急襲
風魔法の馬車は、マノン王国王宮のバルコニーへと、音もなく到着した。
王宮の高層で、十分な広さがあり、天井がなく、馬車の着陸に適していることから、ここが合流場所に選ばれたのだった。
時刻は、クローディアとニコラウスが調整した到着時刻である、十九時ちょうど。空を行く経路と速度を計算のもとに割り出し、到着時刻を調整したのだ。
「合図が見えました。ニコラウス殿下でしょう。降りますよ」
馬車の中から、大きく手を振る人影を確認し、イヴァンはアビゲイルとベラにそう言った。人影は一人だけ、打合せ通りだった。
「アビゲイル! ベラ!」
「ニコラウス殿下!」
夜の闇に紛れて馬車へと駆け寄り、降りてきた二人の名前を呼ぶニコラウスに、アビゲイルが呼び返した。
「二人ともよく無事に帰ってくれたね。クロエに付いて行ったと聞いて驚かされたよ。――彼女は予定通り、来ていないんだね?」
「はい。ストロガノフ王国で待機しております」
ニコラウスの確認に、ベラが頷いた。
「ニコラウス殿下。こちらはイヴァン=ストロガノフ国王陛下ですわぁ」
「イヴァン様。ニコラウス=マノン王太子殿下です」
アビゲイルとベラが、互いに紹介をし、隣国同士の国王と王太子は顔を合わせた。
「マノン王国王太子のニコラウス=マノンです。このような慌ただしいお目通りとなり申し訳ありません」
「ストロガノフ王国国王のイヴァン=ストロガノフである。謝罪の必要はない。こちらこそ、初めての訪問が非公式のものとなり、世話をかける」
ニコラウスが略式の礼として片足を立ててひざまずき、イヴァンがそれに応じた。
言葉の内容とは裏腹に、イヴァンの声は若く、聞くものによっては役割が逆ではないかと思うかもしれない。
「――と、堅苦しいやりとりは以上にしましょう。クローディア達はイヴァン様と呼んでくれています。どうかニコラウス殿下も同様に」
「承知いたしました、イヴァン様。私もどうかニコラウスとお呼び下さい」
ニコラウスは立ち上がり、イヴァンへと右手を差し出して握手を求めた。
「今回の件では、クローディア達が大変お世話になりました。そもそも生贄などという非常識な理由で送りつけられたにも関わらず、友人として受け入れて下さったと聞いています。感謝の伝えようもありません」
「構いません。クローディア達が滞在している時間はまだ一ヶ月にも満たない時間ですが、非常に楽しく過ごしています」
ニコラウスの手を力強く握り返し、イヴァンは感謝の言葉を受け取った。
「また、アビゲイルとベラの帰国にも尽力していただき、重ねてお礼を言わなければ。彼女達の帰国と――この後の作戦についても、イヴァン様の協力なしには実現しないものでした」
「それも構いません。帰国については私の責任の範疇です。また、生贄の神託が虚偽だということになれば、我が国も無関係ではありません。両国で水面下に動き、解決を目指して来れたのは、非常に幸運でした。仲介してくれたクローディアに感謝したい程です」
握手を離した後も、二人のやりとりは続き、イヴァンはさらにニコラウスへと言った。
「ニコラウス。個人的にもあなたとは良い関係を築きたいと思っています。隣国の未来の国王であることも理由ですが、クローディアとの相思相愛ぶりも聞き及んでいて――私と婚約者との関係向上のため、あやかりたいと思っているのです」
「お恥ずかしい限りです。非礼になることを恐れずに言うなら――ぜひクローディア達と同様に、友人としていただければと思います」
言葉を交わし頷くと、二人はお互いに笑顔を見せた。
「無事に合流できて良かったですわぁ。見張りの兵士のスケジュール調整が上手く行っていなかった場合、いきなり警報が鳴り響く展開も、あり得た訳ですから」
「最初の難関、突破ですね。ここからが正念場、でもありますが」
