第24話「全身全霊のライブ」
「まずは四方の門にある封印が邪魔だな……忌々しい封印、跡形もなく消えるがいい……」
精霊は6枚ある羽根を輝かせ、周囲に自分の力を行使させた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
6枚羽根をした、光の精霊は、未だ王国の上空に位置して、動かずにいた。
その周囲には、光る根のようなもので、変わらず多数の精霊をからめとっている。
大きな動きはないが、街中で瘴気が満ちてきている。無関係とはいえないだろう。わたくしは、それをどういった気持ちで見上げているべきかわからずにいた。
「あれは、精霊であるのだな?」
「はい。間違いなく……」
王の問いに答えたのは、大司教だった。騎士団を集めた陣の中、2人は精霊を見上げている。2人は状況を図りかねている様子だった。自分たちの信奉する精霊。力を借り、国の繁栄と守りの要と言えるその存在が、今自分たちに牙を向こうとしている。
統制の取れたこの場の騎士たちは口にしないが、皆誰しもが精霊と戦うことに不安を覚えているだろう。
「やっかいな……いっそ別のものであれば、楽なものを」
忌々し気に国王は六枚羽根の精霊を見上げる。
「これより、かの『光の精霊』を『邪霊』と認定し、その討伐を行う」
精霊の討伐。前代未聞の言葉に、その場にいた誰もに緊張が走った。
「ミラース様は」
「っ……」
大司教がわたくしについて言及した。
わたくしが国を裏切り、敵を国に招いたと言われてもおかしくない状況に、冷や汗が流れる。そうではない! と声を大にしていいたいが、今、そんなことを言って暴れれば、それだけで処刑されかねない状況に、震えることしかできなかった。
「今は放っておけ。ミラース嬢は奴の傀儡であったということだろう。近くにいた息子も、我らとて騙されたのだ」
王は鋭い視線を大司教に投げかける。司教は冷や汗をかきつつも、努めて冷静に返答した。
「教会は把握していなかったのか? 全ての光の精霊がああなのか」
「私の及ぶ範囲では何も……」
「それに、だ。子供に全ての責任を押し付けるのは好かん。なんの咎めもない、とは言えぬが」
王はこの状況をよく思ってはいないようだが、わたくしに全ての罪を負わせるつもりもない、それだけはわかった。
「……温情に、感謝いたします」
王と大司教の会話に、わたくしはそれだけ絞りだし、ほんの少し、身体から力が抜けた。
許されたわけではないが、今すぐ処刑されるような状況でもないらしい。
「ご報告いたします! 街には瘴気が満ちている様子。住民の避難誘導ができておりません。それだけでなく、四方を囲む街の門の先には、魔物が群れを成して押し寄せております!」
「なに!? こんな時に……」
王がはっとして邪霊を睨む。
「まさか、邪霊めが?! ……街なかの瘴気は非戦闘員とその契約精霊を中心に、除去にあたれ! 騎士団は四つに別け、各門の防衛にあたる! 教会も契約精霊を集め、邪霊に対抗せよ!」
王が一息にそう命じると、周囲の人間が慌ただしく動き出した。王も話は終わりだとその場を去る。
王の去り際、その場に居合わせたルミナス王子と少し目が合う。
「……」
ルミナス王子は何も言わず、去ってしまった。こうとなっては、ルミナス王子との婚約もなかったことになるだろう。
一人残されたわたくしは、打ちのめされながら自分の契約精霊であった邪霊をみつめた。
「わたくしは、どうしたら……?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ライブを、続けよう!」
時は満ちた! というより、外の状況がわからないが、この場でこれ以上好転しそうにない状態だ。
今、街の人に落ち着いて貰えれば、何か状況が変わるかもしれない。
そのために街の人が注目し、落ち着けるようなライブが必要なのだ。きっと、たぶん、そうであってほしい。
「ま、魔物だ! 街の外に、魔物がでたぞ!」
逃げ惑う街の人が、そんな言葉を叫んでいた。周囲の学生や、逃げる場所もなく僅かに留まっていた街の人らが、不安げにしている。
やめて! 今なけなしの気持ちを集めてるのに! 自分でもすごく思ってるんだよ、ライブなんてしてる場合じゃないんじゃない? って!
