ふたり
「よろしくね、空月」
「くうげつ…」
こんな僕を見ても目の前の女の子は気にしてない顔をして、名前まで付けてくれる。手を差し伸べてくれる。
「文句はないね?ほら、一緒にいこ!」
「わっ」
うじうじしている僕の手を彼女はさっと掴んで小屋を飛び出し森の中へ駆け出した。
「どっどこにいくの?」
「小屋の裏側の先にいいものがあるの!」
無邪気に笑いながら駆けていく。
草木をかき分けながら進んでいくと、赤白黄色の色とりどりの花畑が目の前に広がった。ふわりと花の匂いがする。暖かな太陽の下に連れ出された僕はやっと少し笑うことができた。
「この場所、気に入ってくれた?」
「うん、すごく素敵な場所だね」
「良かった!空月、貴方はなんであんな場所にいたの?」
言葉が詰まった。あの日の出来事がフラッシュバックする。なぜ、急に両親は僕を見て悪魔だと言ったのだ、なぜ急に目が良くなったのだろう。あれは神様の悪戯なのだろうか。
「話したくなかったらいいよ。あたしはね、逃げる場所なの。唯一自由に生きれる場所がここなの。」
ツキは寝そべりながらそう言った。
「あなたも逃げたいんでしょ?だったら住んでていいよ。1人より2人の方が楽しいし。土をひっくり返してたのって畑でも作る気だったの?」
「野菜なら育てられるから。植えてみたんだ、あと野草も少しだけわかるし」
「凄いね。そうだ、次来る時あたしの家からご飯少しだけ持ってくるよ。そんなに痩せ細ってちゃ死んじゃうよ」
二人は太陽が落ちかける時間まで喋った。
ツキはこんなに楽しく過ごした日はいつぶりだろうと感じていた。
空月は1週間ぶりに人と話せたことが嬉しいと感じていた。
お互いにこの人の隣にいると少し安心できると感じ始めている。出会ったばかりなはずなのに、ふたりはもう友達になれた。
「じゃあたし、もう帰らなきゃいけないから」
「うん、気をつけて。…あの、また、一緒にたくさん話したい。名前、ありがとう。」
「うん。またね!空月」
森の中へ駆け出したツキを空月は手を見えなくなるまで振り続けた。
町の一番端の木造建築の家。
扉を開けて中に入る。
「ただいま。」
「おい、どこに行ってた。早く飯を作れ」
「うん。」
笑顔が消えるこの場所は苦痛である。
せっせとご飯を作るけど、あたしはこの温かいご飯を食べることはできない。余ったご飯を食べることしか許されない。量を多くすればまた殴られ蹴られる。2人分の量のみを作らなければならない。
早くこの場所から逃げ出したい、いつも考える。
「空月」
自分の新しい名前を呟く。
こんな僕を見ても大丈夫だと言ってくれた人。
名前を与えてくれた人。
「本当に、大丈夫かな」
信じてもいいのだろうか。もしまた裏切られたら?そうしたら、僕はまた逃げなければならないのか?
もしかすると明日になれば町の人たちが僕を殺しに来るかもしれないと嫌な考えが出てくる。
一人で怯える暗い時間。僕は中々寝付けなかった。




