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9 再び

目を覚ませばそこには、喜ばしい景色が広がっていた。

それは僕が夢だと思い込もうとした世界で、そこで最後に目にしていた景色と同じだった。これをみる限り、僕の願いは届いたらしい。しかしそれはあくまで願いであって、自分でもまさか本当に同じ夢が見られるとは思っていなかったので若干困惑する。

これは前の夢の続き、ということでいいのだろうか。


すると扉の方からノック音と共に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おはよう。トーマ君起きてる?もし起きてたらご飯食べに行かない?」

アイリーンさんの声だった。特に起きる時間などは決めていなかったので、起こしにきてくれたようだ。タイミングよく目が覚めることができてよかった。

「おはようございます。わかりました、すぐ行きます」

「急がなくていいから大丈夫だよ。私は先に下で待ってるね」

そう言って足音が遠ざかっていき、僕は部屋に一人になる。

アイリーンさんがいて、目の前には昨日と同じ光景がある。違和感ひとつなく、前の夢と繋がっている。深く考えようとすればするほど、この夢についての疑問は深まっていくばかりだ。しかしこのままにしているわけにもいかないので、とりあえずアイリーンさんのもとに向かうことにする。



簡単な身支度を済ませて、宿の一階へ降りると宿に付いている食堂で既にアイリーンさんが座って待っていた。

「おはよう。昨日はよく眠れた?」

「はい。自分で思っていたよりも疲れていたようで、ぐっすり眠れました。おかげで疲れもすっかりとれてます」

「それは良かった!今日はあまり移動する予定はないけど、疲れが溜まり過ぎるのも良くないからね」

アイリーンさんは相変わらずの様子で、まだ朝だというのにとても元気が良さそうに見える。同時に、その様子が前と変わらないことに少し安心感を覚える。

既にテーブルに置いてあった朝食は、パンふた切れにスープと前に比べて軽めだが、朝食であればこんなものだろう。むしろ朝食はいつも食パン一枚であった僕にとってはこっちの方が少し豪華に感じるぐらいだ。

アイリーンさんとちょっとした雑談をしながら朝食に手をつける。口に入れてみれば、それはしっかり味がした。本当にこれが夢であると、再び信じられなくなるぐらいにその感覚ははっきりとしていた。

これじゃ昨日、僕が現実世界で感じたことの繰り返しだ。あっちの世界もこっちの世界も一つ一つの感覚がリアルで、僕がその時いる世界が現実に思えてしまう。でも、昨日結論づけたじゃないか。ここは現実じゃなくてただの夢だと。いつか覚めてしまう。それを理解していないと、なんだかいずれ痛い目を見る気がした。

だからいまだ残り続ける数々の疑問は、そういうものだと思って受け流すしかない。


「ねぇ大丈夫?…やっぱ疲れてるんじゃない?」

アイリーンさんが僕の考え込んだ顔を気にしてか、そう声をかけてくれた。

「全然疲れてないですよ、疲れて見えましたか?」

「うん。なんか心ここに在らず、って感じに見えたから大丈夫かなと思って」

しまった。顔に出てしまっていたのだろうか。あまりアイリーンさんには心配をかけたくないんだけどな。

「もしかしたら気づいてないだけで、少し疲れているのかもしれません。でも大丈夫です。今の所元気なので。それよりも、この後はすぐにギルドに行くですか?」

心配をかけまいと僕は笑って誤魔化し、話を切り替える。アイリーンさんはまだ完全には納得できていなさそうだったが、僕が否定したためそれ以上聞いてくることはなく、質問に答えてくれた。

「うん、その予定。だけどその前に…」

アイリーンさんは持っていたスプーンを置いて、どこか得意げにそう言う。

「今から先輩が、冒険者について詳しく教えてあげよう」

と、その流れでアイリーンさんに冒険者になる上で必要な知識を簡単に教えてもらうことになった。



「———まず最初に、冒険者っていうのは冒険者ギルドに所属する人たちのこと。ギルドに所属した冒険者たちはランクによって分けられていて、Gランクから始まってSが最高ランクね。このランクっていうのは依頼を受ける上で大事なんだ。冒険者達はギルドからの依頼を受けることでお金を稼いでいるんだけど、受けれられる依頼は、自分のランク以下の依頼だけ。上のランクに上がりたいときは、ギルドに申請してランク昇格用の依頼を受けなないといけないよ。…ここまでで何か聞きたいことある?」

