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11 小さな別れ

ブックマークしてくださった方ありがとうございます。嬉しいです。

あれから特に何事もなく、僕らは他愛ない話を交わしながら街までの道のりを共にしていた。

ガロンさんは剣士、ミアさんは魔法使い、ルイスさんは学者として、この周辺で活動してる冒険者だという。


ガロンさんとアイリーンさんが剣士同士話が盛り上がり始めた事を少し心細く思っていると、すかさずミアさんが話しかけてきてくれた。自分からではなんと声をかけて良いのかわからなかったので、とてもありがたい。

「トーマ君って錬金術師なんでしょ?なんで錬金術師にしたの?」

「…元々は魔法に興味があったんですが、自分にどこまでできるかわからなかったので、練習として選んだんです。もちろん錬金術にも興味はありますが…」

「そうなんだ。じゃあちょっとした魔法は扱えるわけだ」

「はい。それで一つ聞きたいんですが、ミアさんは魔法をどうやって学んだんですか」

魔法が一般的でないこの世界で、魔法を学ぶ方法は限られているだろう。それはきっとミアさんも同じだったはずだけれど、何かヒントをもらえないだろうか。

「私は独学で魔法を学んだよ。教えてくれる人が身近にいたわけじゃなかったから。ギルドの店って分かる?私はそこに売ってあった魔法書を参考に魔法を学んだんだ。まぁ大した魔法は使えないんだけどね。…そうだ、魔法興味あるんでしょ?よかったら今見せてあげよっか」

ミアさんはニッと笑ってそう提案してくる。僕としては願ってもいない事だったので、喜んでお願いする。

「いいんですか!見たことないので、ぜひ見てみたいです」

「お、ほんとに!…じゃあ早速いくから、私の指先よく見てて……『ファイア』!」

ミアさんがそう唱えると同時に、何もない場所から小さな炎が灯り、指先でゆらゆらと赤く燃えている。

見た感じは普通の炎と全く変わらず、マジックのように何かの仕掛けがあったわけでもない。それが不思議で仕方なくて、その炎を食い入るように見つめてしまう。僕の知る現実であれば絶対にありえないそれを目にして、思わず幻覚ではないかと疑いたくなるが、嬉しいことにそうではない。

目にしただけだというのに、不思議と胸が高鳴った。

「これが魔法なんですね…。すごい綺麗で、なんというか…とにかくすごいです」

なんと言葉に表して良いのかわからなくて思ったとおりに伝えると、ミアさんは少し照れたように言った。

「初めてみると驚くよねえ。まぁ、私が自力で出せるのはこれか、これより少しでかい攻撃魔法ぐらいなんだけどね。きっとギルドに簡単な魔法書ぐらいは置いてあると思うから、興味あるならこのまま勉強してみなよ。魔法、すっごく面白いからさ」

「はい、ありがとうございます。参考にしてみます」

ギルドの店にはそんな本が売ってあったのか。魔法書、と聞くとなんだか値段が高そうなイメージがあるがこうやって依頼をこなしていけば、僕にもいつかは買えるだろうか。

そんなことを考えていると、僕たちより少し後ろの方で何かを真剣にメモしていたルイスさんが目に入ってきた。

確か、ルイスさんは学者だと言っていたっけ。今も何かしているんだろうか。

「あの、ミアさん。話は変わるんですが学者ってどういう職業なんですか」

ふと気になって質問してみる。

「あー、もしかしてルイスのこと?ルイスー!今ちょっといい?」

ルイスさんが顔を上げてこっちを向く。まさか本人に直接聞くとは思っていなかったので焦ってしまう。

「あ、はい。もちろんいいですよ。どうかしました?」

「トーマ君が学者について知りたいんだって」

「本当ですか!学者に興味があるんですか?」

作業を中断してしまって悪いかと思ったが、ルイスさんは思いのほか嬉しそうな反応をしてくれた。

「学者ってどういう事をしてるのか、少し気になって…」

「そうですね…。人によって違いますが、僕は魔物の生態について調べていることが多いですね。他にも植物やこの辺の地形、興味があることは全部記録して常に学んでいます。戦いには参加できませんが、これもこれで楽しいんですよ」

