ギルドメンバーが病んでいて、どうすればいいのか分からない
目の前に広がる光景は地獄と言ってもいいかもしれない。
仲間は全員倒れている。血を流して苦しんでいる者もいれば、既に絶命してしまったいる者もいる。
この場において動けるのは僕だけ。その事実が余計に足を震え上がらせる。今すぐにでもここから逃げたいという気持ちはある。だけど、足は動かない。逃げるにしても、死ぬことを覚悟で戦うにしても足が動かないのだ。
「まぁ…た……に…げぇ…」
「…おまぁ…え………だぁけで…も」
そこら中から仲間の声が聞こえる。
ここで仲間を見捨てて、逃げても彼ら彼女らは何も言わない。もしかしたら、天国で「よく逃げた!」とか言うかもしれない。
優しい彼ら彼女らは。
その後、僕は自分を許せないと思う。ここまでどれだけ助けてもらったか分からないのに、わが身可愛さに仲間を見捨てるなんて許されない。
それにこんな僕でも一応…『ギルドマスター』という役職に就いているのだ。ギルドマスターはギルドと共に生き、ギルドが滅ぶのであればここで消えるべきだ。ここで立ち向かわなくちゃいけない。
僕の目の前にはドラゴンと呼んで差支えのない存在がいる。仲間たちも全員、ドラゴンにやられた。このドラゴンは強い。うちのギルドのメンバーはそれぞれレベルも高く、全体的なレベルのアベレージもいい。そんなギルメンが全く歯が立たず、負けている相手に一番弱い僕が何をしても勝てる見込みはない。
だけど、一つだけある。
僕は自分が弱いことを知っている。だからこそ、いざという時の一手だけはしっかりと用意していた。
「でも、これがこのドラゴンに効くかは分からないけど」
それに本当に効果があるのかも怪しい。あくまで文献に載っていただけだし、一度も試したことはない。効果がなかったら、僕の命はここで終わるんだけど。
でも、0.00001%でも可能性があるんであればやらなくちゃいけない。僕がギルメンを救える方法はこれしかない。
震える足を必死に動かして、一歩、また一歩とドラゴンとの距離を詰めていく。恐怖しているのが顔に出ないように必死に頑張る。
周りの意識があるメンバーは何か言っているみたいだけど、今はそんなことを気にする程の余裕がない。
左手に隠し持っていた短剣を持ち、覚悟を決めて、ドラゴンへと視線を向ける。ドラゴンも僕を視界に捕らえ、叫んだりしているが、もう覚悟を決めたお陰で一歩引くこともない。静かにドラゴンのことを視界に入れて、これからのことを想像する。
どうか…僕の力が少しでもドラゴンに効いて、撤退してくれることを願うしかないな。
僕は静かに短剣で右腕、左腕を傷付ける。すると少しずつ僕の血液が垂れ出したので、僕は両腕を天高く掲げて落ちて来る血液を口へと運ぶ。
血液が口の中へと入って行くと少しずつ体温が上がっていく感覚を覚えてた。それからどれだけ飲んだか覚えていない。
そして気付いた時には…見知らぬ天井だった。
―――――――
自分でも状況が理解できずにいると、メンバーたちが説明してくれた。どうやら僕はドラゴンのことを倒せたらしいこと、それと同時に僕も倒れたこと、僕の両腕と両足は麻痺状態、左目は失明したということ。
そして僕は三日三晩、眠り続けていたようだ。
両腕と両足の麻痺や失明については……そうかぐらいしか思えない。元々あれはあくまで賭けのようなことで、結果としてギルメンを助けられたのだとすればそれで十分だ。あそこで僕の命が途切れていたとしても後悔はなかったと言える。
一つだけ問題が増えた。
それはギルメンが思っていたよりも思い詰めているということ。全員が顔を出したりしてくれるのは嬉しいけど、みんな目にくまができていたり、ずっと泣いていたりと亡くなったような感じだ。
どうやら僕が眠っている間も色んな依頼が届いていたみたいだけど、みんな全て断ったららしい。
