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我が家は魔王一家  作者: 西臣 如
第一章 勇者襲来
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第十話 参観日の勇者達

 理由が何であろうが、邪魔者は消し去るに限るな。

 音楽室の事件を受けて、ついに昨日鬼灯は決断した。今まで殺人を犯すことなど躊躇っていた。だが、家族に危険が迫りそれが後を絶たないと聞けば、もうおとなしくはしていられない。そういうことだった。

 都合もよく今日は授業参観日である。

 三年一組の教室で今日も女子を虜にしている千臣を黙らせるいい機会だった。

「ねえ萌ちゃん、今日の参観誰か来るの?」

 昼休みにリッちゃんが目を輝かせて詰め寄ってきた。リッちゃんの目当てはわかっている。萌黄は肩を竦めて腕を組んだ。

「うちは父さんが来るよ」

「え、本当? 珍しいね、萌ちゃんのお父さんって滅多に学校に来てくれないので有名だよ?」

「有名、なの?」

「有名だよ、私の中で。萌ちゃんのお父さんに会えるのって、萌ちゃんが転校してきた日以来かなあ。うわあわくわくする。本当に格好いいもんね、あの風貌で中学生の子供がいるなんて信じられないよ。私も十年ぐらい生まれるのが早かったらなあ……」

 妄想し始めたリッちゃんはもう手がつけられない。父さんのどこがいいんだろう、と萌黄は首を傾げるばかりだ。ああ見えて実際は家の中でぐうたらして一日を過ごしている、なんて間違ってもリッちゃんには言えない。

「皆、席につくように」

 茶々先生が教室のドアをくぐると同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り出した。

 担当科目が音楽で、いつもなら音楽室にいる茶々先生が授業時間中の教室に現れることは珍しかった。しかも先生は半袖の白いTシャツにジャージを穿いていて、頭には赤い鉢巻が巻かれている。しかも、その鉢巻には日の丸と必勝の二文字がくっきり浮かんでいる。

「ティーチャー何ふざけちゃってんの?」

 ある女子の一言から一斉に笑いの渦が巻き上がる。茶々先生は相変わらずなぜか照れて、改めて大きな咳払いで生徒たちを諌めた。

「先生も恥ずかしいんだ、わかってくれ。えー、今日の参観は親御さんとの交流も兼ねて、体育館で行うことになった。あー、服は着替えなくていいぞ、大した動きはしないからな。だから全員素早く体育館に移動だ」

 茶々先生の状態から運動をすることは見てとれた。しかも、親御さんとの交流ということは、あの鬼灯が何らかの運動をするということになる。

 考えられない。

 萌黄の心など気にも掛けず、リッちゃんはガッツポーズをして丸眼鏡を輝かせている。

「よーし、ボディタッチもできるのね!」

「悪趣味だよ、リッちゃん」



   *



 体育館に集合したのは三年生全員とその保護者三十六人だった。

「えー、では今日はドッジボールをするぞ。一組・二組・三組と、親御さんを一グループにしてトーナメント形式で行う。あー、ソフトドッジボールなんで保護者の方も安心してください」

 茶々先生はピンクのボールを抱えて、マイクで司会も担当している。生徒たちの加減のない様子を見て、さすがに遠慮したそうな保護者が大半だった。そんな中、彼らは違った。鬼灯と、孫の参観に来たお爺さんは、互い火花を散らしあってライバル視しているようだった。

「爺さん、腰を痛めんうちにやめておけ。私は慰謝料を払わんぞ、一銭たりともな」

「くう、調子に乗れるのも今のうちだと知れ、若造。もしワシが倒した人数が若造より多ければ、その小豆(あずき)色の髪を全部抜き去ってやるわ!」

「この赤茶の髪を小豆だと……そこまで喧嘩を売るのなら買ってやろう。私もそこまで冷たくはないのでな。代わりに爺さんの倒した人数が少なければ、一本抜き去ってやる」

「一本だと、今さら年寄りに遠慮か?」

「その目障りな前歯を一本抜いてやるのだ。ありがたく思え」

 一組がいる側からは遠目でしか見えないが、しっかり鬼灯とお爺さんの声は聞こえている。

 これから誰を倒すことになっているのかわかっているのかな。

 萌黄は心配ばかりしかできない自分が悔しかった。

 萌黄のいる一組は第一回戦で二組と当たった。千臣がボールに当たりそうになるたび、千臣がボールをキャッチするたび、千臣がボールを当てるたびに学年中の女子の歓声が巻き起こる。千臣からのボールに当たりたいと理解できないことを言って自ら身を投げる二組女子まで現れた。中でも一番怖いのは千臣の投げたボールがかわされたときだ。当人には女子たちのブーイングがのしかかり、後でお仕置きを受けさせられる。公衆の場で。

 そんなことをしているから、三組との試合をしている保護者チームの方ばかり見ていても試合には勝っていた。

 そして妙な熱気を発し続けていた保護者チームも当然の貫禄で圧勝したらしい。どうやら鬼灯とお爺さんも似た成績をおさめたようで、二人の敵対心もさらにヒートアップしている。惨敗した三組はとぼとぼ退場しながら、ため息混じりの声を溢れかえしている。

「何やねん、あのオッサンら……」

 次はあの保護者チームと対戦なのか。

 千臣も松陵も顔を知らないのか気づいてないけど、派手なことはやめてほしいなあ。

 板ばさみの萌黄は試合前からボイコットしたかった。



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