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【短編小説】accidentalエアお見合い少年BOY乳房ドリーム

掲載日:2025/12/29

 陳房 立太郎は何も言わずに家を出た。

 空手の昇級試験に落ちた事がほぼ確実になり、母親に詰られて家に居るのが厭になったのだ。

 自転車にまたがってしばらくしてから、お小遣いを持ってき忘れたのを思い出したが後の祭り。

 仕方ない、喉が渇いたら図書館とか区の施設で水を飲もう。

 立太郎は闇雲に自転車を走らせた。


 しかしそれでも立太郎を詰る母親の声が追いかけて来る。

「どうして板が割れなかったの?」

「あの会場でできなかったのはあなただけ」

「女の子でも割れたのに」

「まったく、恥ずかしい」

 仕方ないじゃないか、板割りなんて練習しなかったのだから!!

 立太郎はその声を振り切るように、一生懸命に自転車をこいだ。


 家出をしても行くところが無い立太郎は本屋に行く事にした。

 いまの立太郎に必要なのはイヤシだ。

 本屋に入った立太郎は、雑誌コーナーでビニール本の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。

 立太郎はインクと埃が混ざったようなビニール本の匂い好きだった。

 その匂いを嗅ぎながら、立太郎は棚に並べられたカバーガールたちと見つめ合っていた。


 カバーガールたちは微笑んでいる。

 立太郎にはそれが救いだったし、手にとって眺めるガール達はやはり素敵に輝いていた。

 立太郎はしばらくの間、夢見心地でガールの世界を揺蕩っていたが、いい加減に書店主のババアに後頭部を睨め付けられるのが厭になったので本屋を出た。


 本屋を出た立太郎は、予想外の寒さに身震いをした。

 冬の夕方は冷え込むのが早い。

 立太郎は薄手の上着で家出したことを後悔しながら自転車に跨った。

「どこに行こう」

 そう、立太郎は家出をしたのだ。

 本屋のババアに追い出されたからって、家に帰るわけには行かない。

 古めかしいチンチン電車の線路沿いに二駅ほど自転車を走らせてみたものの、あまり土地勘が無いので楽しくなかった。

 そろそろ諦めて引き返そうか、そう思っていたところに立太郎は駐車場を見つけた。



 ほんとうに立太郎が見つけたのは、駐車場にある自動販売機だ。

 それは薄緑色をしていて、前の全面がガラス張りになっている。

 わくわくしながら自転車を停めた立太郎は、周囲を見回して誰もいない事を確認すると自動販売機に駆け寄った。

 予想通り、自動販売機の中には箱に入った裸のガールたちが立太郎に向かって微笑んでいる。

 立太郎は嬉しくなってガラスに貼り付くみたいにして中のガールたちと存分に見つめ合った。



 中にいるガールたちは、母親や学校の先生なんかより断然若く、町中で見るどんなひとよりも綺麗だった。

 いつか大人になったら存分に買うのだ。

 そう思っていると、背後から不意に声をかけられた。

「ねぇ、どいてくれない」



 驚いて振り向くと、そこには若く綺麗なガールが立っていた。

 しかし雑誌や箱の表紙みたいに優しそうな微笑みではなく、鋭い眼をして怒っている様にも見える。

 立太郎は急に恐ろしくなって、

「ごめんなさい」

 何か悪いことをした気になって謝ると、自動販売機から離れて自転車まで戻った。



 立太郎はそれでも裸のガールたちが名残惜しくかった。

 家出をして孤独な立太郎には必要な救いなのだ。

 自転車に跨ったまま自動販売機を振り向くと、例の鋭い眼をした若い女がセダン車のトランクを開けたところだった。

 見ていた立太郎は思わず声を上げそうになって両手で口を抑えた。

 トランクには箱詰めされた裸のガールたちが大量に見えたのだ。



 立太郎は恐ろしい現実と優しい夢の間で酷く混乱して立ち尽くしていた。

 恐ろしい現実のガールは、優しい夢のような自動販売機に箱詰めされたガールをしまい終えたのか、自動販売機のドアと車のトランクを乱暴に閉めた。

 そして運転席に回ると、まだそこで立ち尽くしている立太郎に気づいた。



 鋭い眼の恐ろしいガールと目が合った立太郎は固まって動けずにいると、鋭い眼をしたガールが急に眉間の皺を広げて優しく微笑んだ。

「まだいたのかよ」

 それは雑誌や箱の表紙で見た、若く綺麗なガールたちと同じ顔だった。

「こっち来な」

 そしてガールは手招きすると、恐る恐る近づいた立太郎に「ケケッ」と笑うと舌を出して服をたくし上げた。



 立太郎は見た。

 それは初めて見る母親以外の生乳房だった。

 時が止まったかの様に感じた。

「もう日が暮れるから家に帰ンな」

 女は笑った顔のまま服を下ろすと車に乗り込み、乱暴に車を動かして駐車場を出ていった。



 立太郎はしばらく動けずにいたが、北風の冷たさで我に返ると勢いよく自転車を漕ぎ始めた。

 初めて見た女の乳房は大きかった。

 初めて見た女の乳房は美しかった。

 初めて見た女の乳房。乳房。乳房。

 もう母親の声は頭の中に無かった。母親が詰る声は聞こえなかった。

 雑誌のガールも、箱のガールもどうだって良かった。

 空手の昇級試験に落ちた事なんかどうでも良かったし、板が割れなかった恥ずかしさなんて気にもならなかった。



 立太郎は駐車場で見た乳房のことを考えながら自転車を漕ぎ、交差点に差し掛かったところで赤信号と女の乳房にあった乳首の色が似ていると思った。


 そしてそれは立太郎の最後に考えた事だった。

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