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我が家は魔王一家  作者: 西臣 如
第二章 魔王の秘密
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第十五話 囚われの魔王子

「まさかこんなところで出逢えるなんて、やっぱり私たち運命なんですね!」

 身体が急に横倒しにされたことと、不意に少女が降ってきたことと、自分の上に落ちてきたことと、そしてその少女が例のツインテール少女・嬢子だったこと。そのすべてが紫苑の思考回路をフリーズさせた。手に持っていた箒を投げ捨てて、嬢子は動かない紫苑の身体をぐいと引き寄せ、抱きついた。

「これで私たちは永遠に結ばれるんです……」

「離せ、って」

 ようやく我に返った紫苑は嬢子を引き離そうとしたがなかなか離れない。まるで瞬間接着剤にくっつかれているような粘着力だ。これだけ密着されては、空想(アピス)を発動したとしても彼女ごと移動してしまう。

「何でこんなところにいるんだよ」

「それはこっちの台詞ですよ。まあ幸運だったんですけど。あなたのお父上に実質負けて以来、私たち実力不足を痛感したんです。特に篤志君は自分を追い詰めるところあるからなおさらね。だから魔界(こっち)に帰って修行することに決めてたんですよ」

「なんであんたたち魔界に帰れるんだよ? 現界から魔界への移動は原則禁止されてるはずじゃ……」

「私は大統領の娘ですから、特別に許可を出してもらえるんですよねー」

 特別の部分を心なしか強調して、嬢子は無垢な声で囁いた。余裕がある彼女とは違って、紫苑はずっと崖っぷちに追い詰められているようだった。前しか見えていないのだろう父親は助けに来る気配がない。

「どうでもいいけどわかったから離して……」

「え、どうでもいいんですか?」

「ああ、どうでもいいね!」

「どうでもいいなんて、紫苑さまってば何にもわかってないんですね。私の機嫌を損なえば、どうなるかわかってないでしょう? こんなところに魔王陛下がいらっしゃるなんて普通見逃されるものじゃないんですよ。私が誰かに――例えば私の父上に話したりなんかすれば、取り囲まれてしまいますよ。あなただけでなくあなたのお父上も。魔王陛下といえども大群に囲まれたら十分もせぬ間に殺されちゃいます、三年前のように。今度こそお父上を守りたいのなら、おとなしく私の言うことを聞いてくださります?」

 緩やかに言いながらも嬢子は明らかに紫苑を脅していた。相手のペースに飲まれてはいけないと頭の中ではわかっているのに、鬼灯のことを持ち上げられては何も口答えできなくなる。あんな父親でも、いやあんな父親だからこそ自分が守ってあげないといけない。そんな気持ちがすっとよぎっていた。

「……何を」

「はい?」

「何をさせるつもりだよ」

「その気になってくれましたの? 簡単なことです、私と空の上でデートして下さい!」

 まじまじと見つめる彼女の表情はいたって真剣だ。だから余計にますます馬鹿馬鹿しくなってしまった。

「デート?」

「はい! 私の箒に二人で乗って月夜の下でデートするんです。すごくロマンチックだと思いません?」

「月夜って言うかもう明朝なんだけどな……」

「構いません、愛は時間を越えるんです! だからほらこの箒に掴まって下さい」

 投げ捨てられていた箒を鷲づかみにして嬢子は先に跨った。デートとか言って実は誘拐しようとしているんじゃないだろうか。嬢子に乗せられるがまま渋々紫苑は彼女の後ろに乗った。そして不意に箒は生きているかのように空へ浮かび上がっていった。



   *



「いくんだ~! スターショット! やるんだ~! ブレイブトリガー! そしてとどめの~、いちげきひっさつ・ブレイブスターキック! まってろまおう~、そのうちおまえをねらいうちぃ~♪」

 太陽の光にぼやかされた月夜の下で、嬢子は上機嫌に歌っていた。時は午前三時半前、街が眠りについているというのに、彼女はいつになくテンションが高い。その原因である紫苑はもはやぐったりとした様子で彼女の背中を睨んでいた。気づいた嬢子は歌をやめて後ろ向きに座り変えた。

「どうかしたんですか? 私、紫苑さまのためにスタートリガーのテーマ覚えたんですよ?」

「う……歌はどっちでもいいんだ」

「どっちでもいいって、ちょっとがっかりじゃないですか」

「あ、いや、気に障ったんなら謝る……けど。その代わりデートは終わりに……」

「あれ、ちょっと紫苑さま何か顔色悪いです! 病気だったんですか!? 私ったら喜びのあまり暴走しちゃった……ごめんなさい、今から病院に連れて行きます、医者もみんな叩き起こしてあなたの治療に当たらせます、だからそれまでは……!」

「う、いや、違うんだ。箒から降ろしてくれるだけでいい」

「え、私の隣が嫌とかそういうことなの――」

「だから、俺は高所恐怖症なんだよ!」

 地上百メートルの箒の上で紫苑は思い切り叫んでいた。青ざめた嬢子は声も出ずに口だけ「嘘……」と動かしている。叫ぶのに百二十パーセントの力を使い果たし、いつの間にか紫苑は興奮のあまり気を失ってしまっていた。

 何でこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

 必死に抱きかかえる嬢子の声が鼓膜を揺るがす中、紫苑は父親のことをすっかり忘れてしまっていた。



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