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異世界貴族アイドル☆プロデューサー! ~地味令嬢の私は、わけあり男子を推して参る~  作者: フセ オオゾラ


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第25話「コール」

 かつて王国に、これほどの危機が訪れたことがあるだろうか?

 騎士団を率いつつ、団長は声を張り上げた。


「我らの力を見せつけてやれ!」


 脚の早い狼型の魔物が門扉に食らいつく。

 壁上から弓と魔法を雨のように降らせ、門扉の魔物を一掃するも、空を飛ぶ鳥型の魔物が弓兵と魔法兵を狙って攻撃を仕掛けてきた。

 壁上はあっという間に混乱し、そこかしこで鳥型の魔物との混戦が始まる。

 弓による援護がなくなれば、鈍足のトロールが門扉や外壁に張り付き、こん棒で叩き始めた。

 人間を一撃でミンチにするような膂力から放たれる攻撃は、粗悪なこん棒とは思えぬ威力で壁や門を削り始める。

 

「扉が破られるぞ! 重装兵、前へ!」


 団長が張り上げた声と同時、門扉が破られ、魔物が雪崩こむ。

 その濁流を、身の丈ほどの大盾を持ち、全身に金属鎧を纏った兵たちが、壁となって受け止める。身体強化と、兵全体から放たれている魔力が、受け止めた衝撃を火花を散らせるように拡散させた。


「精霊兵!」


 いくら精強な兵とはいえ、魔物を受け止められるのは一瞬。団長はすかさず号令をくだし、騎士と契約している精霊が苛烈な魔法攻撃を加えた。

 兵たちの頭上から、火、水、風、雷といった魔法が一斉に魔物たちを総なめにする。


「第一波は凌げたか……」


 しかし、視線の向こうには、すでに次の魔物の群れが押し寄せているのが見える。

 突発的に始まった戦い。罠を用意する時間も、満足に防御のためのバリケードや堀を用意することもできない。

 一度の戦闘で、戦力の欠損はないものの、無視できない疲労は確かに存在した。

 

「休む暇はないぞ! 魔物死骸を積み上げ、即席の防壁とする!」


 各所に指示を飛ばし崩れた戦線を復旧しつつ、団長は忌々し気に空に浮かぶ邪霊を睨みつけた。


「我々人間は負けぬぞ……!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アンコールに応えるとなり、選曲に悩むが、曲はこのアイドルの真似事を始めた最初の曲とすることにした。

 一番練習した曲で、みんなで一番歌って踊った曲だ。


「全身全霊、推しとぉぉぉる!!」


 私はマイクに向かって叫んだ。

 全力で推さねばならない。今頑張ってい戦っている人たち。この場で何か自分にできることをと頑張っているものたち。恐怖に心折れないように耐えている人達を。


 そのために自分たちが精一杯楽しんで、観客たちに楽しんでもらうんだ。


 今日一番の魔力を込めて、光の魔法を打ち上げる。

 それをきっかけに、曲が流れ始める。はっと見れば、いつの間にか先生たちがレコード機材を持ち込んで音をスピーカーに乗せてくれていた。

 ほとんど反射的に、この場にいたメンバーが遅れずダンスと歌を始める。


 学生がサイリウムの魔法を使ってライブをキラキラと彩る。

 

「プロデューサー、あれ、やれよ!」

「んだ! 今だべ!」


 マド君とプル君が曲の合間で私にそう声をかけた。あれ。一瞬なんだっけと思いかけるが、目の前で動くサイリウムが思い出させた。


「そっか! 投影魔法!」


 私はダンスしながら魔力を練り上げ、魔法を発動した。

 

 頭上に大きな私のバストアップが現れ、私の動きに合わせて動く。

 ライブで目にする巨大モニターなんかをイメージして作成した魔法で、遠くの観客がライブを見やすいように、と開発した。

 現状だと使っている自分の姿くらいしか映し出せないので、ゆくゆくはライブ上の人間を遠隔で見せられるようにしたい。


『わぁ……!?』


 巨大仏像サイズの私の幻影を、観客が歓声とも驚きとも付かない声をあげて見上げる。

 精霊はその幻影の周りをくるくると回って喜びを表現していた。


「キィィィィィィ!」


 投影魔法に驚いたのは、観客だけじゃなかったみたい。

 空を飛ぶ鳥型の魔物が、外壁の守りをすり抜けて、私の姿を投影したものに突っ込んでくる。


 ライブに集中していたため、びっくりしてよける暇もなく、私の幻影に突撃した。あっさりとすり抜ける魔物。

 攻撃されても困らないんだけど、精霊たちが魔法を撃ちだし、魔物を退けた。


 あれ、これって、いけるんじゃ?

 さっきから、ちらちらと精霊たちの思念で、「あっちが危ない」「こっちキケン」と教えてくれていた。上手くやればその方向に、魔法で応援を届けられるんじゃ……?


