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第3話「外道、同担拒否!」

 言い争っているのは自分と同学年(男子はネクタイ、女子はリボンタイの色でわかる)の生徒たちのようだ。

 身体が大きい金髪金瞳の少年が囲まれている。


「ちょっと不穏な空気ですね」


 私がそう言うと、視線の先の集団が騒がしくなった。


「何度でもいってやるぜ、てめぇの研究なんざ石ころと大差ない!」

「そんなことはない! おらの研究は、人の役に立ち、杖になるだ!」


 背の低い方が、背の高い方を罵っている。


「はっ! 分不相応なんだよ! 田舎者のお前が、魔術の深淵に触れられるものか!」

「関係なーよ!」


 背の高い方は訛りがある口調で、男子に言い返していた。


「口で言ってもわからない田舎者が……」


 剣呑な雰囲気になったのを見て、私は集団に割って入ることにした。


「天知る地知る推しを知る。他人(ひと)の好さ知り良さを推す。人それを、推し道という!」


 まずは注目を集める。これは以前の神事(ライブ)で精霊たちにやったのと同じ。そして流れを作る。


「なんだ? てめぇは。外野は……」


 次に大事なのは流れを相手に渡さないこと。

 つまり! 相手と! 会話しない!


「他人の悪しきを推し、あげへつらい、嘲笑う。人これを外道という!」

「はぁ? 突然何言ってやがる!」

 

 馬鹿め! 私のこれらの発言に意味などない!

 すっかりペースを私に握られた少年は、何とか威勢を保っていたが、たじたじであった。


「その外道、同担拒否させていただきます!」


 適当な大見得を切ると、その場の全員がぽかんとする。掴みは完璧といえよう。

 そこで私は適当な方向に向かって、大きな声をあげた。


「せんせぇ~! こっちですぅ!」

「はっ……時間稼ぎか! おい、お前ら、いくぞ!」


 時間稼ぎだなんて、頭が回るやつだな。残念だがそこまでの考えはないよ。

 背の高い男子に噛みついていた主犯格っぽい少年が取り巻きに声をかけ、足早にその場を後にした。

 取り巻きたちも尻尾を巻いて退散したところで、アセ様が聞いてくる。


「先生なんて……いったいいつ?」

「いえ、呼んでませんけど」


 アセ様ずっと一緒だったじゃないですか。無理ですよ。

 そんな視線を投げると、アセ様は呆れたような顔をした。

 

「彼らが逃げなければどうするんだ……」

「ぴかぴか魔法で目を眩ませて、2人の手を引いて走って逃げるつもりでした」


 前世でいう、閃光手榴弾くらいの光量なら余裕でいける。光るだけってそんなに魔力がいらないし、物理的にどうこうするわけでもないので。でも、音もないと人ってそんなに怯まないんだっけ?

 アセ様が私の作戦を聞いて顔を引きつらせていた。落ち着いたところで、金髪男子が近づいてきた。


「すんごいお嬢様だぁ……えと、助けていただき、どーも」


 頭を下げてきた金髪男子に笑顔を返す。


「何事もなくてよかったです。私はシャーデー・オースター。よろしく」

「おら、プルーデンス・アンバスタフ。好きに呼んでぐれ」

「そうですか、プル君!」


 アセ様が、私が金髪男子をプル君と呼んだことで、何か言いたげな顔をしたが、私は気づかないふりをした。

 なんですか、実に簡単に気やすい呼び方にしたな、とか思ってるんですか! 王子と一緒にはできませんからね。私だってTPOくらい知ってますから!


「そっちは……隣の王子様でねか! どーも」


 慌てた様子でプル君が丁寧に頭を下げる。


「アンバスタフは、我が国との国境線を守る辺境伯であったな。よろしく頼む。アセイアと気安く呼んでくれ」

「そんな気安くは呼べねぇだよ……アセイア様」


 だよね! よくわかるよ!

