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我が家は魔王一家  作者: 西臣 如
第一章 勇者襲来
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第十一話 参観日の魔王達

 

 決勝戦の幕が上がった。

 千臣応援団の女子の歓声が巻き起こり、萌黄と千臣がいる一組が入場する。そして向かい側に鬼灯とお爺さんが相変わらず諍いを続ける保護者チームが入場する。全く大人げがない。見ていられない萌黄も気にすることもない。

 茶々先生のホイッスルが鳴った。

 先制の保護者チームからお爺さんがボールを投げた。華奢な体型からは想像できない大振りなフォーム。そこから剛速球が放たれ、油断していたカップル男女を同時にアウトにさせた。が、当のお爺さんは妙なフォームの反動でついに腰を痛めてしまったらしく、体育館の床に丸まってしまった。しかし鬼灯には勝ち誇った強がりの笑みを叩きつける。

「ど、どうやらワシの勝ちのようじゃな……」

「ふざけるな、ボールを貸せ、こんな愚かな人間に負けるわけにはいかんのだ!」

 ドッジボールのルールを「敵に当てる」としか知らない鬼灯は自陣コートから出て、一組側コートに入り込みボールを追い出した。もはやルールは気にしない。しかし鬼灯の追うボールを追う生徒はさすがにいない。こういう大人に巻き込まれたくないというのが見てわかる。が、一人の生徒が鬼灯の追っていたボールを拾い上げた。

 そして、鬼灯の腹に思い切り投げ当てた。

「…………千臣君カッコいいーーーーー!!!!」

 鬼灯を外野送りにした千臣篤志は髪をかき上げてファンの声援に答えた。

「さっさと消えてくれ」

 千臣が淡々と言葉を残していく横で、半ば強引に鬼灯は外野に連れて行かれている。

 頭が痛い萌黄にかまわず、結果決勝戦は一組が優勝して、幕が下りた。



   *



「お前、体育館に来い」

 授業が終わって放課後になるなり、鬼灯は千臣に声を掛けた。こんな大人の言うことなど聞く耳持たないと思っていたが、千臣は群れる女子たちを掻き分けて後を追っていた。

 正体を知られている萌黄は体育館の壁に張り付くように隠れて、体育館裏で堂々と仁王立ちしている鬼灯を眺めていた。それから五分もしない間に千臣は現れた。

 その手には鞘に収められたままの鬼の紅剣が握られている。

「何の用っすか」

 千臣は単刀直入に進み出た。対して鬼灯はできるだけ感情を殺して返す。

「さっきはよくもやってくれたな」

「ああ……あれか。あれはルールを破る方が悪いだろ。大人気ないと思いますけど」

規則(ルール)だと? それならお前は何でこんな物騒なものを持ってきているんだ? この学校の規則とやらを知りたいな。こんな危険物を許可しているのか」

 鋭い眼光で睨みをきかせる鬼灯に、千臣は面倒になったようにため息をついた。

「……疼いてるんだよな」

 独り言のように言ったかと思うと、その鞘を払った。鬼の紅剣が天の下に露になる。

「さっきからこの剣が抜け、抜け、ってうるさいんだよな。これってどうしてなんだろうな」

 土を踏む苦い音がゆっくり一歩一歩踏みしめて近づいてくる。思ったよりも早い展開に鬼灯は半歩後ろに下がった。

「こんなところで殺人を犯すつもりか、お前はすぐ捕まるぞ?」

「捕まったって構わない。やるべきことをやって自分が満足できれば、それで十分なんだ。お前、稲妻萌黄の父親なんだろう?」

 一直線に飛び掛ってきた。

 萌黄は躊躇いもなく二人の下にその身をさらしていた。だが、萌黄が見た光景は予想と遥かに違っていた。瞬く間に、体育館の傍らの茂みに二人の姿はあったのだ。

「この剣は処分させてもらうぞ、お前の首を取った後に」

 いつのまにか、鬼灯の手に鬼の紅剣は収まっていた。そして、地面に転げさせられた千臣の首にじわりと血が滲むほど握った剣でつついていた。

 魔術などは使った素振りはなかった。それ以前に、鬼の紅剣の範疇の中で魔術など持ちいれるわけはない。鬼灯の基本的な身体スペックが戦士一族のそれを上回っていた。それだけのことだった。

「くっ……馬鹿な」

「確かにお前は馬鹿だったな。まず鬼の紅剣を使って私を倒そうとしているその時点で馬鹿だ。これはクーデターのときに私の血を浴びた剣――いわば私の力を浴びた剣なのだぞ。そんな剣ごときに力の主である私が、二度も負けるはずないだろう」

「落とすなら早く首を落とせ……」

「落とせといって落とすわけがなかろう。お前は萌黄と紫苑を狙った重病の馬鹿だ。もはや薬の付け所がないほどのな。だから生かしてやる、お前を餌にこの件に関わった全員を炙り出して、串刺しにしてくれる」

 萌黄は微弱な呼吸音すら消してしまいたかった。何かをされているわけではないのに、身体は動こうとしない。入ってはならない空間がそこにあった。触れられれば、力を失って倒れてしまいそうになる。

 とにかくこの場から身を隠したい。そんな萌黄の願望をすべて読み取っていたかのように、鬼灯は目もくれずに立ちすくむ萌黄に冷めた声をかけた。

「萌黄、紫苑を呼んでこい。この戦士一族ごと一旦家に退くぞ」

「うん……!」

 解放された気持ちの方が大きかった。何も終わってはいないのに、緊張が解けて心に平安が戻る。いや、戻るはずだった。

 しかし響く金属音に平安は容易く打ち砕かれていた。

「早くも餌に食いついてきたか……」

 二つの影が、鬼灯と千臣の間に割り込んでいた。



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