震えを誤魔化すために、握るマイクに力を入れる。
「プロデューサー……いや、シャーディ。俺は君の考えを支持する」
アセ様の言葉に、私は彼を見た。
「私が動けずにいた時、君が背を押してくれた。今度は私が、そうする番だ」
震える手に、アセ様の手が重ねられた。
「今、この場には君のライブが必要だ」
本当はそんなこと、ないはずなんだ。でも、アセ様はそう言ってくれている。
「私、一人じゃ……」
「君は一人じゃない」
アセ様がまっすぐに私を見ていた。
「……私と、アイドルになってくれますか?」
不意に、そんな弱気が出た。私一人ではだめなんだ。
初めてスカウトしたあの日を思い出す。あの日は、自分の推し活のため、というのももちろんだが、私が彼の背を押したい、そんな気持ちだった。
でも、あの時と違い、彼は私の背を押そうとしてくれている。
「もちろん。喜んで」
彼の言葉がすっと胸に入り、ジワリと胸の奥に染みてくる。
それはどんな気持ちかはっきりと言えない。でも、あえて口にするなら、小さな勇気だった。
「一緒にやろう!」
「ああ!」
私はそう口にして、賛同してくれるアセ様と共に、ライブのために用意されたスペースに入り、次の曲の準備に入るマド君、プル君の2人に合流する。
目に見えるのは、疲弊して力のない街の人々、魔物が来たという情報に混乱して、逃げ惑うにもどうしようもない人々だ。
「みんな! 私たちのライブを見て!」
僅かに反応を返してきた街の人々の顔にあるのは、困惑だ。今、そんなことをしている場合じゃない。そんな気持ちが向くのはわかっている。
でも、僅かでも落ち着けて、僅かでも誰かが力を出せるなら、私は全力でこのライブに打ち込みたい。
「いっくよー!」
魔法で花火を打ち上げて、4人でライブを始める。
用意していた新曲を全力で歌い、踊り上げる。
最初に変化があったのは、既に集まっていた精霊だった。
「……!」
歌と踊りに合わせて身を捩らせた精霊たちは、歓喜に震えた後、周囲に魔力を放つ。
広がった魔力が、瘴気を退け、周囲に清浄な空気で満たした。
「しょ、瘴気が……」
「精霊が、いや、あの子たちがやったのか……?」
街の人たちの注目が、徐々に集まってくる。瘴気が退いたことで、助けを求める街の人が、一人、また一人とこの場に集まっても来ていた。
それは精霊たちも同じ。曲も終わり、私たちの頭上には、ミラース嬢が集めた精霊に負けない数が、いつの間にか集まってきていた。
「これだけいれば、あの精霊を倒せる?」
「邪神だって倒せるかも!」
学生がそんな風にはやし立てる。
「確かに、これなら……?」
数の上では対抗できそうだ。邪神っていうのが来ても、何とかなるのでは……?
私もそう思ったのだが、アセ様の契約精霊が私たちを止めるように現れ、首を振った。
「かみさま、倒せない」「神様、倒しちゃだめ」「戦っちゃだめ」「楽しいの」「楽しいじゃないとだめ」
アセ様の契約精霊の意識が断片的な言葉を伝えてくる。それを皮切りに、集まってきていた精霊たちが一斉に告げてきた。
「邪神は、倒してはいけない……? 楽しいのが、いい?」
一斉に嬉しそうに身を踊らせる精霊たち。
「どうする。プロデューサー」
「……」
3人の視線が集まる。心なしか、集まった精霊たちも私の言葉を待っている気がした。
「ようは、向こうの精霊も楽しませないとダメ、ってことなんでしょ?」
私はそう解釈した。視線の先にいるのは6枚羽根をした精霊の姿。
ここから届くのかはわからない。けど、この場で力を貸してくれている精霊たちはそれを望んでいる。そんな気がした。
「ならやろう、精霊のアンコールに応えて!!」
3人が力強く頷き、頼もしい笑顔を浮かべた。次の曲に向けて準備を始める。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
各門に配置されるに辺り、大通りを通過しようとした騎士団が目にしたのは、学生が風変りの神事を行う様子であった。
神事である、と騎士団長が認識できたのは、精霊が集まってきており、街に満ちていた瘴気が取り除かれ、ここだけ神殿の中のような、清浄な空気に満ちていたのだ。
「この緊急時に、何をしているんだ、あの学生たちは……!」
騎士の一人が、騎士団の移動を妨げるような位置にいる学生らに
「待て。ここの民衆は落ち着いている。我々の仕事を増やしてどうする」
ここに来るまで、騎士団にすがる民衆といえば、錯乱し、助けを求めて騎士団の動きを阻害する者たちばかりだった。しかし、ここはどうか。民衆は多少困惑しつつも、精霊たちの放つ空気下にあって落ち着いている。
騎士団長は、緊急時にあり、この状況は希少だと判断した。
「団長……! わ、わかりました」
団員も団長に指摘されそれに気づいたのだろう。すぐに自分の意見を取り下げる。
「ここは彼女らと、非戦闘員の班に任せよ。我々は迂回し、当初の予定通り、魔物の対応に集中する」
「はっ!」
この状況の中心にいるのは、あの場の中央で踊っている少年少女たちなのだろう。
一際輝いて見える少女に、団長は苦笑した。
「まるで、聖女のようだ、などと……」
場違いにそう思った自分は、すがりたかったのだろうか?
気を引き締め、自身の戦場に向かった。
明けましておめでとうございます。
皆様よい年末年始をおくれましたでしょうか。
もうちょっと年末に更新したいなぁ、とぼんやり過ごしておりましたら、
あっという間にこんな時期に……
時間は有効に使用したいですね……




