笑う天才
ここは、、、
一体どこなんだろうか、、、
目が覚めた富永は
辺りを見回した、、、
真っ青にどこまでも広がる大空、、、
ごわついた木々が富永の周りを広く囲む、、、
いつか漫画で見た無人島のような景色だ、、
富永はすーっと息を吸い込んだ、、、
自分の格好を確認した、、、
いつも履いているリーバイスのGパン、、、
プーマのスニーカー、、、
GUで買ったTシャツ、、、
間違いない、、、
これはおれのいつもの格好だ、、、
ただ、、、
どうしても思い出せない、、、
なぜ、おれはここにいるのか、、、
なぜこんな場所で眠っていたのか、、、
全くもってその記憶だけが
確実に消え失せていた、、、
《そうだ、、、スマホがある、、》
ポケットから出したスマートフォン、、、
《だめだ、、、圏外だ、、、》
外部との連絡手段は途絶えた、、、
ここにいる理由が分かるようなメールの
やり取りがないか確認する、、、
だが、メールには
親しい友人である是松との
やり取りが5日前を最後に終わっており
そこから新たなメールのやりとりは
誰ともしていない、、、
是松との内容に至っては
すき家の牛丼が美味しかったことと
値上がりして、なかなか手を出しにくくなった
という、本当に他愛もないやりとりしか記録されていなかった、、、
空白の5日間、、、
この期間の間でおれに、、もしくはおれの周辺に
何かが起きたことは間違いない状況のようだ、、、
それにしても、空が青い、、、
たぶんおれは絶望的な状況にいるはずだが
そんなことを一瞬忘れさせてしまうくらいの
輝くような澄んだ青空が
おれのいるこの島を照らしているようだった、、、
水はある、、、
辺りに海が広がっている、、、
水平線、、、
泳いで他の島に行くには
無理があるだろう、、、
食料は、、、、
待てよ、、、
富永はリュックサックを背負っていた、、、
《気付かなかった、、、》
見たことのないリュックサック、、、
私物ではない、、、
中を開けてみた、、、
箱に入ったチョコレート、、
よくある大きさのハサミ、、、
年季の入った白黒の写真、、何やら女性が映っている、、いつの時代だろう、、、
あとは黒の長財布、、
比較的綺麗な状態だ、、
財布の中には何も入っていない、、、
富永はリュックサックの中身が意味するものを
解くことは到底出来なかった、、、
《なんで、こんなものがリュックサックに、、、?
全く見当がつかない、、、》
混乱する頭の中で
まだ富永は自身の置かれた危機的状況というのを理解出来てはいなかった、、
どこか、映画のセットのような
少し現実とは違う場所にいるような
不思議な体験の中にいる自分というものを
飛行中のドローンから見るような角度で
自分を見つめている感覚だった、、、
頭の中ではどこかそれを楽しむ自分すら
いるような感覚だった、、、
《とりあえず食料はこのおやつ程度のチョコレートだけか、、、》
何か食べられそうなものは周りにあるか、、
富永は辺りを見渡した、、、
《どんぐりのような木の実はある、、、
これを食べれば少しは栄養にはなるだろう、、
、》
動物らしきものはいるのか
気になって、少し周辺を歩いてみることにした。
ただ、きれいに舗装されているような道はなく
生い茂る木の中を
怪我をしないように進んでいくだけで
鳥の声や獣の声も一切しない、、、
海の波の音と
少しだけ心地よく吹き抜ける風の音以外は
何の音も無い、、、
《さあ、、おれはどうしたら
いいんだ、、、?》
自分でも驚くほど冷静に
でも、そんなに時間的余裕は無いぞと
自分に言い聞かせながら
富永はその場で少し
考える作業に入っていった、、、
記憶を辿っていく、、、
少しだけ思い出すような感覚になった、、、
確か、、、
古い家があって、、、
何かその家の中に吸い込まれるように
入っていった気がする、、、
そこには、、、
何か、、
紙、、、というか、、、
巻き物、、、?
のようなものが置いてあったような、、、
なんとなくだが、、、
そんな感じの記憶がうっすらと
残っている、、、
夢なのか、、現実なのか、、、
それがどっちなのかは
分からない、、、
ただ、そう遠くない記憶として
蘇ってきた、、、
富永はふと遠くに目をやった時に
鳥居のような建造物が目に入った、、、
《あれは、なんだろう、、、》
富永は吸い込まれるように
その鳥居の方向へと
進んでいった、、、
真っ黒な鳥居だった、、
《黒い鳥居なんて初めてだな、、》
大きさとしては
25才の富永がぎりぎりくぐれるくらいの
大きさ、、、
平均的な体格でそのくらいだ、、、
《くぐろうか、、、》
少しの嫌な予感と
何かが起きるのかという期待とで
富永は少し迷ったが
意を決して富永は
その真っ黒な鳥居をくぐってみた、、、
なんの変哲もない
ただの鳥居か、、、
意を決してくぐったのだが
何も起こる気配はない、、、
《何も起こらなかったか、、、》
富永はがっかりしたような表情で
空を見上げた、、、
《んっ、、、?》
富永には何やら小さな物体が見えた、、
《あれは、、なんだ、、、?》
小さな物体がこちらに向かってくる、、、
ゆっくりと、、
そしてその物体はだんだん大きくなっていく、、、
《飛行機だ、、、》
セスナ機のような飛行機が
どんどん富永のほうに近づいてくる、、、
《人か、、、?
人がいるのか、、、、?》
富永は少しの期待感を持って
その飛行機を待った。
飛行機は海辺の砂浜に
降り立った、、、、
少し離れた砂浜のほうへ
富永は向かった、、、、
セスナ機が降り立った砂浜に
富永は辿り着いた、、、
セスナ機の中から
1人の女が現れた、、、
「おまえが
トミナガか?」
ロングヘアにTシャツ、ショートパンツを
身にまとった
20代後半くらいだろうか、、
その女は富永に尋ねた。
「あっ、、はい、、、
富永ですが、、、」
富永は答えた。
「お前の過去の記憶が何者かにハッキングされ
別の体内へと移動された可能性がある、、、
これは国家機密で捜索中の大事案だ、、、
よく聞け、、、
これからお前は私の言う通りに行動してもらう。
もし、お前が勝手な行動をしようものなら
お前はおそらく一生、表に戻れることは
なくなる、、、
そんなことになれば家族も悲しむだろう、、
この事案が解決すれば
お前はすぐに表の世界へ戻れる、、
だから協力しろ。
分かったか?」
無機質に話を進めていく女のそばで
富永は静かに淡々とその言葉の意味を
理解した。
《家族って、、、おれ独身だし
そんなあれだけどな、、、》
「わ、、わかった、、、
とりあえずあなたの言う通りに動く、、
とにかく、1人きりじゃなくてよかった、、、
ところであなたの名前は、、、?」
「私は西条だ。
国家機密取締司令部
第二部隊
副隊長の西条という。」
「西条さんですね、、、
分かりました、、西条さん、、
とにかく、、おれもこのよく分からない島から
早く脱出したい、、、
なんでも協力するんで、、よろしくお願いします、、、」
「分かった。
まずはお前のそのリュックサック。
その中身を見せてみろ。」
富永は西条の言う通りにリュックサックの
中身を取り出して、西条の前に置いた、、、
「こ、、、これはなんだ?」
西条は目の前に置かれたリュックサックの中身を見て驚いた。
「巻き物は、、、
あの巻き物はどこへやった?」
西条は怒りに満ちた表情を富永に向けた。
「巻き物、、、、
あっ、
もしかして
あの古い家に置いてあった
あれか、、、?」
「貴様!!
あの巻き物を隠したな!!?」
西条はポケットから銃を取り出して
富永に向けた。
「待って待って!!
おれは知らない、、、
確かに巻き物は
なんかあの古い家にあった気がする、、、
でもおれはそれを盗んではいないし
あの巻き物に何が書かれてあったのかも
知らない、、、
信じてくれ、、、」
「では、どこにあるんだ!!?」
西条の怒りは収まらない、、、
「おれがあなたに、、、
西条さんに聞きたいよ、、
あの巻き物、、、
そしてあの家、、、
おれはどうして、こんな無人島に
降り着いたんだ、、、?