さっきも今日討伐した魔物について整理していたらしい。ルイスさんは魔物の特徴、弱点、習性などの記録や、パーティのサポートもしたりと様々な活躍をしているそうだ。

「僕はこれが楽しくて職業にしていますが、そうじゃなくても、本などで冒険者としての知識を得るのも大事ですよ。必ず役に立ちますし、見える景色も変わってきますから。興味があれば、そういった本を読んでみるのも良いと思いますよ」

ルイスさんの言う通り、どこへいっても知識はあるに越したことがない。現に僕はこの世界の知識が不足していて困る事も多い。本屋などがあれば、この世界について調べてみるのも良いかもしれない。

「ありがとうございます。僕は知らないことも多いので、機会があれば読んでみます」

「ルイスってばすごいんだよ。魔物の弱点教えてくれたり、危ない植物を教えてくれたり、それ以外も色々、いつも私たちのこと助けてくれてるんだよ」

「ミアが素直に僕を褒めるなんて珍しいですね。いつもだったら絶対にそんなこと言わないのに、こう言う時だけですよね」

「そんなことないでしょ。…あと褒めたっていうか、助けられてるのはただの事実だから」

ルイスさんは笑みを浮かべながら、ミアさんは少し照れながら、そんなやり取りを交わしていた。これだけで、このパーティの仲の良さが伺える。

遠慮せずに色々言い合える仲、なんだかいいな。

何年もともに戦ってきた仲間だからこそ、こんなに仲が良いのだろう。

僕にはこういった友人がいる覚えがないため、少しだけミアさんたちを羨ましく思った。

戦えても、そうでなくても、ガロンさんは剣士として、ミアさんは魔法使いとして、ルイスさんは学者として、それぞれが自分の得意なことを生かして、協力し冒険者を続けている。

現にルイスさんは戦えなくても、自分の知識を活かして仲間の助けになることができている。仲間に必要とされる存在になっている。

今日、あの魔物に襲われた時、僕が戦うことができれば、アイリーンさんに心配をかけずに済んだかもしれないと思った。僕が戦うことができれば、もっとアイリーンさんの助けになることができたかもしれないと思った。

そう思っていた。けれど、それは少し違うのかもしれない。

僕にはたぶん、僕のできることがある。できなかったことを後悔しても仕方がない。それを補っていくのが職業であり、パーティなのだから。

少しずつでも良いから、焦らずに、今の僕にできることを増やしていこう。

ルイスさんたちを見て、そう思うことができた。


その後も道は続き、ガロンさんたちには街でおすすめの食堂、この周辺の国のことなど様々なことを教えてもらった。

喋りながら歩いていればその道のりを遠いと思うこともなく、夕方になる頃にはあっという間に街まで着いてしまい、とうとう目的地であったギルドまでたどり着いた。ガロンさんたちとは、ここでお別れになる。

「それじゃあここまでだな!」

「はい、本当にありがとうございました」

アイリーンさんに続いて、僕もお礼を伝える。

「良いって、気にしないでくれ。元々は俺たちの失敗なんだからな。じゃあアイリーンも、トーマもこれから頑張れよ。またどこかで会えたら、その時はよろしくな!」

「はい!またどこか会えることを祈ってます」

アイリーンさんはいつもの笑顔でそう答える。

「トーマ君も錬金術と魔法と、頑張って!」

「本も良ければ読んでみてくださいね」

「はい、お二人ともありがとうございます。もし次会うことができれば、その時は魔法を使えるようになっておきます」

「うんうん!その時を楽しみにしてるよ」


最後の挨拶を交わし、名残惜しくも僕たちはそれぞれの道へと進んでいくことになる。

「とてもいい人たちでしたね」

「そうだね。もっと話したかったけど、…また会えたらいいなあ」

旅はまさに一期一会だ。ある日突然出会って、またそれぞれが目指すの道を歩いていく。その出会いに打算なんてものはなくて、偶然出会って、お互いのことを話して、またいつか会おうと言って別れる。その別れを名残惜しく思うことができる。また会えるその日を楽しみにできる。