 ちょっとした親近感をわきつつ、私は先ほど囲まれていた理由を尋ねることにした。


「なんで口論してたの?」

「理由はわがんね。向こうが突っかかってきてな。どうもおらが宮廷魔導士になってんのが嫌なんだと。おらは人の役に立つ道具が作りてぇだけなのによ……」

 

「魔道具……そういえば、アンバスタフの家から、魔道具を作り出した功績で宮廷魔導士になった者がいたと聞いたが……?」


「そら、おらのことだよ。あんちゃんが家さ継ぐんで、独り立ちできるよう、頑張ったんだぁ」


 頑張ったらなれるものかな? エリート度合いで言えば、宮廷魔導士というのは国立大学の中でも難関な部類に合格するレベルである。


「魔道具制作のプロって、ことぉ!?」

「そう言われんのは、なんか……」


 とプル君が照れたように頭をかく。


「ねぇ、音響の魔道具って作れるかな!? 相談に乗ってくれる!?」


 私は思いついたことを口にしていた。昨日のライブで感じた、音楽の弱さ。

 音響関係の道具があれば、それを解決できるかもしれない。いずれ着手したいと思っていたが、こんなところに解決の糸口が転がっていたとは。


「お、おんきょう……?」


 プル君と、話を聞いていたアセ様が、いったいなんの話だろう、と首を傾げた。

 私は二人に説明しようと指を立てるが、その時、昼休みの終わりを告げる鐘がなる。


「あぁ~! 時間が! ごめんね、放課後時間あるかな! 自習室に集合で!」

「お、おう。ながなが、強引な子だな……」

「アセ様も、話の続きは放課後の自習室で!」

「そうだな。ちゃんと時間が取れるタイミングで話すのが良さそうだ」


 三人でそんな約束をして、次の授業のために、各々教室へと向かった。

 うーん。お昼ご飯食べ損ねた~!


 多少の空腹を抱えつつ迎えた午後の授業は実技だった。

 実技と言うと普通はどういったものを思い浮かべるだろう? 音楽、体育、美術などだろうか。

 この世界で実技、というと一番に来るのは、魔法、武術である。これは、学園では精霊に認められることを目的にしており、一番反応がよいのがその二つである、というのと、瘴気から現れる魔物と呼ばれる存在と戦う、という実戦が存在するためだ。

 

 魔法、武術といった、わかりやすい強さ。それを磨くため、学園では積極的に実戦的な試合形式で生徒同士を競わせているみたい。


 神事でも使用した祭事服に着替えて、魔法用の杖か、武術用の木製武器──木剣か穂先代わりに布が巻かれた槍が主流──を持って訓練場に集まる。ここには訓練を行うための的や木製の打ち込み台、トレーニング器具、試合用スペースなどがある。

 今日は少数が先生の監視の元で試合スペースで模擬戦をしつつ、残りは好きに訓練するようだ。

 

 私の視線の先では、かなり広い四角い舞台のようになっている試合スペースで、2人の少年が互いに木剣を持って模擬戦をしていた。


「はっ! その程度かよ!」


 威勢よく押しているのは赤髪赤目の小柄な少年。すばしっこさを生かして翻弄している。体格から言って、赤髪の男子はパワー負けしそうなものだけど、正面から打ち合わないようにしている。それ自体は自分の持つ有利不利を上手く使い分けていると言えるんだけど……


「おらっ!」

「くっ……」


 超近距離での打ち合いを嫌がった対戦相手が、距離を取ろうとしたところ、赤髪の男子が足を踏んでこれを妨害、さらに柄を相手の空いた胴に叩き込んだ。


「ぐっ……!」

「勝者、マドック・ラスティレード!」


 審判をしていた先生が宣言し、膝を付いた対戦相手を、赤髪の男子──マドック君が剣を担ぎながら見下ろす。

 対戦相手は、打たれた脇を抑えつつ、苦々しげにマドック君に吐き捨てた。


「くそ、卑怯者が……! お前の強さなんて、精霊が認めるはずがない……!」

「はっ、なら、オレに勝って証明してみせろよ!」


 嘲笑うマドック君。対戦相手は友人に肩を貸されながら試合スペースから離れた。

 うーん。あんまり良い流れじゃないな。


「もうオレの相手はいねぇのか?」


 誰も手をあげようとしない。今の試合を見る限り、マドック君が純粋に強い、というのがわかるし、何より不要な怪我をしそうで嫌だ、という雰囲気があった。

 私はその空気感を割いて手をあげる。


「いるわ! ここに一人ね!」


 ぎょっとするアセ様の横で、私がそう宣言した。

 立候補したのは何でもない。これからのアイドル活動に、彼のような思想が増えると厄介だなと感じたからだ。

 

