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7 これから

食事できる場所を求めて歩き続けていたところ、何やら雰囲気の良さそうな店が目に留まった。


「ここの食堂とか良さそうじゃない?中も結構人いて、繁盛してそう!」

「そうですね。いい感じの雰囲気がします」

「じゃあここにしよっか」


店に入ると早速、いらっしゃいー!という店員の大きな声が聞こえてきた。店内は多くの客の楽しそうな声で賑わっており、食欲をそそる匂いが漂っていた。

アイリーンさんが人数を伝えると、テーブル席へと案内してくれる。

「これがメニューみたい。何か食べたいのある?」

メニューを差し出されて見てみようとしたが、そこでふと疑問に思った。

僕って、この世界の文字読めるのだろうか?

今まで普通にこの世界の言葉を理解することができているため特にそういった疑問は浮かんでこなかったが、よくよく考えてみれば何故言葉を理解できているのかも不明だ。言葉も理解できているのだし文字も普通に読めてしまいそうだが、何故そうなのかはわからない。

まぁでも、そんなことは今考えてもキリが無さそうなので、それは後々考えることにしよう。


気を取り直して、差し出されたメニューを見てみる。

そこには見たこともない文字が並んでいて、もちろん僕が読めるはずもない。はずだというのに、全く見たことが無い文字なのに、その意味がスッと頭に入ってきた。

僕がメニューを見て、困惑しているとアイリーンさんが何か察したように声をかけてきた。

「あっ、ごめん。もしかして文字読めなかったりする?」

「いっいえ、文字は読めているので大丈夫ですよ」

何故かは分からないけど。

「でも、何がいいのか分からないので、アイリーンさん決めて貰えませんか?」

スープやパン、野菜の名前や料理名は大方分かるが、ところどころ分からない単語が入っている部分がある。この世界独自の食材だろうか。


「なるほど…、わかった。じゃあ私が決めるね」

「お願いします」

やがて注文を決めてが決まり、アイリーンさんが店員の人に声をかけて、料理を頼む。

しばらくすると料理が運ばれてきて、パンにスープに肉料理などの美味しそうなご飯たちでテーブルがいっぱいになる。それを見て本当に食べ切れるのか心配になってきたが、お腹も減っているし美味しそうなので多分大丈夫だろう。

「美味しそう!じゃあ早速食べよっか。遠慮しないでいっぱい食べて!」

「はい、ありがとうございます。いただきます」

僕はいつもの感じで手を合わせた。が、そうだった。この世界にはそういう文化もないのか。

手を合わせてようやくそのことに気づく。今まで当たり前のようにやってきたことだったので習慣になっていた。

幸いアイリーンさんは今僕の方を見ていなかった。下手したら僕の出身地を誤解されるようなこともあるかもしれないし、こういった文化がある場所があるかもわからないので、これからはこっそりとするようにしよう。

別に食事に感謝することは悪いことではないし、しないほうがなんだか悪い気がした。

食前の挨拶を済ませて、僕も目の前の食事に手をつける。

まずはシチューのように見えるスープから食べ、次にパン、肉と、勢いよく食べ進めていく。


僕はすっかり美味しい料理に夢中になって料理を食べていき、アイリーンさんよりも早く食べ終わってしまった。

「おー、トーマ君食べるの早いんだね」

アイリーンさんが笑顔を向けてそう言ってきた。早く食べ過ぎてしまったかと少し気にする。もう少し遠慮して食べるべきだったかもしれない。

「…すいません。お腹が空いていたのと、料理がとても美味しかったもので…」

「謝ることないって!いっぱい食べるのはいいことだよ。追加で何か頼む?」

「いえ!大丈夫です、とてもお腹いっぱいになったので」

「ふーん、まぁ今日は夜もいっぱい食べられるから大丈夫か」

いくらお腹が空いていたとはいえ、これだけの量を食べれば満腹になる。これ以上は食べられそうにない。


にしてもアイリーンさんの食べ方、すごく丁寧だな。アイリーンさんが食べてる様子を見て、ふとそう思った。

使っている道具はなんの変哲もない木のスプーンとフォークだし、僕はマナーに関してはよく分からないが、そんな僕でもアイリーンさんの食べ方からはどこか上品さを感じられた。

もしかしてアイリーンさんってどっかの国の貴族だったりするのだろうか?

