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我が家は魔王一家  作者: 西臣 如
第二章 魔王の秘密
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第十八話 父さんの危篤

「よく今までその格好でやり過ごせたね」

「ああ、何度かバレそうにはなったけどな、言い逃れは『よく似てるって言われる』の一言でばっちりだ。誰も本物の魔王だと気づいた者は居らんぞ。本当に愚かな市民どもだ」

「確かに父さんまで都合がいいなんておかしいよね――」

「ん、どうかしたのか紫苑?」

「何にもわかってない平和な父さんは知らないだろうけど、俺昨日誘拐されてたんだ」

 紫苑は嬢子と輝に出逢い、起こった出来事をかいつまんで説明した。終始言葉を挟まなかった鬼灯だったが、紫苑の話の区切りがつくと生真面目にテーブルを叩き付けた。

「どこまでも私を挑発しに掛かるつもりだな……」

「あの輝って子が金馬嬢子を押さえててくれるって言ってたけど、あの様子じゃ期待できない。いずれ金馬嬢子が大統領に口出ししそうだし、もう時間は掛けられないよ」

「ああ、面倒なことになる前にさっさと終わらせよう。人混みを避けて空想(アピス)で直行するぞ」

 カフェラテを全部飲み終えないまま、鬼灯は席を立った。かと思うと角を曲がり裏道に入っていってしまった。

「ああもう……なんであんなに周りを見ずに行動しちゃうかな。これじゃ本当に見つかっても仕方ないじゃん」

「うんうん、そんなの当たり前だよねえ?」

 後ろを見るわけにはいかなかった。幻聴かと思った。だが間違いなく少女の声は聞こえた。

 口が、少女の手によって塞がれている。波打った黒髪が肩に掛かっている。

「本当に甘いよねえ、魔王家の人間ってさ。自分たちの都合のいいことばっかり信じちゃって。あんまり簡単に信じちゃうから輝もやりやすかったよ? 輝が君の正体知らないわけないのにね、綺羅野双星だっけ、変わった名前名乗っちゃって?」

 人混みがあっという間に紫苑と輝の周りを取り囲み始める。このままじっとしていれば間違いなく政府直属軍隊が現れ、身柄が拘束される。迷わなかった。

 紫苑は輝ごと、ビルの二階の窓の奥を想像した。

「うわん、何ここー?」

 二人はオープンカフェがあるアパートの二階部分に現れていた。誰も住んでいない空き部屋のようだった。輝の腕を振り払い、二メートルほど距離を取ると、紫苑は聞いておかなければならないことを思わず口走っていた。

「あんた一体何なんだよ!」

「何って……本当に輝のことわかってないの? もう面倒ねー、簡単に言ってしまえば輝は逃げる君に発信器を仕掛けたの。それで、魔王様の居場所を発見できました。それだけのことなのよ」

「じゃあ、あんたが俺を金馬嬢子の家から逃がしたのって……」

「当たり前でしょ、釣りで大物を釣りたいときと同じよ。君みたいな小さな餌をつけておけば、いずれ大物に引っかかってくれる。案の定簡単に引っかかってくれたけどねえ」

「あんた……」

「ありゃ、君ってば最後まで言わせる訳? 輝の本名は都束(とぞく)(きらら)。つまり、勇者四人衆の一つで盗みと騙しを司る、盗賊一族なんだよ? 輝はずうっと君を騙し続けたってこと、世の中ってのは甘くないよー。わかるかな、ガキンチョ君?」

「今までのことは全部嘘だってこと?」

「あー、それは誤解かもなあ。全部じゃないよ。全部騙したら嘘だってバレバレじゃん。最低君に話したことで嘘じゃないことは、輝は嬢子のこと大嫌いってことかな? だあって嬢子ってば甘いんだもん、君のこと大好きすぎて守っちゃってるんだもん。盗賊一族はもたもたするの大嫌いなんだよね、だから輝はこんな手荒な手段使ったんだよねー」

 輝の御託の後半はもはや聞いてはいなかった。大通りに面している出窓をとっさに掴み窓を開いた。真下を見れば、もう軍隊の数隊は集まり始めていてさらに群れあがった群集を諌めている。向かいのビルの壁に鬼灯の姿があった。

「うわお、魔王様絶体絶命って感じ?」

「嘘だ、父さん……!」

 何十もの銃弾を身体に浴びた鬼灯がそこに倒れていた。すでに意識はないようだった。さらになお三十人ほどが周囲を包囲し、いつ起き上がってきても波状攻撃が仕掛けられるよう構えている。

「あーあ、ありゃもう無理かもねえ。手っ取り早く治療してやんないとマジで死んじゃうかもね?」

「行かなきゃ……!」

「そんな震えた君が行ったって意味ないと思うけどね。まー好きにしなさいよ、もしかしたら助けられるかもしれないし、ねえ?」

 一秒も掛けてはいられない。瞬き一つの間に、二つの場所を想像しなければならない。それが間に合わなければそれは死を意味する。

 精神は今もがたがたに揺らいでいる。

「行くんだ……!」

「そ。行ってらっしゃい。死んでも輝を恨まないでね」

 あまりに情のない輝の声がさらに気をかき回してくる。嫌な想像が頭の中を何度も巡り続けている。

 それでも、行かなければならなかった。


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