「ち、女かよ……」

「怖い? あなたの強さ、その程度かしら」

「……言ったな。後で泣いても、知らねえからな。お前に真の強さってのを教えてやる」


 私はそれを鼻で笑った。


「あはっ」

「……」

 

 言葉にはしなかったが、あんなのが? という宣戦布告はしっかりと伝わったようだ。

 今にも嚙み殺すと言わんばかりの顔で、試合スペース入りする彼に、私は悠然と、対面側に向かう。


「プロデューサー……!」

「ふふん、見ていてください。瞬き厳禁ですよ?」


 アセ様の心配の声をそっと抑える。

 瞬殺する、とも取れる私の発言にマドック君がさらに睨みつけた。瞬き一つするもんかと、一挙手一投足を食い入るように見るほど、こちらに入れ込んでいる。

 私は開始線の前に、杖も構えずに立った。

 不安そうな担任が、手を挙げて宣言した。


「両者、構えて。……はじめ!」


 マドック君が開始の挨拶と同時に駆け出す。

 私は、そのマドック君の眼前に、魔法で光る球体を出した。入れ込んでいた彼は、その魔法がどんなものか見極めるために注視した。何が起こっても対処できるように。それが罠だと気付かずに。

 カッ! と閃光が瞬き周囲を昼間以上の明るさで照らす。


「ぬぁぁぁっ!?」


 マドック君が手で眼を抑える。私はそこに、光の魔法で光条を作り出し、彼を打ち据えた。


「ぎゃんっ!?」


 マドックが私のしょっぱい光魔法を受けて地面を転がり、試合スペースから落ちた。場外勝ちだ。


「しょ……勝者、シャーデー・オースター!」

「勝ちっっ!」


 私は手を挙げて勝どきを上げた。同じく眼をやられていた観客たちも、呆然として私たちの方を見ている。

 

「ま、まだだ! こんなの認められるか!」

「いいですよ。もう一回しましょうか。先生、お願いします」


 マドック君の負け犬の遠吠えに、私は鷹揚に返した。


「オースターさんが認めるのであれば……いいでしょう」


 先生の許可もおり、ものすごく警戒した様子で、マドック君が構えを取った。


「両者、構えて。……はじめ!」


 先生の宣言と同時、再び弾かれたように走りだした。速攻、好きだねぇ。

 木剣の構えを顔付近にして、閃光を防ごうとしている。しかし残念。今度は閃光を使ったりしません。


「取った!」


 瞬時に間合いを詰めたマドックくんが、木剣を振るう。

 あまりの速さに、私はろくな反応もできない。一瞬で決着だろう。

 

