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第4章 星名の選定会


彗星のポルタ・コメタでは、夜が来ても暗闇が訪れることはなかった。無数の小惑星に設置された灯が星空と混じり、幻想的な明るさを保ち続けている。港はまるで、宇宙と世界の狭間に咲く花のようだった。


ルキアは港の奥へ足を進める。銀色の路地裏で跳ねる少年、巨大な鳥を操り空へ舞う旅商人、輝く衣の魔術師――。彼の魂の書は、人影や出来事に反応し、時折ほのかにページを震わせていた。


やがて広場の中央、螺旋状に高くそびえる塔に人々が集まっているのが見えた。その塔の入口には“選定会”の標とされる刻印があった。


「星名の選定会だ。」


トゥーレの声がした。いつの間にか、彼が背後に立っていた。


「宇宙を生きる者が、自らの名――魂の響き――を選ぶ儀式だ。ここで得た”星名”は無数の銀河にも、その存在を届けることができる。」


ルキアの手の中の魂の書は、いつもより強く脈打っている。 階段を上ると、選定会の広間には、さまざまな種族の者たちが集っていた。それぞれの前に置かれた水晶球からは、淡く色づいた光と、異なるリズムの音色が響いてくる。


ひとり、そしてまたひとりが水晶球に手を触れ、静かに名を口にしていくと、光の色合いが変化し、場の空気がしんと変わる。


いよいよルキアの番が巡ってきた。 彼は少し緊張しながらも、水晶球に指を触れた。


浮かび帰るのは、サイレント・アーク号で目覚めた朝、魂の書庫で聞いた囁き、そして仮面の来訪者の赤い光…。


――抱きつづけてきた影、不安、しかし、それでも歩みたいという願い。


「僕の名は……ルキア・ノクス。」


小さく、しかし確かな声でそれを口にした。

瞬間、水晶球の内部に漆黒の闇と、淡く白銀にきらめく光が激しく渦巻く。


「ノクス――“夜”か」 トゥーレがそっと呟いた。


「夜はすべてを隠すが、新しい日の兆しも孕む。」


広間の静寂を打ち破るように、水晶球から淡い音が響いた。

参加者たちが振り返る。ルキアの魂の書が強く輝き出し、《ポルタ・コメタ》の中央の光塔もそれに呼応して煌きを増した。


「おめでとう、ルキア・ノクス。」


司祭のような老女が静かに告げる。「君は名を得た。星々に選ばれし、夜明けの徒だ。」


周囲が讃える中、ルキアは自分の胸の奥に確かな“重み”と“光”を感じていた。それは、迷いながらも踏み出した証、新しい自分の物語の第一歩だった。


だが、その夜。

彗星の港の片隅で、あの仮面の来訪者が、暗がりの中に消えていく影へとそっと手を差し伸べているのを、誰も気付かなかった。


ルキアの旅は、“名”を得て、いよいよ新しい局面を迎える――。

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