早速、安堵のため息をつくアビゲイルに、ベラが釘を刺した。
「わかっておりますわぁ。油断大敵、まだまだ気が抜けませんわぁ」
「アビゲイル様、口調も全然変わりませんし、本当に緊張しないんですね」
気楽な調子で応じたアビゲイルに、ベラは感心なのか呆れなのか分からない感想を口にした。
「心強いよ。平常心でいてくれる同行者がいれば、こちらも慌てずに済むからね」
聞きつけたニコラウスが、アビゲイルがその気になるようなことを言った。
「ついに、わたくしの時代が――」
「それは、もうやりましたよ」
感動するアビゲイルに、ベラが鋭くツッコんだ。
「ふふ。この二人は、ストロガノフ王国でも、変わらずこんな調子だったんですよ?」
イヴァンは、笑い出すのをこらえるように、そう言った。
「お褒めにあずかり光栄ですわぁ」
「お恥ずかしながら、ですよ」
「この調子です」
イヴァンがまとめると、一同は押し殺した笑い声を上げた。
「――と言っている間に、イヴァン様、ニコラウス殿下、時刻が迫っておりますわぁ」
時刻を確認したアビゲイルの言葉に、表情を真剣なものにして、イヴァンはニコラウスに向き直った。
「それではニコラウス。アビゲイルとベラの身柄、間違いなくマノン王国へお返しします」
イヴァンの言葉に、ニコラウスは頭を下げた。
アビゲイルとベラもそれにならって頭を下げた。
「確かに受け取りました。大変、お手数をおかけいたしました」
「イヴァン様、本当にありがとうございました」
「どうか、お帰りもお気をつけて」
アビゲイルとベラの短い別れの言葉に、イヴァンは笑顔を見せて頷いた。
「二人が王宮にいてくれた時間は、とても明るいものでした。再び訪れてくれることを、心待ちにしています」
さらにイヴァンは続けた。
「見送りは不要です。むしろ、私がみなさんを見送りましょう。――どうかご武運を」
そう言って胸を張って立つイヴァンに、頭を下げ、小さく手を振りながら、ニコラウス達は謁見の間を目指して移動を開始した。
彼らの歩みは小走りになり、令嬢二人はスカートの裾を持ち上げながらの移動であった。
廊下への角を曲がって一同の姿が見えなくなるまで、イヴァンは彼らを見送った。
彼らの気配が完全になくなったことを確認し、イヴァンは、ふぅ、と一息ついた。
「――」
そして、身をひるがえすと、風魔法の馬車に向けて歩き出したのであった。
◆ ◆ ◆
ニコラウス達の王宮内の移動は、計画通りの順調なものだった。
この時刻に合わせて、ニコラウス配下の者が要所の警備を担当するように、担当場所を調整していたのだ。
警備兵と目が合っても、ニコラウスと兵の双方が決められた合図を送り合い、その後は見て見ぬふりで通過させてくれた。
知識のない者ならば迷ってしまいそうな王宮の中を、勝手知ったるニコラウスを先頭に、いくつかの廊下を曲がり、階段を降り、謁見の間に向かって進んでいく。
そして。
いよいよ、謁見の間の前に辿り着いた。
その豪奢な扉の両側にも、もちろん兵士が配置されていたが、彼らもニコラウス配下の者だった。
「コンスタンティンは?」
「既に謁見の間の中です」
ニコラウスの短い問いに、兵士が抑えた声で答えた。
「神殿側の護衛の数は?」
「二人です」
ニコラウスは、その答えに頷いた。
「アビゲイル、ベラ。準備は良いね?」
「はいですわぁ」
「いつでも問題ありません」
ニコラウスの確認に、二人の令嬢は肯定を返した。
アビゲイルは普段通りに、ベラは緊張にいくぶん表情を固くしながら。
「侵入と同時に衛兵を叩く。私は右、アビゲイルが左だ」
「承知いたしましたわぁ」
ニコラウスの短い指示に、アビゲイルが頷いた。
「では、行くぞ――」
ニコラウスは、扉を蹴破るような勢いで開けた。