普段は全く正反対のことを思う自分がそう思えたことが、嬉しくなる。これからまた、いろんな人に出会えるのだろうか。


「じゃあ私たちも依頼の報告に行こうか」

別れの雰囲気から切り替わり、今日の成果をギルドへ報告に行く。

「トーマ君は二袋半採ったって言ってたよね。私が二袋分だから…合わせて四袋半か。結構採れたね」

「これをギルドの人に持っていけばいいんでしょうか」

「そう、それとこの依頼の紙ね。これ渡すから、トーマ君持って行ってみなよ」

依頼の紙と、薬草の入った袋を手渡される。少し緊張しながら、それを持って受付の元まで向かった。

「依頼を完了しました。依頼の紙と、薬草です」

アイリーンさんがどのようにして報告していたのかを思いだし、できる限り真似をしてみる。

店で買い物をする時など、こういった店員の人と話すような場面はなんとなく緊張してしまう。何か変なところはないか、間違ったことはしていないか、不安になってしまうからだ。

「かしこまりました。では中身を確認してきますので、こちらでお待ちください」

受付の人はテキパキと対応して、袋を持って裏の方へ下がっていった。

しばらくすると受付の人が戻ってきて、袋に入った状態の報酬を渡される。

「確認ができましたので、これにて依頼完了となります。四袋を超えていた分はこちらで判断して追加の報酬を出していますので、確認しておいてくださいね」

「ありがとうございます」

大きなミスをすることなく、受付の人とのやりとりを終える事ができ一安心する。

これにてようやく、初めての依頼も無事完了となった。


報酬をもらってようやく、自分で稼いだという実感が湧く。アイリーンさんの分もあるとはいえ、初めて自分の力でお金を得た。バイトをした事もなく、自分でお金を稼いだ経験が今までなかったが、まさかバイトどころか冒険者ギルドの依頼で初めてお金を稼いでしまうとは思ってもみなかった。

報酬の袋は思っていたよりも重くなく、そこまで量も入っていないように思える。おそらくこの袋の中身には銅貨28枚と追加報酬がいくらか入っているはずだ。銅貨であればこんなものなのだろうかと思いつつ中身を確認してみる。

しかし予想に反し中に入っていたのは、銀色の硬貨3枚だった。通りで量が少ないと思ったわけだ。

おそらく銀貨、だと思うけれどそれがあっているのかどうか分からないのでアイリーンさんに聞いてみる。

「すいませんアイリーンさん。報酬を確認してもらえませんか?これであっているのか分からなくて」

「わかった、中身見せてみて。……えーっと、うん、銀貨3枚入ってるね。だったら追加報酬が銅貨2枚分かな。大丈夫、これであってると思うよ」

ひとまずこれであっていたようだ。追加報酬が銅貨2枚ということは、合計で銅貨30枚だろうか?銅貨30枚が、銀貨3枚。ということは、銅貨10枚=銀貨1枚ということか。少しずつだけど分かってきた。

「おめでとう!これでトーマ君も初めての依頼達成だね」

「手伝ってくれてありがとうございます。あの、…報酬どうしましょうか」

これは二人でとった分なのでもちろん分けなければいけないのだが、アイリーンさんは二袋分、つまり銀貨1枚と銅貨4枚。僕が二袋半で銀貨1枚と銅貨6枚。しかしここにあるのは銀貨3枚。両替などはできないのだろうか。

「あー、それなんだけどさ、少し提案があって……。トーマ君ってさ、今の職業錬金術師でしょ?」

「はい、そうですが」

「でもさ、なったとはいえ、やり方がわからないでしょ。私も教えられないし。それで、ギルドの店にそういった職業の本がたしか銀貨2枚ぐらいで売ってあるの。もし、本当にもしよければ、今回稼いだお金でそれを買ってみるのはどうかな?」

そうだった。なったはいいものの、僕には何をどうすれば良いのかが全く分かっていなかった。だからアイリーンさんに聞こうと思っていたのだけど、そんな物があったとは。買うことができるのならば、ぜひ欲しいところだ。

「そんな物があるんですか!もちろん欲しいです!でも、銀貨2枚だと僕のとった分じゃ足りないと思うんですが…」

「そこは、気にしないで私の分も使っていいよ。で、残った銀貨1枚は私がもらうね」

「いいんですか!ありがとうございます」

半分以上は自分で払うことができるので、以前より気が軽い。それでもまだ、自分で全部買うことはできないけれど、今はアイリーンさんに感謝することしかできない。

「でも、初めての報酬なのに自分で使い道決めたりしなくて大丈夫?」

「はい、むしろ今、それに1番お金を使いたいので大丈夫です」

アイリーンさんは自分が使い道を提案してしまったことで、僕が無理に買っていないか気にしているようだったが、それは僕が今1番求めているともいえるものなので、僕には全く気にならなかった。

