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我が家は魔王一家  作者: 西臣 如
第一章 勇者襲来
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第七話 ピアノの音色

 

 改めて、棗にも戦士一族と魔女一族の襲来について話しておいた。最初は冗談でも言っているのかという顔で、最後には辛辣な表情で萌黄の話を聞いていた。一通り話し終えたところで、棗は一つ咳払いしてそっと心を落ち着かせていた。

「それで父さんあんなに慌てていたのね。萌黄も何事もなくてよかったわ」

「何事もないっていうか、俺が来なけりゃ殺されてただろうけどね」

 真っ向からの皮肉を言う紫苑を見て、萌黄はようやく彼にも一番に尋ねたいことがあったことを思い出した。

「そうだ、紫苑。あんたの彼女、魔女一族なのよ。今すぐ別れなさい」

「は? 彼女ってまさか金馬嬢子のことだったりする?」

 紫苑が顔を真っ青にしている背後で、聞き捨てならんと両親は肩を並べて顔を突き出した。

「なんだと紫苑、お前に彼女だと? 何を言っているのだ、お前は母さんの隣でなければ寝られない子どもだったろう」

「それ何年前の話なの。それよりもね、彼女が魔女一族だってことが問題なのよ。紫苑も父さんの血を引く子ですもの、女遊びの一つや二つ、そろそろ始めるころだと思っていたの。でもね、相手ぐらいは考えなさい、例えば常識的で普通の子だったら母さんたち何も言わないのよ、わかる?」

 二人がかりでふざけ倒され、紫苑は堪忍袋の緒が切れそうになりながらも何とか堪えて、愛想笑いを続ける萌黄にその怒りの切っ先をぶつけた。

「萌黄、余計なこと言うなよ。俺は母さんの隣でなくても寝られるし、女遊びなんて一回もやったことがない」

「わかってるわよ。でも、彼女なんでしょ? あの獣娘、躊躇いなくあたしに言ってのけたけど」

「違う! 断じて違う。あんな奴彼女なわけないだろ……あの女は勝手に彼女名乗って付きまとってくる勘違い系のストーカーだよ。それにあの女が転校してきたのは昨日だったんだから、彼女になんてするわけないだろ」

 即答されて、萌黄は安心した。嬢子が彼女だと本人の口からも言われてしまったら、輪をかけて手が付けられなくなる。

「そう。でも昨日転校してきたって、千臣篤志と同じじゃない」

「面倒なことになってきてるな。あんまりこっちの世界で派手に動きたくないっていう俺たちのことわかってて、あの二人は手荒な真似するんだよ。この手口、第二十五話と同じだ……スタートリガーが変身できないとわかってて校内に潜入する魔王の手下の話。あの手口は確かにいい手口だとは思ったんだけど、結局スタートリガーが授業抜け出して誰もいないところで変身しちゃったからなあ」

 一人の世界にトリップしてしまった紫苑は放っておいて、さらに心配が募る萌黄は、棗と口喧嘩に発展していた鬼灯を諌めて相談を持ちかけた。

「父さん、なんで戦士一族は父さんを狙ってるんだと思う?」

「それは……、私が今までやってきたことへの復讐だろう。何人殺したかはもう覚えてはないが戦士一族も相当だろうからな」

「じゃあ、魔女一族が何で魔王の血を求めてると思う……?」

「その魔女の娘は大臣の娘でもあると言ったな……」

 そこで鬼灯は突然言葉を緩めた。

「父さん?」

 萌黄が尋ねても、鬼灯は顔をしかめたまま何も言わない。急に立ち上がったと思うと、テーブルの上に置いてあった一枚の紙を手に取った。それは、一昨日に学校から貰ってきた手紙――授業参観の出欠届けだった。参観日は明後日だが、棗の仕事の都合と合わず、鬼灯も行く気がなかったため、すでに欠席に丸が付けられていたはずだ。

「これに出席するぞ。戦士一族と魔女一族とやらの顔を拝んでやる」



   *



 千臣と嬢子の襲撃から一日経ち、今日はさすがに学校を休もうかと思った。とはいえ父さんが急に授業参観に参加すると言い出したものだから、その出席届けを今日中に提出する必要があったのだ。

 提出したら何らかの理由をつけて帰ろうかとも思っていた。しかし千臣も教室では何もしてこないこともわかっているから、萌黄はとりあえず一通りの授業は受けて帰ることにした。

 数学の授業と千臣に(たか)る女子の声をぼんやり聞きながら、窓の外から運動場を眺めてみる。リレーの授業のようで、体操着姿の少女たちが楕円の上を回り続けている。同じところをずっと回り続けて何が楽しいんだろうか。教師の授業も聞き取れないし、段々眠くなってくる。

 どこからだろう。ピアノの音が聞こえる。その音が校内中を反響しているようだ。音楽室からだろう。優雅なワルツで、どこかで聞いたことがある曲だった。

 「夢見の幻想曲op.15」。そんな感じのタイトルだったように思う。確か聞いていれば皆だんだんうとうとしてくる曲だって、あの人が言っていたような気がする。

 懐かしいな。

「起きろ萌黄!」

 揺さぶる少年の声で萌黄の重い瞳は強引に開かれた。そこには紫苑が立っていた。

「何やってんの紫苑。ここは三年一組の教室よ」

「わかってる。今、校内中がこのピアノの音色で眠りについてしまってるんだよ!」

 頭の中で彼が叫ぶ意味を理解できるのにはずいぶんかかった。だが、教室の中、誰一人として起きている者がいない現実に気づくのは間もなくのことだった。



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