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〜幕末へ〜  作者: エヌ
14/18

☆拾惨

 ** 拾惨 **




7月の始め

本格的に暑くなってきた。


『沖田さ~ん。』


オレは今、沖田さんを捜して屯所内を歩いている。

薬を届けに行く時間にはいつもは部屋にいるのに、今日はいなかった。


『もう、何処に行ったんだ?』


丞「沖田はんなら屋根にいるさかい。おもろいのが見れるで。」


『は?』


いきなり現れた丞はそれだけ言い残し消え去る。


『屋根か……ま、登ればわかるか。』


オレは屋根に登るがそこにいたのは───





















……猫だった。


猫「ひ、光さん?!」


『ね、猫が喋った…何てあるわけないな。

それに今の声は沖田さんのだし。沖田さ~ん、どこですかぁ。』


猫「光さん、僕はここです。薬ですよね。」


『……………………沖田さん?』


オレは猫の首根っこを持ち上げ問う。


猫「はい。降ろしてください光さん。」


だらーんしている猫がしゃべり、答えた。


『ごめん。でも何で猫何かに?』


総「山南さんからお饅頭を頂いて、食べたらこんな姿に……。」


『オレと同じですか。屋根にいたのはどうしてですか?』


総「こんな姿、見られたくなくて……山崎君にはすぐに見つかってしまいましたけど。」


『確かに意味ありげに言ってたな。』


総「光さん、薬を水に溶かしてくれませんか。」


『わかった。ちょっと待ってて。』


オレは屋根から飛び下り、勝手場に向かった。


勝手場に着くと、源さんがいた。


源「どうかしたのかい?」


『大きめのお椀を1つ借りてもいいですか?』


源「何に使うのかな?」


『ちょっと猫に……。』


オレが苦笑しながら言うと、源さんはニッコリと笑い


源「何に使うのかな?」


同じ質問を繰り返してきた。


『ハァ……源さんには正直に話しますね。

猫っていうのは本当なんですが、それが山南さんの実験の犠牲者なんですよ。』


源「山南君にも困ったものだねぇ。いいよ。」


源さんは勝手場に入っていき、大きめのお椀を1つ、手に持ち出てきた。


源「使い終わったら洗っておくんだよ。」


『はい。ありがとうございます。』


オレは源さんにお礼を言い、沖田さんのとこへと戻る。


『沖田さん、持ってきましたよ。』


総「ありがとうございます。」


沖田さんは俺が屋根に置いたお椀の中に入った、薬入りの水をペロペロ舐めて空にする。


総「やっぱりこの薬は味がないですね。

普通に水を飲んでるみたいです。」


『ま、神様も考えたんじゃない?

