第26話「私なりの推し活」
王都の守りを内側から崩すため、瘴気を王都に満ちさせた。
あとは魔物を使って、神の封印を物理的に破るだけ。
そのはずであったのに。
『ば、ばかな……』
瘴気が満ちた王都の中では、精霊は弱るはずであったが、強力な魔法が撃ちだされ、集まった魔物があっという間に一掃されてしまった。
『あと一歩、あの方の復活まで、あと一歩のところで……!
それも、突如として現れた、巨大な少女の姿によって。
『誰だ……あの人間は……!』
『シャーディー!』
魔物を退けたためか、人間の歓声が聞こえる。
『シャーディ……? 脆弱な人間が……』
邪霊の視線が、巨大なシャーディの姿に固定された。
繋がれた精霊たちから魔力を吸い上げ、魔法を撃ちだす。
巨大なシャーディを光が撃ち抜くが、光は王都の建物を崩すに留まった。
『光の幻影……虚仮威し程度で!』
邪霊は怒りのままに叫んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『本体を倒してしまえば、幻影など!』
「じゃ、邪霊だ! こっちにくるぞ!」
避難してきた街の人が空を指さす。
「!」
6枚羽根の精霊……邪霊がこっちに向かってくる。私が本体だって気づかれたんだ!
幻影の方の手で追い払おうとしてみるが、気にせずに向かってくる。
『ぎゃ!?』
幻影を避けようともしなかった邪霊が、実態がないはずの幻影にべしっとはたきおとされた。
「あれ?!」
これは私にとっても意外だったが、精霊たちの方から、『ヤッター!』という思念が届く。どうやら、精霊たちが私の幻影に合わせて魔法を使ったらしい。
『どこまでも舐めやがって……!』
邪霊はもう、取り繕っている余裕もないようで、こちらに敵意をむき出しにしていた。今度は幻影にも注意しつつ、精霊たちの魔法を避けてこちらに向かってくる。
『死ねぇ!』
人が集まる私たちのところに、魔法が撃ち込まれたが、ライブに集まってきていた精霊たちが障壁を作り、邪霊の魔法を防いだ。
「どうしてこんなことするの!?」
『どうして、だと……?』
私が思わず邪霊に向かってそう叫ぶと、邪霊が動きを止めた。
『あの方に生み出された創造物でありながら、それ忘れた者どもが……!』
怒りに震える邪霊。
『愚かな人間を滅ぼすことは、女神様の思し召しなのだ!!』
この場の人間全てに聞こえるように、邪霊が頭に響くような思念を、悲痛な叫びのように私たちに叩きつけた。
『人間は争いを止めない……女神様はそれに疲れ、人間を滅ぼすとお決めになった』
私は衝撃の事実に固まるが、集まった精霊たちが、邪霊に反論した。
『神様、自分で封印に眠った!』『滅ぼす、やりすぎ!』『人間、そこまでじゃない!』
どうも、精霊たちの会話を繋げると、人間に怒った女神様は人間を滅ぼすと決めたらしい。
しかし、同時に自らこの地に封じられた。え、女神様って、この世界の創造主様ってことだよね……? 創造神が封じられてるの!?
あまりのスケールの話に、周囲の人間も困惑している。
私には抱えきれない話すぎる……!