「…一つだけ。あの、ランクを上げるメリットって何かあるんですか?」

「あるよ。例えば、国にもよるけど国や街に入るときの税の一部免除とか。私みたいに各国を旅してるとそう言うのもかかるから便利かな。冒険者ってだけである程度は免除されるけど、上がれば上がるほど負担は少なくなるよ。あとは、単純にランクが上がれば依頼の難易度も上がるけど、その分もらえるお金も多くなる、くらいかな」

なるほど。ここら辺はありがちな仕組みだったので問題なく話が入ってきた。にしても、国に入るには税を払わなければならないのは知らなかった。こういう部分まで現実的なんだなこの世界は。という事は、

「もしかしてこの街に入るとき、僕の分まで税を払ってくれたんですか?」

「気づいた?あまり気にしてほしくなくて言わなかっただけだから、気にしないでいいからね」

「いえその、ありがとうございます。気を遣ってくれたり、お金を代わりに払ってもらったり」

知ったからには、遠慮ではなくしっかりとお礼を伝えなければいけない。

「全然いいんだよ。ふふっ、…でもやっぱりトーマ君はいい子だね」

アイリーンさんはそう言ってくれるが、僕からしてみればそう言ったことを平然とやってのけるアイリーンさんの方が良い人に見える。対して僕は感謝を伝えただけで、何もできていない。

「まぁそれは置いとくとして、これが今日の本題ね!冒険者は登録するときに職業を選ぶ必要があるの。職業っていう風に言われて入るけど、冒険者内での役割って言った方がわかりやすいかな。で、今日この後ギルドに行ったら、トーマ君にどれにするか考えてもらうことになるから、簡単に説明だけしとくね」

「は、はい」

職業か…全く考えてなかったけれど、冒険者なら必要だよな。ギルドも目的もできることもはっきりしないので人物を、冒険者と認められないだろうし。

「職業は剣士、魔法使い、薬師とか色々あって、大きく戦闘系か補助系かに分かれてるよ。ギルドで一覧はわかると思うから、詳細はギルドで確認しよっか。あと、一応後々変えることもできるから、とりあえず勢いで決めちゃっても大丈夫。これは得意分野みたいなものだしね。知ってると思うけど、私の職業は戦闘系の剣士だね」

普段から運動していないため、戦闘系は向いてなさそうだ。中でも、武器を扱うようなものは僕には到底できる気がしない。やろうと思っても時間がかかりすぎてしまう。でも、1番気になっているのは、もちろん魔法使いだけれど、アイリーンさんの話によれば魔法は全員が扱えるわけではないらしいし、だとすれば僕にも使えるか分からない。

どうしても気になったので、この機会に魔法について詳しく聞いておくことにする。

「あの、少し話が脱線するんですけど、魔法ってどうやったら扱えますか?」

「お、もしかして魔法使いに興味湧いてる?」

「はい。なんか面白そうだと思って」

「確かに、魔法って不思議で面白いよね。…私は魔法の専門知識は持ってないからあまり詳しくは説明できないから、基本的なことだけ教えるね。

魔法において人間は大きく四つに分けることができるの。魔力を全く扱えない人、大気中にある魔力を利用して、魔道具を使えるぐらいの小さな魔力を扱うことができる人、同様にして攻撃魔法などを発動できる所謂魔法使い、そして体内に魔力を溜め込んで、それを自由に操る魔人と呼ばれる人達。私みたいに魔道具を扱えるぐらいの人はそれなりにいるけど、それを利用して魔法を発動できる魔法使いは少ないの。そして魔人はそれよりも少なくて、魔法使いの中でも上積みに当たる存在。これは余談だけど、魔人は普通の人間と違って、魔力がその身体に影響を及ぼしていることで、長命らしくて、別格の存在なんだって。…だいたいこんな感じかな」

魔法使い、魔人、それ以外。魔法に関しては、僕が思っていたよりも複雑なようだ。魔人というのもなんだかすごそうだ。いつか会ってみたいものだ。

にしても魔法を扱える人って本当に少ないんだな。せっかく異世界に来たのだから、かっこいい魔法を使って戦う、なんてのを少し期待していたけれど、そう簡単にはいかなさそうだ。もしかすると、僕には魔法の才能がない可能性だってある。