薬が嫌いな人にも飲めるようにさ。』


総「最近ではあまり咳もでなくなくなりました。

治ってきてるってことでしょうか?」


『そうだな。』


総「さて、光さん。僕を部屋に連れていってください。誰にも見つからないように。」


『なんで?それにお椀を片付けないといけないんだけど。』


総「じゃぁ早く片付けてください。

そして、僕を部屋に連れていってください。

それから説明します。」


『わかった。』


俺はお椀を片付け、沖田さんを抱え、ばれないように気をつけながら部屋に入った。


総「ってここは僕の部屋じゃないですか!」


『は?』


総「僕は光さんの部屋に連れていってほしかったんですよ。」


『なら先に言ってください。戻らないといけないじゃん。』


ハァとため息をつきながら言って、俺は再び沖田さんを抱え、今度は俺の部屋に行く。


『……で?何で俺の部屋にきたんですか?』


中を確認して、丞がいないことが分かり、沖田さんを中に入れ聞く。


総「もしかしたら山崎君が何とかしてくれると思いまして。」


『ま、肝心の丞はいないみたいだけどな。』


総「本当にこの姿だと困るんですよ。今日は夜の巡察当番なんです。なので、光さん。山崎君を連れてきてくれませんか?」


『それなら山南さんに頼んだ方が早いんじゃない?』


総「……僕もそう思ったんですが……実はですね、」


沖田さんの話をまとめると、

山南さんはもとに戻る薬を作り終えていない

もしかしたら、丞が作れるかもと言っていた

元凶の山南さんは総司を残し、散歩に行った


『ハァ……』


頭の中で整理したが、山南さんは自由人だと思う。


『……仕方ないな……俺は丞を探してくるので沖田さんは部屋からでないでくださいね。』


沖田さんを部屋に残し、まずは思いつくまま、土方さんの部屋に行く。


『土方さん、丞来てますか?』


歳「あ"?山崎なら来てねぇぞ。」


『そうですか。失礼しました。』


俺は土方さんの部屋を出て、勝手場に行く。

勝手場に着き、中を覗くが誰もいない。


『あとはどこだ?』


俺は厠や天井、屋根等を調べるが丞はどこにもいない。


『丞~どこだぁぁ。』


丞「煩い!」ベシッ


『痛い……。』


庭で大声で呼ぶと、背後から頭を叩かれる。


丞「光が悪いんやろ。」


『丞がいないのが悪い。』


丞「……そんなこと言うんやな。

折角、山南はんの部屋から資料を盗ん……借りてきてやったんやけど。要らへんのやな。」


『ごめんなさい。』


丞「わかればええよ。

今から薬を作るさかい。光は沖田はんを連れて部屋から出ていきぃ。」


オレは言われた通り、沖田さんを抱えて部屋を出る。


『で?どこいく沖田さん。』


総「どこにいきましょうか……そうだ!土方さんの部屋にいきましょう!」


『そうゴホッゴホッ……。」


総「大丈夫ですか?光さん。」


『大丈夫。最近、風邪気味なんだよね。』


総「……無理しないでくださいよ?」


『うん。あ、ついたよ。

何をするの?沖田さん。』


総「決まってるじゃないですか、句集を盗むんですよ♪」


『…オレ、今日は遠慮させていただきます。』


総「…光さん、何か隠してません?」


『何をです?今日はただ、乗り気がしないだけですよ。』


総「なら、いいんですが…。」


『さてと、オレはやることを思い出したのでこれで失礼します。』


オレは沖田さんをおろし、その足で屯所を出る。



トントン


『…すみません。』


ある民家の前で足を止める。


?「誰だい?ああ君か。」


『すみません、いつもの薬もらえませんか?』


オレがきたのは医者だ。


医「今持ってくるから待ってなさい。」


医師のおじいさんに入るように手招きされ、オレは戸をくぐった。


『……。』


オレは壁に寄りかかるようにして立ち、医師が薬を持ってくるのを待つ。


医「ほら。でもねぇ、本当なら絶対『わかってますよ。』……。」


『あ、これ代金です。では、また。ありがとうございました。』


医師の言葉を遮って代金を払い、屯所に足を進める。


総「あっ。」


そう言って近づいてきたのは何かの包みを抱えた沖田さん。


どうやらちゃんと猫から人に戻れたらしい。


『戻れてよかったですね。』


総「はい♪ですがその代わり、山崎君にお使い頼まれてしまって。」


沖田さんは抱えている包みに目をやる。


『……それ、何ですか?』


総「さあ?これ、さっき島原で預かって来たんです。」


『島原か……あ、あれか。」


総「……?わかったんですか?」


『まあね。それより、早く戻らないと丞に怒られますよ?』


総「光さんも屯所に帰るんですよね?一緒に帰りましょう。」


『別に構いませんよ。』


オレは沖田さんと歩き出す。


総「……あのっ。」


『何ですか?沖田さん。』


一歩後ろで足を止めた沖田さんを見る。


総「今更なんですが……僕のこと………って……ください。」


『……なんて言ってるのかわからない。』


沖田さんは俯きながらボソボソ言うので、本当に何を言ってるのかわからなかった。


総「……僕のこと総司って呼んでくださいっ。」


沖田さんはがばっと顔をあげると、今度ははっきりと言った。


『……そんなこと?別にいいですよ、総司。」


総「えっと、あの敬語もなしでお願いします……。」