あの家で
巻き物を見て、、
おれはどうやって
ここまで来たんだよ、、、?」
「お前、、、
本当に巻き物の場所を
知らないのか、、?」
「本当だ、、、絶対知らない!」
「本当だな、、、?」
「ほんとだって!!
そんな嘘はつかねえよ、、」
「分かった、、
信じよう、、、」
西条は少し落ち着きを取り戻した。
「お前が、あの家から
なぜ
この無人島に来たのか、、、
それを教えてやる、、、」
西条はゆっくりと歩き始めた、、、
「富永、、、
お前は表の世界で
ある本を読んだ、、、」
「本、、、、?
おれが、、、?」
「そうだ、、、お前は
その本を飲み、、、
その本に書いてあった
ある儀式を決行した、、、」
富永は記憶を辿ってみた、、、
この島に来る前に
おれが何か本を読んでいたか、、、
「その本にはこう書かれていた、、、
世界の平和を求めるあなたは選ばれし者
神の言葉を受け入れ
この世の為に大きな希望を尽くしなさい」
だんだんとその記憶に近いものが
富永の頭に浮かび上がってきた、、、
「なにか、、なにかあったような気がする、、、」
富永は考えを時系列に整理していた、、、
「そしてある屋敷でやるべきことが
そこには記されてあった、
お前はそのやるべきことを実行した、、、」
「・・・いや、、思い出せない、、、」
「そしてお前は、、、
ここからがこの事件の最重要ポイントとなるのだが、、、
お前はある秘密結社組織の人物に
お前の脳内データを奪われ
おそらく船に乗せられて
この島に
降ろされた、、、」
「そんな作り話しみたいなことが、、、
そんなことが起きていたのか、、、」
西条の話を聞き終えた富永は
まるで他人の話を聞いているかのように
ただただ、信じられないといった表情で
呆然と立ち尽くしていた、、、
「お前の記憶データがなぜ盗み取られたのか、、、
富永、、、分からないだろう?」
「それは分からない、、、なぜおれの記憶データが必要なんだ?どんな理由で、、、」
「富永、、、お前は
過去に大きな過ちを犯してしまった、、、
それがその理由だ、、、」
「おれが大きな過ちを、、、?」
「そうだ、、、お前は
大きな過ちを犯し
その秘密結社組織に記憶データを狙われた、、、」
「その組織ってなんだ、、、?」
「反国家テロ組織だ!」
「なんか、、やばそうだな、、、」
「富永、、、お前は
危機感があまりない、、、
お前は今大変な状況にある、、、」
呆れた様子で西条は富永に言った。
「まずはお前の潜在能力を引き出す
トレーニングを敢行する。
この島で2頭、馬がいる。
まずはその馬を私のところに連れて来い!
これが最初にお前に課された任務だ。」
「馬???
馬がいんのか、この島に、、、」
西条は富永の反応を無視して缶コーヒーを飲み始めた。
「缶コーヒーを飲むか、、、?
国家機密事案の業務をしているときに、、、」
「富永!早くいけ!
ちなみに2時間しか待たない。
時間を過ぎたら拷問にかけることが
決まりとしてあるから
それまでに任務完了したほうが身のためだ。」
「はっ!!!?
拷問???
バカ???
そんなことしてみろ、警察に言って
あんたはブタ箱行きだぞ!」
「富永、、、お前は頭が悪いのか?
国家機密部隊だぞ、、私は、、、
警察に指示するのは
我々だ!
我々の組織は日本を動かしている組織だ。
甘く見るなよ。」
「・・・」
富永は黙って、西条の言葉の意味を理解した。
「行けばいいんだろ、、、行けば、、、」
富永はトボトボと歩き始めた。
《あの西条とかいうヤロー、
めちゃくちゃ言うなー、、
馬なんてこの島にいないだろう、、
しかも2時間で見つけてこいって
もはやいじめだな、、》
ぶつぶつと文句を言いながら
富永は馬を探した。
この島は無人島の割には
なぜか整備されている場所が
チラホラある、、、
綺麗に整えられた芝が茂っていたり
柵なども比較的新しいものが
設置されたりしていた。
《なんだろうな、、、何か危ない組織が
所有している島なのか、、
実は無人島ツアーの旅行客を呼ぶ
観光地なのか、、》
富永はいろいろと考えたりした。
《いた!》
富永は馬を見つけてしまった、、、
《いや、、普通にいるし、、、》
特に苦労して探す必要なく
目の前に馬が歩いていた、、、
その馬を捕まえて、西条のもとに
連れていこうとしたが、
馬はゆうに300キロは超えている大巨漢だ、、、
素手で馬を運べるわけもない、、、
《見つけたは良いが、、どうやって運ぶんだ?》
富永は迷った、、、
とりあえず解決策が見つからない
富永は走って西条のもとに戻った。
「あの、、、西条さん、、
馬いたんだけど
こっちまで運んでこれないから
一緒に来てくれない?」
富永は一応西条に確認してみた。
「悪い。言うの忘れてた。
馬を見つけてここに連れてくるまでが
任務だ。
頑張れ。」
「・・・」
富永は馬の元に戻っていった。
《絶対そう言うだろうなとは思ったよ。
一応聞いてはみたけど。》
富永は西条の下に馬を運ぶ方法を1人考えながらトボトボと歩いていく、、、
《さて、、、馬は目の前にいるが
どうやって運ぼうか、、、》
考えていると
遠くにまたも馬に乗る青年が見えてきた。
《なんか馬に乗った青年がこっちに来る、、、》
富永はじっと待った、、、
「おい、お前誰だ??」
馬に乗った青年は富永の前に止まり
言った。
「いや、、お前がだれ??
おれは富永。
お前、日本人?
なんでこの島にいんの?」
富永はぶっきらぼうにその青年に言い放った。
「はっ、、、?お前偉そうだな、、、
よそ者のくせに、、、
日本人だよ!
お前なにやらかしてこの島に来たんだ?」
その青年も若干ケンカ腰で富永に言った。
「お前、なんか口の利き方がなってないな、、、
馬降りてちょっとこっち来いよ!」
「あーっ!!!?お前誰に向かって言ってんだ!!?ちょっと待てよ、こら!!」
相当な怒りを覚えたその青年は馬から飛び降りて、富永の前に進み、富永の胸ぐらを掴んだ。
富永も怒りをそのままに青年に立ち向かい
そのまま柔道だか相撲だかのとっ組み合いのケンカに発展した、、、
押し問答が続いた後、
青年は富永の顔に向かって右拳を叩きつけた。
富永も応戦し、青年の腹を思いっきり殴りあげた。
そのまま互いにこう着状態が続き、
お互いの体力の限界が近づいたところで
ケンカは終わった、、、
「てめえ、、覚えておけよ、ただじゃおかねえからな、、」
青年は興奮した状態で富永に伝えた。
「こっちのセリフだよ!勝ったようなセリフこいてんじゃねえぞ、こら、、、おれに勝とうなんざ30年はえんだよ!」
ゼェゼェと肩で息をしながら
2人は懸命に言いたい言葉を好き勝手に言い合って
その場から離れていった、、、
それなりのハードな喧嘩だった、、、
喧嘩を終えた富永は
とりあえず西条のもとへまた向かった。
「西条さん!!
なんかいけすかねえガキが
馬に乗っておれに喧嘩売ってきたんだ!
だから、さっきボコボコにしてやって
追い払ってやったんだが
あいつは誰??
西条さんの知り合い??」
西条はこれまで見たことのないような
驚いた表情で富永を見た。
「お、、、おまえ、、、
まさか、、、
神谷島長に
暴力を振るったのか、、、?
おまえ、、、、
それはまずい、、、、
この島で1番の権力者だぞ、、、、
神谷に目をつけられたら
お前は、、、
終わる、、、、」
絶望的な表情を西条は富永に向けた。
「えっ、、、?
あのガキがこの島で1番偉いの、、、?
そりゃあ、大した島じゃねえなぁ、、
この島も、、、
結構喧嘩弱かったぞ!
