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第2話「アイドルとは!」

 ひょんなことから前世の記憶を取り戻した私は、私の私による私生活の充実のため、推しになりうる人物、アセイア様にスカウトをかけた!

 スカウトをかけた際にちょっと手違いで、自分がライブをすることになったが、学園始まって以来の神事、なんて騒ぎに! スカウトは成功したが、クラスで地味ポジション、地味令嬢なんて言葉があればふさわしいだろう外観の私の生活は一変し――


 波乱に満ちた新生活が始まる!?


 ……なんてことはなかった。当たり前である。学園で何かイベントごとがあっても、授業があるし、かなりルーティン化された毎日は約束されているものなので。


「であるから、精霊との交信は邪神の封印と、封印から漏れ出す瘴気、その瘴気で発生する魔物を除去するために必須であり──」


 精霊学というこの世界独自の授業を聞き流しつつ、ルーティンをこなす。ちゃんと聞け? だって精霊学、精霊と人間の歴史って感じで面白くないし……。


 日常のルーティンをこなす一方で、勝ち取った変化や、望まぬ変化もある。


「それで、僕は何をするんだい? プロデューサー」


 昼休み、アセ様が私の席にやってきた。私は立ち上がって頭を下げる。

 アセ様が手で軽く制し、堅い挨拶は不要と態度を示す。助かる~。


「どこかに移動しますかね?」


 と、サロンでもどうですか? と続けようとしたところで、教室の一角で黄色い声があがった。


「もしかして! イマージェン様が噂の神使なのでは?」

「わたくし? ご想像にお任せしますわ」


 私とアセ様がその一角に注目する。中心には、ザ・ご令嬢といった雰囲気の金髪ドリルロールが映える少女がいた。


「イマージェン・ミラース嬢か」

 

 イマージェンは、複数の取り巻き令嬢に囲まれつつ、すました様子で受け答えしていた。噂の内容は、どうも昨日のライブ……もどきをした神事が話題になり、その時の神使が誰か、という話のようだ。

 アセ様が目を細める。


「イマージェン様のように、上手くお化粧ができなくて……ご相談に乗っていただいてもよろしいでしょうか」

「ええ。よろしくてよ。見せてごらんなさい」


 イマージェンが取り出した化粧道具で、取り巻きの一人に手早くアイラインを引いてあげていた。


「わぁ! 素晴らしいです!」

「さすが学園一のお化粧才媛!」

「おほほほ!」


 なんだろう。ファッションリーダーみたいなものかな。

 確かに上手なんだよな、と私も思う。ただ、それだけで噂の人物って思っちゃうかぁ。

 いや、でも目立ちたくないし当面矢面に立ってもらうのはいいかも。

 そんなことをイマージェンの方を見て、ぼんやりそんなことを考えていると、アセ様が気にしたのか、私に耳打ちする。


「よかったのかい? 君が名乗りでなくて」

「構いませんよ? 柄じゃないですし。あ、担任には報告しました。さすがに成績にかかわるので……」


 あのあとすぐに、自分の成績にならないんでは? という懸念が出たので、担任の女性教師の元には相談済みだ。


『本当に、あなたが? 学園始まって以来のできごとだったんですよ?』


 その時の担任の様子ったら。創立して100年程らしいので、よほどの衝撃だったのだという。普段の自分のことを知っているから、担任は眼鏡の奥から真実を透かし見るかのように、私の顔を覗き込んだ。ただ、そんなにしても多分私の目は見れないと思う。メカクレ前髪ぱっつんなので。


『名簿がありましたよね? 私が最後だった、というのはもうわかっているかと思いますが』

『それは……その通りです。ですが、状況証拠だけでは……』


 とまぁ、そんなやり取りがあり、疑いが晴れず補習なのだが。生徒に秘密にしたいと言ったら、もし本当なら、教師相手に秘密は難しいが、生徒相手には協力してくれるそうなので、言葉に甘えることにした。