ここまで都合のいい夢を見ておいてなんだが、夢なら魔法ぐらいは使わせてほしい。頼むから僕にも使えるようであってほしい。

「魔力の扱いは完全にその人のセンスとか体質によるもので、努力して鍛えようと思ってできるものじゃないんだよね。私も魔道具止まりだし。…あっ、そうだ!魔法興味あるんでしょ?だったら今からトーマ君がどのぐらい魔法使えるのか試してみよう!」

「えっ、一体どうやって…」

「私は魔法を扱えないから詳しいやり方はわからないけど、魔力を溜めて起動させる魔道具の扱い方は知ってる。だからそれで試してみよう。結界を開くとなるとここじゃスペースが足りないから、外に出てからね。じゃあ私荷物まとめてくるからここで待ってて!」

そう言ってアイリーンさんは足早に自分の荷物を取りに行った。本当に一つ一つの行動が早い。

対して僕は、自分のことだというのに消極的になってしまっている。なぜなら僕の中で魔法への期待度が高いために、ここで挫折したら結構なショックを受けそうで、挑戦することに対して億劫になるになっているからだ。

しかし、やってみないと分からない。ここまでくれば、流れに身を任せてやっておかないと。



やがてアイリーンさんが戻ってきて、僕たちは宿の外にあった広めの場所で検証することにした。

「はい、これ」

アイリーンさんから前に見せてもらった結界玉を手渡される。相変わらず見ても触っても、綺麗なビー玉という印象しか浮かばない。これが今から結界を出すなんて、言われなければ絶対にわからないだろう。

「ど、どうしたらいいんでしょうか」

「そんな緊張しないで大丈夫だよ。まずは、そうだね。最初だし両手がいいかな?両手で結界玉を包むようにしてみて。そう、そんな感じ。そしたら、結界玉に意識を強く集中させて」

言われた通りにしてみるが、まだピンとこない。本当にこれで大丈夫なのだろうか?いや、そもそも僕にはできないんじゃないか?

「余計なこと考えちゃダメだからね。今はただ、手の中の結界玉だけのことを考えて」

考え事であったはずなのに、間髪入れずにそう言われる。そうだ、無駄な考え事は捨てるんだ。大丈夫、きっとできる。

「魔力を使おうとするんじゃなくて、魔力を誘導させる感じ。外から内に、結界玉に流し込むようなイメージで力を込めてみて」

外から内に、空気中の魔力を誘導……。流れ、水のようなイメージだろうか?手に水が汲まれていて、それを結界玉に流し込む感じで……。



しばらくすると、ブゥンと音がした。瞬間僕たちの周りには、結界が現れた。


「これは成功、でしょうか……?」

いまだに実感が湧かずに確認を取る。

「…みたい、だね。……すごい、すごいよこれ!まさかこんなにすぐできちゃうなんて!」

最初はアイリーンさんも驚きで固まっていたが、すぐに満面の笑みを浮かべて僕の肩を叩いた。

僕もようやく実感が湧き、興奮と嬉しさで自然と笑みが溢れた。

「…できた!本当にできたんだ…」

「本当にすごいよ。思ったよりも早くてかなり驚いてるよ。最初は空気中の魔力の流れとか、それを扱う感覚になれるのに時間かかるんだけどな。もしかしたらトーマ君、魔法の才能があるのかもね!」

完全に直感だけでやったので、どうやってやったのかを言葉で説明するのは難しい。けれど、よくわからないまま本当にできてしまった。

感覚を覚えているうちに、もう一度さっきと同じように手に力を込めて結界を閉じる。まだその動作には数十秒はかかってしまうが、最初にしてはいい方らしい。

「もうやり方はしっかり分かってるみたいだね。慣れてきたら一瞬でできるようになると思うけど、トーマ君ならすぐできちゃいそうだね」

最初は不安だったが、かなり良い結果でよかった。ひとまず、魔道具を扱えるぐらいではあることがわかったことを嬉しく思う。

そうして無事検証を終え、今日の一番の目的であったギルドへと向かうことになった。



ギルドについてすぐ、僕たちは受付の人の元へ行き冒険者登録を行なった。

一応アイリーンさんにもその場に一緒にいてもらうことになったが、流石に自分のことぐらいは自分でやらなければいけないので、少し緊張しながらも受付の女性へ登録の申請をしたいと伝える。