『それは目覚めた女神様がお決めになることだ! 大人しく裁きを受けるがいい!』
邪霊が再び魔法を放ち、精霊たちがそれを防ぎ、反撃を始める。
『シャーディィィィ!』
邪霊が精霊たちが張ってくれていた障壁を破った。
『消えろッ!』
邪霊が魔法を放つ。
とっさに、アセ様が私をかばうように前に立つ。
周囲の精霊たちが慌てるも、間に合わない──
ドンッと軽い衝撃が、私と、壁になろうとしていたアセ様を押し倒した。
「う……」
私とアセ様を庇った人影。
「ミラース様……!?」
それは、魔法によって大きく背を焼かれ、血を流すミラース嬢の姿があった。
土煙が消えると、近くにマド君とプル君が倒れているのが見えた。彼らはダメージの回復を待って、起き上がろうとしている。
『まだ生きているか……!』
『だめー!』『させないー!』
精霊たちのおかげで、油断はできないが、まだ少し余裕がある。そう見た私は、ミラース嬢の様子を見る。
怪我の様子を見るため、手を出そうとしたところで、弱いが、はっきりとその手を跳ね除けられた。
「構いません」
息も絶え絶えで、立ち上がる力もない。しかし、目だけはしっかりと、私を見据えていた。
「わたくしは、間違えました。どうか、あなたは……成すべき、ことを」
ミラース嬢が意識を失った。私は近づいてきた生徒たちにミラース嬢を任せる。
「彼女を、お願いします」
運ばれるミラース嬢を見送る。
アセ様が私を立つのに手を貸してくれながら問いかける。
「シャーディ、どうする?」
私は少し悩んでから、
「何が正しいのか、私にはわからないけど……」
精霊が言っていることが正しいのかとか、人間が滅ぶべきーとか言われても、正直わからない。ミラース嬢に問われた、成すべきこと。それだって、私は持ち合わせていない。
「私は、精霊に楽しんで欲しい、それだけだよ」
なので、私は本心を口にした。アセ様に声をかけたときから、私はいつだって、楽しく、全力でやりきりたい。それだけだ。
「なら、俺たちで止めよう」
アセ様が私の手を取った。マド君、プル君が私に向かって頷く。
「プロデューサー、やっちまえ!」
「んだ! ぶちかましてやるだ!」
2人の声に笑顔を返す。
「俺たちが君を支える」
「……うん。やってみる!」
まだなんの解決策だってないが、アセ様の言葉から力をもらう。
今なら、なんだってできる気がする。
『僕も、使って』
アセ様の契約精霊が、姿を変えた。
「精霊が…!?」
「これは、剣か……?」
に、してはなんだか見慣れた感じがする。
(いや、これは、サイリウム!?)
光る大きなサイリウムが私の空いてる手に収まる。
試しに地面に当ててみるけど、やっぱり、斬れたり刺さったりしない。 剣ではないっぽい。
「剣ではないのか」
「渡されても、上手く使えないからいいけど……」
「なら、やることは一つだね」
「ああ」
アセ様が即座に返した。私はこの状況でも、それがどこかおかしくて笑う。
「慣れてきた?」
「この一年は、君のことばかりみていたからな」
「なら、精一杯魅せてやろう! 一緒に!」
「ああ!」
2人で短いワンフレーズを踊り、手を合わせ、サイリウムを握る。
「特大のぉ……ファンサービスッ!」
私はアセ様と一緒にサイリウムを邪霊に向けつつ、飛び切りのウィンクを放った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シャーディともう一人が何かを構えた。
次の瞬間、真っ白な光に当てられる。
『私は光の精霊だぞ……! こんなものが効くはずが……!?』
暖かな光の奔流は、かつて、女神様に抱かれていた懐かしい記憶が蘇る。
あの頃は、女神様はいつも、笑い合う精霊と人間の交流を慈しみのある笑顔を浮かべて見守っていた。
『やめろ……!』
これは、攻撃魔法ではないのだ。ただ、慈しみの光。失われたと思った、原初の信仰の光。
涙が溢れ、私は頭を振った。身体の中に沈殿していた負の感情が、光によって押し流されていく。
『創造神さま……!』
現状の身体を維持できなくなった私は、光に呑まれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
捕らえてした精霊だけを残して、邪霊は消え去った。
「消え……た……?」
全身から力が抜けて、私はその場にへたり込んだ。
瘴気は晴れ、快晴が広がっている。