苦戦したけど、、笑
トドメをさしといたほうが良かったか?」
富永はあっけらかんとした表情で
西条に言った。
「おまえ、、、このあと、
まずいことになると思う、、、
私は知らんからな、、、
自分で責任を取れ!
神谷を怒らせたら
もうこの島では生きていけない、、、」
「いや、待って待って、、、
誰がこの島で生きていきたいって言った、、?
おれは一刻も早くこの島を出たいんだけど、、、
1秒たりともこの島にはいたくないし、、、
この島から出されるなら本望だよ、、、」
「そういう問題じゃない!
非常に危険だ!
おまえ
大変なことになるぞ!
覚悟しておけよ!」
「大丈夫!
またなんかいちゃもんつけてきたら
次こそはトドメをさすから!
返り討ちだよ!
てか、そういえばこの島には
2頭しか馬がいないって
西条さん言ったよな、、、
あのガキの馬がその2頭目か!!
次は馬ごとぶん取ってやらないとな!!」
富永はそう言うとまた最初に見つけた馬のいたほうへと歩いて行った。
富永は放たれた馬がいたところへ戻ってきた。
馬は1頭そのままそこで歩いている。
《あのクソガキ、また現れたらまたボコしてやっからな!》
富永は辺りを見渡した。
静かな草原だ、、、
人の気配もない、、、
富永は寝転がって空を見上げた。
《どうするか、、、
あの馬はデカすぎて
西条さんのもとに運べない、、、
どうすべきか、、、》
そんな思いにふけっていたとき、、
遠くの方から大群のような音が聞こえてきた、、、
馬に乗った青年、、、
神谷に違いない!
そしてその周りにはガタイの良い男達が
脇を固めていた。
全員が全速力でこちらに向かってくる。
10人くらいは居るように見える、、、
《なんだ、こいつら、、、
てか、この島に人ってこんなにいたのか、、、
あのクソガキ、仲間連れて復讐に来やがった!
すげえ人数だな、、
さすがにこれは勝てない、、、》
その大群は富永の前で足を止めた。
「おい、クソ野郎!さっきおれを
殴ったよな?
おれを怒らせたらどうなるか分かってんだろうな!!?」
神谷の怒りは見た目からしても頂点に達しているようだ、、、
「はい??
なんでございましょうか、、、
私は、まさか島長さまに
そんな無礼なことをするはずも
ございません。
島長さま、、何か人違いなどでは
ございませんでしょうか?」
富永はこの期に及んで、しらばっくれた。
「猿芝居か!!
お前
本当にナメてるな!」
「やれ!!!!」
神谷は家来達に号令をかけた。
「よっしゃーーー!!!」
周りのガタイの良い家来達は
勢いよく富永を目掛けて突進してきた、、、
富永は迷わず逃げた。
全力疾走で草原を駆けていった。
既に遠くから全速力で走ってきていたガタイの良い男達は既にスタミナを消耗しており
脚力、スタミナ面では万全の富永に勝つことは出来なかった、、
神谷一派はみすみすと富永を逃してしまった。
富永は山林の中まで逃げてとにかく
その大群から身を隠した。
「ふんっ!まあいい!
次見つけたときは
あのガキは最後だ!」
「行くぞ!!」
神谷は家来達を引き連れて
戻って行った。
《あぶねー!!まじでやられるとこだった、、、
神谷の一派はあんなにたくさん居んのか、、、
こりゃー、ちょっとまずいな、、、》
身の危険を肌で感じた富永はまたも
西条のいる場所へと向かっていった。
「ちょっと西条さん!
あの神谷とかいうクソガキが
なんかえげつない身体してる兄ちゃん連れてきて
おれをしばきに来やがった!
あんなやつをこの島の長にするのは
間違ってる!!
おれは抗議する!!」
「富永、、、おまえはバカか?
この島のリーダーは私が決めれることじゃない。
この島の中で決めていることだ。
私ですらこの島のことは、そこまで詳しくは知らない。
ただ、神谷を怒らせたら
まずいということだけは忠告しておく。」
「なんだか、はっきりしない言い方だな、、、
まあいい、、
とりあえずなんとかするよ、、、」
富永は半分だけ納得して
また戻って行った。
馬のもとへ戻った富永は
リュックサックを開け
中身を取り出した。
チョコレートを馬にあげてみた。
そうすると、馬は富永にひどくなついてきた。
富永は更にリュックサックにあった長財布を馬にくわえさせてみた。
馬は長財布をくわえると
離さない、、、
そのまま富永はそれをリード代わりに馬を引き
西条のもとへと連れて行くことに成功した。
「西条さん!!
とりあえず1頭だけ連れて来たぞ!」
富永は西条の元に馬を引き連れた。
「・・・」
「富永、、、あと5分だ。。。」
馬2頭の引き渡しが条件だ。
残り時間あと5分、、、
《やばい、、、、》
富永はまたも先ほどの草原に走って戻った。
「馬ー!!!!
馬!!
出てこい!!!
いないのか!!!」
富永は叫び続けたが
馬らしきものは他になかった、、、
間違いなく
タイムリミットは
経過してしまった、、、
富永はまたも西条のもとへと戻っていった、、、
「西条さん、、すまない、、
2頭目は連れて来れなかった、、
許してくれ、、、」
「いや、それは無理だ。」
「・・・」
「これからお前を収容所に運ぶ。
そこで罰を受けてもらう。」
西条は無機質に富永に言い放った。
「おいおい、なんだよ、収容所って、、
ますますヤバくないか、、」
どこから現れたのか
西条の部下のような男が
富永に手錠をかけた。
「今からお前を連行する。騒ぐなよ。」
黒ずくめのその男は富永の自由を奪った。
「てか、収容所って歩いていくのか?」
黒ずくめの男に聞いたが返事は無かった。
富永とその男は
険しい山道を淡々と登って行った。
「ここが収容所だ。」
黒ずくめの男と共にたどり着いた場所は
古びた病院のような場所だった、、、
「見るからにヤバそうな場所だな、、、」
富永はさすがに焦ってはいた、、、
「あとはお前は1人で建物に入って
中にいる人間の指示に従え。
おれはもうここで離れる。」
そう言って黒ずくめの男は富永の手錠を外し
スタスタと来た道のほうへ戻って行った。
《この病院、、、なんか見覚えがある、、、》
富永はハッと思い出した。
リュックサックの中を開け
ある物を取り出した、、、
一枚の写真、、、
白黒で鮮明ではないが
そこに映っているのは
1人の女性と
そして、この建物だった、、、
《やっぱり、、、ここだ、、、間違いない、、、》
富永はその写真を大事にリュックサックに戻した。
そして、病院の中へと入って行った、、、
薄暗い病院の中へと歩を進めた、、、
受付のような席に1人の女性が
座っている、、、
「あの、、、おれ、富永って言うもんですが、、、
なんか、、聞いてますか、、、?」
その女性は静かに頷いた、、、
顔はよく見えない、、、
「はい。
お待ちしておりました。富永様。
あなたはこれから
険しい旅に出て頂きます、、、
とても厳しい状況になると思いますが
どうかご無事で、、、」
「いやいや、、、おれはなんで罰ゲームみたいなことやらされて
そんな危ない目に遭うのが
既定路線みたいな雰囲気になってるんだ、、、?
まじで意味が分かんねえ、、、
おれ馬を2頭連れて来れなかっただけだぞ、、、」
富永は受付の女性に愚痴をこぼした。
女性はピクリとも反応せず
聞き流していた、、、
「あの、、、ところで、、
おれこういう写真を持ってて
たぶんこの病院が映ってるんですけど
お姉さん、、この人誰か
知ってます、、、?」
富永はリュックサックからあの写真を取り出して女性に見せた。
無機質な女性はチラッと写真に目をやった。
「えっ、、、、、、」
女性はひどく驚いた表情を見せた。
「これ、、、、、、どうして、、、」
混乱しているようだった。
「なに、、、?もしかして
この人、お姉さん知ってんの?
だれ、、、?」
富永は捲し立てた、、、
「ちょっと、こちらに来て下さい、、、」
女性は立ち上がり
別の部屋へと富永を案内した、、、
「なに、なに、なに、、、?
