第15話「選抜試験へ向けて」
さて、当面は年の最後に行う大きな神事がある。残りの2か月ほどはこの準備に向けて動こうと考えていた。
これは学園が開催する定期試験などではなく、聖教が国からの協力を得て、国を挙げて行う行事だ。前世でいうとお正月と初詣とクリスマスパーティを合わせたような大規模なお祭りだとイメージしたらいい。出店などもたくさん行われ、一週間ほど続く。
祭りでは当然、各地から来る人や、王都の聖教の信者により、たくさんの神事が行われる。学園側からも、在学生の中から神事を行うメンバーの選出が行われ、選ばれたメンバーが神事に参加するようだ。学年ごとに数名選ばれることになる。
通称・選抜試験。
座学は別であるが、実技の年末テストはこの選抜試験の成績となるので、基本は全員参加が義務付けられている。
「当面は年末神事の選抜試験、この突破をまずは目指そう!」
いつもの部室、私の掲げた目標に対して、みんなの反応は前向きだ。
「異議なし。今年はもう、大きな神事は選抜試験と年末神事だけだものな」
「んだな! 気合入るな~」
「王国行事の神事に参加できれば、親父も喜ぶだろうな……絶対選ばれてやる!」
みんな私の突発的な発言になれてくれたようで、何より!
「モチベーションは充分って感じだね」
皆のやる気を見て私も頷く。
「例のミラース嬢も注目株となるだろう。何か対策はするのか?」
「これと言ってはないね! でも、ポジック先生から新曲をいただける予定だから、そっちの練習もしようとは思ってるよ」
「貰えるってことは、まだなんだよな? それだと選抜の方はきつくねぇ?」
「そうだね。曲を貰っても、私たちの練習が間に合わないと思う。振付は曲きたらラリーダ先生と詰めるつもりだし……」
新曲はポジック先生がこの前のお披露目会でインスピレーションを受けての完全新作となる。
『選抜……いや、年末の神事には間に合わせる!』
と躍起になっていたので、恐らくすぐにでも仕上げてくるだろう。しかし、問題はダンスの方。
エンタメと伝統のバランスを取りたいので、一からでないにしろ、振付は新しく作るつもりである。
「魔道具の方はどうだろう?」
「スピーカー、構造はでぎだ。今はレコードの音をどう同期するが考えでる」
「技術的なものは門外漢だから、任せっきりになるけどよろしくね」
「おう!」
難問であるだろうが、プル君の返答は力強い。私は吉報を待つことにした。
「しかし、選抜では我々のような、新しい神事の形に挑戦するものが増えるだろうな」
アセ様がふと口にした予想に関しては、私はちょっと違う意見だった。
そんなにすぐに新しいものが入るなら、もっと早くやってたんじゃないかって思うしね。
「どうだろうね? 伝統的なものも多くでると思ってるけど」
「あれだけ精霊を実際に動かしていてもか?」
「うん。だって、精霊を使っての最終目標って、つまるところ魔物を倒すことに繋がるんでしょ?」
地方巡礼であった村での出来事のように、魔物を倒すだけ、ではもちろん無いのは理解したが、もっとも困っているのは魔物の被害だと聞く。私たちがまだ学生だから、その事態に遭遇したことがないだけだ。
実家の方でも、王都の方でも、都市部を離れれば基本的には人の領域ではなく、魔物の領域となり、危険な場所だという認識もある。
「神事を通して、精霊と契約して……そしたら、魔物の被害を抑えるために戦うことも多いだろうな。進路先の一つにある騎士団なんて、その最たるものだし」
「聖教も自前の兵力たがいでるなぁ。この前の巡礼みでぇなごとだけって訳じゃねぇんだべ」
マド君とプル君もそれぞれの考えを口にした。
「だよね。ってなると、今更だけど、最終的にはどうなるんだろうなぁ、って私も思っちゃって」
何か違和感がある。人間は精霊よりも弱い。私の感覚で言うと、精霊が兵器だとすると、人間はその兵器にエネルギーを渡す燃料やバッテリー的存在だと思っているのだ。
そうすると人間が特別強い必要はあまりないはず。専門家である必要はあると思うけど……。
「そうだな。武官志望の戦士や魔術師は引き続きそちらで結果を出そうとするだろうな。しかし、今回の我々の活動は、文官志望や平民には受けがよかったのではないか?」
アセ様の言葉に、脱線しかけた思考が戻される。
「そっか、文官か……私も、将来……?」
あんまりしっくりこなくて、自分でも首をかしげる。
「プロデューサーは続けないのか?」
アセ様の疑問は、どこかこちらを伺うようなニュアンスが含まれていた気がした。
「この活動は、学園生活中で終わっちゃうんじゃないかな……」
「ほう、他に目標が?」
「ううん。両親とちゃんと話せてないけど、正直どこかに嫁にだされるんじゃないかなって」
シャーディだった記憶を探ってみると、うちの両親はだいぶ大らかな感じなので、焦って縁談を結ぶようなことはしないだろうが、何か縁談がきたら断らなそうな雰囲気があるし、無ければなかったで、近隣の領地なんかに声をかけそうである。
たしか年代的に同じくらいの男性がいない……という記憶があるが、今は努めて忘れておくことにする。
「それは……」
3人が微妙な顔をした。うん? 女子の進路なんてそんなに多くないから普通だと思うんですけど……。
「想像がつかねぇ。嫁って感じが……」
「失礼だよ!? わ、私だってお嫁さん、くらい……」
瞬間、私の脳裏に浮かぶ映像の数々。
忙しすぎて汚部屋一歩手前だった前世の自室、末端とはいえ貴族になったことで自分で家事手伝いなんてほぼやってこなかった記憶、今の寮部屋の机が、スケジュールを書いた羊皮紙とか、衣装のデザイン画とか、歌詞や楽譜で教科書の置き場もなくなっている様子なんかがフラッシュバックした。
「できるよ……ね? ね?」
「……」
私はぎこちなく、まだ何も言ってないプル君に話を振ってみると、彼は黙ったままそっと視線を逸らした。
「沈黙は肯定だよ!? この場合は否定の肯定だよね……!?」
「お、おらぁ、女子とお付き合いしたごと、無いんで……!」
強めに詰めると目線を合わせないまま、プル君が避ける発言。
そうだね、いいだしっぺが居るから、これ以上は許してあげる。
「いや、言い出したのはお前だろ!? あ、教室に忘れ物した! 今日はこれで!」
マド君はきゃんきゃんと捲し立てた後、素早く逃げ出した。ち、これだから運動神経がいい奴は……!
残ったアセ様に首を回すと、彼はびくりと肩を震わせたが、王族らしく落ち着いた様子で私に声をかけてきた。非常に言葉を選ぶ感じで。
「その、世の中は広い。プロデューサー業に理解ある男性が現れるのではないか?」
今現在、そもそもプロデューサーなんてものは私が名乗っている自称である。
それって結婚なんてできないよって遠回しに言ってますかね!?
最近急に寒くなってきましたね。
どこに行ってしまったんだ、秋……
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