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我が家は魔王一家  作者: 西臣 如
第二章 魔王の秘密
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第十六話 謎の侵入者

 紫苑が目覚めた先にはあの暗がりの空はなくて、ぼんやりと浮かぶ丸い電灯があった。

「うわあ、ここは、どこなんだよ!」

 布団の上に寝ていたらしい紫苑は目を見開いて、まだ眠ったままの身体を起こした。外からは朝の日差しがゆったりと流れ込んでいる。部屋の中には、筆で何か書いてある掛け軸、色とりどりの生け花、畳の匂い。旅館と見間違う、広々とした立派な和室がそこには広がっていた。

「慌てないで、ここは私の家です、紫苑さま」

 背中から声がした。まさか、と紫苑が恐る恐る振り返ると、やはり嬢子の姿があった。しかも、紫苑が寝ていた同じ布団に(くる)まっている。

 女遊びの一つや二つ、そろそろ始めるころだと思っていたの。

 悪ふざけした母の言葉が今まざまざと蘇ってくる。紫苑の動揺も知ることなく、隣で寝ていた嬢子はようやく布団から抜け出した。その表情は意味深に屈託のない笑顔だ。

「よかった、お元気そうでよかったです」

「あんた俺の横で何やって……っていうか何でこんなところに連れてきたんだよ、約束が違うだろ!」

「約束って何のことです」

「惚けても無駄だよ、あんたは言うことさえ聞けば大統領に話さないって言ったはずじゃないか」

「確かに言いましたよ」

「なら何でこんなところに……大統領に俺のこと知られるに決まってるだろ」

「知られません。それに紫苑さまは自分の身も惜しまずに素直に言うことを聞いてくださりましたから、父上にも申し上げておりませんよ」

「いずれにせよこんなところにいたら絶対知られる」

「だから、知られませんって」

「ごまかさなくてもわかってるよ、ここは大統領の家なんだろ?」

「違います、何を勘違いなされてるんです?」

 嬢子は何気なく首を傾げているだけだった。

「え、今さっきあんた、ここは私の家って言ったじゃないか」

「ええ、私の家です。あ、それで勘違いしたんですね。これは私の家であって父上の家ではありません、父上の家はもっと立派な公邸ですもの。ここは父上から誕生日にもらった私だけの家です。だからそんなにたびたび父上が来ることはありませんよ。だからご心配なく」

 柔和な笑顔が妙に心臓をつついていた。

 とはいえ魔女一族である嬢子の家に踏み込んでしまっている。理由などは関係ない。その事実が一番の問題だ。逃げるべきか逃げないべきか。逃げるのは簡単だがその先に何が起こるかわからない。逆に素直に敵の拠点である場所にいるのもどうかと思う。

 外出(デート)はもってのほか。

 嬢子もこれ以上は要求してきたりはしないだろう。もし空の上のデート・リターンズでもされたら、あたり構わず逃げ出してしまうに違いない。

「紫苑さま、私ちょっと朝ご飯持ってきますね」

「そこまで厄介になる気はないよ」

 これでは夫婦のやりとりみたいじゃないか。軽く遠慮しながら紫苑は内心断固拒否だった。

「お気になさらず。台所に置いてきてありますから持ってきますね」

 お節介にも程があるというのに、それが当然と言わんばかりに嬢子は長い渡り廊下を走っていった。気づけば早くもばたばたという足音が消えている。

 空気が抜ける風船のように、紫苑はため息を吐いた。

 彼女に見つかる前に逃げ去るなら今しかない。わかっているのに、紫苑は伸びをするだけで立ち上がろうとはしなかった。父を放って現界に帰るわけにもいかないし、今から魔界のどこかへ逃げたところで誰かに見つかるのは見えきったことだ。それならば夜まで嬢子の言うことに従ってこの家に潜伏したほうが安全だ。

 そうしよう。

 結論を出し、伸びを終えた紫苑は嬢子の帰ってくるであろう渡り廊下の方を眺めていた。だが帰ってこない。どれだけ広い家なんだろうと紫苑がぼんやり考えていたときだった。

「あ、大丈夫みたいね?」

 頭上に響いたのは高い少女の声だった。とはいえ嬢子の声ではない。嬢子の声よりもしっかりしていて一気に脳まで届く声だった。

 呼吸が止まる思いで振り返った。誰もいない。心臓の鼓動が耳にまで聞こえてくる。

 気配を感じてもう一度振り返った。

「君って嬢子に誘拐されてるんだよね? ホント災難だっただろうけど、もーぅ大丈夫、正義の味方の(きらら)がちゃちゃっと助けてあげるからね!」

 パーマをあてた長い黒髪が印象的な、背の高い少女がそこに立っていた。初対面だというのに彼女は親愛感を持った笑みを満面に浮かべている。

 いつでも逃げられるように彼女から距離を離し、紫苑は壁に張り付いていた。

「あ、んた、誰だよ……!」

「ありゃー、輝って嫌われてたりする訳? えー、がっかりしちゃう」

「だから、誰だって聞いてるだろ……!」

「んーもう、助けてあげてるってのにその態度? ホント嫌ね、最近のガキンチョは。まあいいわ、教えてあげる。嬢子が本気で嫌いな人間ナンバーワンの輝ちゃん。嬢子ってば次から次へと彼氏作ろうとする悪い奴なんだよねぇ、だから輝が勝手に別れさせてやるんだー。わかるかな、ガキンチョ君」

「わかるわけないだろ。結局あんたは俺の敵ってこと……?」

「全っ然わかってないじゃん! 輝は嬢子の敵で君の味方、そう言えばわかる? そうだなあ、もっと簡単に言うと、輝が嬢子をちょちょいって騙してくるから君は逃げればいいの。わかるかな、ガキンチョ君?」


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