を見た。


ちょうどその時、平隊士達が道場に入ってきた。


一(……今は稽古に集中しよう。)


俺は小さく頭を振り、


一「稽古を始める。」


竹刀を握り直した……




─丞目線




隈は自室に戻ると、布団を敷き、そこに光を寝かせた。


今日は朝から仕事が入っとって、出掛けてたんや。


そこに島田君が物凄い勢いでやって来るなり、光の名だけを出してついてくるよう、言われたん。



いつか、倒れるんやないかと思っとたやけど、まさか記憶までごちゃ混ぜになるやなんて、誰が想像できん?


丞(今は見守ることしかできへん、自分が嫌になるわ……)




─総司目線



総「光さん?僕のことわかりますよね?」


僕は一君の話を信じたくなかった。


だから嘘だと言う証拠がほしくて、光さんに話しかけたのに……


『……だぁれ?』


その言葉が一君の話を肯定してしまった。


僕はそこから一歩も動けなくなった。


歳「────────────そんなに心配ならお前もついていてやれ」


その前にも何か言っていたような気がするけど、僕には最後の言葉だけ、しっかりと聞き取れた。


一「稽古を始める。」


一君の声が聞こえると共に、僕は道場から飛び出し、光さんのもとへと向かった──





─光目線




『─んっ』



オレは重い瞼を持ち上げた。


丞「光っ。」

総「光さんっ。」


オレの目に写ったのは、心配そうな顔をした丞と総司だった。


『……オレ試合してたんじゃなかったけ?』


むくりと起き上がりながら呟く。


試合してたのは覚えているが、途中から記憶がない。


そして何故か布団に寝かされているという事態。


『2人はオレが布団で寝てる理由知ってる?』


総「光さんっ。」


起き上がった瞬間、総司に抱きつかれる。


丞「ちょっ離れんかいっ。」


丞はオレから総司を引き剥がす。


総「光さんっ僕のことわかりますか?!」


『何言ってんだ?総司』


総「よかった……」


総司はその場に座り込み、肩の力を抜いた。


丞「調子はどうや?首、痛くないか?」


『……?大丈夫だけど。』


そんな総司を無視して話しかけてくる烝。


丞「ならええんや。けどなぁ無理したんやろ?我を失うほどになぁ。」


『我を失う?』


丞「そや。斎藤はんとの試合中に様子が変わったんやて。そんで暴走しそうやったから気絶させてここまで連れてきたんや。」


『暴走……ああそっか…』


オレは1人納得する。


丞「どうしたんや?」


丞は俯いたオレの顔を覗き込んでくる。


『何でもない。』


ニコッと笑顔を顔に張り付けて答える。


丞「……」


丞は何かを言いたそうに、口を開閉している。


『大丈夫だって。それより、お腹へった。』


総「あ、僕持ってきます!一緒に食べましょう!」


『広間に行くよ。一達が心配してるだろうし。』


丞「……隈はこれから仕事に戻るさかい。あんま無理せえへんといてな?」


『わかった。』


丞「……沖田はん、光任せたで?」


総「山崎君に言われなくてもわかってますよ。」


『何?いつの間に仲良くなったの?』


オレに聞こえないように、近距離で話している丞と総司に声をかける。


丞「仲良うないっ。」

総「仲良くないっ。」


2人はハモって返事をする。


『そのわりには、きれいにハモってるけどな。』


丞「……兎に角、隈は仕事に戻るわ。」


丞はそう言うと部屋を出ていく。


総「僕達も広間に行きましょうか。もうそろそろ全員揃う頃でしょうから。」


『そうだな。』


オレは総司に続いて広間に向かう。


広間につくと、食べ始めた頃だった。


平「光っ。大丈夫なのか?!」


オレ達にいち早く気づいた平助が声をかけてきた。


『大丈夫。心配かけて悪かった。』


平「大丈夫ならよかったよ。」


平助はふにゃっと笑う。


〔可愛っ。〕


平「光っ?!離してっ。」


『嫌っ。』


オレは平助に抱きついていた。


平「お願いだから離してっ。オレの命が危ないから、ね?」


『……むぅ……』


オレはむくれながら平助から離れる。


すると、背後で感じていた殺気が消えた。


総「光さん、早く食べましょう。」


総司に急かされ、空いている席に座る。


『いただきます。』


オレは静かに、食べ始める。


『永倉さん、これあげます。』

『総司、これあげる。』


〔お腹へったって言ったけど、本当はへってないんだよね……〕


『土方さんっ。沢庵あげます。』


総「光さんのご飯白米だけになりますよ?お腹へってたんじゃないの?」


『うーん……実際に見たら食欲失せちゃって。』


総「……まだ体調悪いんですか?」


『大丈夫だって。一時的なものだろうし。』


総司は食べる手を止めてじっとオレを見てくる。


総「そういえば光さん。目、いつ戻るんですか?」


『目?』


総「赤いですよ。」


『…………』


〔 戻るのが遅い?何で?身体にがたがきたから?〕


『教えてくれてありがとう。戻ったら仕事に行くよ。』


オレはごちそうさまと手を合わせて、お膳を片付け部屋に戻る。



部屋に戻ると少し横になる。


〔………………〕


『……よし、書くか。』


考えていたことを紙に綴ることにした。


勝手に文机の引き出しを開け、紙と墨を拝借する。


書き終わった紙はきれいに折り畳み、懐に入れる。


『さてと、仕事行くか。』


手鏡で目が戻ったのを確認して、門番に伝言を残し屯所を出た……

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