「みんなー! もっとライブを盛り上げていこう! 曲に合わせてコールしてね!」


 私はアイデアを形にするため、即座に行動に移した。間奏のダンスをやめて観客に向かい合う。

 一緒に曲を踊っている3人から、ぎょっとするような気配を感じるが、私が突然何かをするのはいつもの事なので、鋼の意志で曲を続けてくれている。

 私はそれに甘んじて、この場にいる精霊、人間の全て。観客に向かって声を上げた。


「私が曲に合わせて合図を送ったら、みんなで一斉にメンバーの名前で応援してね!」


 マイクを持ちつつ手を叩く。


「ハイ!ハイ!ハイ! アセ様ー!」

『……あ、アセ様ー!』


 ちょっとまばら。まぁ急に言われても困るよね。私はもう一度観客に向かって声をあげる。


「もっと大きな声が出せるかな!? ハイ、もう一回!」

『アセ様-!』

「良い感じ!」


 会場からのコールに手応えを感じると同時に、精霊の方から「僕らもまざりたい」というような思念が飛んでくる。

 よしよし。当然みんなにも混ざってもらうよ!


「精霊さーん! みんなはこっちにコール、よろしくね!」


 集まっていた精霊たちが、コールのために力を束ねて思い思いの魔法を、私が指し示した方向に撃ち放った。

 空に集まって来ていた魔物が、その魔法によって続々と撃ち落される。

 思った以上に上手くいった結果に、驚きつつも、ライブは止めない。


「なぁ……」

「あれって……!」


 観客が私がやっていることに気づくと、コールに熱が入り始めた。

 観客が手拍子をして、私の合図で一斉に大きな声を上げる。


『マドくーん!』


 私は幻影の方を使って、このコールに続く精霊のコールの方向を指し示した。

 まるで私の幻影の指先から、続々と魔法が撃ちだされたかのごとく、精霊の魔法が飛び出して、外壁付近の魔物を蹴散らす。


『プルくーん!』


 これで3方向! 私の位置からでは、空の魔物と瘴気が減ったかな、という程度しか見えないが、精霊の歓喜の思念に混じって、「キケン減った!」といったものが飛んでくる。思い付きは成功しているようだ。

 しかし、ここで問題が発生した。応援してもらうメンバーがもういないのである。

 それを察したのは、この場で一緒にいる3人だった。


「おおい、コール、誰か忘れてないか!?」


 私の奇行で慣れたのか、マド君が曲の合間にそう言いだした。


「彼女の名前もコールしてやってくれ」

「我らがシャーディ! よろすくな!」


 アセ様にプル君まで続き、観客もその気になる。

 3人の合図とともに、観客から一層大きなコールがあがった。


『シャーディー!』


 うわ、しまった。コールがこんなに恥ずかしいとは。

 ちらっとアセ様達を見ると、してやったりの顔をしている。

 頬に熱を感じる。でも、楽しい。私は曲を歌って踊り、ライブでの一体感を感じながら、残った最後の方角に向かって、精霊たちにコールをお願いした。


「いっけぇぇぇぇっ!」


 魔物たちには、巨大な人間が強力な魔法でも放ったように見えただろう。

 特に大きな魔法が、奔流となって魔物の群れを一掃した。

 気づけば、街中に満ちていた瘴気すら晴れてきていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 突然、強力な魔法が街の空を駆け抜けた。

 その気配を感じ、俯いていた顔を上げる。その先に、巨大な少女の姿が見えた。


「シャーディ……」


 まぶしい、わたくしのライバル。いや、そんな、わたくしにとって都合のいい存在ではないか。

 最初は嫉妬だった。自分とは全く違う感性、洗練された衣装に化粧。新しい神事の形を作り出し、認めさせた行動力。

 わたくしがそうありたかったという嫉妬。でもそうはなれない。だから、足を引っ張ろうと色々と手を打った。イマージェン・ミラースという令嬢の地位。それを守るため。

 自分にできることと、彼女の神事について考え、歌唱を中心とした神事を作った。

 口さがない者たちが、わたくしの作った神事が、所詮シャーディの真似事だ、と言っていたのは知っている。でも、負けたくないと思った。


 嫉妬からの行動だった。けど……


「キラキラしてる……」


 シャーディの大きな姿は光の魔法による幻影なのだろう。映った彼女の真剣な顔、嬉しそうな笑顔、恥ずかしそうな少女の顔……それらを見ると、なんと眩いことか。


「わたくしも……」


 何かしたい。彼女の神事を見るたびに、思い起こされる衝動が、再び生まれたのを感じた。今度は、嫉妬による醜い行動ではなく。彼女に向かって、胸を張れる何かを。


 彼女は、きっと、わたくしの憧れなのだから。


 衝動に背を押され、恐怖と絶望で動かなくなっていた足が、突き動かされる。

 最初はふらふらと、そのうち段々とわたくしは、彼女に向かって走りだしていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたなら、高評価、ブックマークなどいただけますと幸いです。

もう少しで完結かなーと思いつつ書き上げてきておりますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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