第6章 リュミエール・ゲートの誓い
白銀に輝く宇宙の闇を裂いて、《リュミエール・ゲート》が開かれる。
その光輪は、世界の境目をなめらかにゆがめ、まるで星々が誕生したあの“はじめの夜”そのもののようだった。
ルキア・ノクスはサイレント・アーク号の前甲板に立つ。傍らに、トゥーレと、仮面を脱いだ少女アーデル――二人の同志。
彼らの息遣いが、宇宙の無限の静寂にとけていく。
「ルキア、もう恐れることはない。君の“名”は、今の君の光だ。」
トゥーレの声が静かに響く。
アーデルは赤い双眸で彼を見つめ、「この門の先には、私たちすら知らない危険と、運命が待っている。でも、わたしも一緒だよ」とほほえんだ。
― ― ―
《リュミエール・ゲート》はゆらぎながら、銀の霧を辺りに散らしていく。門の中心には、うっすらと新しい銀河、まったく未知なる地平が映し出されていた。
「――行こう。」
銀色の魂の書を胸に抱いて、ルキアは一歩を踏み出した。ゲートの光が彼の身体を包み、世界が澄んだ色に溶けていく。
◇
そこは、見たことも無い星々が渦を巻く新宇宙だった。
鮮やかな青と深い紫の天蓋が広がり、各所に浮かぶ無人の大地、螺旋状に重なり合う島々、流星がまるで呼吸するように空を流れる。音のない風が船をそっと撫で、どこまでも広がる可能性の匂いがしている。
「ここが……誰も名を知らぬ銀河……」
ルキアの声は、自分でも驚くほど強かった。
そのとき、船のマストに奇妙な光が集まり始める。光粒の集まる中から、不可思議な生命体が現れた。透き通った羽を持つ、小さな宇宙蝶。見る者の心を覗くような、無垢な瞳。
「旅人よ、ようこそ。
ここは《名なき宙庭》。
“星の名”を求めてやってきた者、昔から……待っていた。」
ルキアは、何かが確かに変わり始めていることを感じた。
名を持ち、名を求め、人々の縁が旅を導く。
自分が、自分のままで、未知へと足を踏み入れられること――
アーデルとトゥーレもまた並び立ち、それぞれの輝きを胸に、この新世界を見つめている。
「まずは自分の“名”をここで告げるのです。それが、この世界にあなたの存在を刻む第一歩。」
宇宙蝶の声は、優しく広がった。
ルキア・ノクスは、静かに未来を見すえ、誓いの言葉を口にする。
「僕は、ルキア・ノクス――
闇に生まれ、朝を求める者。
この銀河で、新しい自分の物語を刻む。」
光が穏やかに辺りに満ちていく。
“名”を胸に、仲間と共に歩み出す新たな時間。
夜明けの銀河で、物語がふたたび動き出した。