「わかりました。冒険者登録ですね。ではまずこちらの水晶に手をかざしていただけますか?」

「はい。わかりました」

また水晶だ。おそらくこれも魔道具だろうけれど、今度は何をみるための物なんだろうか。疑問に思いながらも言われた通り、手をかざした。

「もう手を離していただいて大丈夫ですよ。犯罪歴もないようなので、冒険者登録のための手続きを始めさせていただきますね」

なるほど、これで犯罪歴がないかを確認しているのか。相変わらずその仕組みは謎だが、すごい技術なのはどれも変わらない。身分証にもなるというのに、こんなに簡単でいいのかと思っていたけれどこうやって確認できるからだったんだな。

「では前提として、任務中に負傷または死亡した場合、ギルドは一切の責任を負わず、自己責任となります。同意いただけるのであればこちらに名前と年齢の記入をお願いします」

当たり前のことだが、実際にこう言われると冒険者はそういった怪我や死とも隣り合わせであることを再認識させられる。しかしそれも含めて冒険者になることを覚悟したので、今更怖気付くこともしない。

言われた内容に了承し、ペンを握る。ここでもまた、なぜか見たこともない文字が書けてしまう。試しにカタカナで書いてみようとしたら、実際書かれたのはこのよく分からない文字だった。不思議だけれど、その理由は僕にすら分からないので気にしないようにするしかない。

これで、「トーマ」って書くんだな。これぐらいは自分で理解できるように覚えておくようにしよう。

「では次に、職業は既に決まっていますか?もし決まっていなければ、こちらを参考にしてください」

一枚の紙が手渡され、そこには「冒険者ギルド 一般職業一覧」と書かれていた。見れば、内容は大きく戦闘系、補助系に分かれていたが、僕に戦闘系は向いていなさそうなので補助系の中から比較的始めやすそうなものを選ぶことにした。魔法使いをやってみたいと思っていたが、習得に時間がかかりそうだし、自分がどのぐらい魔法を扱うことができるのかも確かではない。それにアイリーンさんも魔法は専門外で教えることができないと言っていたので、ここは一旦別のものを選ぶことにするとしよう。

補助系に絞っても結構数があったが、数ある中でひとつ目についたものがあった。

「アイリーンさん、錬金術師ってどんな職業なんですか?」

錬金術師といえば物を生み出すイメージだが、ここで想像と違ったなんてことになってしまうのは良くないので一応聞いておく。

「錬金術師は、魔法を利用して物体の錬成をする職業だよ。例で言うと、薬草からポーションとか。もちろん腕を上げればそれ以上のものも作れるようになるよ。魔道具を扱う方法の応用みたいなものだから、トーマ君ならできると思うよ」

さっきの魔法の応用。それなら魔法に慣れつつ、即戦力とまではいかないが何かしらの役割を持つことはできそうだ。じゃあ、これにすることにしよう。

「決めました。錬金術師にします。」

「かしこまりました。ではそのように登録させていただきますね。では最後に、こちらのギルドカードに血を一滴垂らしてください」

そう言って受付の人が針を渡してきた。自分で自分を傷つけることはなかったので少し緊張したが、小さく決心して自分の指に針を刺した。ツンとした痛みが指先に走ったが、思っていたほどではなかった。

というより、痛いということは、やっぱりこれは現実…。

一瞬そのことが頭をよぎったが、この手のことは考えると止まらなくなってしまうので今は考えないようにしよう。

「それではこれで登録完了になります。2ヶ月以上依頼を受けなかった場合、こちら側で除名とさせていただきますので注意してくださいね。では、よい旅を」

ギルドカードを受け取り、これにて僕の冒険者登録がされた。今この瞬間より、僕は冒険者となったのだ。まだその実感は湧かないが、この一枚のカードがそのことを証明してくれている。冒険者登録にもお金が必要だったが、ここもアイリーンさんに支払ってもらった。自分でお金を稼いだら全部返そう。今まで払ってもらった分全部。

「これで今日からトーマ君も冒険者だね」

「はい、ここまで手助けしてくださってありがとうございました。そして、これからよろしくお願いします。アイリーンさんの助けになれるように頑張ります」

「うん、よろしくね。まああんまり気を詰めすぎず、いろんな場所行って、のんびり旅していこうね」


そうして僕の冒険者登録も終わり、今日の目的を達成することができた。

もう一度この世界を見て、いまだ疑問は深まるばかりだけれど、不思議と不安な気持ちは薄れ始めていっていた。とりあえず今日もまだ、この夢を見続けることにしよう。


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