平民にしては少し、所作が綺麗すぎる気がする。ただの気のせいかも知れないが。

でも仮に本当に貴族だったとしても、本人から言わないのなら聞かないほうがいい。こういった話は大体複雑そうだし、聞く必要もない。まぁ、ただの気のせいかも知れないが。


アイリーンさんも食べ終わり、僕たちは食堂を後にした。

「美味しかったー!久しぶりにあんなにいっぱい食べたよ」

「3日ぶり、でしたっけ?」

「そうだよ。旅の途中じゃあんな豪華なもの食べられないからね。」

長旅になることが多いため、道中食べるのは硬いパンや干し肉などの保存が効く食べ物ばかりで、決して美味しいとはいえないらしい。

「よし、空腹も満たせたし。後は医者のとこに行くだけだね」

そうして僕たちは衛兵の人のメモを手がかりに医者のいる建物へと向かった。



「大体ギルドのある街って人も多いからお医者さんがいること多いんだけど、たまにないところもあってね。でも今日はこの街にいたからよかった」

「医者の人って、魔法を使って治療するんでしょうか?」

「いや、そもそも魔法を使える人自体少ないし、冒険者の中にたまに治癒師がいることもあるけど、魔法で治癒できるのは外傷までだから医者とは分野が違うんだよね。病気とかを治せるのは医者か、神官か。もちろんそれでも治らない病気だってあるけどね」

「神官は治癒師とは違うんですか?」

「うーん、そうだね。私も詳しくは知らないけど、神官が使うのは神聖魔法。治癒魔法よりもかなり難しい魔法で、魔法を使えて、さらに信仰心がないといけない。だから扱える神官は少ないし、何より呼ぶにはお金がかかる。呼べるのは貴族ぐらい。だから医者の方が一般的なんだ」

流石に魔法も万能ではないようだ。扱える人も少ないらしいし、まだこの世界での魔法についてよくわかっていない。使ってみたいとは思っているので、いつか聞く機会があればいいんだけど。


しばらく歩いていると、メモに書いてある場所へと辿り着いた。

見た目は他の民家とあまり変わらないか少し大きいぐらいかで、さっきの大通りほどではないが、周辺にはそれなりに人がいる。

「ここっぽいね。一見他の家と違わないように見えるけど、まぁ違っても場所聞けばいいか!」

すごいな…。アイリーンさんの行動力にはこうやって時々驚かされる。僕とは違ってこういう状況でも前向きに考えるし、楽観的だ。少し羨ましいとも思う。

しかし、民家かもしれないというのに突然扉を開けて入ってしまっていいんだろうか。これは衛兵の人が言っていた問題行動に入ることはないのだろうか。

僕が色々と考えを巡らせているうちに、アイリーンさんは特に気にすることなく扉を開けて、中に入っていった。

「こんにちはー。医者の方がいると聞いて来たんですけど」

アイリーンさんがそう中へ呼びかけると、中から穏やかそうなおじいさんが出てきた。明らかに見た目が医者っぽかったので、ここがメモの場所で間違いないだろうと安心する。

「あぁ、そうだよ。僕が医者だ。どうしたんだい?」

「この男の子を見て欲しくて…」

「わかった。じゃあ君、こっちに来てここに座ってもらってもいいかな?それと、お嬢さんはその隣の椅子に」

「はっ、はい!わかりました」

この世界に来てまだアイリーンさん以外とまともに話したことがなかったので、僕は少し緊張してそう答えた。

言われた方へ行き、そこにあった木の椅子に座る。病院とは違って、建物自体もそうだが周りの家具の多くが木製のもので合ったので、さっきよりは緊張より落ち着きが勝っていた。

医者のおじさんが準備を終えて僕の前に座り、アイリーンさんも僕の隣にあったに座った。なんだかこの座りかただと、親と病院に来ていたときのことを思い出す。

「私はカルム。もう数十年はこの街で医者をしている。だから安心して任せてくれ。そして、名前と歳を聞いてもいいかい?」

「トーマで、歳は16です」

「そうかい。じゃあトーマ君、今日はどうしてここに?」

「それが、記憶喪失みたいで。隣にいるこの方が僕を見つけてくれたんですが、この方が言うには僕は街の外の道のど真ん中に倒れていたそうで、念のため医者に診てもらおうということで来ました」