「しかし、君は本当に気にしないんだな」

「何がですか?」


 噂は気になりましたけど、それくらいですが? という気持ちでアセ様を見る。


「その反応で、よくわかるな」


 少し嬉しそうな、あきれたような顔だ。

 彼が周りを見たので、私もつられ、そちらを見る。すると、イマージェン周辺とは別のクラスメイトの一部が、私とアセ様を気にしている様子だった「やば、呪われる」など、失礼なことを言って目を逸らし、教室から出て行った。


「? ああ……御身が呪われている、とかいう?」

「君にとってはその程度の認識か……」


 男子は結構真剣に避けてるらしいね。女子の中には隠れファンクラブがあるので、本気で避けているのとファンとして遠巻きにしているのが半々だったはず。本人には言えないけど。


「呪われている……かは専門家ではないのでわかりませんが、少なくとも、アセ様は誰かを呪ったりしていないでしょう?」


 呪い……は魔法もある世界だ。あるのかもしれない。しかし、少なくともアセ様には、噂されるような呪いや、その呪いが感染するといった問題が発生するとは思えなかった。

 予想外の言葉だったのか、アセ様が少し驚いた顔をする。


「なぜ、そう思う?」

「呪いでどうこうした子が、単純にいません」


 私は教室をざっと手で示す。

 学園生活を始めて半年程度。一学年として学園の雰囲気や授業になれてきた、というタイミング。新しい環境で体調を崩した子もいたが(私も崩した)、呪いで体調が崩れた、というのは聞かない。実際、今日はクラスメイト全員が元気に出席している。


「感染するなら、半年のうちにクラスメイトが全滅していいはず」


 当然私も呪いで体調不良になったことはないです、と補足しつつ、私は指を折りつつ説明した。


「アセ様が呪いをかけるなら、呪いの噂を流す奴が無事である理由がよくわかりませんし、本当に問題があるなら、教師が隔離していますよ」


 感染症を考えて、治せない類の呪いというものが存在する場合、どれほど軽度であってもクラスメイトに何かしらの反応がない、というのはおかしい気がする。インフルエンザのように空気、飛沫感染の類だったら数日で確実に全滅、学級閉鎖だろう。きっと半年ももたない。

 別の感染方法だったとしても、もしアセ様に呪いがあって、故意に流す、と決めたらクラスメイトが回避するのは難しいと思うんだよね……回避するにも、専門知識が必要になるだろうし。その場合はアセ様が何らかの痕跡を隠すのが難しいんじゃないだろうか?


