新たな誓い
静けさを取り戻した地下神殿で、人々は互いに手を取り合い、立ち上がった。企業の垣根も、争いの記憶もなく、そこにはただ互いを支え合う静かな連帯だけが残っていた。
春風はふらつきながらも歩き出し、瑠宇がすぐにその肩を支えた。
「無理するなよ、春風」
「はい、瑠宇兄さんこそ」
瑠宇の優しい声に、春風は微かに笑って頷く。
蒼龍は、傷を負いながらも符を取り出し、企業の隊員たちにも声をかけた。
「お前たち、動ける者は協力しろ。応急処置用の治療符を可能な限り作るのだ。まずは互いに傷を癒すことを最優先に」
神谷と佐久間は互いを見て頷き、すぐさま自分たちの隊員にも指示を出した。
「白菊重薬の者たち、黄昏通信と力を合わせ、治療符を作成しろ。いまは敵味方ではない」
佐久間の言葉に、白菊重薬の隊員たちは素早く動き始める。
地下神殿からの脱出は静かだった。
全員が肩を貸し合い、傷ついた者を互いに支えながら、ゆっくりと崩れかけた地下道を抜け、地上への階段を上り始める。
地上へと辿り着いた時、すでに夜は明けていた。
淡い朝陽が江戸の町並みを柔らかく照らし、人々はいつもと変わらぬ朝を迎え、穏やかに動き出している。
まるで地下で起きた激しい戦いが嘘のように、町は無傷で平穏そのものだった。
蒼龍は肩を貸し合いながら地上に戻った面々を見渡し、静かに微笑んだ。
「どうやら、久遠が全てを抱えて逝ったようだな」
その言葉に誰もが静かに頷き、久遠の犠牲を改めて噛み締めていた。
神谷と佐久間は蒼龍たちの方を向き、深々と頭を下げた。
「蒼龍殿、本当に世話になりました。また後日、改めてご連絡を差し上げる」
神谷が言うと、佐久間も続けて礼を述べる。
「師匠、ありがとうございました。必ず、この恩を返します」
蒼龍は軽く微笑んで二人の肩を叩いた。
「またいつでも訪ねてくるがよい。符術の話でも、他愛もない茶飲み話でもな」
佐久間と神谷は微笑んで頷き、各々の隊員を引き連れて静かに去っていった。
町に戻った蒼龍、瑠宇、春風の姿は、満身創痍の幽鬼のようだったが、それでも通りかかった町人たちは驚きつつも優しく朝の挨拶をかけてきた。
「おや、尼さま、えらくお疲れのご様子じゃないか。朝から大変だったねえ」
「無理せずゆっくり休んでくださいよ」
その暖かさに包まれながら、三人はようやく蒼龍庵へと戻りついた。
瑠宇は入口に「本日店じまい」と書いた張り紙を丁寧に貼り付け、深いため息をついた。
春風は囲炉裏のそばにへたり込み、力なく微笑んだ。
蒼龍もまたゆっくりと囲炉裏に腰を下ろし、そのまま静かに目を閉じた。
やがて、疲れ切った三人は互いの気配を感じながら、泥のように深い眠りへと沈んでいった。
囲炉裏の炭火が静かに燃え、部屋を暖かく照らし続けていた。
江戸の朝は静かに、穏やかに動き始めていた。
全てが収まり、全てが終わったのだ――。