「…そっか良かった、じゃあ早速買いに行こうか!」


アイリーンさんの言う錬金術の本を買うため、僕たちは隣の店へと向かった。

今朝一度この店を訪れていたが、その時は必要だった服ぐらいしか見ていなかった。

今朝は見ることのなかった別のスペースへと行ってみると、そこには僕よりも背の高い棚にびっしりと本が並べられた場所があった。

「こんなにいっぱいあるんですね…。見つけられるでしょうか」

その量の多さに思わず目を見張る。職業の本というだけでこんなに多い物なのか。

「職業の本以外にもいろいろあるからね。冒険者に役立つような、魔物や植物関連のものとか。とりあえず探してみよっか」

ここには色々な本があるようだ。もしかするとルイスさんの言っていたような本はこういったところにあるのだろうか、とも思ったが、今は目的の本を探さなければいけないため、一旦置いておくことにする。

そうして2人で、棚の端から端まで見落とさないように目的の本探し始めた。一番下の段から順に、丁寧に探し始める。

魔物の全て、植物図鑑、大陸大全、冒険者の心得。

色々ありそうだが、この並びに目的の本はなさそうだ。

そう判断して視線を上の段に移す。

魔法使い初級、武器の扱い、薬草学、…錬金術初級———。

あった、これだ。

見つけたその本を手に取ってみる。それは思っていたよりも分厚くなく、触った感じも普段僕が目にする本とは違い皮のようなものでできていた。

「アイリーンさん、見つけました。これですよね」

「そうそれ!それであってるよ。じゃあトーマ君買いに行ってみなよ。私はそこら辺で待っておくね」

「わかりました。買ってきます」


そうして僕一人で店員の元へ向かい、先ほど受け取った報酬を使って本を購入しようとする。

「いらっしゃい。何を買うんだい?」

「この本をお願いします」

「おう、これだと銀貨2枚だな」

袋から銀貨を2枚取り出し、それを手渡した。

「銀貨2枚ちょうど、だな。…兄ちゃん錬金術師なのか?」

「はっ、はい。今日からですけど…」

「そうか、大変かもしれねぇが頑張れよ。きっと楽しいぜ」

お金と引き換えに本を手渡される。店員のおじさんは笑顔で送り出してくれて、僕もつられて表情を緩めてしまった。

「ありがとうございます!頑張ります」

一人での買い物に、恥ずかしながら少し緊張していたが、おじさんの明るい接客のおかげで良い気分になれた。

まだ過ごした時間は、本当にこの世界には良い人が多いと思う。今の店員のおじさんもそうだが、今日であったガロンさんたちも、アイリーンさんだってそうだ。運がいいのか、そもそも良い人が多いのかはわからないが、本当に、良い人ばかりだ。

ずっとこの世界にいられたらいいのにと、心の底からそう思ってしまう。

今だってそうだ。おそらくアイリーンさんは、僕が色々買ってもらっていることを心苦しく思っているのを気にして、こうやって僕が自分で必要な物を買えるような提案をしてくれたのかもしれない。もちろんそうじゃないかもしれないけれど。もしそうであれば、本当にアイリーンさんにはなんと感謝を伝えればいいのか分からない。


「買ってこられました。お金、ありがとうございました。あとこれ、残りの分です」

「うん、ありがとうね。こんな感じでたくさん依頼こなしたらお金ももらえて、いっぱい手に入ったら、自分の欲しいものを自分で買えるようになるから、依頼頑張ろうね!」

「はい、頑張ります!」

依頼を受けて、たくさんお金が手に入ったら、魔法書も買えるようになるだろうか。後は必ずアイリーンさんになんかしらの形で返すのも、忘れないようにしなければ。

「うん!じゃあ今日は依頼も終わったし、教えてもらった食堂行ってご飯いっぱい食べて、ゆっくり休もっか!」




早速ガロンさんたちに教えてもらった食堂に行き、そこで十分な食事をとった。その後は、昨日と同じ宿へ向かい、それぞれ部屋で休むことになった。

宿の部屋では、もちろんアイリーンさんとは別になってしまう。一日中人と一緒にいると、なんかだか寂しくなるというよりは、虚しくなってしまう。現実ではほとんど一人で過ごしている時間が多いので、久々に人と過ごしたことで余計にそれを強く感じた。