お姉さん、この人のこと知ってんの?」
富永の言葉には反応せず
その女性は薄暗い部屋の中へ
富永を連れて行った、、、
「その写真は、、、
どこで入手したんですか、、、?」
おとなしい女性だが
その言葉には強みがあった、、、
「いや、これはなんつうか、、
説明は難しいんだけど
おれが表の世界にいた時に
古びた建物に入って
そこでなんか巻き物みたいなものを見て、、、
それで気付いたら
この島に送られてて、、、
そうしたらなぜか見覚えのないリュックサックを背負わされていて、、、
その中に入っていたのがこの写真で、、、
なんで入ってんのか、誰が入れたのかも
おれは知らない!」
「それは、、、本当ですか、、、」
「いや、こんな状況でウソなんてつかないよ、、、
てか、この島にいる人間は
なんでそんなにおれの言うことを疑うんだ、、、
そもそもおれがなぜこの島にいるのかも
半分はおれもよく分かってねえし、、、」
「そうですか、、、」
その女性は静かにそう言った、、、
「あの、、、この写真、、、
私が預かってもいいですか、、、?」
「・・・」
富永は女性の目を見て
少し考えた。
「いいよ。
ただし、おれを助けてくれ。
それが条件だ!
おれはなんかここで拷問を受けるんだろ?
それはさすがにおれも嫌だ!
だから、おれを救ってくれ!
そうすればその写真は渡す!
交換条件だ!どうよ、、、?」
女性はしばし俯いて考えていた。
「分かりました、、、
そのようにしましょう。」
女性は快諾してくれた。
「よしっ!!!」
富永は拳を握って喜んだ。
「本来なら私が本部へと連携する必要がありますが、今回は富永様がここに来た事実を隠します。
富永様はすぐにこの建物を出て北に向かって歩いて下さい。
今ちょうど西陽が差し掛かってますので
どちらが北かは分かりますよね?
北に歩くとイカダが置いております。
それを奪ってそのままこの島を脱出して下さい。
ずっと漕いでいればいずれどこかの島に着くか
漁船や大型船があなたを助けてくれるはずです。」
「ありがとう、、、恩に着るよ、、、
でも、、、お姉さんは大丈夫なのか、、、
おれの肩を持って、逆に狙われたりしねえのか、、、?」
「私は、、、大丈夫です。。
この写真さえあれば
私はもうどうなっても、、、」
「うーん、、、なんかそれは
おれがお姉さんを身代わりにして
おれだけ助かるみたいな画が
見えてきちゃうな、、、
そういうのはなんつうか
おれのポリシーに反するんだよな、、、」
富永は頭を掻きながらそう呟いた。
「よし!こうなりゃ一心同体だ!
お姉さんもおれと一緒に逃げよう!
なんかよく分かんねえけど
その大事な写真も今はお姉さんのもんだし
それと一緒におれとこの島を脱出して
表の世界に戻ろうぜ!」
「私を連れて行けば
相当な危険な思いをさせることに
なります、、、
富永様、、、
それはおすすめ出来ません、、、」
「なーに!心配ない!
おれは既にもう充分危険な状況だよ!
むしろその状況を一度でも救ってくれた
お姉さんに感謝してる!
だから今度はおれの番だ!
とにかくおれと一緒に逃げよう!
細かい話はその後だ!」
富永はそう言うと
その女性の腕をつかんで
颯爽と建物を出て北に向かっていった。。。
北に向かうとイカダがあった。
硬いロープで結ばれていたが
富永はリュックサックからハサミを取り出して
ロープを切り裂き
見事にイカダを出発させることに成功した。
「逃げよう!
西条さんには悪いが
おれはこの島にいても
嫌な予感しかしない、、、
反国家テロ組織だか
国家機密部隊だか
知らんが
どっちが敵かもよく分かんねえから
とりあえずおれは逃げて
表の世界を目指す!
お姉さんもそれでいいか?」
「は、、はい、、
私はこの写真さえあれば、、、
なんでも、、、」
見事に謎の無人島を脱出した
富永とその女性は
次なる場所を目指してイカダを
進めて行った、、、
「なあ、お姉さん、、
おれ、表の世界で記憶を無くしてしまって
何も思い出せないんだ、、
なんかおれについて知ってたりする?」
イカダを漕ぎながら富永はその女性に聞いた。
「そうですね、、
私も国家機密部隊の一員です。
西条さんのことも知っていますし、、
だからある程度はあなたについてのことも
知ってはいます、、、」
ゆっくりとした口調でその女性は答えた。
「あなたは、お付き合いされていた女性は
いましたか?」
「あー、あっちの世界で?
まあいたと思うよ、、」
富永は答えた。
「それはどんな女性でしたか?」
「うーん、、どんなだったかな、、、
よく思い出せない、、
でも、、髪は長かったような、、
それくらいの記憶しか残ってないな、、」
「あなたのリュックサックに長財布が入っていますよね?それを見ても思い出せないですか?」
富永はリュックサックの中から長財布を取り出した。
「これは、西条さんのとこに馬を運ぶ時に
大活躍してくれた財布だよ、、
これを見てもあの馬しか思い出せねえな、、」
「その財布は、、たぶんあなたが
お付き合いされていた方にプレゼントされたものです、、、」
「えっ、、、そうなの??
それは、、なんつうか、、
大切にしないといけないやつだな、、、」
「あなたの記憶データは国家機密になる程重要なものです。それがテロ組織に奪われた。
だから国は何としてもその組織から記憶データを奪い取らないといけない、、、
だから西条さん達もあれだけ必死になって追いかけているんです、、、」
「なんか映画みたいな展開のところに
おれ達は存在してるんだな、、、
よく分からんな、、、
なんかとりあえずおれはカレーを食べたいな、、
そういえばこの島に来てまともに食事を
摂っていなかったな、、、」
「もしよければ、これをどうぞ。」
女性はカバンの中から
缶詰を2つ取り出して富永に渡した。
「おー、、ツナの缶詰!
これは美味そう!!
お姉さん、、マジで優しいな、、、
ほんとありがとう!」
富永は嬉しそうにお礼を言うと
すぐさま缶詰にむしゃぶりついた。
夕焼けから夜の空に移行していくところで
富永らは一旦近くの島に降り立つことにした。
「日も暮れてきました。今日の渡航はこのくらいにして、この島に泊まってまた明日、出発しましょう。」
その女性は提案し富永も承諾した。
イカダを停めて、またもや無人島らしき島に
たどり着いた2人は
寝れそうな場所を探して
ひとまずはそこでゆっくりとすることにした。
「なあ、お姉さん、、
あの写真に映ってる女の人って
誰なの??」
唐突に富永は聞いた。
「あの人ですか、、、
あの人は、、表の世界で
あなたがお付き合いをしていた人の
祖母にあたる人です、、、」
「えっ、、、、そうなの、、、?
