決戦
荒れ狂う霊潮の波が、蒼龍と瑠宇を飲み込もうと蠢いていた。
護符を背に霊気を浴び続ける玄作は、もはや人の姿を留めていない。
筋肉は異様に膨張し、眼は爛々と濁った光を宿していた。
瑠宇は素早く動いた。
火縄銃を構え、霊合弾を込め、渾身の一射を放つ。
銃声と共に、閃光が奔る。
だが──玄作は身体を捻り、異様な速度でそれをかわした。
「──速い!」
霊潮で強化された肉体は、常識外れの敏捷性を与えていた。
玄作は地を蹴り、一気に蒼龍と瑠宇の間に飛び込む。
拳に込められた霊気が、地面を砕きながら振り下ろされる。
「避けろ!」
蒼龍が叫び、瑠宇は地面を転がって間一髪で躱す。
拳が落ちた場所には、直径二間の大穴が穿たれていた。
(接近戦では勝てない……!)
瑠宇は霊合弾を再装填しながら、側面へと回り込む。
蒼龍は霊鉄鎖を抜き、地を這わせる。
符で強化された鎖が、蛇のように玄作の足元を狙った。
玄作はそれを踏みつけようとした瞬間──
鎖が猛然と跳ね上がり、足首を絡め取る。
「今だ、瑠宇!」
瑠宇は応えた。
銃口を玄作の膝に向け、火蓋を切る。
霊合弾が膝関節を正確に撃ち抜いた。
「──ぐ、あァ!」
初めて玄作の口から、苦悶の声が漏れた。
だがそれでも、玄作は鎖を引きちぎる勢いで身体を捻った。
瑠宇の方へ、渾身の蹴りが飛ぶ。
「……!」
火縄銃を盾代わりに構え、蹴りを受け止めた瑠宇は吹き飛ばされて地面を転がる。
その間に、蒼龍が間合いを詰め、一閃。
蒼龍の古式剣術が、研ぎ澄まされた刃となり玄作の脇腹を裂いた。
だが、常人なら即死の一撃を受けても、玄作は止まらない。
狂ったように吠え、蒼龍へ腕を振り下ろす。
蒼龍は一歩退きながら、符を一枚放つ。
符が空中で光を放ち、玄作の動きを僅かに鈍らせた。
その隙に瑠宇が立ち上がり再び弾を込め、
火縄銃を片手で撃ち放つ──!
弾丸は、玄作の胸板に命中した。
爆ぜる霊気。
玄作の巨躯が、ぐらりと揺れる。
「──これで終わりだ!」
蒼龍が最後の一歩を踏み込み、
玄作の心臓目掛けて剣を突き立てた。
霊潮の加護を受けた肉体を、刃が貫く。
玄作の巨体が、崩れる。
血にまみれた手が、宙を掴もうともがく。
しかし、力は抜け、膝をつきそして、静かに倒れた。
瑠宇も蒼龍も、銃と剣を下ろした。
──すべて、終わった。
だが、玄作はまだ、かすかに息をしていた。
その瞳は、どこか遠くを見ている。
「……玄作殿」
瑠宇が、銃を下ろし近づく。
玄作の口が、僅かに動いた。
「……符を……書かねば……」
かすれた声が、虚空に紡がれた。




