第22話「王都混乱」
スピーカーを通して絶望が伝播する。
『ようやくだ…ようやく、この地に封じられていたあの方を復活できる…!』
興奮した6枚羽根の精霊がそう漏らすのが聞こえた。
「王都に、邪神が……?」
思わず足元を見る。途端に、自分の足場が急に不安定になるような、そんな違和感と不安を覚えた。
『忌々しい封印を破りに行くとしよう』
6枚羽根の精霊はこちらには興味が無いようで、ゆっくりと空に上がり、催事場から離れる。
「マド君、プル君、ここを離れよう!」
「! は、離れるって言っても……」
「この状態じゃぁ、どごさいぐのも難しいんでねぇが!?」
ギリギリで平静を保っていた様子の2人が、周囲を見ながらそういった。
会場、特に観客席は大混乱だ。逃げようとした観客が我先にと群がり、それが結果的に入口を塞いでいる。そのせいで避難が上手く行っていない。
誰かこの場を鎮静できないか、と周囲を見回す。王様が目に入るが、王様は全身鎧の騎士らしき人物たちに向かって厳しい視線で二言、三言命令すると、自分も即座にこの場を去ってしまった。
雰囲気から言って、離れていった6枚羽根の精霊を追ったのだろう。
どうしよう。
一番最初に過ぎったのはこの言葉だった。当たり前だが、自分にできることが限定的過ぎる。また、何をすべきかという指標もない。
今回の元凶となった、6枚羽根の精霊をどうにかする、というのがベストな選択なのかもしれないが、当然ながらそんな手段は持ち合わせていない。
「プロデューサー……」
「っ」
ハッとした。マド君が、僅かに不安を滲ませている。
その隣のプル君も、口にはしないが、不安でいっぱいの顔をしていた。
少しでも大人である自分が、何とかしないと。
私は両手で自分の頬を目一杯張って、気合を入れなおした。
「よし!」
「お、おい……?」
「ぷ、プロデューサー!?」
2人が困惑している様子だったが、そこは無視して、真剣に話す。
「2人とも、よく聞いてね。これから、3人で避難誘導をやるよ」
「避難誘導?」
「話聞いでける状況が……?」
プル君の言うように、聞いて貰えるような状態ではないのは、わかっている。
会場の混乱具合をみれば、そう言いたくなる気持ちもわかるしね。
しかし、無理にこの場から退避しようとすれば、恐らく混乱に巻き込まれ、非常に時間がかかるか、押し合いへし合いになって怪我をする恐れもあった。すでに入り口付近はその様相を呈している。
まずは、この場の人間に落ち着いて貰う必要があるんだ。
「考えていることはわかる。たぶん無理だね。だから、ライブをする!」
「は、はぁ?! い、今かよ?」
困惑している様子のマド君。プル君も唖然としていた。
「うん、まずは注目を集めて、人に話を聞いてもらう、って段階をクリアしないと!」
「そんな場合じゃない、んだろうけど……」
「一理ある、のがもしれね……?」
先に考えをまとめたのはマド君のようだった。
頭を軽く振ったマド君は、私を見る。
「あぁぁ、わかった! それで? オレとプルは何をすればいいんだ」
「一旦2人は私の護衛! ライブ後、ちゃんと注目集められていたら、2人で入り口の誘導!」
「わかった!」
「こっちもわがった!」
まずは注目を集めるのだ。そして、どうにか混乱を収める。
私は片手を突き上げて魔法を放った。
頭上でパンッ! と、大きな音と、光の魔法でできた花火が散る。
僅かに気づいた人が、こちらを見たがそれだけだ。多くの人間は恐慌のせいで見向きもしない。
マイクもないので、精一杯息を吸い込んでから、魔法で喉と肺を強化。
「私のライブを、みろぉぉぉぉぉっ!」
周囲の喧騒、悲鳴に負けないだけの声量を出し、間髪入れずに歌い出す。
「~~♪」
散々練習したライブ曲を歌う。ダンスは狭い足場だったが、椅子の上に乗って、転ばないように慎重に踊る。
「ぷ、プロデューサー……」
足場の悪さに、見ているプル君がはらはらしていたが、ウィンクして大丈夫だと伝えた。
