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我が家は魔王一家  作者: 西臣 如
第三章 復活
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第三十七話 魔王子の凱旋

 萌黄が闇雲に、鬼灯と紫苑を追っていた頃ーー。


 まさか、本気を出さなければならなくなるとは想像もしていなかった。ただ、軽く気絶させるだけで事足りると思っていたが、そんな手加減は彼に対しては必要なかった。

「あんたの本気ってこの程度か」

 この地域の緊急避難場所にも指定された公園、白樹園東第二公園に二人の姿があった。常緑樹の並木道だったはずの場所は今や面影なく木屑の山と化して、その木屑でさえ砂埃のようだった。ただ時折吹く冷たい烈風が巻き上げている。

 本気を出した鬼灯にとって、そんなことは朝飯前だった。すべての物質の破壊を可能とする彼の魔術、『無慈悲なる破滅デス・トレーゼ』の手にかかれば命持たぬもの全て灰と化す。その魔術の範疇に生物は入らないが、空気を破壊することで圧力を発生させ実質生物をも破壊することができる。史上最強の魔力を持つ男は、史上最強の魔術を持つ男でもあった。

 この瞬間までは。

「これが史上最強の魔王なんて、信じられない」

 魔王子たる彼の息子は、いつしか父親の背後に立っていた。

「一回くらい当ててみせろよ?」

 鬼灯が振り返った先の紫苑は不敵な笑みを浮かべていた。それはかつての魔界を治めていた鬼灯のような風格を漂わせ、ただ一つ違うところと言えば、紫苑の瞳が紅い血の色だということだった。

 鬼灯の破壊魔術はすべて紫苑に避けられていた。確かに彼は紫苑を直接狙っているわけではなく、その場の空気を狙っているわけだが、紫苑の空想はそれを凌駕していた。どれだけ巨大な力でも、破壊すべき対象がそこにいない限り無駄なのだ。

「紫苑、止まれ」

「止まる馬鹿がどこにいる」

 鬼灯の目の前に紫苑が現れた。いつもと変わらぬ制服姿なのに、逆にこの黒い制服が恐ろしいものに見えた。立っているのは本当に小さな少年一人だというのに、彼の無表情はすべてを圧倒していた。

「あんたはやっぱり大事なものが欠けている。何かが変化が起こったときの対応能力だよ。クーデターに対抗できなかったのも、あんたが今現界で暮らしていることも、全部あんたの対応が遅いせいだ。あんたは何でも魔力で圧倒して欲望を叶えてきた人間だから、不意な変化に弱いのもわかるけど……あんたは魔王失格だよ」

 紫苑が視界から消えた。


     *


 その頃萌黄は公園の案内板の前までたどり着いていた。不順なるストイムを使って全力で突っ走ってきたものの、もはや限界だった。案内板に背をもたれさせ、荒れた息を整える。

 父さんが紫苑に魔術を使っている。

 それは父さんが紫苑を殺そうとしてるってこと?

 そんなわけない、きっと何かの間違いだわ。

 萌黄は二人がいるであろう森の奥に目を向けた。新月の夜の闇に包まれて、静寂がそこを支配していた。だがあれだけの爆発音が鳴り響いたのだ。五分もせぬ間に人が来るだろう。

 二人を止めなきゃ。

 未だ疲労で動かない足を無理に動かして、真っ暗な闇を凝視した。ざわざわと近くの方で音がした。何かが植木の上に落ちたような。

 足の疲れは消えていた。音のした方に迷わず駆け出し、闇夜に慣れてきた目で探していた。

「紫苑! 父さん!」

 足音がしたのは音がした方とは逆の、萌黄の背後からだった。振り返る勇気がなかった。夜の闇がそうさせるのか、それとも背後にいる人間がそうさせるのかはわからない。

「あんた……父さんと一緒にいたのよね」

 うつむいて尋ねるのが精一杯だった。

「あんた……父さんをどうしたの?」

 芝生を踏みつける足音が迫る。

「あんた……父さんの魔術は?」

「黙れ」

 声を失った。

 鳥肌が立った。

 紫苑じゃない。

 この、冷めた声はーー。

「教えろ魔王女。お前の弟はどこだ」

 萌黄の首もとには血を失った鬼の紅剣デーモン・ブラッドが突きつけられていた。


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