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影札商売  作者: To-Marigi
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鏡に映る贖罪

地下神殿はもはや完全な崩壊を免れない状態だった。空間に描かれた符文『鏡返し』は鮮やかな光を放ち、久遠が放つ圧倒的な霊気を静かに、しかし確実に跳ね返し続けている。


久遠はその跳ね返された霊気を全身で受け止め、表情は激しい苦痛に歪んでいた。その身体を覆う青白い霊気はゆらぎ、彼自身をゆっくりと侵食しているかのようだった。だが彼の瞳に宿る光は、もはや憎悪や怒りではなく、静かな、そして哀しい諦念を映している。


周囲に散乱する瓦礫の中で、春風、瑠宇、蒼龍、そして企業の探索隊員たちも息を荒げながら、ただ呆然と久遠の姿を見つめていた。誰もが感じていた――この地下神殿に満ちる霊気が、まるで久遠の人生そのものを鏡に映すかのように、その最後の瞬間を告げようとしていることを。

地下神殿に広がる『鏡返し』の符文が静かな輝きを放つ中、久遠は跳ね返された自身の霊気に苦痛を抱えながら膝をついた。流れ出る霊気が徐々に弱まるにつれ彼の体は揺らぎ、薄れゆく輪郭が地下空間の闇に溶け込みそうになっていた。もはや怒りも憎しみも消え失せ、その目にはただ深い哀しみだけが宿っていた。


春風は震える手を伸ばし、久遠に呼びかける。


「久遠さん……あなたは本当にこれでよかったんですか……? すべてを破壊して、何が救われるというんですか」


久遠は力なく微笑を浮かべ、ゆっくりと頭を振った。


「分かっている……私がしたことが、許されないことだということは。ただ、私は自分自身をも止められなかった。符術の闇に呑まれ……それを正当化しようとしていた……」


蒼龍が静かに前に進み出て、久遠に語りかけた。


「久遠よ、符術とは力だ。確かにその力に溺れた者もいる。だが、春風はその符術を、希望に変えようとしているのだ」

「蒼龍……私は、ただ符術に囚われ、自分の悲しみに目を背けていただけだった。人の心を救うという可能性を、信じることができなかった……」


佐久間が久遠に向かって静かに問いかける。


「久遠殿、あなたの苦しみは符術そのものではなく、符術を巡る私たち自身の争いが生んだものだ。我々にも責任がある」


神谷もまた、その隣で深い後悔を滲ませた表情で続けた。


「我々が符術を企業の利益のためだけに追い求めていなければ、あなたのような悲しみを生むこともなかった……」


久遠はその言葉に目を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。身体を襲う痛みを必死で耐えながら、静かに呟いた。


「お前たちの言う通りだ。私は符術に踊らされ、すべてを失い、それを世界に押し付けようとした。しかし、もうそれも終わりだ。私が符術に対して抱いてきた憎しみと怒り、そのすべてを……私自身の手で断ち切る」


瑠宇は久遠の悲壮な決意を感じ取り、戸惑いながら声をかける。


「久遠……何をするつもりだ……?」


久遠は静かな視線を瑠宇に向け、力なく微笑んだ。


「私が引き起こした霊気の暴走を、この場で封じ込める。自分の身体ごとな……」

「待ってください!そんなことをしたら、あなたは――!」

「もはやこの身は霊気に焼き尽くされ朽ち行くだけだ。江戸を破壊するよう仕向けることもままならん。ならば立つ鳥跡を濁さず、きれいに幕引きと行こう」


久遠はゆっくりと手を掲げると、漂う霊気が彼を包み込み、その周囲に再び激しい霊気が集まり始める。彼自身が最後の『鏡返し』として、その暴走を吸収しようとしていた。


「春風よ、お前の符術は本物だった。人を救い、繋ぐことができる符術だった。私が信じられなかった希望をお前は示してくれた……。装置の中で、私はお前の符術をずっと感じていた。お前の放った群耀はもはや九式護符に引けを取らないほどのものだ……」


久遠の体がまばゆい光に包まれる中、彼は静かに春風の方へと目を向けた。その視線には初めて柔らかな光が宿り、わずかに口元に微笑みを浮かべた。


「……私が人生をかけて追い求め、耽溺した二式・鏡返しを超えるほどの符術だ。それは九式……、いや十式と呼ぶにふさわしい。『十式・群耀』とすればいい」


久遠の静かな言葉が地下神殿に響き渡る。彼は微かに頷き、再び春風をまっすぐに見つめた。


「九式護符、二式・鏡返しに溺れた男の言うことだ……、そう符に刻め」


その言葉は、久遠自身の符術への執念と苦しみ、そして春風がたどり着いた新たな領域を明確に告げていた。地下神殿の誰もがその瞬間を胸に刻んだ。

ここに、『十式・群耀』が正式にその名を世界へと書き記されたのだった。


「久遠さん――!」


その叫びと共に、霊気は強烈な閃光となって地下神殿全体を包み込んだ。

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