なんだか近いような遠いような
よく分かんねえ関係性だな、、、」
富永は困惑の表情を見せた。
「その女性はウサミさんと言いまして
かなりの資産家でした、、、
石油関連の事業で富を得ていた大富豪と
結婚しまして、ウサミさん自身も
日本でもかなりのやり手として
多くの事業を立ち上げて成功していた方の
ようです、、、」
「そういうことか、、、
となると、、
そのウサミさんという人が
何かとんでもない大犯罪をやらかしたか
もしくは資産を狙われてとんでもない犯罪に巻き込まれたか、、、
そのへんのところじゃないのか、、、?」
「仰る通りです、、、ウサミさんは
何者かに殺害されました、、、
そして、ウサミさんの資産の多くも
盗まれました、、、
それを計画、、実行した組織が、、
あなたの記憶データを奪ったとされる
反国家テロ組織だと疑われています、、、
そこで、大きな捜査が行われています。
その一つが
富永様の記憶データの在処の捜索なんです、、、」
「・・・」
その女性の話を富永はじっと静かに
腕を組んで聞いていた、、、
「そうか、、、、」
富永は事件の流れを一通り理解したかのような
表情で納得したように言った。
「ということは、、、
そのウサミさんという女性とおれは
おそらく何かしらの接点があった、、、
むしろ、ウサミさんの殺害についての
重要な情報をおれが持っていた、、、
その情報をおれが持っていると
都合が悪い奴らがいた、、、
それがおそらくその反国家テロ組織の奴ら、、、
そこでおれの記憶データが奪われた、、、
その記憶データがウサミさんの殺害の貴重な証拠となり得るので
国家機密部隊もその記憶データを奪い返そうとしている、、、
ざっとこんな状況なのかな、、、」
「はい、、私も全ての状況を知っているわけではありませんが、おおよそ私が持ちうる情報で
話を統合すると、そういう推測が出来ます、、、」
「んで、、、あなたはそのウサミさんとは
どういう関係なの、、、?」
「そうですね、、、ウサミさんは実は
若い頃、、男関係も派手な方でして、、、
石油関連の資産家の夫の他にも愛人がたくさんいらっしゃって、、、
その方々とのお子様もたくさんいらっしゃったようです、、、
それで、、孫にあたるその1人が
どうも、、私のようでして、、、
あまり、ウサミさんとお会いしたこともないですが、、昔、母によくウサミさんの話を聞かされておりまして、、、
それでも、、、私にとってはかけがえのない祖母であることは間違いないので、、、
つまり、ウサミさんは私の祖母であり、、、富永さんがお付き合いされていた女性は私の親戚でもあります、、、」
「はー、はー、はー!!
そういうことか!
分かった!!
よく分かった!!
そういう関係でね、、、」
富永は深く納得して、その女性の話に
相槌を並べた。
2人はその後も少し話した後
簡単に缶詰の食事を摂り
眠りについた。
夜が明け、富永は近くに寝ているはずの
あの女性を探したが、どうも居ないようだった。
《あれ、、どこに行ったんだ、、、》
富永は若干嫌な予感がした。
そこに上空から見覚えのあるセスナ機が
轟音を響かせて舞い降りてきた。
富永はとりあえずそのセスナ機の降りた場所へと向かった。
そこから降りてきたのは、、、
予想通り、西条だった、、、
「おい、富永!
お前、収容所から脱走したようだが
どういうことか分かってやってるのか?」
西条の言葉は怒りに満ちた声だった。
「いや、、、あの、、、
これには
ふかーい事情がございまして、、、
話せば長くなるというか何というか、、、」
「私ら国家機密部隊から
逃げられるとでも思ったか、、、
ミトミにもすぐに大きな処分が下される予定だ!」
「んっ、、、?ミトミ、、、?
ミトミってもしかして
収容所の受付の女性か、、、?」
「そうだ!お前と共に収容所を脱走したあの女だ!」
「西条さん!
それはやめてくれ!
彼女は悪くない!おれが脱走をそそのかして一緒に付き添ってくれただけだ!
彼女はいわば被害者だ!
おれに対する処分は大きくても構わない!
その代わり、彼女への処分は見逃してあげてくれ!
この通りだ!申し訳ない!おれが謝る!
彼女をすぐに解放するように西条さんからも上に伝えてくれ!」
「・・・」
西条の目は点になっているようだ、、
「お前は、バカか??
理由はどうあれミトミは組織を裏切った行為をしたことは事実だ!
お前の顔に免じて許すことなど出来るわけないだろう!お前はアホか?」
「アホは無いだろうがよ!!西条さんよ!!
アホは言い過ぎじゃねえかよ!!」
「・・・」
《いや、そこにキレるの、、、?》
またも西条の目は点になった、、、
「と、、、とにかくミトミにも大きな処分が下される。
そして富永!
お前も次は容赦ない処分が待っている!」
静かに冷たい風が吹いた。、
「付いて来い!行くぞ!」
西条は富永を促した。
セスナ機に乗った西条と富永は
また最初に降り着いた無人島へ向かい
あの収容所へと戻ってきた。
「あの、、、、おれやっぱり
ここで拷問受けるの、、、?」
「当たり前だ!むしろ当初予定していた拷問の5倍は苦しいものになると思っておけ!」
「いやいやいや、、、そもそもおれ
なんか悪いことしたんだっけ、、、
おれは被害者のはずなんだけどな、、、」
「黙って係の言う通りにしろ!
二度は無いからな!
分かったか!?」
「へいへいへい、、、分かりやんしたよ、、、」
「ふんっ!」
西条は富永に背を向けて帰っていこうとした。
「待って!西条さん!」
「次はなんだ!?」
「おれ、、、実はウサミさんの事件の
犯人を知っているんだ、、、」
富永は神妙な表情で西条に伝えた、、
「貴様!!!それは本当か!!!
貴様、、これまでそれを隠していたのか!!!!」
西条は怒り狂った様子だった。
「まあそう怒るなよ、、、
おれも記憶データを奪われたとは言え
うっすらとした記憶はなぜか残ってたり
するんだ、、、
そして、、ウサミさんの件のことも
少し記憶が残っている、、、」
「貴様!!!
もしデタラメだったとしたら
ただじゃおかんぞ!!
分かってるのか!?」
「まあ信じないなら別にいいや!
この情報は週刊誌とかに売り飛ばして
おれが億万長者になるのも悪くないし、、
あっ、、西条さん、、、
この話は聞かなかったことにしてくれ!
こめん、ごめん!」
西条はキレた、、、
西条の右ストレートが
富永の頬を貫いた。
《バコーン!!!!!》
富永は吹っ飛ばされた。
「いってえええなー!!!何すんだよ!!!」
「お前はこれ以上、我々をなめていたら
後はないぞ、、、
ウサミの情報を私に教えろ!
二度は言わん!
ウサミの情報を私に教えろ!」
「分かった、、、分かったよ、、、
教えるよ、、、」
西条は富永を別室に案内した。
「実は、ウサミさんの事件については
西条さんも既に知っているとは思うが
おれが表の世界の古い屋敷で見たあの巻き物が重要な手掛かりなんだ。
あの巻き物はウサミさんの事件に関する
決定的な証拠品でもある。
おれはあの巻き物を見た後に記憶を無くして
この世界にぶち込まれてしまった、、、
あの巻き物を見てしまったおれは
ウサミ事件の首謀者に目をつけられてしまい
おれの記憶ごと抜き去られてしまったんだろう、、、
それで、その時のことをおれもこれまで
深く考え直してみたんだ、、、
そうすると、少しだけ記憶が蘇ってきた、、
あの時、、
巻き物を見てウサミ事件の真犯人をおれは知った、、、
そして、その時におれの横にいた人物は
1人しかいない、、、
それは、おれの交際相手だった
ミカンという女性だ。」
「果物みたいな名前だな!それ全部ウソだろ!?」
西条はツッコミを入れた。
「やかましい!!ミカンは本名でおれの彼女だ!
名前のことは流せ!!とにかく、ミカンという名前の女性がおれの隣にいた。」
「そうすると、そのリンゴという女が
お前の記憶データを盗んだということなのか!?」
「いや、ミカンだから!!
リンゴちゃう!
ミカンや!!
そう、、、要するにミカンが証拠隠滅の為に
おれを襲い、そのまま逃走した形だ、、、」
「お前の彼女は、ウサミ事件に関与する動機などはあるのか?」
「実は、、、たぶん、ある、、、
ミカンはウサミの孫なんだ、、、
そしてウサミさんにはミカン以外にも
たくさんの孫がいるようだ、、
そんな中でミカンとウサミさんに
何かしらのトラブルがあったということは
充分想定出来る話だ、、、」
「素人にしてはまあまあの推理だな、、」
西条は呟いた。
「そうだな、、昔からコナンが好きだったからな、、」
冷たい風が2人の間をすり抜けた。
「そうすると、我々は今すぐにそのミカンという女を探し出し、拘束すれば事件の解明に向けた大きな一歩となる。そういうことでいいのか?」
強い口調で西条は富永に言った。
「その通り!!
それでこの事件の真犯人が解明される!
真実はいつも一つ!!!!」
甲高い声で富永は叫んだ。
「・・・
お前、、、ミーハーなんだな、、、」
ポツリと西条は言った。、
「い、、、いずれにせよ西条さん!