「なっ――」
「ニコラウス!?」
ニコラウスからは、それほど広くない謁見の間の中に、玉座に座る父である国王――ウィリアム=マノンと、それに向かい立つコンスタンティン=セアダスの神官服の背中が見えた。
突然の暴挙にコンスタンティンは驚いて背後を振り向き、誰の仕業かを認識したウィリアムはその人物の名を呼んだ。
そして、扉の左右に立っていた神殿側の護衛が、手にした儀仗を交差させ、侵入者を止めようと――。
「――火よ」
ニコラウスの火魔法が、右の護衛に向かって放たれた。拳大の炎の塊が打ち出され、護衛の胸部を強打した。
「――風よ、その激しき突風を」
同時に、アビゲイルがオレンジ色のスカートをひるがえし、左側の護衛の頬を手のひらで叩いた。風魔法を乗せた強力な平手打ちは、護衛の頭部を激しく打ち据え、後方へと吹き飛ばす程だった。
「緊急の要件だ、許せ」
「ごめんあそばせぇ」
ほとんど時間を要さず、護衛を無力化した二人は一言ずつ謝罪を口にした。
ウィリアムとコンスタンティンの元へと歩み寄るニコラウスの左右に、自然とアビゲイルとベラが進み出た。普段であればクローディアを中心とする、取り巻きの態勢であった。
「ええい、学生風情に倒されおって――」
状況を認識したらしいコンスタンティンは、護衛への罵倒を口にして、それからニコラウスへと向かい立った。
「国王陛下と神官長の謁見に攻め入るなど、例え王太子殿下であろうと、許されない暴挙ですぞ!」
「下がれニコラウス。無礼にもほどがあるぞ」
コンスタンティンは非難の言葉を叫び、ウィリアムは端的に退去を命じた。
「緊急の要件ゆえ、暴挙も無礼もご容赦願いたい」
ニコラウスは胸を張り、二人の言葉を拒絶した。
その気迫に、コンスタンティンは気圧され、ウィリアムは息を飲んだ。
「先に伝えられた、クローディア=デピスをストロガノフ王国への生贄とするとの神託について、お話ししたいことがあります」
要件を伝えたニコラウスに、ウィリアムは手を振って見せた。
「その話は済んだと言っておろう。再度命じる、下がれニコラウス」
「いいえ。聞けません、国王陛下。マノン王国だけでなく、ストロガノフ王国にも関係し、公正と正義が脅かされる事態なのです」
ニコラウスは、まっすぐにウィリアムを見返した。
その態度は、一歩も退くつもりのない決意を表しており、彼の正義感が発揮される時に見せる凛としたものだった。
「国王陛下、聞く必要はありませんぞ。もし神託に不服があったとしても、正規の手続きで議論の俎上に上げれば良いものを、こんな暴力的な――」
「例の神託ですが、神官長コンスタンティンの虚偽である可能性があります」
コンスタンティンの言葉を遮って発せられたニコラウスの言葉に、ウィリアムは表情を動かし、コンスタンティンは言葉を失った。
「ニコラウス。神託が不服である気持ちは良く分かっておる。しかし、それを覆したいがために口にするには、あまりにも重大な言葉だぞ。取り返しがつかなくなる前に、止めるのだ」
ウィリアムは、冷静さを取り戻し、頭ごなしではない言葉を選んだ。
「コンスタンティンには、動機があります」
「止めよ、ニコラウス」
再々度の命令にも、ニコラウスは止まらなかった。
止まる訳にはいかなかった。勢いで押し通すことでもしないと、議論が始まらないのだ。このチャンスをつかみ取るしかない。
「コンスタンティンは、マノン王国家とデピス上爵家の婚姻による関係強化を阻止することで、相対的に神殿勢力の強化を狙っているのです」
「馬鹿な! 百歩譲って動機があるとしても、神託が虚偽である理由にはならない!」
いよいよコンスタンティンが怒鳴り声を上げた。