『わかった。てか、今更だな。』


総「それはわかってます。でもどうしてもそう呼んでほしくて……。」


『ま、別にオレは気にしてないし。早く帰ろう総司。」


総「はいっ。」


屯所に戻ると門の所に丞が立っていた。


丞「遅い!」


総「これでも急いだんですよ!」


『じゃあオレは部屋戻るから。また後でね丞、総司。』


丞「『総司』?」


総「何ですか?山崎君。」


丞「何でいきなり総司やねん。今まで沖田さんやなかった?」


総「山崎君には関係ないじゃないですか。では、僕もこれで。」


丞「……何があったんやろ。」


オレがいなくなったあと、そんな話をしてるとも知らずに、オレは自室へと続く廊下を歩いていた。


『……どうすっかな……。』


自室に戻ると神様からもらった小瓶を手にごろっと横になる。


小瓶の薬はもう増えない。

オレの残りの寿命は小瓶の中の薬の数。


『……考えても仕方ないか。皆には隠し通さないと。』


オレは土方さんの部屋に向かう。


『土方さん。光です。』


歳「おまえが許可取るなんて珍しいな。ま、入れ。」


『失礼します。』


歳「どうした?」


『土方さんに話がありまして。』


歳「話?」


『はい。今後のことで。』


歳「話せ。」


『次の事件は[禁門の変]と呼ばれています。それが起こるのが7月19日。』


歳「もうすぐじゃねえか!」


『そうですね。』


歳「何でもう少し早く言わなかった?」


『怪我人や病人が多い時に言っても混乱を起こすだけじゃん?』


歳「……チッ。で?その禁門の変とやらはなんだ?」


『6月5日の池田屋事件で新選組に藩士を殺された変報が長州にもたらされると、慎重派は藩論の沈静化に努めるが、積極派は「藩主の冤罪を帝に訴える」ことを名目に挙兵を決意。


6月24日、久坂は長州藩の罪の回復を願う嘆願書を朝廷に奉り、長州藩に同情し寛大な措置を要望する藩士や公卿もいたが、薩摩藩士、土佐藩士、久留米藩士は議して、長州藩兵の入京を阻止せんとの連署の意見書を、同7月17日朝廷に建白した。


朝廷内部では長州勢の駆逐を求める強硬派と宥和派が対立し、18日夜には有栖川宮幟仁.熾仁両親王、中山忠能らが急遽参内し、長州勢の入京と松平容保の追放を訴えた。禁裏御守衛総督.徳川慶喜は長州藩兵に退去を呼びかけるが、一貫して会津藩擁護の姿勢を取る孝明天皇に繰り返し長州掃討を命じられ、最終的に強硬姿勢に転じた。


久坂は朝廷の退去命令に従おうとするも、来島、真木らの進発論に押されやむなく挙兵。19日、京蛤御門付近で長州藩兵と会津.桑名藩兵が衝突、ここに戦闘が勃発した。一時長州勢は筑前藩が守る中立売門を突破して京御所内に侵入するも、乾門を守る薩摩藩兵が援軍に駆けつけると形勢が逆転して敗退した。御所内で久坂玄瑞等が自害した。』


歳「……長いわっ。そもそも、知らない奴等も出てきたしわかりにくい。」


『簡単に説明すると、長州藩士は入京と松平容保の追放を望んで、それを阻止する藩との争い。』


歳「最初からそうやって説明しやがれ。」


『で、これに新選組も参加するんだ。結局は勝つけどね。』


歳「勝つなら別にいいじゃねえか。」


『問題はそのあとなんですよ。

帰趨が決した後、落ち延びる長州勢は長州藩屋敷に火を放ち逃走、会津勢も長州藩士の隠れているとされた中立売御門付近の家屋を攻撃した。


戦闘そのものは一日で終わったが、この二箇所から上がった火で京の街は21日朝にかけて「どんどん焼け」と呼ばれる大火に見舞われて、北は一条通から南は七条の東本願寺に至る広い範囲の街区や社寺が焼失したんです。』


歳「…………。」


『ということで、戦闘が終わったあとなんですが走って消火活動が必要になります。近くの川を調べたり、穴を掘って長州藩士にばれないように水を近場に貯めとく必要があるわけです。』


歳「……今から掘るのか?

怪しまれる確率高いじゃねえか。」


『例えばの話ですよ。ちなみにオレは小さな家を建ててる。』


歳「……今、建ててるって言ったか?」


土方さんは

「風呂入ったときの水がまだ耳に残ってんのか?」

なんて、ブツブツ言い出す。


『池田屋事変が終わったあと、すぐに建てるように頼みました。お金は後払いです。それで土方さん。』


歳「何だ?」


『18日までオレの隊務をなしにしてください。』


歳「無理に決まってんだろ。」


『家を建てたお金を払うために働くんですよ。』


歳「…………。」


『無理ならせめて夜はなしにしてください。』


歳「……18日までだな?」


『はい。』


歳「…………18日までお前の仕事は全部他の奴等に代わってもらう。」


土方さんは少し悩んだあと言った。


『ありがとうございます。』


オレは土方さんの部屋を出ようと、障子に手をかける。


歳「……最近、咳してるみてえだからな。

あまり無理はすんじゃねえぞ。」


『風邪気味なだけですよ。でも……心配してくれてありがとな。』


最後だけボソッと言い、オレは土方さんの部屋を出た。




歳「風邪気味か……。そんだけじゃねえような気がすんだよな。本当に無理だけはすんなよ光……。」


オレが部屋を出たあと、土方さんがそんなことを言っていたのはしるはずもない……。

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