僕の個人的な意見を言われてもらえるのであれば「僕のことなんてどうでもいいから、仕事をしてください」と言いたい。さすがにあんな顔をされたら、何も言えないというのが正直なところだけど。
でも、いつまでも意気消沈されても困る。僕はこの状態なので、ギルドマスターを止めることになる。両手まで麻痺した状態だと事務作業すらも出来ない。そんな僕がギルドに残る必要性を感じない。
だけど、今の感じを見るとギルメンにギルドマスターを辞めると口が裂けても言えるような雰囲気ではない。
今も僕の周りには男女合わせて4人がいる。全員、顔色は最悪と言っても良い。
髪色が金で短髪の男が涙を流しつつ、後悔を口にする。
「…おれのせいで…」
「だから別にリアムさんの所為じゃないと言っているよ。これは僕が僕の意思で戦って、ただ負傷しただけだよ」
リアムは初期メンバーだ。金髪、身長が高い、怖い顔という三拍子が揃っていることもあってよく怖がられる。だけど、誰よりも仲間のことを思っていることを僕は知っている。戦闘能力もうちのギルドでTOP10に入るぐらいの腕を持ち、誰よりも率先して危険な場所にも立ち入るような人物なのだ。
仲間以外にはちょっと強く当たってしまうところがあるのでそれは直した方がいいと思っていたりする。
髪色は水色でロングの少女も暗い顔をして、同じように後悔を口にする。
「あ、あたしに力があれば…ギルマスがこんな怪我をすることもなかったんだ」
「そんなことないですって。これは僕が望んでこうなったんです。誰かの所為というわけじゃなくて、自分の責任です」
彼女はアメリア。後からギルドのメンバーに加わった魔術師。キレイな顔立ちをしているが、身長は145cmと小さい。そのことをいつもメンバーからいじられて、それに対して怒ったりしているんだけど、今はそんな面影が一つもない。目にクマがあり、全然眠れていないのが一目で分かる。このままだとギルドメンバーの方が体調を崩すんじゃないかとこっちは気が気じゃない。
黒髪のボブで大人っぽい雰囲気をまとっている女性も目に涙を溜めている。
「…わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだ、わたしのせいだ」
「そんなことないですよ。これは僕の責任です、だからアイラさんの所為ではないので」
彼女の名前はアイラ。初期メンバーであり、魔術師として才能に溢れ、いずれはこの大陸で1番の魔術師になると言われている人物だ。いつも落ち着いていて、どんな時でも冷静な対応を取ることが出来る人物でギルドの中でも信用度が高い。欠点としてはあんまり口数が多くないので、意思疎通を図るのが少し難しいというところ。もう一つは自分で責任を抱え込んでしまうところで、それが今ちょうど最悪な形で出てしまっている。
僕の所為なのに、自分の所為と抱え込んでしまっている。こうなってしまった彼女が元に戻るのには時間が掛かる。
最後の1人は赤髪ロングで普段は鋭い目つきで威圧してくる女性も今日に限っては暗い顔をしている。
「…あんたにこんな傷を負わせた、わたしは生きる資格がないわ」
「そんなことないよ。クロエはいつもギルドのために頑張ってくれているよ。もし、クロエに生きる資格がないんだったら、僕にも生きる資格がないよ」
彼女の名前はクロエ。初期メンバーの一人で、ヒーラーとしての力はずば抜けている。性格は少しキツいと言われがちだが、信頼するに値した人に関しては誠実に対応する。ギルメンからの信頼は厚く、頼りにされる存在。
そんな彼女がここまで落ち込んでいるところを見るとかなり重症だ。クロエは僕に対して厳しかったりしているんだけど、今日に関してはそれすら影を潜めている。
まさか、ここまでギルメンが落ち込んでいるとは思っていなかった。ただ僕が傷を負っただけなのに……。
このまま僕がギルドマスターを辞めたら皆が『自分の所為』だと責め続けて、最悪自ら命を断ってしまうんじゃないかという恐怖もあるため、辞められない。