「我々神殿は、命をかけて国の祭事や神託の管理をしておるのだ! それを、政治的な動機程度のことで、虚偽を行ったなど、許せる暴言の範囲を超えている!」
「それを言うなら、この私も、この告発に王位継承権でも命でもかける覚悟だ」
それを聞きながらも、ウィリアムは冷静さを保ったままだった。
「ニコラウス。滅多なことを言うものではない」
「国王陛下――いいえ、父上。私は、この正義がなされていない状況がまかり通るなら、マノン王国にも生命にも絶望するでしょう」
ニコラウスのその応えに、ウィリアムは頭を振った。
「お前の正義感の強さには、あきれるばかりだ。良く育ったとも言いたいが、もっと清濁併せ呑まないと国王など務まらんぞ」
そして、とうとう根負けしたウィリアムは、重要な言葉を口にした。
「そうまで言うのなら、神託が虚偽であるという証拠はあるのだろうな?」
「そうだ! 証拠を出せ! もしも出せるものならば、だがな」
我が意を得たりとコンスタンティンが喚いた。勝ち誇った表情さえ浮かべて、彼は続けた。
「神託の真偽に、証拠などある訳が無い! おっと、神官の証言など役には立たんぞ! 家族を人質に取るなど、無理に証言させる方法などいくらでもあるのだ!」
その叫びを遮るように――。
「国王陛下」
静かな声が、その場に沈黙をもたらした。
「クベルドン下爵令嬢のベラ=クベルドンでございます。私は――」
「か、下爵令嬢ごときが誰の許可を得て――」
喚きを止めないコンスタンティンに、ウィリアムは片手を上げてそれを制した。
「私は、時魔法使いでございます」
しっかりと、ベラはそう宣言していた。
「ほう、時魔法か。珍しいな」
興味を惹かれたのか、ウィリアムは自分の顎をなでながらそう言った。
「私の時魔法で、神託が虚偽である証拠をお見せしたいと思います」
ベラの言葉に、ウィリアムは首をひねった。
「確かに時魔法ならば、時を逆上り神託の瞬間を示して見せることもできそうだな。ベラと言ったか、そなたが本当に時魔法使いであるなら、ではあるが」
ウィリアムの言葉は、まずは時魔法使いである証拠を出せ、と言っているのだった。
その言葉に一つ頷き、ベラはスカートから水晶玉を取り出した。
そして、時魔法の詠唱を口にした。
「――時よ。悠久に流れる大河よ――」
水晶玉から光が放たれ、謁見の間の壁に、次第に映像が現れ始めた。
『国王陛下におかれましてはご機嫌も麗しく、本日は謁見の時間を頂きありがとうございます』
少しぼやけた音声になってはいるが、確かにコンスタンティンのものだと分かる声がした。
映像は、この謁見の間のもののようだった。部屋の中には、玉座のウィリアムと向い立つコンスタンティンの姿が見えた。
『儀礼は良い。要件を述べよ』
『はは。定例となっております来月の神事に向けた準備の報告、吉事と凶事の予兆分析の結果と、ニコラウス殿下の次の妃候補の選定について』
そのやりとりに、ウィリアムは唸った。
「これは少し前の、私達の会話ではないか」
その言葉に、ベラは頷いた。
「もう少しお待ちいただければ、私達が押し入ってきます」
ベラの言葉通り、映像の中で、謁見の間の扉が乱暴に開けられた。
『なっ――』
『ニコラウス!?』
『――火よ』
『――風よ、その激しき突風を』
『緊急の要件だ、許せ』
『ごめんあそばせぇ』
『ええい、学生風情に倒されおって――国王陛下と神官長の謁見に攻め入るなど、例え王太子殿下であろうと、許されない暴挙ですぞ!』
『下がれニコラウス。無礼にもほどがあるぞ』
頃合いだと見たベラが、魔法を解除した。
「どうです父上。このように、例の神託の前後を映し出せれば、虚偽の証拠とできましょう」
「なるほど。どうやら、時魔法使いと言うのは嘘ではないようだな。よかろう、神託が虚偽だと示せると言うのなら、やってみせよ」