おれはあんたにこの事件の解明を任せる!
だからとにかくそのミカンを探し出してくれ!
既に相当な距離を逃げているはずだと思う、、、」
富永は腕を組んで、警察の刑事のような趣で西条に伝えた。
「とりあえず、おれも重要参考人として本部での聞き取りなどの対応が必要になると思う。とりあえず、西条さんとこの本部に連行してくれ!新宿か?渋谷か?どこでもいい!おれのことは構わないからどこにでも連れて行ってくれ!」
富永は言った。
「いや、、、それは無理。
とりあえずお前には一旦ここで予定通り
拷問は受けてもらう。」
西条は冷静に答えた。
「・・・」
額から汗がこぼれ落ちたかのような顔になった富永。
「へ、、、?ウソでしょ、、、?」
富永はそのまま収容所の係員に連れられて行った、、、
「とうとう、来たな!おせえんだよ!
ビビって逃げてたんだろう?」
男の声が聞こえてきた。
係のものに連れられて
入った大きな部屋に
ポツンと椅子が置いてあり
その前で仁王立ちする男、、、
そう、、
声の主は神谷島長だった。
「こら、このクソガキ!!
てめえがおれの拷問相手か!!
いい度胸してんじゃねえか!!
おれになんかやってみろ?
二度とおれに会うことが
出来ねえくらい
コテンパンにやってやっからな!!!?」
富永はなぜか神谷を見ると人格が変わってしまい、強気な性格が表に出てしまうようだ、、、
「大口叩いてるのも今のうちだ、クソ野郎!
もう二度と表の世界、いや裏の世界でも
生活出来ねえようにしてやろうか?」
相変わらず神谷も富永に強い対抗心を持っている。
神谷は手錠をかけられた富永に向かって
大きく振りかぶって右ストレートをお見舞いした。
「ガッチコーン!!!!」
大部屋に鳴り響く音。
富永はその場に崩れ落ちた。
「お、、、おい、、、てめえ、、、いい加減に、、、しろよ、、、」
さすがの富永もノーガードで神谷のパンチを受けるとダメージは大きかった。
「おい、、、いつもの威勢が無いなー?
まだやられ足りないのか?」
神谷は更にひざまづく富永に対して
左ストレートをお見舞いした。
「バッコーン!!!!」
またも富永は膝から崩れ落ちた。
「お、、、、おい、、、てめえ、、、
いい加減にしねえと、、、、」
富永のダメージは相当なようだった。
「ちょっとお前はここでおねんねしてもらおう、、、
話はそこからだ、、、」
神谷は富永にそう声をかけると部屋から出て行った。
富永の意識は朦朧とし、ゆっくりと記憶も閉ざされていった。
《ここは、、どこだ、、、》
富永は雲がかった景色の中で
1人、ポツンと古い屋敷の前にいた。
《ここは、、来たことがある光景だ、、》
目の前を見ると
富永自身と
その隣に女性がいて
2人がその屋敷の中へと入っていく、、、
《えっ、、?おれ、、?
隣の女性は、、、おれの付き合っていた女性か、、、?》
2人はどんどん屋敷の中を進んで行く。
富永も後ろから付いていった。
2階に上がり、和室の部屋に入った後
机の上に置かれた巻き物を
目の前にいる富永が手にした。
何やら興奮した様子で
隣の女性と話す富永、、、
その女性はその巻き物を富永から奪い取ろうとしている、、、
富永は抵抗してその女性から
奪われまいと必死の形相で巻き物を守っている。
その後ろから、、、
突然出てきた何者かが
古い壺のような固まりを
勢いそのままに
後ろから
女性と争っている富永の後頭部に向けて
振りかざした、、、
「ガコーン!!!!!」
大きな音と共に
目の前の富永は膝から崩れ落ちた、、、
そして、、、後ろからその一部始終を見ていた
富永は信じがたい真実を知ってしまう、、、
振り向いたその女性、、、富永に向けて壺を振りかざした女性の正体、、、
なんと、、、
ミトミだったのだ、、、
《ミトミさん!!!》
富永は叫んだが、目の前のミトミや富永の彼女には聞こえていないようだ。
「ミトミさん、、、」
富永の彼女は呆然とミトミを見つめた。
「アヤカさん、、これは見なかったことにして、、、逃げて、、、絶対に見つかっちゃだめ、、、今すぐに、逃げて。」
アヤカは頷くと、すぐに屋敷を走って出て行った。
ミトミから攻撃を受けた富永はピクリとも動かない、、、
《お、、、おい、おい、、、おれ、生きてんのか、、、大丈夫か、、、ミトミさん、、あんたがおれをやったのか、、、これはさすがにやりすぎだろ、、、》
富永はミトミをすぐに捕まえたかったが
どうやら彼女らには姿すら見えていないようだ、、、
ミトミはスマホを取り出し、どこやらに電話をかけながら屋敷を後にした、、、
富永は目を覚ました、、、
《ここは、、、どこだ、、、?》
檻のように閉ざされた空間に
富永はいた。
「おい!!!!
誰かいねえのか!!!?
ここから出せ!!!」
富永は1人、大きな声で叫んだ。
いつか見たガタイの良い
いかにも神谷の家来ですといった風貌の
男が現れて富永に言った。
「おい、、カス野郎!!!
うっせえんだよ!引っ込んどけ!
静かにおねんねしてろ、分かったか!?」
「おい、誰に向かって言ってんだよ、こら!
てめえ、おれがここから出たら
お前の住所とか全部調べて
お前の家族全員に危害を与えるからな!
覚えとけよ!
そして、SNSで全部住所とか
さらすからな!
まじで覚えとけよ、クソが!!」
富永はブチ切れた様子で捲し立てた。
「おまえ、、、、」
神谷の家来は目が点になった、、、
神谷の家来が戻った後、神谷がゆっくりと
富永の入る檻へと歩いてきた。
「よう、、、どうだ、、この部屋は、、随分住み心地も良いだろう?」
神谷はボスキャラのような雰囲気で
静かに富永に問いかけた。
「・・・」
目を瞑って腕組みをしてあぐらをかく富永は
神谷の言葉を完全にシカトした。
「おい!!!てめえ、人が声かけてやってんのにシカトこいてんじゃねえぞ、こら!!またボコすぞ、おい!!!」
ブチ切れた様子の神谷だったが、富永はその声も全く無視して瞑想にふけった。
「相変わらず、てめえは礼儀を知らねえな、、、ほんとにボコすかんな、、覚えとけよ!」
神谷は言った。
「てかさあ、、、どうでもいいけど早くここから出せよ。おれ今回の一連の事件の真相をある程度知ってんだよ、、お前が早く出さねえと、後々おれが重大な情報を国に提供した時に
お前が全く協力しなかったとか諸々お前の苦言をして、お前の立場を脅かすぞ、いいのか!!?」
ため息まじりに富永は言った。
「はっ!!!?知らねえし!!
てか、なんでお前そんなにイキってんの??
意味分かんねえんだけど!
まじ、ムカつくな!!」
子供のような反応の神谷、、、
「おれはウサミ事件の犯人を知っている。
そして、お前はそのことを知っているにも関わらず、おれの意見を上に上げない、、
これが何を意味するか分かるか?
西条さんに全てを伝えていいんだな?」
富永は神谷を脅迫した。
「いや、、、オマエまじで卑怯者だな、、
いろいろ面倒くさい性格だ、、、」
神谷は動揺していた。
「黙れタコ!
どうすんだ?
このままおれのことをシカトするか。
上層部に連絡を取り
おれを解放するか。
どっちかとっとと選べ!!!!」
ものすごい迫力で富永は神谷に立ち向かった。
「まあ、、いい!とりあえずその件についてはオレのほうから上には上げておいてやる!」
神谷は負けじと強く言い返した。
「上げておいてやるじゃねえんだよ、タコ!
上げさせて頂きますじゃねえのか?こら!