そうして何とかライブをしていると、小さな精霊がふよふよと集まってきた。
「せ、精霊だ……!」
「精霊さま!」
「もしかして、助けが……!?」
ライブでは注目が集まっているとは言い難い状況だったが、精霊が集まったことで状況が一片した。
精霊、という言葉が伝播していき、混乱が徐々に収まっていく。こうなってくると、もうほとんど目的は達成されたといえた。
私はほっと息を吐く。一息ついてから、大きな声で、なるべく落ち着いた声をだす。
「皆さん、落ち着いて行動しましょう。入り口は狭いため、順番に、おさない、走らない、戻らないを徹底してください。倒れた人や、けが人がいる場合は、一番近くの人達で協力をお願いします」
まだ騒がしいが、私の声が周囲に伝わっていく。内容を理解したものが、
「マド君、プル君、入り口付近に立って、今話したことを復唱しながら避難誘導してくれる? サイリウムの魔法、使って」
2人はそれぞれ返事を返して、入り口付近に取りつくと、サイリウムを振りつつ、混乱していた人だかりが、整列して避難できるように誘導を初めてくれた。本当はライブで使うために用意したんだけどな……。
しかし、役に立ったようで、同じ学年の生徒にも伝えていたため、マド君、プル君を真似して、入り口付近に立って声掛けするものや、要救助者の周りで交通整理をしてくれるものが現れた。
「入り口はこっちですー! 押さないで! ゆっくり!」
「急がなくても出られます! 順番に!」
そんな生徒らの協力もあって、なんとかこの場から脱出することはかないそうだと、私は少しだけ安堵した。
祭壇の方を見れば、もう誰もいない。アセ様たちも脱出できたんだろうか?
おおよその人が避難を終えて、自分とマド君、プル君も合流してから催事場から出る。
少し混雑していた入り口からでると、街中だというのに街の人らが混乱しているのが見えた。
「い、急げ! 魔物がくる!」
「早く街から逃げないと……!」
「瘴気が……もう、どこにも、逃げ場なんて……!」
混乱する街の人々。見れば、街に瘴気が溢れ、街の人らはそれを避けようとしている。しかし、街のどこにも瘴気があるため、囲まれてしまっていた。
「あれ……!」
プル君が空を見上げて指さす。その先には、6枚羽根の精霊があった。
6枚羽の精霊が繋いでいる、他の精霊たちは苦しそうに瘴気を吐き出している。あれが今回の原因らしい。
さらには、スピーカー。あれから絶え間なく精霊たちの絶叫が垂れ流しにされており、それが不快感と恐怖感を煽っているのだと思った。
私は、焦りを覚えつつも、近くにいる2人に向かって、決断をくだした。
「もう一度ライブをしよう。今度は街の人に話を聞いてもらわないと」
2人は私が何を言いたいか理解し、頷いてくれた。
「そのために、まずはアセ様を探そう。私一人のライブじゃ、この場の注目なんて集められない」
2人もそう思ったのだろう。
「やろう。全員でライブして、街の人たちの注目を集めて、話を聞いて貰える状況を作るの!」
私は空を見上げて、スピーカーの方向を指さす。
「そのためにまずは、プル君はスピーカーを先にどうにかしてほしい。音を拾うマイクを変えられないかな」
「わがった。やってみる」
プル君は自分のすべきことがわかったようで、私に提案してきた。
「なら、オレはアセを探してくる」
「お願い。私も別れて……」
提案の内容に文句はなく、私も一緒に別の方でアセ様を探してくると伝えようしたところ、マド君は首を振った。
「いや、お前はこの辺りで待機しててくれよ。この混乱状態だと合流できないかもだし」
「あー……そう、だね。わかった」
黙ってそれができれば一番いいんだけど、私、大人しくしておくって苦手かも……。
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたなら、高評価、ブックマークなどよろしくお願いいたします。




