婚約破棄
そして───
公爵家にあったの予備の馬車に乗り、シオンは死んだ目をしながらドナドナドッナ~とされていた。
「シオン、そろそろ帰っておいで~」
エスコート役には、同じく着飾ったジークがシオンに呼び掛けた。
「あはは…………メイドこわい………」
「はぁはぁ、シオンお姉様綺麗デス♪」
「うむ、シオンはエルフの美貌に負けず美しいぞ」
女子達に着せ替え人形にされたり、メイクを色々されたりと疲れ切ったシオンでした。
到着すると、紹介状がなくても、シオンの名前と公爵家の家紋で中に入れました。
「へぇ~凄いねぇ~」
すでにパーティは始まっており、シオン達は入口で周囲を見渡して驚いていた。
「まぁ、どこの国でも卒業パーティは盛大にやるんだよ。貴族の子息達が正式な貴族として認められる行事だからね」
そうなんだ~
珍しそうに見ていると、向こうの奥の方で騒ぎが起こった。
「私、第一王子であるユリウス・アーノルドはシオン・スカーレット公爵令嬢との婚約を破棄し、隣に居るカーラ・スカーレット公爵令嬢と婚約し直す事を宣言する!」
はい?
「…………ねぇ、シオン?君、婚約者がいたの?」
「ううん?初耳だよ」
ジークのオーラが怖い。
ヒジリちゃんもニコニコ笑っているけど、目が笑ってないね。怖いわー!
レオナも腕を組み睨んでいた。
唯一のまとも?な、ルリちゃんも、公衆の門前で婚約破棄など許せないわ!と、憤っていた。
「聞いて欲しい!シオン公爵令嬢は、妹であるカーラ令嬢をいつも陰で虐めていたのだ!学園でもカーラに課題を押し付け、実績を自分のものにしていた。そのような者はこの国の国母である王妃に相応しくない!よって、婚約を破棄して、【辺境の地】へ追放とする!国外追放ではないだけ感謝するがいい!」
ほぇ~、シオン・スカーレットさん大変だなぁ~
あ、私の事か!
何処か他人事のように聞いていたシオンは、疑問に思った事を質問した。
「すみません!辺境の地とはどこですか?」
「うむ、隣国との境目にあるどちらの領土でもない【魔の森】だ!あそこで泣いて後悔するといい!」
ふむふむ、事実上の処刑だね。
私の周囲から凄まじい殺気が溢れていた。
「ねぇ、シオンお姉様?あのクズ王子殺してもいいデスか?」
「そうねぇ~私もヒジリちゃんに賛成だわ♪シオンちゃんを侮辱するにも程があるわよ!」
あー、ヒジリとルリちゃんがブチギレ寸前である。
「うん?そういえば、貴様は誰だ?」
私に気付いたユリウス王子が首を傾げた。
ざわざわ
ざわざわ
「あんな美しい女性なんて居たか?」
「何処かの国のお姫様の御忍びか?」
皆、シオンの美しさに見惚れていた。
「そういえば、そこの妹ちゃんは1つ年下だと記憶しているのですが、どうしてこの場にいるのですか?」
周囲の視線を独占された為、カーラは苛立って叫んだ!ここは私が悲劇のヒロインで、王子様に守られて幸せになりましたってストーリーなのよ!
「誰よアンタ!?私はユリウス様に特別に招待されたのよ!」
なるほど。王子特権で参加していたのか。
ここで、一歩下がった所にいた男性が声を上げた。
「我が妹は、醜悪な姉から酷い虐めを受けていた!僕も姉には逆らえず耐え忍ぶしか無かった!それをユリウス王子様が救い出してくれたのだ!」
ふむふむ。なるほど。なるほど。
ってか、アンタ誰よ?
「失礼。貴方は誰ですか?」
「おっと、失礼しました。僕はカーラの双子の兄でカイ・スカーレットと申します」
相手が美人だとわかり、高圧的な態度から紳士的な対応に変わった。
隣のヒジリちゃんが軽蔑の眼差しで問い正した。
「いくらお姉様でも、将来、公爵家を継ぐ男性が女性に逆らえないのは、ちょっと情けなくないですか?」
うんうん!
そうだよね???
「そ、それは………そう!姉は商売の才能があり、公爵家に莫大な利益をもたらしていたので、誰も逆らえなかったのです!」
へぇ~?
なんか今、思い出したように言ったよね?
でも、いいのかな?
その姉を追い出したらお金が入ってこないよ?
あの商会は私が会長だからね!
腕を組んで考え事をしていると、ユリウス王子から質問された。
「さて、ご納得されたようですので、今度はこちらの質問に答えて頂きたい。お美しい貴女は何処の誰なのですか?」
この会場にいる全員の思っていた事だった。
「1つ、その前に確認したい事があります。ここにスカーレット公爵家の当主、及び夫人はいらっしゃいますか?」
このパーティーの主役は卒業生達だが、その両親も参加している。前の方に卒業生が集まり、後ろ側に大人達が集まっていた。
この騒ぎの中心に自分の子供達がいる為、隠れる事ができず、苦虫を噛み潰したような顔で前に出てきた。
「お待たせした」
「この騒動、当主様はご了承でよろしいのですか?」
目の前の人物は、その佇まいから何処かの高位貴族か、隣国の姫君と思い、言葉を選びながら答えた。
「まずは、このめでたい日に騒ぎを起こした我が子供達の事をお詫びする」
隣国の高位貴族だと、今後の外交に影響を及ぼすと思い、謙虚な態度で頭を下げた。
伊達に、公爵家の当主をやっていないのだ。
「それで、【本当】にシオン・スカーレットと言う人物は、悪い事をしていたのかしら?それと、私の【情報】ではシオン・スカーレットには婚約者など居なかったと記憶しているのですが?」
それは───
当主ならシオンが家に、学園に、この国に居ない事は知っているはずだった。
そもそも、シオンが国内にいないのに、王家から莫大な利益を上げているシオンに、婚約の打診があり、断れず婚約を受けた経緯がある。
まぁ、未成年であれば両親の判断で受ける事は可能なのだが、国内に居なく、帰ってくる予定もわからない者を王家の婚約者に据えるのは、問題があるのだが。
「当時は未成年だったので、王家の打診で私が、了承いたしました。しかし、莫大な資金を稼いだ事により、慢心した娘は次第に横暴な態度になり、手が付けられないようになりました。こうなっては仕方がないでしょう」
公爵家に取っては、どちらが王家に嫁いでも良かったのである。
ここまで騒ぎが大きくなっては、シオンを切り捨てるしかないと判断した。
この選択が、人生で最大の誤りだったと気付くのはこの後、少ししてからである。
「了解致しました。最後に、娘との親子の縁を切ってもよろしいのですか?」
最後に確認した。
「はい。悲しい事ではありますが、ここまで兄妹を追い詰めた長女を許す事はできません」
カーラとカイは父親の言葉に感動して、涙を流していた。
それとは対極的に、シオン側は絶対零度の温度差で、さっきの怒りより更に怒りを通り越して、氷点下の殺気になっていた。
コソッ
「…………シオン、大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫よ。正直、幼少の頃は自分を磨く事が楽しくて、家族との繋がりは薄かったからね。血の繋がりはあっても、赤の他人よ」
ジークはそうかと言うと、ここからは私に任せて欲しいと言った。