そんな虚しさを埋めるように、僕は今日買った錬金術の本を開いてみることにした。

アイリーンさん曰く錬金術は魔道具起動の応用らしいが、その詳細は全くわからない。錬金術師という職業自体、ある物から別の物へと物体を変える、ぐらいのイメージしかなく、具体的なことは何も知らない。

にもかかわらず、魔法の練習ができるかもしれないという理由とその場の勢いに任せて決めてしまったのだった。

動機は曖昧でも、決めたことはしっかりやりきりたい。この本から何か学べることはないかと思い、その内容を確認してみる。


そこには、いつもの見たこともない文字が並んでいたが、その意味はスッと頭に入ってくる。読むことに支障はなさそうなので、一度ざっと最後まで確認してみる。

錬金術とは何かから始まり、錬金術の方法、何を作ることができるのかまで、分かりやすいかどうかは分からないが、錬金術に関する一から十までがこの本には書かれているようだ。

大体の内容がわかったため、次は最初から丁寧に読み返すことにする。まずは錬金術とは何か、について。


錬金術とは、魔法を利用して物体を別の物体へ変質させる魔法である。

錬金術の手順

1 物体に対応した魔法陣を描く

2 その魔法陣に魔力を流すようにして魔力による魔法陣を生成する。

3 魔法陣の上に素材となる物体を置き、魔法陣に魔力を流す。


本当に簡潔に、錬金術について書かれてある。初級と書いてあったし、僕みたいな初心者にも分かりやすいようにこのように書かれているのだろうか。もっと複雑な書かれ方をしているのかと思ったが、思っていたより簡単に書かれている。しかしここまでシンプルに書かれていると、逆に本当にこれでできるのだろうかという心配も同時に浮かんでくる。でもその時はその時だ。今は材料も無く実践のしようがないので、大体こんなものだと理解だけしておくことにしよう。

錬金術についてはざっくりとわかったので、次は作れるものについてみることにした。

どのような物を作るのかわからなかったたが、ここには様々な種類のポーション、爆発物、装備の作り方について書かれていた。

初級ということでその内容は多くはない。しかしそこにはそれぞれに対応する魔法陣や材料も書かれてありその内容は全く簡単には見えない。材料に至っては、聞いた事もないようなものも多い。こういったものは明日、アイリーンさんに聞いてみることにしよう。


その後も本を読み続け、気づけばかなりの時間が経ってしまった。

そろそろ眠くなってきてしまったのもあって、明日に備えるべくベッドに寝転がった。


今日もいろんなことがあった。冒険者になって、依頼に行って、魔物に襲われかけたかと思えば、ガロンさんたちと出会うことができた。…本当に、色々あった。

その中で、美味しい物を食べたし、痛みも感じた。今朝は否定しようとしたが、やはりこれは夢ではないのかもしれない。と、今ではそう思っている。

別にそうだとしても、きっと今寝てしまえばまた現実で目覚めるだろうし、現実に何か支障があるわけでもない。僕にどうにかすることができるわけでもない。

いまだに何故こんなことになっているのかは分からないし、その真偽は分からない。確かなのは、僕が「この世界にいる」ただそれだけで。僕はただそれを理解し、受け入れる。それとこの世界に入れ込みすぎないように気をつけることぐらいだ。

ここにいると、やりたいことや欲しいものが次々に浮かんでくる。現実ではそれを考えることすら怖くて仕方がなかったののに。

叶うならば、ずっとこの世界にいたいと心の底からそう思う。しかしきっと、寝て目が覚めてしまえばまたいつもの現実に戻っていることだろう。

今寝てしまえば、再びこの世界に来ることができるのかどうかすら確かではない。またあの真っ暗な現実に戻ってしまう。そんな不安が頭の中で渦巻く。しかしそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、眠気は襲ってくる。


眠りたくない。現実に戻りたくない。またこの世界で目覚めたい。


そうは思いつつも、疲れ切った僕が眠気に抗うことなどできるはずもなく、現実と正反対の願いをしながら、今日もまた眠りについたのだった。

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