第23話「みんな揃って」
私が方針を決め、2人に指示を出していると、人が集まってきた。
「私たちも何か、手伝えないかな?」
「さっきみたいに、何かするんだろ? なら、俺達も手伝う」
集まったのは学園の生徒たち。彼らは私たちの手伝いを申し出てくれた。
「みんな……ありがとう!」
私は一息ついてから、もう一度みんなに自分の考えを伝える。
「ここでライブ……いや、神事をするよ。それで精霊様を集めて、街の人に落ち着いてもらうの」
おお。と歓声があがる。
「そのために、アセイア様を探してくれないかな。彼の力が必要なの」
「わかった! マドックと手分けする!」
男子生徒の一人が、捜索を名乗り出ていたマド君の手伝いを申し出た。
「マドック君やアセイア様の神事にはスペースが必要だよね? 私たちは街の人を落ち着かせつつ、神事のための場所を作るよ」
女子生徒の一人がそう提案してくれ、私はそこまで気が回っていなかったことに気づく。
「ありがとう……!」
どうやら、この生徒たちは私たちのやり方を知っているらしい。こんな形で自分たちの活動が知名度を得ていたんだと改めて気づかされるとは。
それぞれが自分ができることのために動きだし、ふと、私は自分の様子に気づいて、近くの女子生徒に声をかけた。
「化粧用の香油って……借りてもいいかな?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
催事場にあるステンドグラスの下で、私は壁を背に座り込んでいた。
未曾有の事態に混乱している、というのもあるが、そのきっかけ作りを手伝ったというのが、思った以上に精神にきていたのだ。
「中にいたのか、遠回りしたぜ……!」
「マド……」
「あいつはは自分のできることをしていたぞ? こんなとこで何してんだよ」
脳裏に、自らプロデューサーと名乗る少女の顔が過ぎる。彼女になんと顔向けすれば良いのかと思い、気持ちが落ち込む。
「?」
動かない私にマドが近づき、胸倉をつかんだ。
「お前のやるべきことは、ここでこうしていることかよ!」
「しかし……」
「……あいつ、前に泣いてたんだ。みんなでライブしたかったって」
マドの顔を見る。真剣な顔。
「シャーディが……?」
「お前だけは、チャンスがあったんだ。このまま、あいつに見せられなくて、いいのかよ?」
「!」
その言葉が突き刺さる。そうだ。自分は神事という舞台に立つチャンスがあった。
マドの言葉は続く。
「前に言っただろ! これだけお膳立てされて、奮わない奴がいるか?」
「……彼女の神事を、できなかったんだ」
一人だけ参加することになった後ろめたさがずっとあった。それに、彼女に見せたかった舞台ではなかった。さらには、そのために自分が出来るかもしれないことがあったが、しなかった。そんな自分が、彼女にどう顔を合わせるべきなのか。
「自分が思ってたのと違うってか!? そんなの当たり前だろ! この学園に来た時、お前が考えてたような学園生活を今日まで送ってきたかよ!」
「そ、れは……」
それが望んだ形とは違ったとはいえ。そこで、満足いくものを、彼女に見せるべきであったのだと、思い至る。
学園に来る前の自分は、何を考え、どうしていただろう。もう朧気であった。それくらい、シャーディとの生活は奇抜で、濃密で、楽しかったから。
「ない。今日この日まで、予想外の毎日だ」
だから、これだけは断言できる。
「はっ、だろうがよ。オレだって、予想通りなら学園一の剣士にでもなってる」
思えば、彼だって自分の思い通りにならなかったのだ。初めてそこに思い至る。
(思い通りにならなくて、すねていた子供だったのか、私は)
恥ずかしくなり、同時に笑えてきた。
「ははは……マド、私は間違っていた」
「ふん、やっと目ぇ覚めたかよ」
「ああ」
マドが胸倉から手を離し、私をぐいっと引き上げる。私は彼の手を借りて、立ち上がった。
「もう一度聞くぞ。オレたちのやるべき、一番大事なことはなんだ?」
「彼女の力になることだ。何を置いても」
マドは私の答えに、にやりと笑った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学園生も集まって、さぁ動き出そうとする矢先、街の中だというのに、濃密な瘴気が溢れてきていた。
これにより、場の混乱はさらに深まり、どこかしこからも悲鳴が聞こえてくる。
「スピーカーの音は止められたのに……」
これはプル君が対応してくれたのだろう。
せっかくスピーカーからの音を消しても、街の人らの悲鳴が辺りを包みこみ、一時は落ち着きを見せていた人達にも不安と恐怖が広がっている。
私は、さっきのミニライブで集まった精霊たちの力を借りて、瘴気に対抗してもらうが、どうも量が多いのか、何とか広間から瘴気を退けるので精一杯だった。
(私一人でも、ライブをして、精霊に助けを請わないと……)
私は覚悟を決める。先ほど借りた香油で髪型を整え、髪色も魔法で変えた。
「みんなが揃わないけど、神事を先に始めるよ! 精霊を少しでも集めないと……!」
何人かの生徒が、驚くように私の顔を見たあと、はっとなって頷く。彼、彼女らが私を中心に、人が立ち入らないようにスペースを作ってくれるのを見てから、ライブを始める。
「……~♪」
喧騒の中で、誰も注意が向いていないのは先程の催事場でもそうだった。けど、その時よりも反応が悪い、というよりも誰もこちらを見ていない。
予想はしていたことであっても、あまりの手応えの中に焦りを感じた。
極めつけに悪いのは、街の人の様子だった。
「邪魔だ! どけっ!」
生徒たちが作ってくれたスペースを裂くように、避難のために駆け出してきた街の人が、生徒を力づくで押しのける。
「うわっ……!」
それでも止まらず、さらに数人の人らがその隙間から、私に迫ってくる。
「きゃっ!」
私を突き飛ばした街の人らは、そのまま瘴気に満ちた街の中に消えていった。
倒れた場所から、街を見上げる。身体に上手く力が入らず、立ち上がれない。力が入らない理由は、突き飛ばされたからでも、痛みがあったからでもない。
(どれだけ虚勢を張ってみても、自分はただの一般人。特別な力なんてない)
それをまざまざと実感させられてしまい、無力感を感じたからだった。
ここまではどうにか気を張ってきた。場の雰囲気で、立ち止まらないように無理に前を向いて振り向いても、背後からくる恐怖と不安が、私の身を絡めとる。
自分が、何でもないただの人だと気づかされてしまえば、起き上がるのさえ難しくなる。
何とか上体を起こすも、私は顔をあげられずにいた。
(私一人じゃ、誰も動かせない……)
その時、私の耳に歌声が届いた。
「~♪」
優しくも力強い歌声がスピーカーを通して、私が中断してしまった曲を継ぐように周囲に響く。続いて、二つの歌声が、その声に続いて曲を織りなしていった。
顔上げ、声の方を見る。マイクを片手に私たちの方に近づいてきていたのは、アセ様とマド君、プル君だった。
「待たせた」
倒れた時に乱れたらしい私の前髪を、そっとアセ様が整えてくれる。
「ちょっと手間取った!」
「こっがらは、俺だちも!」
マド君とプル君も一緒に、ダンスと曲に加わる。
「立てるか?」
「うん」
アセ様が私をぐいっと引き上げた。勢い余ってアセ様の胸に飛び込む。
鏡を見なくてもわかる。私はきっと、笑顔を浮かべているだろう。
「やろう! 私たちのライブで、街の人たちを驚かせてあげよう!」
顔を上げた私は、そう自然に口にしていた。
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年末年始で忙しくって結局ペース維持ができてない……
年末休暇でブーストできたらいいなぁ