邪霊が消えたとわかると、民衆からぽつぽつと、やがて大きな歓声があがった。
こうして、王都を襲った騒動は、幕を閉じた。
幕を閉じたといっても、その後は色々なことがあった。
邪霊によって伝わった創造神の真実は、王と大司教によって、邪霊の戯言であると喧伝された。民衆は誰もがそれを信じた。いや、誰も、信じたくなかったのかもしれない。
創造神が自分たちを見捨てている、なんて事実は。
数日後。一見変わらない日常が戻ってきたが、やっぱり変化はあった。
一番の変化は、神事に対する心構えのようなものだろうと思う。
精霊を楽しませるにはどうするか。私たちのライブの形を中心に、改めて神事の形を検討されることになった。
おかげで、学園は新しい風に活気づいている。ライブを真似ようとするものや、もっと新しい形は無いかと芸を考え、磨く者。さながら学園祭のような様相である。
正直に言えば、楽しい。みんな夢中になって、その熱が伝播していく様子を見るのは。
そして、最後にミラース嬢。彼女も大概色々なことがあったと思う。
邪霊と呼ばれた精霊と契約を交わしていた彼女は、罪にこそ問われなかったが、王子との婚約が正式に破棄となり、彼女の家もこの件を機に大きく社交での影響力を失った。
私を庇った怪我の後遺症が背に残り、大きな傷跡が残った。自慢だった髪も、激しく痛んでいたようで、今は肩口でバッサリと切りそろえてショートカットになっている。
王様の差配で罪には問われなかったけど、学校内で、彼女のことは触れられない話題となって、今はクラスで避けられ、浮いている状態だった。
それでも、彼女は背筋を伸ばして、授業を受けている。
「ミラース様」
放課後、学園の廊下で、私はいつものメンバーを伴ってミラース嬢に声をかけた。
振り向いた彼女がこちらを認識すると、僅かに眉を顰める。
「何か? それと、わたくしに対して、様付けは結構です」
以前とはどこか違う、素の彼女なんだと感じる。
「そう? じゃあ、ジェーンって呼ぶね。少し、お話したいと思って」
「わたくしに、構わない方がいいのでは?」
「優しいんだね」
「そうじゃありません。今、あなたは時の人。私のようなキズ者と付き合うべきではない、と言っているのです」
突き放すような言葉だが、彼女の気遣いを感じる。
「ん~賢い人間なら、それがいいのかも」
「なら……」
「だけど断る!」
そんなの私じゃないから。
なので、今日は抱えてきた言葉を彼女に投げかけることにした。
「私と一緒に、お仕事しない?」
「はい?」
にこにこ笑顔の私に、心底驚いた様子のイマージェン。
アセ様やマド君、プル君に対しても目線を投げかける。
「……プロデューサーがそう言っているからな」
「うちらの方針だからな。慣れた方がいい」
「んだ。考えるだけ無駄だべ」
ちょっと酷くない? 特に最後。
「……何故、わたくしを?」
「あなたが最初に、私に対抗してきたから」
彼女だけだったからだ。ライブという新しい風に対して、素早く順応してきたのは。
「自分なりの形に落とし込んだのがあなたが最初だった。ただ真似するだけなら、きっと私たちに負ける、そう思ったからこその歌唱」
でしょ? と、確認すると、ジェーンが驚く。
「一番分析ができてると思った。ただの真似でなく、良いと思える要素は取り入れ、差別化もできていた」
試験では、ちゃんと真似をさせるって弱点もついてきたしね。そういうのが出来る彼女だからこそ、という思いもある。
「それにね」
「……?」
「みんなで全力で楽しまなきゃ、損だからね」
独占するようなものじゃないのだ。こういう活動は。自慢にしろ共有にしろ承認にしろ。
誰かと一緒に活動したり、その活動そのものを応援したり。
それは一人じゃできないんだ。だからこそ、私は仲間が欲しいし、上手く出来ない人がいるなら、出来る限り、その背を推してあげたい。
だから──
「私と一緒に、推し活しない?」
私は満面の笑みで、彼女に向かってそう言った。
それがきっと、この世界で見つけた、私なりの推し活なんだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて、本作を完結とさせていただきます。
長いような短いような期間でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。