本当は記憶喪失ではないので少し後ろめたさもあるが、この世界の知識がないという点では記憶喪失とも言えるかもしれないのでよしとする。

「なるほど…。お嬢さん、この子を見つけたとき何か目立った怪我とかはなかったかい?」

「はい、ありませんでした。いつからあの状態だったかはわかりませんが、私が見つけてから1時間も経たずに目を覚ましたと思います」

「分かった。トーマ君、少し頭を見せてもらっても?」

その言葉に頷き、カルムさんに頭を見せる。その後も体に怪我などがないか、心拍数は正常かなど見てもらったが特に異常はないようだった。

「うーん、これといった外傷はないようだ。物理的な衝撃での記憶喪失ではなさそうだね。ちょっと待っててくれ」

そう言ってカルムさんは別の部屋に何かを取りに行ったようだった。


しばらくすると、カルムさんは占いに使うような大きめの水晶玉を持ってきた。

「これは体の内部に異常がないかを確かめるための魔道具だよ。これで念のため診ておこう。水晶の上に手を置いてくれ」

ここでも魔道具が使われているとは、もうなんでもありなんだな。

そう思いつつ、指示に従って冷たい水晶に手を置いた。

「一瞬だけここから君の体内に魔力を流して、異常がないかどうかを確認する。君自信が魔力を流す必要はないよ。でも、私が手を離すよう言ったらすぐに離すんだ。流しすぎたら体に害が出るかもしれないからね」

「わかりました」

「よし、じゃあ確認するよ」

カルムさんがそう言うと水晶が光だし、僕の体はなんだか不思議な感覚に包まれた。

「もう大丈夫だ。離してくれ」

指示通りに手を離すと、カルムさんは再び難しい顔をした。

「…特に異常はないようだ。何かの病気になっている可能性も低いだろう。体はいたって健康だ」

「わかりました。ありがとうございます」

診てもらっておいて悪いと思うが、まぁそうだろうなと思った。アイリーンさんの勧めと、万が一を考えてつれて来てもらったが、特に何もなかったようで少しだけ安心した。

「原因を見つけてやることができなくてすまない。だが、外からの衝撃でないとすれば精神的要因である可能性が高いかもしれない。今後何かのきっかけで記憶が戻ることもあるかもしれない。それに、この魔道具も万能ではないからね」

「いえ、診ていただいたおかげで安心できました。本当にありがとうございます」

「本当にすまないね。もしまた何かあれば、うちを訪ねてくれ」


診察はスムーズに終わり、僕たちは再び外に出てきた。

「倒れてたぐらいだったからどこか悪いのかと思って来てみたけど、そうじゃないみたいでよかった」

「医者にまでつれていってもらって、本当にありがとうございます」

「いいんだよ。これから何かあったほうが困るしね」

「そういえば、これからどうするんですか?」

「それなんだけど、今まで行くところあってあまりよく街見れてなかったでしょ?だから、次は観光しよう!お店行ったり、出店で食べたりしてさ!」

確かに。通りすがりに見たりはしたが、中に入ってゆっくりなんていうのはまだ無かった。

「いいですね。じゃあ、アイリーンさんに任せてついていきます」


そうして僕たちは、街を自由に観光することにした。

先ほどの大通りやその周辺をまわって、色々な店に行った。珍しいものや初めて見るものを見つけたり、食べたり。僕は遠慮したが、アイリーンさんは色々とものを買っていた。移動の間も建物や人に目がいき、退屈する間がないぐらいに楽しんだ。

そうしているとあっという間に時間は過ぎていき、日が暮れ始めたので、僕たちは今日泊まる宿にあった食事処で、夕食をとった。

そしてそこでようやく、僕たちは今日の一番の目的について話し始めた。

「今日はどうだった?一日この街見てみて。」

「とても楽しくて、新鮮でした。ご飯もたくさん食べさせてもらって、ありがたい限りです」

「そっか、よかった。……じゃあ決めた?これからどうするか」

昨日アイリーンさんに言われて決めたこと。この街を見て、僕がこれからどうするのか決める。


「はい、決めました。…昨日と今日を通して街の外でも、この街に来てからも驚かせられることばかりで、感動と興奮で気持ちが休む間もないぐらいでした。そして、もっと自分の目で色々なものを見たいと思いました。国も、街も、自然も、人も全部。…そしてありがたいことに、今まさにそれをしている人が目の前にいました」

多分この街に来る前から、この心は決まっていた。でもこの街を見て、自由に旅するアイリーンさんを見て、もうこれ以外の道はないと確信した。アイリーンさんを見て、この人が羨ましいと思った。この人のようになりたいと思った。そして今の僕は、それになることできる。

もう言わなくたって、アイリーンさんも分かっているだろう。

それでもちゃんと、口に出して言いたかった。


「なので、決めました。僕はアイリーンさんのように、冒険者になりたいです」

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