 といったことをなるべく簡潔に、身振り手振りで説明してみた。


「そこまできっぱり、呪いがない、と言い切ったのは君が初めてだ」


 柔らかい笑顔に、自分の顔が火照るのがわかる。すっっっごい破壊力である。

 私は誤魔化す様に、言い切った。


「髪の色で呪いの過多がわかる、なんて非科学的ですよ」


 そんなこと言ったら漆黒の髪を持つ日本人など、選ばれし呪いの民族である。そう聞くとちょっとカッコいい感じがしなくもないけど。


「そうか。そこまでの考えがあるなら、何も言うまい」

「とはいえ、ちょっと注目されるのは嫌ですね。場所、変えましょうか」

「そうだな。私も慣れているとはいえ、いい気はしない。サロンで詳細を詰めるとしよう」


 サロンは人が多く、私たちは仕方なく、人が少なく落ち着ける良い場所を探す。

 廊下でアセ様の少し先を歩きながら、私はアセ様に話しかけた。


「さて、アセ様が何をするのか、ですが、まずは色々とすり合わせをしましょう! アイドルとは!」

「早速済まない……アイドル……とは?」


 そうだった。そこからだった。私は幾分テンションを落ち着けてから、どう説明したものかと頭を回す。


「そうですね。まずはそこから。あえて今後は、我々が目指すものを神使ではなく、アイドルと呼称します」


 ややこしいからね。神事を行うけれども、方向性が違う。それに、この世界にはまだない概念のようなので、ここではっきりとしてしまおう。


「アイドルとは、簡単に言えば精霊を対象にしたエンターテイナーです」

「大道芸のようなもの……と?」


 きっとアセ様は、街の路上でたまに見られるパフォーマーなんかを思い浮かべているかもしれない。まぁ、人を楽しませるって意味でなら似ているかな……。

 アイドルファンなら同一で語るなって怒るだろうけど。ただ、この世界には近いものがないんだよね。なるべくわかりやすく説明をすませたい。


「楽しませる、といった一点では同じかもしれません。しかし、アイドルが提供するのは、ビジュアル、歌、ダンスです」


 商売で考えるならグッズもあるが、いったん置いておく。現状商売ではないし、リサーチしないといけないし、なんでもかんでも手を広げることができない。正直、歌とダンスだって手が足りないだろうな、と思っているところ。商才もないしコネもないのにそっちまでは無理!


「歌とダンス……はわかるが、ビジュアル? 見た目が何か、関係あるのだろうか」

「ありますね。なければ先日のライブは失敗しただろう、という確信があります」

「そこまでか……」


 アセ様が私の圧に引き気味だ。でも大事なんだよ! ここはやっぱり美男美女じゃないと! ルッキズムとかうるせぇ! 課金したくなるような要素に第一印象は大事でしょうが!


「確かに、美醜でいえば、精霊は人間と違う可能性もあると思います。でも、間違いなく精霊は『私らの容姿に飽きている』って断言できますね」


 精霊の注目度からいって、まず間違いない。ライブがウケた理由だってそうだ。今の神事は正直言って、伝統芸能だ。それも、カビてしまって断絶寸前の。今のままでも洗練はされていくのだろうが、面白い、という方向性には恐らくならない。

 神事とまで言われて、大事な行事なのだから、神聖視するのはわかる。しかし、神聖視しすぎて精霊の様子を見ないのは違うと思うんだよね。昨日のライブではっきりした。精霊にだって好き嫌いがある。


「飽き……」


 アセ様が口元に拳をやり、思考している。イケメンは何でも様になるな……。


「! もしや、生徒の神事に対して、昨今精霊の注目が少ない、と聞くのは同じ出し物が続いたため?」

「可能性は高いかと」


 正確に言えば、同じ内容ではないんだが。武術の披露とか舞とかは毎年流行があるし、生徒の練度だって毎年違う。しかし、それらは人間からみたら、だ。

 想像してみてほしい。自分に興味のないジャンル、スポーツを何度も何度も観戦する気持ち。毎回同じことやってんじゃん、何が違うの? と思ってしまうだろう。精霊は、言葉も通じないし、こちらのルールなども知らないだろうから、余計にそう感じるだろう。


 そんな前提があるからこそ、昨日のライブは受けたのだ。真新しかったから。これまで誰もしなかったから。文字通り、一発しかできない芸。一発芸なのだ。


「ですので、私程度の芸が受けたんです」

「そう卑下するものではないと思うが」


 そう言って貰えるのはちょっと嬉しい。でも、あれではだめなのだ。これから行うアイドル業、お遊戯会で終わらせるつもりはない。


「いえ、私の理想に比べれば、あれは芸というにはおこがましいレベルですよ」


 なので断言できる。私はコスプレにはまっていたし、その流れでネットミームのダンスなんかもした。イベントなんかで人に見せるために頑張ったが、でも、その程度だ。プロとして万人から注目を集めるレベルとは比べられない。


「そこまでか……アイドルとは」

「ええ、アイドルはエンターテイナー、同時に……」

「路傍の石だ!」

「そう! 路傍の……って、そんなわけっ!」


 私はもう少し突っ込んだ話をしようとしたところ、突然聞こえてきた暴論に突っ込んだ。

 アセ様も眉をひそめて、声の聞こえた方を見る。

 視線の先では、数人の男子生徒たちが言い争っているのが目に入った。


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