勘違いしてんじゃねえぞ、青二才が!!」
「・・・」
途方もないこのやりとりは続いていく、、、
神谷の承諾を得られ
檻から解放された富永はすぐさま
セスナ機のある場所へと向かった。
セスナ機には既に西条が待ち構えていた。
「ご苦労。拷問はどうだった?」
スマホを見ながら適当に西条は言った。
「たくさんかわいがってもらったぜ!
ありがとよ!上から既に指示は出てるんだろ?」
「もちろんだ。これからお前を我々の組織の本部に案内する。そこで今回の一連の事件の証言をお前にしてもらう。これは国家事案でかなり大切な任務だ。ふざけた証言だったら二度とお前を助けることは出来ないからな。」
「ったりめえよ!!おれに任せとけ!
真実はいつも一つ!!!」
「・・・」
西条は無視してセスナ機の離陸を待った。
富永と西条らを乗せたセスナ機は山の頂上のようなところに降り立った。
「あれっ?随分田舎だな!本部っていうからてっきり新宿のど真ん中あたりの高層ビルかと思ってたのに、こんな場所か?結構ダセえ組織だな!」
「お前、まじでボコすぞ!?」
西条は鋭い視線を富永に向けた。
西条らが本部と呼ぶその場所は
プレハブのような綺麗な建物で
本部ビルというよりか
組織の隠れ家的な佇まいであった。
「なんか怪しい建物だなー、、、」
「当然だ、、我々は警察とは違って国家機密組織だ。世間に存在を公にすることは出来ない。
だから建物も目立つような場所に作れないし
あまり豪華な建物にするわけにもいかない。
内部で働く人材もお前のようなバカはいない。
みな、超エリートの道を歩んできた人材ばかりだ。」
「いや、おれ記憶がねえから自分がエリートかどうかすら知らねえし、、、」
「・・・」
「こっちに来い」
西条の指示のもと、富永は建物の中の部屋を進んで行った。
「いや、みんな普通にサラリーマンみたいに働いてるじゃん!普通のオフィスだし、、ウケる!笑」
富永は相変わらずの気楽な発言を西条に向けた。
「・・・」
西条は反応しない。
「ここだ。」
そうやって通された部屋には
1人、フカフカの黒い高級椅子に座る
男がいた。
「ようこそ!きみが富永くんか?」
黒いサングラスに金髪。
いつだかのロックバンドのボーカルのような
雰囲気の男だ。
「あ、、、はい、、、おれが富永って言います。」
「今回の一連の事件で
きみには多大な迷惑をかけてしまい
大変申し訳ない。
いわゆるこのウサミ事件の解決の為に
どうしてもきみの力が必要だ。
力を貸してくれるか?」
静かなゆったりとした口調でその男は尋ねた。
「あっ、、はい、、、いいともー!!!」
「・・・」
外から鳥の鳴き声が聞こえた。
完全にすべった。
西条は下を向いて顔を上げない。
少し笑っているように見えた、、
すべったことにウケている様子だ、、、
「分かった、、、
それでは話してくれ、、富永くん、、、
あの日のことを、、、」
富永はその金髪の男に
これまでの経緯を伝えた。
富永の付き合っていた女性と思われる
アヤカという女が、ウサミ事件においての重要人物であること。
そして、そのアヤカに協力しているミトミという女のこと。
洗いざらい伝えたところで
金髪の男は言った。
「富永さん、、
どうもありがとう。
我々が把握していた情報とあなたの今の
証言を繋ぎ合わせると
ひどく噛み合っているように感じる、、、
その証言、、、
我々組織としてしっかりと責任を持って
預かりたい。
我々は警察などでは対応出来ない国家的な事案が起こった時にそれを解決する機密組織だ。
この事案については
アヤカという女とミトミという女を
早急に確保し、事件を解決していきたいと思う、、、
そこで富永さん、、
あなたには我々から一つお願いをしたい、、
聞いてもらえるだろうか?」
椅子に腰かけるその金髪の男は
真剣な表情の中に笑みが混じったような
余裕ある顔つきで
淡々と富永に問いかけた。
「今、世界は全ての機能がデジタル化し
暗号やデジタル信号を悪用した
様々なシステム破壊やデジタル戦争が多発しています。
世の中の人達が知っている情報は
ほんの一部分に過ぎない、、、
メディアが報じない事件などは五万とあるといった状況です。
そして、いま、我が国日本は
未曾有の岐路に立たされている。
日本の備蓄資金と
金融機関のデータが
ある国に奪われてしまいました。
もしそれを奪い返すことが出来なければ
日本は、、、
とんでもないことになってしまいます、、、
そもそも富永さん、、、
あなたの記憶データなどは
一切盗まれていなかったんです、、、
あなたは槍玉にされました、、、
ただ、、、
あなたは、、、
過去に、、
京極大学で書いた卒論で「ITに関する究極の理論」を唱えた実績がある人です、、、
あなたは、、、
このデジタル暗号を解読するに
ふさわしい、、、
唯一の救世主になれる可能性を
持っている人物なのです、、、、」
淡々と、、でもとても力を込めて
金髪の男は富永に静かに言い放った。
「へっ、、、?
おれって、、そんななんかすげえ学生だったの?なんだかよく覚えてないんだけど
そう言われると、嬉しいな、、、」
富永は言った。
「そうなんです。富永さん、、
あなたはとても優秀な大学生でした。
そして、、
その才能を我々の組織は放っておくわけには
いかなかったんです。
富永さん、、、
ぜひ、、、
我々にあなたの力を貸して下さい、、、」
金髪の男は頭を下げながら
富永に訴えた、、
「分かりました、、、
協力します、、
おれが、、
この世界の
救世主になってみせます、、、」
富永は答えた。
富永はその金髪の男の指示通りに
本部の中にある
特別対策室という部屋に通され
ITエリート達に囲まれた中で
盗まれた暗号の回路を辿っていった。
富永は過去の記憶こそ失ってはいたが
人並み外れたIQの高さと
これまでのITスキルを駆使して
国が傾いてしまうような難題も一個ずつ
クリアにしていった、、、
「すごい、、、やはりすごいこの男は、、
噂通りの天才だ、、、
もしかしたら本当に我が国を救ってくれるかもしれない、、、」
金髪の男は富永の様子をモニターで確認しながら、感銘を受けていた。
「うん、、なんとなく分かってきた、、、
犯人が隠した暗号の在処、、
ぜってえおれが暴いてみせるぜ、、、
じっちゃんの名にかけて!!!!」
「お前、、、コナンだけじゃないのか、、、」
隣に構えていた西条は
言葉を失った、、、
「解けた。」
18時間に及ぶ暗号解読だったが
富永はついに暗号を解いた。
「犯人が隠した国家資金と
金融機関データの在処が
全て分かった、、、
そして、その犯人の身元も
特定出来た、、、」
疲れた表情で富永は言った、、、
「その、、、犯人は
どういう人物だったんだ??」
緊張した面持ちで、隣にいる西条は聞いた。
「犯人の正体、、、
それは、、、」
富永は慎重に言葉を並べた、、、
「富永、、、、
そう、、、おれ自身だった、、、」
「なにっ!!?