「残念。そこにはいないよ」


 振るった木剣の先に、私がちゃんといたなら、の話だけど。

 マドックくんが木剣をあてたのは、私が作っておいた幻影だ。私は一歩下がった位置に構えて、同じく幻影で姿を隠していた。

 搔き消える幻影に驚くマドック君に、私は先ほどと同じように光条を放った。彼は試合スペースから落ちた。


「ぎゃんっ!」

「勝者、シャーデー・オースター!」

「勝ちっ!」


 私は勝どきを上げる。周囲の空気が冷めているのを感じているが、私は一向に構わなかった。


「どう? まだやる?」

「やるに……決まってんだろ! こんな手ばかり使いやがって……! オレはお前なんかに負けてられないんだよっ!」


 試合スペースによじ登ってきたマドック君が言う。

 何か勝ちたい理由があるんだろう。弱いとはいえ私の魔法を直撃しているので、だいぶ疲労感が強いマドック君だったが、威勢は衰えていない。


「その意気やよし!」

「もう一度、ですか? 両者、構えて」


 先生ももう良いのでは? という雰囲気であったが、渋々用意してくれた。私は今日初めて、まともに杖を構える。

 マドック君もしっかりと剣を構えた。腰の位置が高い。恐らく、今度は速攻はせず、様子見するのだろう。


「始め!」


 そこで私は、身を翻して一目散に駆け出した。そう、逃げたのである。


「な……はぁ!?」


 焦ったように前に出てくるマドック君を、ちらりと確認した私は、勢いが乗ったマドック君の背後から、光条を打ち出す。開始位置に予め仕込んでおいた魔法陣が輝き、光がマドック君の背を押した。


「なな、なぁ!?」


 私はひょいっと位置をずらし、勢いをつけてすっとんでいくマドック君を見送る。試合スペースから、マドック君は放りだされた。


「場外! シャーデー・オースターの勝利です!」


 呆然とするマドック君に、手を挙げた先生がそう高らかに宣言した。


「勝ちました!」


 拳を突き上げる私を、一段低い位置から、呆れたように見上げるアセ様。なんですか。勝ちは勝ちですよ。


「プロデューサー……もう少し……手心を加えるとか」

 

 非常に言い回しに気を使いつつ、アセ様が私に言った。


「手加減なんて無理ですよ。あれが私の全力です。正面からやったら100回やっても勝てません」


 全力で卑怯に割り振ったから勝てたのである。攻撃タイミングなどが良かったために、先生が有効である、と判断しただけで、実際はほとんど効いてないのが、未だ元気なマドック君から見て取れる。

 と、それは良いとして、彼には大事な話がある。私は競技場から見下ろしつつ言い放った。


「わかりましたか、マドックくん! 強さとは、初見殺し!! 見たこともない攻撃で、相手の意識外からぶん殴り、確実に止めを刺すことである!!」

「言わんとしていることは、わかりますけどね……」

 

 先生が小さく、困ったような声で抗議する。

 いや、わかってますよ、先生。ちゃんと細かく言えば、見たことがある攻撃だって、意識外からやる工夫だってある。ここまで卑怯一辺倒にやる必要は本来無い。しかし、そんな談義がしたい訳ではないため、私はあえて声を大にして言った。

 ディベートとは、大声で相手を封殺することである。 


「つまり、勝てば何をしてもよかろうなのだ!!」

「そんなこと……! 精霊が認めるもんかっ!」


 私はマドック君に近づいて彼の目を見て言った。

「そりゃ、そうですよ」

「なっ……」


 誰が見ても卑怯だし。面白くないし。かっこよくないし。今、精霊が好きな武術ジャンルはかっこいい武術だろうと予測している。今やった私の戦い方は全て、そこから外れる地味で卑劣な戦い方だ。


「私の戦い方。本当の戦場では必須な心構えかとは思いますけどね。でも、精霊が好む戦いって、正々堂々とか優美~とかそんな感じじゃないですか」


 心当たりがあるのか、大人しく聞くマドックに私は続ける。


「私のはたぶん好まれないですね。なので、勝っても認めてもらえないと思います」

「なら……!」

「でも、あなたの行き着く先も同じですよね? 勝ちさえすれば、何してもいい」

「……」


 マドック君が唖然とした。気づいたのだろう。先の模擬戦では、マドック君は対戦相手に卑怯だと言われていた。

 多かれ少なかれ、自分の行き着く先が、そう言った形になると。勝つために、何でもする。何をしてもいい。そんな形の行き着く果ては、恥も外聞もない卑怯な手を使った、戦いと呼べないようなものになる。

 マドック君は現状この詭弁を言い負かせるだけのものが、自分の中にないと理解したはずだ。


「けど、オレは強くならないといけないんだ……! 親父のためにも……!」

「ふぅん……精霊に認められる力が欲しいですか? なら、放課後自習室にきてください」


 私は勝利者の余裕の笑みを浮かべ、マドック君に悪魔の耳打ちをした。

 くくく、君もアイドル道に堕ちるがいいっ!


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