ニコラウスの言葉に、ウィリアムはようやく頷いて見せた。
「では、失礼いたしますわぁ」
アビゲイルが、用意してあった大きな紙を――正確には、そこに描かれた時魔法の魔法陣を――ばさりとコンスタンティンに覆い被せた。
「ぶっ――何をする!」
面食らったコンスタンティンであったが、慌ただしく被せられた紙を取り払い、足で踏みつけた。
「神官長に魔法を使うつもりか! 無礼者!」
その様子を、ベラの落ち着いた視線が貫いた。
「コンスタンティン様――あなたがそうする事を、私は知っていましたよ」
そう、相手が魔法陣を踏みつけた状態であれば、それは十分に効果を発揮するのだ。
「――時よ」
ベラの詠唱が響いた。
水晶玉が輝き、コンスタンティンの足元の魔法陣が光り、彼女の瞳が茫洋と光を失くし――数秒の後、輝きを取り戻した。
「見つけました。国王陛下、ニコラウス殿下、映し出します――」
ベラの言葉を受けて、謁見の間の壁に、次第に映像が現れ始める。
場所は荘厳な印象を受けるどこかの室内、床面に描かれた魔法陣の中心に一人の女性がひざまずき、それに向かい立つコンスタンティンと数名の神官がいるようだった。
『今週の神託のお伺いだが、何かお告げはあったか?』
「これはっ!」
映像の中のぼんやりとしたコンスタンティンの声に、今のコンスタンティンの声が重なった。
『いえ。お告げはありませんでした……』
女性は、震える声でそう応えた。
「馬鹿な! おい小娘、いますぐ止めるのだ!」
『いや、違うな――』
コンスタンティンの言葉は、過去の彼の言葉を止めることができなかった。
『神託はあったのだ。――魔王国に、クローディア=デプスを生贄に出せ、と言うな』
「なんと」
「おおっ」
ウィリアムの驚きの呟きと、ニコラウスの歓喜の声が同時だった。
『それは――どう言うことでしょう……?』
『黙っておれ。お前の知らなくて良い話だ。――おい、国王はこの時間どこにいる? 神託をご報告せねば』
『はっ。陛下の本日の予定は、王立学園の記念式典か何かに出席しているかと』
『馬車を回せ。すぐに参上するぞ――』
ぼんやりとした映像の声は、そう続き――。
「十分でしょう」
ニコラウスの言葉で、ベラは魔法を止めた。
「ぐぬぬぬ……」
確たる証拠を突きつけられ、いよいよコンスタンティンはうめき声を上げ始めた。
「神官長コンスタンティンよ――」
ウィリアムは、重々しく名を呼んだ。
「お、お待ち下さい陛下」
そこで、コンスタンティンはウィリアムの言葉を遮った。
「怪しげな魔法にだまされてはいけませんぞ。過去の映像と偽って、勝手に作り出した映像を投影して見せただけでございます。虚偽は、ニコラウス王太子殿下の方かと」
「ほう。今の映像が、全て作り物だと申すのか?」
ウィリアムの言葉に、コンスタンティンは深く頷いた。
「その通りでございます。これが虚偽の証拠などと笑わせる。過去に起こったことが真実かどうかなど、証明する術などありはせんのだ」
「そんな……」
あまりの言い分に、ベラは言葉を失った。
「ニコラウス王太子殿下はご乱心のようだ。婚約者を失った事実を認められず、虚言をろうしておるのだ」
「な、なんだと?」
コンスタンティンの矛先は、ニコラウスにも飛び火した。
「神託は真実! 何者にも優先される! 揺らぐことなどありはしないのだ!」
「それでは、クローディア様は、このまま帰国できませんわぁ」
突きつけられた拒絶に、アビゲイルも弱々しく首を振る以外になす術がなかった。
そして。
皆の視線が集まる中、国王たるウィリアムの判断は――。
――突如、謁見の間の扉が、音を立てて開かれた。
「――その真偽、私が見定めましょう」
その言葉とともに現れたのは――ストロガノフ王国の国王たるイヴァンであった。