お前が、、、
お前が犯人だったのか、、、、?」
西条は後ずさりするかのように
富永に言った。
「そう、、、
国家資金を盗んだのも
そして、金融機関データを盗んだのも
全ておれが考えて、、実行した、、、」
「なぜだ、、、
なぜお前はそんなことを、、、」
西条は富永に問いかけた。
富永はゆっくりと目を瞑り
語り始めた。
「おれの祖母は、、、
ウサミさんなんだ、、
そう、、、
ミトミさんやアヤカと一緒だ、、
ウサミさんはおれにとても優しく接してくれた、、、」
「ウサミが、、、お前の祖母だった、、、
お前もそうだったのか、、、」
西条もこれには驚いた様子を見せた。
「おれは生まれたときから親という親は
いなかった、、、
知らない人間にいろんな施設に連れていかれたし、おれを邪魔者扱いするような大人で
周りは溢れていた、、、
そんな生活の中で、、
祖母であるウサミさんだけは違った、、
心からおれのことを愛してくれていた、、
子供のおれに信頼できる人は
ウサミさんしかいなかった、、、」
西条は富永の言葉を深く受け止めながら
話を聞いている。
「アヤカと付き合ったときは
アヤカがまさかおれの親戚にあたる人間だとは
思ってもいなかった、、
ただ、、、
古い屋敷であの巻物を見た時に
全てを知った、、、
ウサミさんにはたくさんの孫がいること、、
そしてアヤカもそれにあたることを、、、」
本部の特別対策室の中には
数人が仕事をしていたが
みな、手を止め富永の話に聞き入っている、、、
「巻き物には、こう書かれてあった、、、
”私に何か起きたときはアヤカを疑え”
その巻き物を見て、おれは確信した、、、
ウサミさんはアヤカによって
消されたと、、、」
周りは富永の声以外の音は一切無くなっていた。
西条が隣から割って入った。
「ということは、、、
何らかの理由でアヤカはウサミさんを
殺害する
理由があった、、
そしてそれを実行したのちに
交際相手の富永が
ウサミさんの残した
ダイイングメッセージを見てしまい
犯行がバレてしまったアヤカを
助ける為に
ミトミが富永を襲った、、
一旦の流れはこんな感じでいいのか?」
「そうだ、、、あの古い屋敷でおれが
ミトミさんに襲われた理由はそこにある。」
富永は冷静に答えた。
「そしてあの巻き物には
こうとも記されていた、、
”遺産は全て富永謙矢へ与える”
「そういうことか、、、、」
西条は静かに呟いた。
「そう、、、あの巻き物には
おれへの遺言も記されていたんだ、、
アヤカにとっては、、
あの巻き物は、、
アヤカの犯行を全て裏付ける
重要な証拠だったんだ、、、」
辺りはより一層静まり返ったような
雰囲気になった、、
小さな木漏れ日だけが
聞こえてくる。
「そして、もう一つ、、、
おれはミトミさんに
大きな壺で頭を強打され
倒れ込んだ、、、
あれは、、、
全て演技だ、、、」
「なに!?
ミトミのあの犯行は
全てシナリオ通りだったということか!?」
西条は叫んだ。
「そうだ、、、
おれとミトミさんは
口裏を合わせ
アヤカをはめた。。。
あえて、アヤカを泳がせた、、」
冷静に淡々と富永は語った、、
「なぜだ?なぜそんなことをした?」
西条が言う。
「ミトミさんはアヤカに脅されていた、、
ウサミさんの周りに絶対に近寄らないようにと
言われ、ウサミさんの遺産が絶対にミトミさんに渡らないように長い間、ミトミさんはアヤカの絶対的な支配下に置かれていたんだ、、、」
「アヤカはウサミの遺産を誰にも
渡したくなかった、、
ということか?」
西条が尋ねる。
「そうだ、、、
アヤカはウサミさんの遺産全てを
自分のものにしようとしていた、、、」
静かな木漏れ日と共に一言一言の
富永の言葉が風に乗って消えていく、、、
「それで、、、お前が倒れたところに
ミトミがアヤカに声を掛け
逃げるように促した、、
ミトミもアヤカの仲間であることを
強調する為に、、、
だが、これは全てお前とミトミの演技だった、、
そうしてアヤカを逃亡させておいて
お前とミトミはアヤカの犯行を
証明させようとした、、、
そういうことじゃないのか、、、?」
西条はどうも腑に落ちないような感じで
富永に問いかけた。
「そう、、、そのシナリオだ、、
そのシナリオをアヤカにイメージを
させた、、、
だが、、、実際は違った、、、」
静かに富永は呟いた。
「どういうことだ!?」
「おれはミトミさんに殴られたとき
演技でその場にうずくまった、、
これはミトミさんとおれの中でも
シナリオ通りの展開だ、、、
だがおれは、、
そこでミトミさんに対しても更に演技をすることにした、、
本当に頭を強打して
意識を無くしたように
見せかけた、、、」
「なぜだ!?
なぜミトミも騙そうとした?」
西条が更に問い詰める。
「ミトミさんは、、、
そこまでのシナリオを全て
アヤカに筒抜けで伝えていたのが
分かったからだ、、、」
「なにっ!?あの2人はやっぱり
仲間だったのか!?」
「そうだ、、、」
富永は時折、暗い表情も見せながら
呟いていく。
「おれはアヤカと確かに付き合っていた。
このウサミさんの一連の事件を知るまでは
おれたちは何の疑いもない普通のカップルだったんだ、、
でも、あの事件がおれたちの全てを変えた、、
おれが心から信頼していたウサミさんに
手をかけたアヤカが許せなかった、、
そして、ミトミさんという人物がアヤカの
周辺にいることを知り、おれは接触を試みた、、
アヤカの犯行を裏付ける為に
おれはミトミさんをアヤカのスパイとして送り出そうとした、、
アヤカのあらゆる行動を調べさせ、
逐一報告をさせた、、
アヤカの犯行が証明されたときには
それなりの報奨を渡すことも約束した、、、」
「まさに、、共謀してアヤカを
追い詰めようとしたわけだな、、、」
西条は言った。
「だが、ミトミさんは最後の最後で
この計画をアヤカに全て打ち明けてしまった、、、
アヤカを守りたかったんだろう、、、」
富永は言った。
「なぜ、、、ミトミはアヤカを守ったんだ?」
西条が尋ねる。
「それはおれにも分からない、、、
だが、、、ミトミさんはアヤカについた、、」
神妙な面持ちで富永は言った。
「そういった状況の中で
お前はミトミとの作戦を裏切り
ミトミをも混乱させようとしたわけだな、、、」
「あぁ、、
そうだ、、」
「それでおれが記憶データを盗まれたことにして
ミトミさんのことなども全て忘れたように見せかけた。
そして、おれは国家資金と金融機関データの盗みを計画し、実行した、、、」
「なぜ、、お前がそれをする必要があったんだ!?」
西条が伺う。
「それは、、、
ウサミさんの、、、
ウサミさんの夢を叶えるためだ、、、」
俯きながら
振り絞るように富永は震える声を出した。
「ウサミさんには、、
夢があった、、、
ガキのおれにもよく話してくれた、、、
ウサミさんは世界の平和を願う人だった、、
確かに派手な性格で敵も多かったと思う、、、
だけど、、
あの人は
本当に純粋な人だった、、
おれみたいな、、
親が誰かもよく分からない、、
行き場を失った子供達が
安心して暮らしていけるような世の中を
本気で作ろうとしてくれていた、、
いつか、、
子供が誰にも邪魔されず
安心して暮らしていける
楽園を作る、、、
そんな夢を語ってくれていた、、、
おれはずっと待っていた、、
そんな日が来ることを、、
そして、、
ウサミさんなら
それを実現すると思っていた、、、
それなのに、、、
それなのに、、、
アヤカは、、、
そしてミトミさんは、、、
そのウサミさんの夢を粉々に砕いた、、、
おれは、、、
おれは、、、
そういう人間を許すことは出来なかった、、、
そして、、、
ウサミさんが夢見た楽園を、、
子供達の幸せな楽園を、、、
おれの手で必ず作り出す必要が、、、
おれにはあった、、、」
静かに吹く風と共に
富永の言葉が西条の前を流れていく、、、
「その夢を叶えるには、、
資金が必要だった、、
それでお前は
国家の莫大な予算などのデータを
もぎ取り、、
盗もうとした、、
お前が、、、
この一連の事件の
黒幕だったということか、、、」
西条は少し落胆したような素振りを見せながら
淡々と言葉を並べた。
「あぁ、、、
その通りだ、、、」
元気の無い声が
富永の口から発せられた。
「分かった、、、」
西条は呟いた。
「富永謙矢、、、
不正アクセス禁止法の罪の疑いで
逮捕す、、、、」
西条がそう言った時、、
富永は西条の腕を強く掴んだ、、、
ポケットに隠し持っていたハサミを取り出し
西条の首元に突きつけた、、、
周囲の警備隊らが戦闘体制に入り
一斉に富永に向けた銃口を差し出した、、、
「武器を捨てろー!!!撃つぞ!!!」
どデカい男の声が静まった部屋の中に
大きな怒声を入れた、、、
富永は、息を立てながら
ニヤリとした表情を周囲に見せつけた、、、
完